●この記事では、「検討中の図書館蔵書のデジタル化は限定的!」について説明しています。
「図書館の本がスマホなどで閲覧できれば便利!」と思ったことはありませんか?
実際、漫画が読めるアプリなどは、すでに当たり前のように運営されていますよね。
このように、少なくとも本を電子化することは技術的には可能です。
それでは今後、図書館の本が漫画アプリのようにネット送信されて読むことができるのでしょうか?
今回は、「文化庁が検討している図書館蔵書のデジタル化」についてご紹介します。
そもそも図書館の本はデジタル化できないの?
私の場合は、子どもがいるので絵本などを購入しますが、寝る前の読み聞かせなどに本を利用しています。
また、例えば大学生にとっては卒業論文を書くときに図書館の本は必要になってくるのではないでしょうか?
新聞などは、過去に遡って調べることもできますよね。また、図書館でないとなかなか手に入らない本なども置かれていますよね。
このように、図書館は利用しだいで多くの人にとって役に立つ公共施設となっています。
*ちなみに、図書館デートが注目されていたこともありました。
そんな図書館ですが、今では開いている場所が多いとはいえ、しばらくコロナ禍により休館されてしまいましたよね。
そんな中、「インターネットを通じた図書館資料へのアクセス」が、ニーズとして顕在化していきました。
→今も、いつ閉鎖になってもおかしくない状態は続いている。
図書館資料のネット利用?
そもそもの話しになりますが、絶版本など手に入りにくい書籍の電子データは、国立国会図書館から各地の図書館の端末へ送信することが認められています。
つまり、これが「図書館の資料であって技術的に電子化できる」という根拠です。さらに言えば、「図書館の図書はすでに電子化されている蔵書がある」ということもできます。
あとの問題は、その図書館の資料を私達が電子化された書籍として個人が自由に利用できるかどうかです。
ただ、そもそもデータであるため紙の本のように返却期間は、必要ないことになります。
ですが、もしもそうなればデータとしてその本を投げ売りするような物なので、作家や出版社にとってはせっかく書物を発行しても買ってもらえず、莫大な不利益が生じることになりますよね。
文化庁では、「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する検討」が実施されています。
これは、「知的財産推進計画2020(令和2年5月27日知的財産戦略本部決定)(抄)」にも関わっています。
【本文】
絶版等により入手困難な資料をはじめ、図書館等が保有する資料へのアクセスを容易化するため、図書館等に関する権利制限規定をデジタル化・ネットワーク化に対応したものとすることについて、研究目的の権利制限規定の創設と併せて、権利者の利益保護に十分に配慮しつつ、検討を進め、結論を得て、必要な措置を講ずる。【工程表】
図書館等に関する権利制限規定をデジタル化・ネットワーク化に対応したものとすることについては、2020 年度内早期に文化審議会で検討を開始し、2020 年度内に一定の結論を得て、法案の提出等の措置を講ずる。
難しいことが書かれていますが、図書館資料の電子サービスについては、以下の2点が争点になっています。
- 絶版等資料へのアクセスの容易化について
- 図書館資料の送信サービスについて
それでは、「蔵書の電子化」は何が問題なのでしょうか?
1.絶版等資料へのアクセスの容易化?
現状、これが許されているのは、あくまでも図書館等の館内での閲覧限定です。つまり、例えば各家庭からインターネットを通じて閲覧することはできません。
当然、現行では利用者に対してメール等でデータを送付することも禁止されています。
第三十一条 国立国会図書館及び図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(以下この項及び第三項において「図書館等」という。)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料(以下この条において「図書館資料」という。)を用いて著作物を複製することができる。
ちなみに、著作権法第23条に「公衆送信権」があります。
公衆送信権というのは、インターネット等により、著作物を公衆向けに「送信」することに関する権利です。
つまり、公衆向けであれば、有線・無線に関わらず、あらゆる送信形態が対象になります。
また、著作権法第31条第3号に「自動公衆送信をおこなうことができる」とあります。
この「自動公衆送信」というのは、「公衆(利用者)の求めに応じて自動的に行うもののこと」といっても、分かりにくいですよね・・・
例えば、利用者がブラウザ上で写真・文章・イラストなどの著作物を閲覧したりできるのも、インターネットサーバーが「公衆の求めに応じて送信している仕組み(自動公衆送信)」になっているためです。
注意点としては、著作権法には「送信可能化権」というものがあり、著作物をサーバー等にアップロードするだけでも著作者の許可が必要になる点です。
→アクセスの有無に関わらず、勝手にアップロードされた時点で権利侵害が発生する。
このように、例えば著作権の問題を解決する必要があります。
2.図書館資料の送信サービス?
現状の図書館蔵書を送信・郵送方法は?
現状では、「絶版本などの入手困難な書籍」と「すべての書籍」ではこのような対応になっています。
入手困難な書籍
→国会図書館が地元の図書館へデータを送信。私達は、地元の図書館で出向く必要がある。
全ての書籍
→国会図書館や地元の図書館が本の一部をコピーして郵送。
これらが、現状認められている図書館蔵書を送ってもらうときにできるやり取りです。
問題点は?
ただ、今回のように物理的に図書館へアクセスできない場合は、入手困難な図書の閲覧は実質不可能な状態になりますよね・・・
また、基本的な書籍は「その一部を郵送で送ってもらえる」とはいえ、遠隔地から資料のコピーを入手しようとすることはかなりの時間を要します。
→海外等からの資料請求まであり、この場合、入手までさらに時間を要する。
また、そもそもの問題として郵送サービスを実施している図書館が少ないという問題まであります。
こういった問題を解消するために、「資料のやり取りを個人端末にネット送信することで読めるようにし、印刷もできるようにする」という案が話し合われています。
そもそも、この話しが持ち上がったのは国立国会図書館の入館が3月から約3ヶ月間来館サービスを取りやめたことがきっかけでした。
その後も、入場制限は続いているため研究者達から必要な文献が収集できないことが問題になっていました。
こういった背景もあり、図書館蔵書を電子データにした資料公開範囲の拡大が急がれています。
最後に
「図書館蔵書をデータ送信して個人の端末でも見れるようにする」という案は、まるで「全ての蔵書を図書館に行かなくても1冊全てを読めるようになる?」ような印象がありますが、そういうわけではありません。
あくまでも、これまであった・・・
「絶版本などの入手こんな書籍」や「全ての書籍」で、これまでできた範囲の中で電子送信を取り入れるという内容のようです。
ちなみに、権利者には補償金が支払われることが案としてでていますが、出版社からの反発もあり実現するかどうかは不透明になっています。
ただ、すでにスマホやパソコンなど電子サービスで本を読むことは当たり前になっています。今後も、図書館蔵書の電子利用の希望がなくなることはないでしょう。
「新しい生活様式」は、判子廃止のように善くも悪くも既存のサービスもどんどんデジタル化していくきっかけになっていることは間違いありません。
参考
朝日新聞DIGITAL:図書館の本、データ送信 「民業圧迫だ」出版社は反発
→https://www.asahi.com/articles/ASNC66RQ4NC4UTIL03K.html
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