入浴は、危険な行為!?  自殺者数とほぼ同じ「浴槽内の不慮の事故」・・・

 

この記事では、「浴槽の事故と高齢者」について説明しています。

 

前回、「ヒートショック」についてその「原因」と「対策」についてご紹介しました。

ただ、ヒートショックによる死者数はよく分かっていません。ですが、浴槽内の事故については分かっています。

そこで今回は、消費者庁が2020年11月19日に公表した「高齢者の浴槽内での不慮の事故」に焦点を当てて紹介していきます。

 

そもそも、ヒートショックは高齢者に多いの?

前回の記事でも紹介していますが、そもそもヒートショックは高齢者だけの病気ではありません。

年齢だけでなく、「高血圧や糖尿病といった基礎疾患を持っている人」「肥満」「飲酒」「体調不良」など、全く無関係な人はいないといっていいでしょう。

ちなみに、温度差が10℃以上変わってくるとヒートショックのリスクが高くなるため、必ずしも冬だけではなく、夏場も気をつける必要があります。

さて、ヒートショックの基礎知識についてはこれぐらいにして、それでは2019年の「高齢者の入浴中の事故」は、どのようになっているのでしょうか?

 

2019年「高齢者の入浴中の事故」に変化はあるの?

結論から言えば、2008年と2019年の12年前とで比較すると増加しています。

2008年の「不慮の溺死および溺水者数」は5,077人でしたが、「家や居住施設での浴槽内での死亡者数(お風呂場で亡くなっている人)」に限定すると3,384人でした。

ところが、2019年の「不慮の溺死および溺水者数」は6,901人で、「家や居住施設の浴槽での死亡者数(お風呂場で亡くなっている人)」に限定すると4,900人でした。

 

お風呂場で亡くなっている人は「全体の溺死・溺水者」の・・・

  • 2008年:約66.6%
  • 2019年:約71%

となっています。


さらに、浴槽内で亡くなっている人は2008年と比較すると2019年は約1.4倍になっています。

ちなみに、2008年からの12年間では2017年の溺死・溺水者数が最も多く7,216人となっています。

→2017年の浴槽内での死者数も5,176人(全体の約72%)となっており、こちらも最も多い。

つまり、「高齢者の溺死・溺水者が増加した」ということは、多くの場合、それは「浴槽内での事故だった」ということになります。

そして、現状では毎年5,000人前後の高齢者が浴槽内で亡くなられていることが分かります。(高齢者の「不慮の溺死及び溺水」は、毎年7,000人前後)

*ちなみに、STOP ヒートショックによれば、全国の浴室内の死亡事故は、約1万9千人と推計されている。

それでは、浴槽内の事故は冬場に気を付ければいいのでしょうか?

 

冬場に気を付けるだけでは不十分?

冒頭でもお伝えしたように、実は高齢者の浴槽内での「不慮の溺死および溺水による死亡事故」は、1年中引き起こされています。

 

図1 《月別の浴槽内での死亡事故人数》

図1より、高齢者の浴槽内での死亡事故は、約2割がそれぞれ1月と12月に発生していることが分かります。

また、少ないとはいえ夏場の8月と9月にも合計198人(それぞれ2%)が亡くなられています。このことからも、夏場の浴槽での死亡事故も注意する必要が分かるのではないでしょうか?

ちなみに、「高齢者」と一言でいっても、65歳以上の年齢別に見ると、年齢が上がるほど女性が顕著に増加しています。

→85歳以上は、特に注意が必要。

 

入浴中の事故は、ヒートショックだけとは限らない?

ヒートショックは・・・

  • 冬場:「暖かい部屋→寒い脱衣所→寒い浴室→暖かいお風呂→寒い浴室」
  • 夏場:「涼しい部屋→炎天下の外出」

このような、激しい気温変化が引き起こされる移動により血圧が乱高下した結果、引き起こされます。

→目安としては、10℃以上の気温差が特に危険視されている。

もしも、ヒートショックなら失神の結果、溺水してしまうことは予想できますが、実はお風呂の「ある機能」により不慮の溺死が引き起こされていました。

 

「不慮の溺死」はヒートショックだけではない?

事例に挙げられていた、不慮の事故の原因

追い炊き機能

 

事例1)令和元年12月 80代女性

手動による追い炊き式の風呂釜であり、お湯はかなり熱い状態であった。顔面・前胸部・背部・臀部・大腿部後面にⅡ度8の深熱傷があった。

 

事例2)令和元年12月 80代男性

自宅で入浴中、追い炊きをした際に高温になり過ぎたが、浴槽から出られずに熱傷を受傷した。家族が患者を浴槽から救出した。右下肢及び左下肢に熱傷Ⅱ度・熱傷範囲 10%あり。背部に熱傷Ⅱ度・熱傷範囲3%あり。右上腕部及び左上腕部に熱傷Ⅱ度・熱傷範囲1%あり。」

このように、「追い炊き機能」による入浴中の事故事例がすでに発生しています。

ところで、お風呂の事故で気を付けることでもう一つ、お風呂に入るタイミングも重要になってきます。

 

お風呂に入るタイミング?

例えば、「飲酒後」「高血圧の人が服用している降圧剤(血圧を下げる薬)などの医薬品服用後」などは、血が下がり失神するリスクが上がってしまうことは誰もがご存じですよね。

ただ、もう一つ血圧を下げてしまうタイミングとして、特に高齢者の場合は「食後」に注意する必要があります。

geralt / Pixabay

 

食後に血圧が下がる?

普通に考えれば、「食後は血圧が上がる!」というイメージがあるのではないでしょうか?

→実際、MSDマニュアル家庭版でも「若年者にはほとんど食後の血圧低下は見られない」とある。

 

ただ、この食後低血圧でも「めまい」・「ふらつき」・「気が遠くなる」・「転倒」といった症状が引き起こされます。

しかも、この症状は高齢者の3人に1人という高頻度で引き起こされています。

それでは、どうして「食後低血圧(食事性低血圧)」が引き起こされるのでしょうか?

 

 

「食後低血圧」ってなに?

そもそも、腸が食べ物を消化するためには大量の血液が必要になります。

そして、食後に血液が腸に集まったとしても、全身の血液を心拍数が上昇するため腸以外の血管は収縮します。

ところが、一部の高齢者ではこの仕組みが十分に機能しないため、血流は腸に集まっても血圧を維持できずに血圧が低下してしまいます。

そのため、食後1時間は安静にする必要があります。

このように、浴槽で命を落とさないために「入浴前から注意しなくてはいけないこと」が、分かっていただけたのではないでしょうか?

 

最後に

「ヒートショック」や「追い炊き機能」、「食後低血圧」など、知識があれば回避できそうな内容ばかりではないでしょうか?

高齢者だけでも浴槽内で年間、約5,000人が亡くなられ、全体で見れば約2万人が毎年亡くなられています。

→コロナウイルスよりも、交通事故よりも注意が必要。

 

ただ、警察庁の発表を見ると、自殺者数よりは少ないようです。(令和元年の自殺者数:20,169人)

今年(2020年)は、コロナの影響で自殺者数はさらに大変なことになっていますが・・・

とはいえ、そもそも比較するものではないのかもしれません。

ただ、危険度が高いものを知っていれば、優先順位を付けられるようになります。

普段の生活で、命に関わる危険な行動を私達は知らず知らずにやってしまっています。特に、高齢者や基礎疾患、不摂生をしている人には影響が大きくなってしまいます。

まずは、身近な危険から身を守れるように「正しく怖がる」必要があるのではないでしょうか?

 

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