新型コロナウイルスの影響で様々な所に影響がでていますよね。
それは、採用内定者にとっても例外ではありません。
企業側としても、業績悪化のために、「せっかく社員を雇うつもりだったのに、どうしてもできなくなってしまった!」といったことも少なくないでしょう。
ただ、以前「テレワークと労働者の権利」についてでも紹介しましたが、基本的に労働者の方が雇う側よりも権利が強くなっています。
今回は、そんな「コロナ禍でも最大限守られるはずの内定者の権利」についてご紹介します。
そもそも「内定」ってなに?
例えば、学生にとって新卒採用は一生に一度しかありません。
政府も、経団連などに4月入者予定の内定者に対して、「内定取り消しをしないように」要請を出しています。
ですが、あくまで「要請」でしかないため強制力はありません。
毎日新聞によると、実際、厚生労働省の集計で2020年4月30日時点で全国の労働局に入社時期の相談(自宅待機などの相談)が520人。内定取り消しの相談も92人あったようです。
これは、新卒採用者も例外ではなく高校生・短大生・大学生からの相談も含まれています。それでは、そもそもそんな簡単に企業は「内定を取り消す」ことができるのでしょうか?
内定は解雇と同じ!
そもそも、採用で「内定」というのは採用日前の合意のことをいいます。これは、新卒採用・中途採用に関係なく「雇用を正式に約束する」という意味になります。
*ちなみに、内定期間は、この合意がなされた日から入社日までのことをいいます。
→ようするに、労働者が企業の求人に応募した時点で「企業に労働契約の申し込みをした」ということになります。
つまり、「企業が内定をだした!」ということは、労働契約の申し込みに承諾したことになり、この時点で企業と労働者の間には労働契約が成立した状態になります。
「状態」と説明したのは、最後に候補者が「内定」を受け入れることで、契約が成立することになるためです。
つまり、雇用契約の選択は最後まで労働者側にあることになります。
「内定取り消し」の法律的な解釈
採用内定により労働契約が成立したと認められる場合には、採用内定取消しは解雇に当たり、労働契約法第16条の解雇権の濫用についての規定が適用されます。
したがって、採用内定取消しについても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利を濫用したものとして無効となります。
そもそも、内定取り消しを行った場合は、労働基準法により例えば企業にこんなデメリットが生じます。
採用内定により労働契約が成立したと認められる場合には、採用内定取消しには、労働基準法第20条、第22条等の規定が適用されます。
このため、やむを得ない事情により採用内定取消しを行おうとする場合には、使用者は解雇予告等解雇手続を適正に行う必要があるとともに、採用内定者が採用内定取消しの理由について証明書を請求した場合には、遅滞なくこれを交付する必要があります。
解雇手続きというのは・・・
- 30日以上前に解雇の予告
- 解雇予告をしない場合は、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う必要がある。
ただ、内定をもらっている状態ですので、そもそも労働基準法で定める「会社に使用されて賃金の支払いを受ける者」という労働者の定義には当たらないため、労働基準法は適用されない可能性はあります。
→労働基準法では、「入社して14日以内の使用期間中の者については、解雇予告の手続きは不要」とされている。
ただし、そもそも企業が内定者に対して「内定取り消し」をするためには、その理由は限られています。
内定取り消しの理由
- 学校を卒業できなかった
- 健康を著しく害した
- 逮捕・起訴された
- 履歴書や面接内容に重大な虚偽があった
- 重要な採用手続きを怠った
- 整理解雇が避けられないとき(保障などが必要)
- これらに準じる過失があったとき
つまり、採用内定の取り消しは。「採用内定当時は知ることができず、また知ることが期待できない事実があり、正当な理由がある場合」に限られます。
例えば、学校が卒業できる見込みがあるから就職活動をしていますよね。また、まさか内定者がその後に起訴や逮捕されるとは思いませんよね・・・
つまり、内定者に過失がある場合など契約が履行できない場合は、「契約(雇用契約)が無効になる」ということです。
ただし、企業側の過失の場合は、内定者に対して保障が必要になります。
このように、会社が内定者に対して「内定取り消し」を行おうとすれば、企業側には様々な制約が課されます。
その一方で、内定を辞退した労働者には、よほどのことがない限り基本的に損害賠償などが請求されることはありません。
さらに言えば、冒頭で「内定をもらったにもかからず、自宅待機を命じられている」という相談が増えていることもお伝えしましが、実は、「自宅待機」にも企業の責任が生じます。
採用内定者の入社日が遅らせられたら!?
今回の新型コロナウイルスのように、自宅待機を企業から命じられることがあります。
ですが、会社都合で休業(自宅待機)させたときは労働基準法により、休業手当が支給されることになります。
→平均賃金の60%を支払う義務が企業側にある。
*企業が「自宅待機」を命令しているわけですから、他の仕事がすることができないためその期間中は会社は休業手当を支払う義務が生じる。
このように、内定をもらった時点で労働者は守られることになります。それでは最後に、このコロナ禍で内定者に対して政府はどんな対応をしているのか見ていきましょう。
ワンポイントアドバイス! ~なぜ、「政府が責任逃れをしている!」と言われるの?~
ちなみに、新型コロナウイルス禍であっても政府は強制力のない休業の「要請」しかだしていません。
つまり、従業員を自宅待機させるかどうかの判断は、あくまでも企業側にあることになり、企業側の都合で社員に自宅待機を命じれば、その社員に対して企業の責任で休業手当を支給する必要があります。
当然、「コロナが怖い!」という理由で個人の判断で休んだ場合は「自分の都合」と判断されるため、休業手当もでません。
新卒者内定取消等特別相談窓口
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、新卒者の採用内定取り消し等の状況を踏まえて、2020年4月13日全国56ヶ所に設置している新卒応援ハローワークに、「内定取り消し」・「入職時期の繰り下げ」にあった学生等を対象に、「新卒者内定取消等特別相談窓口」が設置されました。
3つの支援内容
- 内定が取り消されそうなときは、企業へ働きかける。
- 内定が取り消されたら、新たな就職先を決定できるように支援。
- 就職活動に自信・意欲を失っても心理的なサポートや再度の就職活動に向け支援する。
最後に
「そもそも」の話しを、最後にお伝えします。
- 企業は、労働者に自宅待機を命令すれば休職手当を支払う義務がある。当然、仕事ですから政府のように各個人で判断する中途半端な「要請」はできない。
- 「新卒者の窓口を設置」するのはいいが、労働者の権利を教える方が先。
- 企業側に労働者の権利を守らせることと同時に、そのための企業への支援が必要。
残念ながら、新卒者内定取消等特別相談窓口は「理不尽な内定取り消し」という違法行為の黙認につながる可能性があります。
また、泣き寝入りさせるように新卒者に促しているような支援内容になっている可能性があります。
例えば、企業側が内定取り消しを行えば理由によっては、内定者は賠償請求をすることもできますが、支援を要請する対象はあくまでも「企業」のみとなっています。
普通は、弁護士に無料で相談できるように斡旋していく方が「権利を守る」という意味では現実的ですが、企業に対しての最大限の配慮(穏便にすむように)が見て取れます。
自分の身は、自分で守らないといけません。使える制度を利用しながら、「食い物にされない新卒者」を目指してみてはいかがでしょうか?
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