前回は、「無断欠勤したまま再就職したら保険はどうなる?雇用保険・社会保険の手続き」について紹介しました。
「離職理由」は、一般的には自己都合退職か会社都合退職かという形で説明されることが多いです。
ただ、実際はかなり細分化されています。
それでは、離職理由が違うことで何が違ってくるのでしょうか?
今回は、「離職理由はどこで使うの?」についてみていきましょう。
そもそも離職理由はどうして大事になるの?
離職理由が重要なのは、単に「会社を辞めた理由を記録するため」だけではありません。
離職理由によって、雇用保険の基本手当(いわゆる失業給付)を受ける際の扱いなどが変わることがあるからです。
例えば、同じように会社を退職したとしても、
- 自分から退職した
- 会社から退職を求められた
- 会社の倒産や解雇によって退職した
- 契約期間が満了して更新されなかった
- やむを得ない事情によって退職した
など、退職に至った事情は人によって違います。
そのため、雇用保険では「自己都合退職」「会社都合退職」という大きな分け方だけではなく、退職した事情に応じて細かく離職理由が分類されています。
逆に言えば、「すぐ再就職するなら、離職理由なんて関係ないのでは?」という疑問はかなり自然です。
実際、ポイントはここです。
- すぐ再就職して、失業給付を受けない → 離職理由による影響をほとんど感じないケースもある
- 再就職まで期間が空いて、失業給付を受ける → 離職理由が重要になる
- 離職理由について会社と本人の認識が違う → ハローワークでの確認・判断が必要になることがある
- 再就職先の面接 → 「自己都合か会社都合か」という離職理由そのものより、退職に至った事情をどう説明するかが問題になることがある
このように、再就職するタイミングによって、離職理由による影響は大きく変わってきます。
ただ、前回の記事でも紹介したように、無断欠勤をしたからといって、その日から自動的に退職になるわけではありません。
ここが意外と重要なポイントです。
《ワンポイントアドバイス!》
たとえば、A社を無断欠勤したまま連絡を取らず、その間にB社の仕事が決まったとします。
本人としては、
「もうA社は辞めたつもりだから、B社で働けばいい」
と思っているかもしれません。
しかし、A社で退職の手続きがされていなければ、A社との雇用関係がまだ続いている可能性があります。
▶️ 無断欠勤後の退職日については、「無断欠勤の退職日はいつ?退職扱い・自然退職・解雇の違いを解説」でも詳しく紹介しています。
そうなると、離職理由だけでなく、
- A社をいつ退職したことになるのか?
- 社会保険の資格はいつ喪失するのか?
- 雇用保険の手続きはどうなるのか?
- B社での社会保険・雇用保険の加入手続きはどうするのか?
といった問題も出てきます。
つまり、「すぐ再就職できたから、前の会社のことはもう関係ない」とは限らないのです。
では、離職理由が違うことで、具体的に何が変わるのでしょうか?
それでは、本題の雇用保険の「失業給付」という観点から見ていきましょう。
失業給付と離職理由
離職理由が重要になる大きな理由の一つが、失業給付(基本手当)への影響です。
会社を退職したあと、すぐに次の仕事が決まっていれば、失業給付を受ける必要がない場合もあります。
しかし、退職してから次の仕事が見つかるまで時間がかかる場合には、雇用保険の基本手当を受け取れるかどうか、また、いつから受給できるのかといった点が重要になってきます。
そして、このときに関係してくるのが「離職理由」です。
一般的には、
- 自分から退職した場合=自己都合
- 会社側の事情で退職した場合=会社都合
というイメージがあります。
ただし、雇用保険では、この2つだけで単純に分けられているわけではありません。
たとえば、会社から解雇された場合だけでなく、会社の倒産や事業所の廃止などによる離職、一定の事情によってやむを得ず退職した場合など、離職に至った事情によって細かな区分があります。
そのため、「無断欠勤したから自己都合」「会社をクビになったから必ず会社都合」と単純に決まるわけではありません。
実際の離職理由は、会社が提出する書類だけでなく、本人の主張や離職に至った経緯なども踏まえて、ハローワークが確認して判断することがあります。
では、離職理由が違うと、失業給付には具体的にどのような違いが出てくるのでしょうか?
離職理由で、失業中にもらえる「金額」や「支給期間」まで変わる!?
「離職理由」は、単なる書類上の区分ではありません。
- いつから失業給付を受け取れるのか?
- 何日分受け取れるのか?
- そもそも受給資格を満たすのか?
と、いった点にも関係してきます。
ただし、ここで注意したいのが、「会社都合なら必ず得」「自己都合なら必ず損」と単純に考えられるわけではないことです。
また、基本手当の1日あたりの金額は、原則として離職前の賃金をもとに計算されます。
そのため、離職理由だけで「1日にもらえる金額」が決まるわけではありません。
一方で、離職理由によって給付制限があるかどうかや、基本手当を受け取れる日数が変わる場合があります。
つまり、離職理由によって、
「1日あたりの金額」そのものよりも、いつから受け取れるのか、何日分受け取れるのかが変わり、結果として失業中に受け取れる総額に差が出ることがあります。
では、自己都合退職と会社都合の離職では、具体的にどのような違いがあるのでしょうか?
自己都合退職と会社都合の離職では、具体的にどのような違いがある?
では、自己都合退職と会社都合の離職では、具体的に何が変わるのでしょうか?
大きく分けると、次の3つがポイントになります。
① 失業給付を受け取るまでの期間
まず違いが出るのが、基本手当の支給開始までの期間です。
雇用保険の基本手当は、離職理由にかかわらず、まず7日間の「待期期間」があります。
そのうえで、正当な理由のない自己都合退職の場合は、原則としてさらに1か月間の「給付制限」があります。
一方、倒産や解雇などによる「特定受給資格者」などに該当する場合は、この離職理由による給付制限はありません。
つまり、
自己都合退職
→ 7日間の待期
→ 原則1か月の給付制限
→ その後、基本手当の支給
会社都合にあたる離職(倒産・解雇など)
→ 7日間の待期
→ 離職理由による給付制限なし
→ その後、基本手当の支給
という違いがあります。
ただし、これは「会社都合なら7日後にすぐお金が振り込まれる」という意味ではありません。
実際の支給には失業認定などの手続きがあります。
→詳しくは、厚生労働省の「制度変更(令和7年4月)」をご確認ください。
② 失業給付を受け取れる「日数」
次に大きいのが、「何日分の基本手当を受け取れるのか?」という違いです。
基本手当の所定給付日数は、年齢や雇用保険の加入期間だけでなく、離職理由によっても変わります。
一般の離職者の場合、所定給付日数は基本的に90日、120日、150日のいずれかです。
一方、倒産・解雇などによる「特定受給資格者」や、一部の「特定理由離職者」に該当する場合は、年齢や雇用保険の加入期間によって、90日から330日など、一般の離職者より長くなる場合があります。
つまり、離職理由によって、「いつからもらえるのか?」だけでなく、「何日分もらえるのか?」にも違いが出てきます。
③ 基本手当を受け取るために必要な加入期間
さらに、基本手当を受け取るために必要となる雇用保険の加入期間にも違いがあります。
一般的な離職の場合は、離職前2年間に被保険者期間が通算12か月以上必要です。
一方、倒産・解雇などによる「特定受給資格者や一部の特定理由離職者」などの場合は、離職前1年間に被保険者期間が通算6か月以上あれば受給資格を満たす場合があります。
そのため、たとえば入社してまだ1年に満たない人が退職した場合でも、離職理由によっては基本手当を受け取れる可能性があります。
離職理由によって「失業給付」の扱いが変わる
このように、離職理由によって、
- 基本手当を受け取るまでの期間
- 基本手当を受け取れる日数
- 基本手当の受給資格
などが変わってきます。
そのため、離職理由は単なる「退職理由を書いた書類」ではありません。
失業したときに、雇用保険からどのような給付を受けられるのかに関係する重要な情報になります。
ただし、ここで注意したいのが、「自己都合=すべて同じ」「会社都合=すべて同じ」ではないということです。
雇用保険では、「特定受給資格者」や「特定理由離職者」など、離職に至った事情によって細かな区分があります。
そのため、実際の離職理由を判断するときには、単純に「自分から辞めた」「会社から辞めさせられた」というだけではなく、なぜその離職に至ったのかを確認する必要があります。
それでは、無断欠勤をした場合の離職理由はどうなるのでしょうか?
無断欠勤した場合の離職理由はどうなる?
ここまで、離職理由によって失業給付の扱いが変わることを説明してきました。
では、今回のテーマである「無断欠勤」の場合はどうなるのでしょうか?
ここで、まず確認しておきたいことがあります。
無断欠勤をしただけでは、退職したことにはなりません。
例えば、会社に何も伝えずに仕事を休み、そのまま会社から連絡が来なくなったとしても、それだけで雇用関係が自動的に終了するわけではありません。
会社との雇用関係が続いているのであれば、まだ「離職」していません。
そして、雇用保険の基本手当は、会社を離職したうえで、就職する意思と能力があり、求職活動をしているにもかかわらず仕事に就いていない「失業の状態」にあることが受給の前提です。
そのため、
無断欠勤しただけ
↓
すぐに失業給付を受け取れる
ということにはなりません。
まずは、A社との雇用関係が終了しているかを確認する必要があります。
退職扱いになってから、離職理由の問題になる
では、無断欠勤を続けた結果、A社との雇用関係が終了したとします。
この場合、初めて「なぜ離職したのか」という離職理由が問題になってきます。
例えば、
- 本人が退職を申し出て退職した
- 会社との話し合いによって退職した
- 就業規則などに基づいて自然退職となった
- 会社から解雇された
- 無断欠勤などを理由として懲戒解雇された
など、雇用関係が終了するまでの経緯によって違いがあります。
つまり、
「無断欠勤した=自己都合退職」
と自動的に決まるわけではありません。
逆に、
「無断欠勤の結果、会社から解雇された=必ず会社都合」
とも限りません。
雇用保険では、離職に至った具体的な事情をもとに離職理由が判断されます。
ハローワークでは、離職票などを確認したうえで受給資格を決定し、その際に離職理由も判定します。会社と本人の主張が異なる場合には、事実関係を調査して判断することがあります。
「無断欠勤」と「離職理由」は別の問題
ここまでを整理すると・・・
無断欠勤
→ それだけで退職にはならない
雇用関係が終了
→ ここで初めて「離職」となる
離職理由が決まる
→ 自己都合、会社都合など、離職に至った事情によって雇用保険上の扱いが決まる
失業給付の手続き
→ 離職票などをもとにハローワークで受給資格・離職理由を確認する
という順番になります。
そのため、無断欠勤した労働者が「もう会社に行っていないから失業給付をもらえる」と考えるのは危険です。
会社との雇用関係がまだ終了していなければ、そもそも離職していないからです。
前回の記事で説明したように、無断欠勤したまま会社の処理が進んでいない場合には、社会保険や雇用保険の手続きだけでなく、「そもそも退職日はいつなのか?」という問題から確認する必要があります。
それでは、このブログの題材の一つでもある派遣の場合も同じなのでしょうか?
派遣社員の場合はどうなる?
ここまで正社員など、会社に直接雇用されている労働者を中心に説明してきました。
では、派遣社員の場合はどうなるのでしょうか?
派遣社員の場合、まず覚えておきたいのが、「派遣先」と「雇用主である派遣元」は別の会社だということです。
派遣元が派遣労働者を雇用し、その労働者が派遣先の指揮命令を受けて働くのが派遣という仕組みです。
そのため、例えば、
派遣先に無断欠勤する
↓
派遣先には行かなくなる
↓
そのまま別の会社で働き始める
という場合でも、派遣元との雇用関係まで自動的に終了するわけではありません。
派遣先に行かなくなったことと、派遣元を退職したことは別の問題だからです。
派遣先での無断欠勤=派遣会社を退職にはならない
例えば、A派遣会社からB工場へ派遣されていたとします。
そこで無断欠勤を続けたとしても・・・
「B工場に行っていない」
ことと、
「A派遣会社を退職した」
ことは同じではありません。
派遣先での勤務が終了したとしても、派遣元との雇用契約が残っている場合があります。
実際、派遣先との労働者派遣契約と、派遣会社と労働者との労働契約は別のものです。
派遣先との契約が解除されたからといって、派遣会社が直ちに派遣労働者を解雇できるわけではないと厚生労働省も説明しています。
▶️ 派遣社員の無断欠勤については、「派遣社員が無断欠勤するとどうなる?給料・契約更新を解説」でも詳しく紹介しています。
派遣社員の離職理由はどうなる?
派遣社員についても、実際に派遣元との雇用関係が終了して「離職」となった場合には、離職理由が問題になります。
例えば、
- 派遣労働者本人が退職を申し出た
- 無断欠勤を続けた結果、派遣元との雇用契約が終了した
- 派遣元から解雇された
- 有期雇用契約の期間が満了した
- 契約更新を希望していたものの更新されなかった
など、離職に至った経緯によって扱いが変わります。
特に派遣社員の場合、「派遣先との契約が終了した=派遣社員も退職」ではありません。
派遣元との雇用契約が続いているのか、それとも雇用契約そのものが終了したのかを確認する必要があります。
また、雇用保険の離職理由については、派遣労働者についても離職に至った具体的な事情が確認されます。厚生労働省の取扱要領でも、派遣就業に係る雇用契約期間中の離職については、派遣労働者以外の場合と同様に離職理由を判定するとされています。
無断欠勤した派遣社員が別の会社で働き始めたら?
ここは、今回の記事の最初に出てきた「すぐ再就職すれば離職理由は関係ないのでは?」という話にもつながります。
例えば、
A派遣会社からB工場へ派遣されていた
↓
B工場を無断欠勤するようになる
↓
A派遣会社にも連絡しなくなる
↓
そのままC社で働き始める
というケースです。
本人としては、「B工場にはもう行っていないし、C社で働いているからA派遣会社も辞めた」
と、思っているかもしれません。
しかし、A派遣会社との雇用関係が終了しているとは限りません。
そのため、C社で働き始めたからといって、A派遣会社との雇用関係や雇用保険の手続きまで自動的に整理されるわけではありません。
派遣社員の場合は、特に・・・
派遣先への無断欠勤
↓
派遣元との雇用関係がどうなったのか
↓
実際に離職したのか
↓
離職した場合、その離職理由は何なのか
という順番で確認することが重要です。
なお、離職した場合の雇用保険の手続きは派遣元事業主が行うことになります。
雇用保険の被保険者が離職した場合、事業主は資格喪失届と離職証明書を提出することになっています。
会社と本人で離職理由の主張が異なる場合には、ハローワークが事実関係を確認して離職理由を判定します。
つまり派遣社員の場合も、「派遣先に行かなくなった=退職」ではない。
という点が、非常に重要になります。
まとめ
今回は、「離職理由はなぜ大事なのか」について説明しました。
離職理由は、単に「自己都合」・「会社都合」と書類に記載するだけのものではありません。
離職理由によって、失業給付をいつから受け取れるのか、何日分受け取れるのか、受給資格を満たすために必要な雇用保険の加入期間などが変わる場合があります。
一方で、無断欠勤の場合は、まず注意しなければならないことがあります。
無断欠勤をしただけでは、退職したことにはなりません。
会社との雇用関係が続いているのであれば、そもそも「離職」していないため、失業給付の手続きを進めることもできません。
無断欠勤した後に会社を退職することになった場合には、
無断欠勤
↓
雇用関係が終了する
↓
離職理由が決まる
↓
ハローワークで雇用保険上の扱いが判断される
という順番で考える必要があります。
また、「無断欠勤=自己都合退職」や「解雇=必ず会社都合」などと単純に決まるわけでもありません。
実際には、退職や解雇に至った経緯によって、雇用保険上の離職理由が判断されます。
「すぐに再就職するから離職理由は関係ない」と思う人もいるかもしれません。
確かに、すぐに再就職して失業給付を受けないのであれば、離職理由による影響を実感する機会は少ないかもしれません。
しかし、退職したつもりでも実際には雇用関係が終了していないという状態になれば、社会保険や雇用保険の手続きなどで問題が生じる可能性があります。
無断欠勤をした場合は、「もう辞めたから大丈夫」と自己判断するのではなく、会社との雇用関係がいつ終了したのか、離職理由がどのように処理されているのかを確認することが大切です。
▶️ 無断欠勤したまま再就職した場合に起こる問題については、「無断欠勤したまま再就職したらどうなる?前職の退職処理が終わっていない場合の問題」でも紹介しています。
参考情報
雇用保険の制度や取扱いは改正されることがあります。
この記事では、2026年9月時点の制度をもとに説明していますが、実際に手続きをする際は、厚生労働省やハローワークの最新情報を確認してください。
ちなみに、自己都合退職の給付制限が原則1か月になったのも2025年4月からです。
これで、無断欠勤シリーズは完結です。
労働問題は、企業側も労働者側にも大きな影響を与えます。
「立つ鳥跡を濁さず」ということわざがあります。
仕事を辞めるときは、誰にとっても何かしら事情があります。
私自身、仕事についていけず、周りに迷惑をかけてしまったこともあります。
だからこそ、自分がどこまでできているかは分かりませんが、働く側も企業側も、お互いにできるだけ迷惑をかけない関係を維持していきたいですね。





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