前回の記事では、「解雇されたらどうなる?」というテーマで、普通解雇・懲戒解雇・整理解雇の違いや、解雇によって生じる可能性のある影響について解説しました。
その中で、「特定受給資格者」という言葉も登場しました。
では、特定受給資格者とは、いったいどのような人なのでしょうか?
また、自己都合退職とは何が違うのでしょうか?
「会社を辞めた」という点だけを見ると、自己都合退職も会社都合による離職も同じように思えるかもしれません。
しかし、雇用保険では、離職した理由によって「特定受給資格者」や「特定理由離職者」に該当することがあり、基本手当の受給や所定給付日数などの扱いが異なる場合があります。
例えば、会社の倒産や解雇など、労働者本人の意思とは関係なく離職することになった場合です。
一方で、「仕事が嫌になった」「転職したい」といった理由で自分から退職した場合は、一般的には自己都合による離職として扱われます。
では、具体的にどのようなケースが「特定受給資格者」に該当するのでしょうか?
今回は、特定受給資格者について、自己都合退職との違いや失業給付の扱いも含めて、できるだけ分かりやすく解説します。
特定受給資格者って何?
「特定受給資格者」とは、簡単にいうと、会社の倒産や解雇など、労働者本人の意思とは関係なく離職を余儀なくされた人のことです。
厚生労働省では、特定受給資格者について、
倒産・解雇等の理由により再就職の準備をする時間的余裕なく離職を余儀なくされた者
としています。
例えば、
- 会社が倒産した
- 会社から解雇された
- 会社の事業所が廃止された
- 会社の移転によって通勤が困難になった
- 大量の人員整理によって離職することになった
など、さまざまなケースがあります。
つまり、単純に「自分から会社を辞めた」という自己都合退職とは違い、会社側の事情などによって、やむを得ず仕事を辞めることになった人が中心です。
なお、特定受給資格者は、正社員だけが対象になるわけではありません。
契約社員、パート・アルバイト、派遣社員などで働いていた人でも、離職した理由や事情が一定の基準に該当すれば、特定受給資格者となる場合があります。
つまり、雇用形態そのものではなく、どのような理由で離職することになったのかが重要になります。
では、なぜ「特定受給資格者」という区分が設けられているのでしょうか?
なぜ、分けられているの?
その理由の一つが、雇用保険の基本手当(いわゆる失業給付)です。
特定受給資格者に該当すると、一般的な自己都合退職とは異なり、基本手当の所定給付日数が手厚くなる場合があります。
ただし、
「会社を辞めた理由が大変だったから、自分で特定受給資格者だと判断できる」
というわけではありません。
特定受給資格者に該当するかどうかは、最終的にハローワークが、本人と会社双方の主張や資料などを確認したうえで判断します。
例えば、前回の記事では無断欠勤者について説明しましたが、実は「無断欠勤=特定受給資格者になれない」でも、「無断欠勤で解雇=特定受給資格者」でもありません。
| 状況 | 考え方 |
|---|---|
| 無断欠勤 → それを理由に解雇 | 本人の責任による解雇として扱われる可能性 |
| 無断欠勤はあった → 会社の経営悪化による人員整理で解雇 | 整理解雇として特定受給資格者になる可能性 |
| 無断欠勤はあった → 別の会社都合の理由で解雇 | 実際の離職理由を確認する必要がある |
無断欠勤の期間や回数、理由、就業規則、解雇に至った経緯などを踏まえて、最終的にハローワークが離職理由を判断します。
ただ表でも説明しているように・・・
無断欠勤を何度も繰り返す
↓
会社から繰り返し注意・指導を受ける
↓
それでも改善しない
↓
就業規則上の重大な違反として懲戒解雇
↓
ハローワークも「重責解雇」と判断
このような場合は、雇用保険上の「重責解雇」と判断され、特定受給資格者に該当しない可能性があります。
では、具体的にどのような場合に特定受給資格者になるのでしょうか?
特定受給資格者になる可能性があるのはどんな場合?
特定受給資格者には、大きく分けると、
- 会社の倒産などによって離職した場合
- 解雇などによって離職した場合
- 会社側の事情によって、やむを得ず離職した場合
などがあります。
厚生労働省では、特定受給資格者となる離職理由を細かく定めています。
ここでは、その中でも代表的な8つのケースを紹介します。
① 会社が倒産した
例えば、
会社が倒産する
↓
事業を続けることができなくなる
↓
労働者が離職する
というケースです。
破産や民事再生、会社更生などの倒産手続きが行われたことに伴って離職した場合などが、特定受給資格者の対象となります。
② 会社から解雇された
会社から解雇された場合も、特定受給資格者に該当する場合があります。
ただし、無断欠勤者の事例で説明したように自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇(重責解雇)は除かれます。
例えば、
会社の経営上の事情などによって解雇された
という場合と、
労働者本人の重大な責任を理由として解雇された
という場合では、雇用保険上の扱いが異なることがあります。
そのため、
「解雇された=必ず特定受給資格者」
というわけではありません。
③ 会社の事業所が廃止された
会社そのものが倒産していなくても、勤務していた事業所が廃止され、事業を再開する見込みがないことによって離職した場合も、特定受給資格者に該当する場合があります。
例えば、
勤務していた工場が閉鎖される
↓
その事業所で働き続けることができなくなる
↓
離職する
といったケースです。
④ 会社の移転によって通勤が困難になった
会社が移転したことで、これまでのように通勤することが困難になり、離職することになった場合も対象となることがあります。
⑤ 大量の人員整理によって離職した
会社が事業規模を縮小するなどして、大量の人員整理を行い、それによって離職することになった場合も、一定の要件を満たせば特定受給資格者に該当します。
例えば、事業所で1か月に30人以上の離職が予定されている場合や、一定の条件のもとで事業所の被保険者の3分の1を超える人が離職した場合などが、厚生労働省の基準に定められています。
つまり、会社の経営状況などによって、多くの労働者が離職することになったケースです。
ここは、派遣社員の場合、特に注意が必要です。
〜派遣社員が大量に契約終了となった場合〜
工場などでは、生産量が減少すると派遣社員の受け入れ人数を減らすことがあります。
例えば、
「工場の仕事が減った」
↓
「派遣社員の人数を減らす」
↓
「派遣契約が終了する」
↓
「派遣会社から次の仕事を紹介される」
という流れです。
このように、派遣先の工場で多くの派遣社員が契約終了となった場合でも、それだけで特定受給資格者になるわけではありません。
派遣社員の場合、まず確認したいのが「派遣先との契約」と「派遣会社との雇用契約」は別だということです。
例えば、派遣先の工場から「来月から派遣社員を受け入れません」と言われても、派遣会社との雇用契約が続いていれば、それだけで失業したことになるとは限りません。
派遣会社から別の派遣先を紹介され、そこで働くことになれば、離職そのものが発生しない場合もあります。
一方で、派遣会社との雇用契約が終了し、実際に離職することになった場合には、なぜ離職することになったのかが重要になります。
例えば、会社の事業縮小などによって大規模な人員整理が行われ、その影響で離職することになった場合には、一定の要件を満たせば特定受給資格者に該当する可能性があります。
ただし、派遣社員が「大量に契約終了になった」という事実だけで判断されるわけではありません。
- 「派遣先との契約が終了しただけなのか」
- 「派遣会社との雇用契約も終了したのか」
- 「契約期間満了による雇止めなのか」
- 「会社から解雇されたのか」
など、実際の契約関係や離職理由によって扱いが変わります。
そのため、派遣社員の場合は、「派遣先で仕事がなくなった=特定受給資格者」ではないという点に注意が必要です。
最終的に特定受給資格者に該当するかどうかは、離職に至った具体的な事情をもとにハローワークが判断します。
⑥ 賃金が支払われなかった・大幅に減額された
会社から賃金が支払われない、あるいは賃金が大幅に減額されるなど、会社側の事情によって離職せざるを得なくなった場合も、特定受給資格者に該当するケースがあります。
例えば、厚生労働省の基準では、賃金の3分の1を超える額が支払期日までに支払われなかった場合や、予想していなかった賃金の低下によって、以前の賃金の85%未満にまで低下した場合などが挙げられています。
ただし、具体的な条件が定められているため、「給料が少し下がった」「給料の支払いが少し遅れた」というだけで、必ず特定受給資格者になるわけではありません。
⑦ 長時間労働などによって離職した
長時間労働が続いていた場合も、一定の基準を満たせば特定受給資格者に該当することがあります。
例えば、離職直前6か月間のうち、
- いずれか連続する3か月で、45時間を超える時間外・休日労働
- いずれか1か月で、100時間以上の時間外・休日労働
- いずれか連続する2か月以上の期間の時間外・休日労働を平均して、1か月で80時間を超える
といった基準があります。
ただし、単純に「残業が多かった」と本人が感じているだけで該当するわけではなく、実際の労働時間や離職に至った事情などをもとに判断されます。
⑧ 採用時に説明された労働条件と実際の条件が大きく違っていた
例えば、
「正社員として採用します」と説明されていた
↓
実際には契約内容が大きく異なっていた
など、労働契約を結ぶ際に明示された労働条件と実際の条件が著しく異なっていたことを理由として離職した場合も、特定受給資格者に該当する場合があります。
このように、特定受給資格者になるのは、単純に「会社都合で辞めた人」だけではありません。
会社の倒産や解雇だけでなく、賃金の未払い、大幅な賃金低下、長時間労働、労働条件の著しい相違など、会社側の事情によって離職を余儀なくされたケースも含まれます。
ただし、ここで注意したいのが、
「自分では特定受給資格者だと思っている=必ず特定受給資格者になる」
というわけではないことです。
特定受給資格者に該当するかどうかは、ハローワークが、離職者本人の説明や証拠書類、会社側の説明などを確認したうえで判断します。
そのため、離職理由に納得できない場合には、ハローワークに事情を説明し、必要な資料を提出することが重要です。
それではなぜ、特定受給資格者になると有利になるのでしょうか?
特定受給資格者になるメリットは?
では、特定受給資格者になると、具体的に何が有利なのでしょうか?
大きく分けると、次の3つがあります。
① 給付制限がないため、自己都合退職の場合より早く基本手当の支給対象となる
自己都合で退職した場合、現在は原則として1か月の給付制限があります。
一方、特定受給資格者の場合は、原則として給付制限がありません。
そのため、自己都合退職の場合のような給付制限はなく、7日間の待期期間を経た後、失業認定を受けながら基本手当の支給を受けることになります。
② 失業給付の給付日数が手厚くなる場合がある
特定受給資格者は、一般の自己都合退職者と比べて、所定給付日数が手厚く設定されています。
年齢や雇用保険の加入期間などによって給付日数は変わりますが、場合によっては、自己都合退職よりも長い期間、基本手当を受け取れることがあります。
つまり、同じように仕事を失った場合でも、離職理由によって受け取れる失業給付の総額が変わる可能性があります。
厚生労働省|Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~
③ 国民健康保険料が軽減される場合がある
特定受給資格者など、倒産や解雇などによって離職した人は、国民健康保険料(税)の軽減措置を受けられる場合があります。
そのため、退職後に国民健康保険へ加入する場合には、失業給付だけでなく、健康保険料についても確認しておくと安心です。
このように、特定受給資格者になると、
- 「給付制限がないため、自己都合退職の場合より早く基本手当の支給対象となる」
- 「所定給付日数が手厚くなる場合がある」
- 「国民健康保険料(税)が軽減される場合がある」
といったメリットがあります。
ただし、特定受給資格者に該当するかどうかは、自分で自由に決められるものではありません。
ハローワークが、本人の説明や証拠書類、会社側の説明などを確認したうえで離職理由を判断します。
すぐに再就職した場合はどうなる?
ここまで、特定受給資格者になると、給付制限がないことや、失業給付の給付日数が手厚くなる場合があることを説明しました。
では、離職した後、すぐに再就職する場合はどうでしょうか?
例えば派遣社員の場合、
「派遣先の工場との契約が終了した」
↓
「派遣会社から次の仕事を紹介された」
↓
「1週間後から別の工場で働くことになった」
というケースもあります。
このように、離職してからすぐに再就職するのであれば、失業給付を受け取る期間そのものが短くなるため、特定受給資格者であることによるメリットは、それほど大きくならない場合があります。
特に、失業給付を受ける前に再就職した場合は、「給付制限がない」というメリットを実際にはあまり活用しないことになります。
一方、早期に再就職した場合でも、一定の要件を満たせば「再就職手当」を受け取れる場合があります。
そのため、特定受給資格者になったからといって、必ず長期間失業給付を受け取るとは限りません。
大切なのは、
「離職した後、どのくらいの期間で再就職するのか」
という点です。
例えば、
- すぐに次の仕事が決まった
- 数週間、仕事が見つからなかった
- なかなか再就職できず、長期間失業した
という場合では、特定受給資格者であることによるメリットも変わってきます。
特に派遣社員の場合は、派遣先が変わっても派遣会社との雇用関係が続くことがあります。
そのため、「派遣先の仕事が終了した=失業」というわけではありません。
派遣会社との雇用契約がどうなったのか、実際に離職したのか、そして離職後に再就職したのかを確認することが大切です。
まとめ
今回は、特定受給資格者について解説しました。
特定受給資格者とは、簡単にいうと、倒産や解雇などの理由によって、再就職の準備をする時間的余裕がないまま離職を余儀なくされた人のことです。
そのため、正社員だけが対象になるわけではありません。
正社員だけでなく、契約社員、パート・アルバイト、派遣社員などで働いていた人も、離職した理由や事情が一定の基準に該当すれば、特定受給資格者となる場合があります。
特に派遣社員の場合は、「派遣先との契約が終了した」のか、「派遣会社との雇用契約も終了した」のかによっても扱いが変わるため、注意が必要です。
例えば、
- 会社が倒産した
- 会社から解雇された
- 勤務していた事業所が廃止された
- 会社の移転によって通勤が困難になった
- 大規模な人員整理によって離職した
- 賃金の未払いなど、一定の事情によって離職した
- 長時間労働など、一定の事情によって離職した
など、他にもさまざまなケースがあります。
特定受給資格者に該当すると、自己都合退職の場合とは異なり、原則として給付制限がなく、所定給付日数が手厚くなる場合があります。
また、一定の要件を満たす場合には、国民健康保険料(税)の軽減措置の対象となることもあります。
ただし、「会社を辞めた理由が大変だったから、特定受給資格者になる」という単純なものではありません。
例えば派遣社員の場合、「派遣先の工場で仕事がなくなった」=「特定受給資格者」とは限りません。
派遣先との契約が終了しても、派遣会社との雇用契約が続いていれば、別の派遣先を紹介されて働き続けることもあります。
一方で、派遣会社との雇用契約まで終了して実際に離職することになった場合は、なぜ離職することになったのかが重要になります。
また、無断欠勤があった場合でも、無断欠勤をしたという事実だけで特定受給資格者から除外されるわけではありません。
反対に、無断欠勤を繰り返したことなどが「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」に該当する場合は、特定受給資格者には該当しないことがあります。
このように、同じ「会社を辞めた」という結果でも、そこに至った経緯によって雇用保険上の扱いは変わります。
そして、特定受給資格者に該当するかどうかを最終的に判断するのはハローワークです。
離職することになった場合は、離職票に記載された離職理由を確認するとともに、実際にどのような経緯で仕事を辞めることになったのかも整理しておきましょう。
もし離職理由について会社との認識が異なる場合には、ハローワークに事情を説明し、必要な資料を提出することが大切です。
特に派遣社員の場合は、
「派遣先との契約が終了したのか」
「派遣会社との雇用契約も終了したのか」
「契約期間満了による雇止めなのか」
「解雇されたのか」
を分けて考えることが大切です。
なお、契約期間満了による雇止めの場合でも、契約更新の状況や本人の希望などによっては、特定受給資格者とは別の「特定理由離職者」に該当する場合があります。
同じ「派遣の仕事がなくなった」というケースでも、その後の雇用関係や離職理由によって扱いが変わる可能性があるためです。
次回は、「特定理由離職者」について詳しく説明します。
特定受給資格者との違いや、どのような場合に該当するのかについて、わかりやすく解説していきます。






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