給食の完食指導を徹底・・・ なぜ子どもたちは蝕まれていくの?

 

小学生の時、あなたは給食の完食指導を受けたことがありますか?

わたしは、低学年の時にある先生から「完食指導」を受けました。完食指導とは、簡単に言えば「給食は残すな!」という学校(教師)による指導のことです。

今回は、完食指導についてご紹介します。

 

完食指導って何?

完食指導とは、「学校給食を残さないように子ども達に食べさせる指導」のことです。

個人的な意見で恐縮ですが、令和になった未だに行なわれているとは思いもしませんでした。さすがに、私が体験したような完食指導の徹底はもうないと信じたいですが・・・

ここで断っておくと、完食指導自体は大切だと考えています。ただ、完食を徹底しようとすることに反対しています。

文部科学省は、「食育」についてこのように示しています。

 

栄養教諭を中心とした食育推進のPDCA(平成29年3月)

給食の時間における食に関する指導の内容

  1. 楽しく会食すること。
  2. 健康によい食事のとり方
  3. 食事と安全・衛生
  4. 食事環境の整備
  5. 食事と文化
  6. 勤労と感謝

このように、「食育」を子ども達に実施することが示されています。

ちなみに、学校給食法では学校給食の実施についてこのように書かれています。

 

学校給食法 第二条

一 適切な栄養の摂取による健康の保持増進を図ること。

二 日常生活における食事について正しい理解を深め、健全な食生活を営むことができる判断力を培い、及び望ましい食習慣を養うこと。

三 学校生活を豊かにし、明るい社交性及び協同の精神を養うこと。
四 食生活が自然の恩恵の上に成り立つものであることについての理解を深め、生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を養うこと。
五 食生活が食にかかわる人々の様々な活動に支えられていることについての理解を深め、勤労を重んずる態度を養うこと。
六 我が国や各地域の優れた伝統的な食文化についての理解を深めること。
七 食料の生産、流通及び消費について、正しい理解に導くこと。

どこにも、「完食指導を徹底する」とは記されていません。

それでは、完食指導の徹底のなにが問題なのでしょうか?

 

私の「完食指導」体験

個人的には、この「完食指導の徹底」には本当に反対しています。

子どものうちに好き嫌いは当然あります。かといって好きな物しか食べないというのも問題です。

それでは、1つでも嫌いな食べ物があることはダメなことなのでしょうか?

私が小学校1・2年生の時に受けた完食指導は、給食を食べ終わるまで教室に残されるというものです。私の場合は、おめでたいときに食べる「お赤飯」だけがどうしても食べることができませんでした。

*年に3回程は給食に出されたので、この献立の時は昼休みをあきらめていました。


当時、「残したら怒られる!」と思ってお赤飯をお茶で流し混むのですが、「お腹がいっぱいになり他のおかずも食べられなくなる・・・」という悪循環に陥っていました。

ちなみに、おかずを先に食べるとお腹が膨れてしまいさらにお赤飯が食べられなくなるため、「お赤飯を先に食べる・・・」という選択肢しかありませんでした。(いまだに、お赤飯だけは食べたいとは思いません)

ただ、居残り以上に恐ろしかったことは女性の担任教師に残ったおかずをお茶碗に全てごちゃ混ぜに混ぜられることでした。

geralt / Pixabay

 

今から考えると、「これって虐待では?」と思いますが・・・

当時は、普通に行なわれていたのかな?

*いわゆる「ねこまんま」とよばれるものです。冗談なしで、自分が残しているすべてのご飯・おかずが1つの器に混ぜられて食べさせられました。(食器をすこしでも返却するため?)

今でも、強烈に覚えています。

さて、この私の経験は30年近く前の話(1990年代)です。完食指導のやり方は、担任の先生によってさまざまですが、実はこの完食指導による弊害はいまだに起こっています。

まさか、「ねこまんま」まではもうないと信じたいですが・・・

 

完食指導徹底による弊害の事例

①2016年:岐阜私立小学校の1年生のクラス

担任が完食指導したところ、児童4人が嘔吐や吐き出すという出来事があった。

 

②2017年:    〃

同じ教諭が同じような指導をおこない児童1人が嘔吐

→同じ担任が行なっていることから、完食指導の徹底が行なわれたのではないかと考えられます。

 

③2018年6月

静岡県で小学6年生の児童が、「担任から給食の牛乳を飲むように強要されPTSD(心的外傷ストレス障害)を発症した」として、学校を管轄している町に対し、家族が訴訟を起こした。

このように、完食指導の取り組み方は担任教師次第ということになります。それでは、なぜ完食指導を徹底するとこんなことが起こるのでしょうか?

ijmaki / Pixabay

 

完食指導の徹底はなにが問題?

①給食法にも書かれているように、給食は「食事についての正しい理解を学ぶ時間」でもある

そもそも、文部科学省の通知も無視しています。

→少なくとも、国の考え方として給食(食事)は、『「辛いこと」ではなく、「楽しいこと」だ!』と子ども達に学んでもらうことが大前提です。

 

②あなたには好き嫌いがありませんか?

大人になっても、好き嫌いの1つや2つはあると思います。それでは、嫌いになった原因はなんですか?

私が嫌いな食べ物は、いうまでもなく「お赤飯」です。ですが、間違いなく小学生の時の完食指導が影響しています。

つまり、完食指導の徹底はその場しのぎに過ぎないということです。その時は少しでも食べられたとしても、強要されたことがその後の人生に悪い意味で強烈な記憶として残ります。

小学校は6年間です。ですが、その時の嫌な経験が死ぬまでの何十年間もの間影響することになりかねません。

*2018年に「日本会食恐怖症克服支援協会」が行なった当事者アンケートで、会食恐怖症の原因が「完食指導だった」と答えた人が62.5%(384人中240人)にものぼっています。

 

③給食の量

小学生とはいえ、同じ学年でも体格はさまざまです。私は、背が低かったので前から数えた方が早かったです。先頭と後方では20㎝以上の差がありました。また、体重もさまざまです。

ですが「もともと食が細い・食べる量の差など」それぞれ違います。そもそも、生きている以上、同じ個人でも食べる量が日によって違うこともあります。

それを無視して、「給食に出された物は全て食べよう!」では無理もいいところです。あなたは、毎日どんな物でも同じ量を食べ続けることができますか?

逆に、みんなと同じ量では少ないこどももいます。

そういった理解すらなく、「みんな同じ!」を徹底することでこんなことが昔から起こっています。

  • PTSD(心的外傷後ストレス障害)・・・強い精神的な苦痛により、その時の体験を日常的にフラッシュバック(再体験)するなど、苦しい思いをします。
  • 会食恐怖症・・・人とご飯が食べられなくなるというもので、神経症の社交不安症における1つの症例とされています。
  • 不登校

など・・・

「完食指導」という大義名分の前には、やりすぎてしまう先生がまだまだいらっしゃるようです。

会食恐怖症についてはこちらの記事で紹介しています。

完食指導により発症!? 「会食恐怖症」は社会不安障害の1つ

GDJ / Pixabay

 

最後に

完食指導は、「食育」を考える上でも「残さず食べるようにしましょう!」という考え方や指導そのものは正しいと思います。問題は、そのやり方です。

残さず食べればいい⇒無理矢理詰めこめばいい!

もし、これを親が繰り返して子どもになにかあれば「虐待!」と非難されることになるでしょう・・・

教師はよくて、親がダメというものでは決してありません。


例えば、骨折した患者さんがリハビリをするときに専門職がみている中でケガがないように歩行練習をすることは当然必要です。

これは、「ケガがないように」患者さんに合わせてリハビリ計画を立てて少しずつ実行しているからできることです。(「これぐらいならできるだろう」と専門職は予想しながら、実際に観察しながらリハビリ内容を決めていきます)

教師はどうでしょうか?

子ども達の食育を育む専門職でもある教師が、「完食指導によって子ども達が嘔吐した・不登校になったというのは、専門職からすれば普通なら「事故案件」です。

分かりやすくいえば、リハビリ中の患者さんがリハビリが原因で転倒や容体が急変したら事故ですよね。

*教育現場が、完食指導による嘔吐や不登校をどう捉えているのかは分かりません。かといって、逆に教師が「親から責められたら嫌だ!」と考えて萎縮してしまい「食育ができない・・・」という状況になっては本末転倒です。

→忘れてはいけないことは、完食指導=悪ではなく「子どもの状態を無視して強制的に食べさせることが危険だ」ということです。


参考

学校給食法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=329AC0000000160

文部科学省:栄養教諭を中核としたこれからの学校の食育
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/syokuiku/__icsFiles/afieldfile/2017/08/09/1385699_001.pdf

AERA:給食の完食指導で「会食恐怖症」になる人も 背景にある学校の「プレッシャー」
https://dot.asahi.com/aera/2019022700029.html?page=1

 

 

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