新型コロナウイルスの怖さの1つは、重症化することにより重症の呼吸不全を引き起こし、最悪命に関わるという点です。
つまり、呼吸症状が悪化してしまうことで命に関わる場合があることです。
今回は、新型コロナウイルスと隣あわせの病気「あまり知られていないARDS」についてご紹介します。
→最後の砦「人工心肺装置」については、こちらの記事で紹介しています。
「ARDS」ってなに?
ARDSは、急性呼吸促迫症候群(きゅうせいこきゅうそくはくしょうこうぐん)のことで・・・
Acute Respiratory Ditress Syndrome
- Acute・・・急性
- Respiratory・・・呼吸器
- Ditress・・・苦痛(促迫:息が詰まること)
- Syndrome・・・症候群
という意味になります。
さて、この病気は単一のものではなく、様々な原因で生じる症候群のことです。
《2012に発表された現時点のARDSの定義》
- 1週間以内の経過で急に発症している。
- 低酸素血症が明らか。
- 胸部X線やCTスキャンで両端に異常な影がある。
- 心不全が原因でない。
- 原因となる疾患の存在(今回の場合でいえば、新型コロナウイルス)
この定義に当てはまれば、ARDSと診断されることになります。
とはいえ、ARDSを誘因させてしまう基礎疾患には2種類あります。
ARDSを誘引させる基礎疾患
1.肺に直接ダメージを与える場合
- 肺炎
- 胃内容物の誤嚥
など。
2.肺に直接ダメージを与えない場合
- 肺血症・・・血液中に細菌そのものや細菌に由来する毒素などがはいり、様々な臓器がダメージを受ける状態。
など。
新型コロナウイルスでは、「基礎疾患を持っている人が重症化する」と言われる所以でもありますが、ARDSを引き起こした肺では、「基礎疾患に伴って活性化した好中球(白血球の一種)から細胞や組織を傷つける活性酸素や蛋白分解酵素が放出される」と考えられています。
こうして、肺胞や毛細血管の細胞がダメージを受けることで、血液中の水分や蛋白が滲み出て、肺胞にひどい浮腫が引き起こされます。
→肺に水が溜まることで、重症の呼吸不全を引き起こす。
ARDSのなにが怖いの?
肺に水が溜まり、呼吸不全に陥ることはもちろん怖いですがそれだけではありません。
ARDS診療ガイドラインによるとARDSは一般的に・・・
- 原因となる疾患や外傷が発症してから24~48時間以内に発生する。
- 発症後の死亡率は全体の30~58%。
このように、言われています。
つまり、そもそも「極めて予後が悪い疾患」でもあります。
根本治療がない!
ARDSは、迅速に治療しなければ多くの人が亡くなってしまいますが、逆に言えば適切な治療ができれば実は約60~75%の患者さんが助かります。
ただし、世界で新型コロナウイルスが拡散している海外の状況では、例えば人工呼吸器の不足をはじめそもそも医師不足などが深刻化してしまい、死者数がどんどん増加してしまっています。
さて、ARDSは治療にすぐ反応する患者さんの場合は一般に完治して、肺に長期的な以上が残ることはほとんどまたは、全くありません。
ところが、人工呼吸器による治療が長期にわたる場合は肺が瘢痕化(はんこんか:肺機能が低下)する可能性が高くなります。
以前紹介した、「ecmo」が最後の砦と言われることもうなずけます。それでは、治療法はないのでしょうか?
治療方法は?
ARDSの患者さんは、集中治療室(UCU)で治療を受けることになります。
治療が成功するかどうかは、一般的に肺炎などの基礎疾患の治療結果によります。さらに、酸素レベルが低い状態を正常に戻す必要があるため酸素投与が不可欠になります。
→フェイスマスクや鼻カニューレで酸素が投与される。
ただ・・・
- 血液中の酸素レベルが低い状態が続く。
- 非常に高流量の酸素吸入がに必要。
こういった場合は、人工呼吸器を使用する必要があります。
つまり、「人工呼吸器の使用は必要最低限にすることが基本」だということになります。
それでは最後に、再生医療に力を入れている株式会社 ヘリオスが手がけている「新規細胞治療法」についてご紹介します。
新規細胞治療法とは?
再生医療として、「体性幹細胞」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
幹細胞である体性幹細胞は、生体のさまざまな組織にあります。
さて、この体性幹細胞は現在有効な治療法がない疾患等に対して新たな治療法を目的とする製品=体性幹細胞再生医薬品の開発を、バイオテクノロジーベンチャー:アサシス社とライセンス契約を締結し開始されています。
アサシス社が創製した医薬品「HLCM051」は、ヒト骨髄由来の細胞製剤です。
メカニズムは?
❶基礎疾患(肺炎など)や外傷(交通事故など)が発生。
➋組織がダメージを受けることで、炎症性細胞が大量に放出される。
❸炎症性細胞が肺を攻撃。
❹低酸素状態になり、重度の呼吸不全に陥る。
❺HLCM051を静脈に投与。
❻KLCM051が肺に蓄積。
- 肺における過剰炎症を抑制
- 組織の保護・修復の促進
❼人工呼吸器の早期脱却・死亡率の低下が期待できる。(肺機能が改善)
2019年1月に結果速報が発表され、ARDS患者に対する安全性や忍容性(副作用のこと)は良好であることが確認されています。
このように、ARDSに対する治療研究は少しずつ進められています。
最後に
今回は、新型コロナウイルスで重症化してしまった場合の危険性の1つである「ARDS」について見ていきました。
日本で亡くなられた方は、どういった理由でなぜ亡くなったのか?
そして、重症化した人の特徴を知ることが、なによりも優先されるのではないでしょうか?
感染者数は、今後もしばらくは増加していくことは間違いないでしょう。ひょっとしたら、インフルエンザのように毎年当たり前の感染症になってしまう可能性まであります。
新型コロナウイルスは、まだまだ未知な部分が多い感染症です。体力維持に努めて、これまで以上に健康的な生活を心がけていくしかないのかもしれません。
参考
ヘリオス:(ARDS)とは
→https://www.healios.co.jp/development/ssc/ards/
MDSマニュアル:急性呼吸窮迫症候群(ARDS)
→https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0
一般社団法人 日本呼吸器学会:呼吸器の病気
→https://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=36
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