前回の記事で台風被害による、床上浸水や床下浸水について紹介しました。
この記事の中で、汚水を除去をするときは肌を露出しないなど完全防備で作業する必要があることをお伝えしました。
それでは、なぜここまで身を守る装備を調えてから作業しなくてはいけにのでしょうか?
今回は、「傷から感染する破傷風」についてご紹介します。
→床下浸水・床上浸水についてこちらの記事で紹介しています。
破傷風ってなに?
破傷風は、そもそも土壌に広く生息している破傷風菌による感染症のことです。
また、動物の腸や糞にも存在しています。
つまり、床上浸水や床下浸水では多量の水が流れ込んできますが、当然きれいな水ではなくあらゆる物が混ざった「汚水」ということになります。
ただ、浸水に限らずそもそも屋外でケガをしたときは注意しないといけない感染症でもあります。
*被災時の場合は、平常時とは違い傷を治療できない可能性が高くなるためケガをしないための最大限の対策をする必要があります。
破傷風はそんなに怖いの?
子どもの頃に、転んで足や手をすりむいたことがある人も多いのではないでしょうか?
ですが、そんな時は親や自分で傷口を消毒していたのではないでしょうか?
傷口から侵入してくる破傷風菌は、様々な特徴があります。
破傷風を起こしやすい傷
- 受傷してから6時間以上
- 傷の深さは1㎝以上
- 事故などによる打撲・刺し傷・火傷・重症の凍傷など
ただし、小さな傷からでも浸入し場合によっては傷口が見当たらないのに感染するといったことまであるため、局所の発赤・腫れ・疼痛があれば注意が必要です。
また、傷口があるのに撤去作業をする。犬に噛まれたといった場合は、感染するリスクが高いため特に注意が必要です。
死亡率が高い!
破傷風菌に感染すると、約80%の患者さんが全身症状を引き起こし危険な状態に陥ります。
- けいれん
- 呼吸困難
- 脳炎
など。
そのため、適切な集中治療が必要なため今も死亡率が高くなっています。
もともと日本では、1942年~1982年で破傷風による死亡者数は2万人を越えていた恐ろしい病気です。
その時から比較すると、かなり減少しましたが2016年でも患者数は120名前後で推移しています。(致死率:約10%)
このように、破傷風の撲滅はできておらずまた患者の多くは60歳以上です。
予防接種で予防できるはずが・・・
破傷風は、予防接種でほぼ100%の確立で抗体を獲得できるとされていますが、日本では1968年(S48)から三種混合ワクチン接種が開始されています。
つまり、2018年時点で、50歳以上の人は予防接種を受けていないことになります。
そして、先進国の中でも日本は患者数が圧倒的に多くなっています。
*例えば、アメリカでは1947年以降、ワクチン接種の普及により症例報告数が95%以上減少しています。
30歳以上も増加傾向!?
さらに、60歳以上だけでなく近年はなぜか30代以上にも破傷風が見られています。
というのも、破傷風のワクチンは効果が約10年とされているため効果が切れてしまったことが原因だと考えられています。
つまり、10年に一度予防接種が必要な感染症だということができます。
*新生児破傷風は、1995年の報告を最後に報告されていない。
どんな症状があるの?
潜伏期間
潜伏期間は、3日~21日(平均8日)。
一般的に・・・
- 受傷部位が中枢神経より離れているほど、潜伏期間が長くい。
- 潜伏期間が短いほど、その後の経過が重症になりやすい。
- 患者さんの内、1/3はケガがあまりにも軽微または特定の創傷や傷害が不明な状態。
潜伏期後の進行段階
第一期
潜伏期の後は、口が開けにくくなり歯が噛み合わされた状態になります。→食べ物の摂取が困難になる。
→首筋が張り・寝汗・歯ぎしりといった症状も現われます。
第二期
次第に、開口障害が強くなっていきます。
- 顔面筋の緊張・硬直により前額に「しわ」を生じる。
- 口唇は横に拡がり少し開き、その間に歯牙を露出。
*苦い笑い(引きつり笑い)をするような「破傷風顔貌」が見られる。
第三期
生命に最も危険な時期です。
- 頸部筋肉の緊張により、頸部硬直をきたす。
- 次第に背筋にも緊張・硬直をきたす。
- 発作的に強直性痙攣(急に手足を硬くして突っ張る)が見られる。
→他にも、腱反射の亢進・*バビンスキーなどの病的反射(病気の時に引き起こされる反射)・*クローヌスといった症状が現われる。
*バビンスキーというのは、足底の外側を踵から第3趾(足の中指)付け根付近まで、ゆっくりこすった時に引き起こされる反射のことです。→第1趾の背屈がみられれば陽性。
→病的というのは、膝蓋腱反射など様々な反射がありますがその反射が病気により普段起こらないような反射がでてしまうこと。
*クローヌスとは、足がガクガク震える状態。
第四期
全身性の痙攣は見られませんが、筋の硬直や腱反射亢進は残っている状態です。
ただ、諸症状は次第に軽快していく時期です。
破傷風では、第一期~第三期が始まるまでの時間を「オンセットタイム」と呼ばれ、これが48時間以内である場合、予後が不良になりやすいという特徴があります。
つまり、破傷風は潜伏期間が短いほど危険で、さらに症状が速く進行してしまう場合は予後が不良になりやすいということです。
どんな治療をすればいいの?
そもそも破傷風は、発症してしまうと数日以内に命に関わるような状態に陥ります。つまり、発症してしまえば早急に入院が必要な感染症です。
また、治療薬(抗破傷風人免疫グロブリン)は発病初期に効果が発揮されるため早期発見・早期治療が求められます。
*全ての症状が消えるまでには、数ヶ月を要する。
*ケガをしたときは、患部の十分な洗浄といった処置を迅速におこなって破傷風の発症を防ぐ。
受診のサイン!
破傷風は症状があらわれると進行が速いため、傷を受けて3日~21日後に次の症状が見られたらすぐに医療機関へ!
- 食べ物をよくこぼす。
- 飲み込みにくい。
- 身体がだるい。
- 首・四肢のけいれん、こわばり
最後に
震災時に破傷風にかかってしまうと、その後長い期間にわたってこれまでのように動けなくなってしまいます。
さらに、被災後の掃除もなにもできなくなってしまうだけでなく、そのまま命を失う可能性もあります。
自分のためにも、家族のためにも準備は万全にする必要があります。
ワクチン摂取ができていない人は、擦り傷などに特に注意して作業する必要があります。
参考
日本血液製剤機構:破傷風
→https://www.jbpo.or.jp/tetanus/
JHospitalist Network
→http://hospitalist.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-iizuka-190110.pdf
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