SIP4Dが運用開始! 「救助の常識」が変わる共有情報システムとは?

 

これまで、いくつか災害関連の記事を書いてきました。

現在、ニュースでも取り沙汰されている災害関連ニュースの1つとして「30年以内に大規模地震が起こる可能性が高い」というものがあります。

この30年以内という内容は、例えば「今日や明日の可能性もある・・・」という意味です。ただ、不安を煽っても意味がありません。なぜなら日本に住んでいる以上、地震から逃げることはできないからです。

地震についてはこちらの記事で紹介しています。

地震大国日本! ~地震情報マグニチュードを知れば地震の規模が分かる!?~

 

さて、問題は「地震・大雨などにより被災後の私達を誰が守ってくれるのか?」ではないでしょうか。

今回は、そんな私達の命綱として期待されている情報共有システム「SIP4D」が運営開始されたことについてご紹介します。

*以前、紹介したSIP4Dについては、こちらの記事で紹介しています。

まだまだ発展途上の災害時の情報共有システムSIP4Dとは?

 

被災後の私達を誰が守ってくれるの?

残念ながら、特に被災直後は自分達の命を守るのは自分しかいません。

地震を例にしてみましょう

2011年の東日本大震災や、記憶に新しい2016年の熊本地震をはじめ、これまで日本で起こった最大レベル震度7を観測したのは1995年に発生した阪神淡路大震災が始まりでした。

*震度階級については、震度7が最大レベルのためどんなに大きな地震がきても「震度7」としか表記ができないことから、マグニチュードなどの知識が必要になります。

マグニチュードの大きさなどが分かれば、被害の規模が予想できるため援助がすぐにくるか、こないかの目安にもなります。

ですが、普通は「マグニチュードが・・・震源の深さが・・・」と言われても意味がよく分からないですよね。

→とりあえず欲しい情報は、誰でも分かる生き残れる可能性が高い情報ではないでしょうか?

国土技術研究センターによると、なんと日本で起こる震度6以上の地震は世界の約20%を占めています。

Tumisu / Pixabay

 

正確な情報を共有

地震大国日本だからこそ、被災後には正確でそれぞれに必要な情報を受け取れる環境が必要なことは言うまでもありません。

というのも、震災時のデマについてはニュースでもたびたび問題として取り沙汰されています。また、仮に発信時は事実だったとしても発信直後からその情報の鮮度はどんどん落ちていきます。

例えば隣の市の避難所情報があったとして、そこまで行けるか分かりません。そもそも、できる限り近くて安全な場所を知りたいですよね・・・


それでは、リアルタイムで正確な震災情報を手に入れることができればどうでしょうか?

少なくとも、被災後の私や家族を守ってくれる生命線は正しい情報ではないでしょうか?

「避難所は?食料は?そもそも自分がいる場所は安全なのか?」など、分からなければ命に関わることも少なくありません。

SIP4Dとは、被災者と被災者・被災者と支援者・支援者と支援者といったように、人と人を確実につなげていく役割(生命線)を担ってくれる情報システムと考えれば分かりやすいかもしれません。

→SIP4Dの公式HPには、「情報パイプライン」と表現されています。

aitoff / Pixabay

 

リアルタイムの情報システム!SIP4Dとは?

SIP4Dとは、「府省庁連携防災情報共有システム」のことですが、これだけでは分かりにくいと思うので、もう少しかみ砕きます。

英語にすると「Shared Information Platform for Disaster management」の略です。それぞれの単語の意味をみていくと以下のようになります。

  • Shared=共有
  • Information=情報
  • platform=基盤や土台
  • Disaster=災害
  • manajement=管理

 

つまり、「用意されているプラットフォームに災害情報などを共有して管理していくシステム」のことです。それでは、災害情報のプラットフォームとしてなにを利用すれば情報が一括管理できると思いますか?

答え:プラットフォーム=地図!

 

「地図」といっても、いわゆるデジタル地図のことです。パソコンを使って例えばこんな情報を入力していきます。

  • 交通規制情報
  • 病院被災状況
  • 倒壊家屋
  • 避難状況

などなど、本当にたくさんの情報を地図上に一括管理することができます。

 

どんな使い方ができるの?

例えば、被災者を救助して病院へ搬送するとします。1分1秒を争うような状況が想像できるのではないでしょうか?

そんなとき、「いつもの道が使えるのか?」・「迂回路はあるのか?」・「そもそも搬送先の病院は受け入れてもらえるのか?」といった情報が、視覚的に地図としてリアルタイムにみることができます。

FirmBee / Pixabay

 

これまでにないシステム!

SIP4Dは、このように地図にさまざまな情報を集約することで誰もが視覚的に同じ情報を共有することができます。

ですが、これまでは残念ながらこういったシステムがありませんでした。

例えば、警察・消防・自衛隊がそれぞれ情報をもっていたとしても、それぞれがもっている情報は例えば無線や電話などで確認して初めて分かるような状態でした。

ところが、SIP4Dがシステムとして構築されたことで情報の混乱なく統制ができ、以前とは比べものにならないほどの時短を実現することができます。(横と横のつながりが実現!)

geralt / Pixabay

 

「時短」のなにがすごいの?

災害救助において、「72時間の壁」という言葉を聞いたことがありませんか?

 

1.救助されるまでの被災者の生存率

  • 24時間→約90%
  • 48時間→約50%
  • 72時間→約20~30%

*「72時間以降は、重傷を負った被災者の99%は助からない」とも言われ、生存率が急激に下がります。

 

2.救助後のスムーズな医療機関への搬送

重傷を負っている場合は当然ですが、すぐに病院へ搬送する必要があるため、使える道や搬送先の医療機関を把握することは必須となります。

 

3.エコノミー症候群

そもそも、ケガをしていなかったとしても「救助されるまでにタンスに挟まれる」など、なにかしらの理由で同じ姿勢を長時間継続させられることで血流が悪くなり血栓(血の塊)ができます。

そして、血液に血栓が流され肺に到着。すると、急性肺血栓塞栓症(肺に血栓が詰まる病気)になり突然死を引き起こします。これが、エコノミー症候群です。


つまり、「時短」と簡単に書きましたが、特に災害直後は1分1秒を争う状況の連続です。そして、エコノミー症候群による突然死の危険性もあるため、外傷の有無も関係ありません。(そもそも、持病を持つ人も少なくありません)

こういったことからも、SIP4Dによる情報共有システムの必要性が見えてくるのではないでしょうか?

Angelo_Giordano / Pixabay

 

その後の情報共有

震災直後の情報共有はもちろんですが、その後のライフラインの確保にも重要な役割を果たします。

例えば、「震災直後は通れなかった道路もギリギリ車両1両なら通れるようになった」「受け入れ可能な病院がリアルタイムで分かる」「安全だと思われた被災地の近くにあるため池があり決壊しそう」など、どんどん変化していく被災状況が示された地図がどんどん更新されていきます。

共有システムなので、そのリアルタイムに共有された地図(更新された地図)を関係者がみることができその地図をシェア。まさに、現場で拡散していけます。

つまり、被災直後からずっと使い続けることができるシステムです。


なぜ、もっと話題にならないのかしょうじき不思議なんですが・・・

調べてみると、直近のテレビ番組で紹介されていました。

2019年2月22日に放送された「金曜プレミアム 池上彰スペシャル 大災害 私達を救う警察・消防・自衛隊の実力」という番組内で紹介されていました。

この番組内では、災害救助に立ち向かう「警察・消防・自衛隊」の最新技術(水陸両用バギーやマット型空気ジャッキなど)なども紹介されていました。

災害現場に救助隊が到着すれば、さまざまな装備を使って救助をしてくれるといった内容でした。

kalhh / Pixabay

*この番組が放送された時点では、SIP4Dの情報は自治体や公共機関のみに公開されているようです。

→ただし、例えば北海道での地震の時は自衛隊の入浴支援といったような一部の情報は、一般の人でも見ることができるようになっていたとのこと。

民間利用まではまだまだ実現できていませんが、SIP4Dを使えば当然救助隊の災害現場の派遣もこれまでより容易になることはいうまでもありません。

 

問題点は便利すぎること?

SIP4Dは、2019年3月の開発期間終了にともない防災科研が運用を開始しました。

*防災科研(防災科学技術研究所):伊勢湾台風(1959年)をきっかけに設立。「防災・減災など」が研究対象。

さて、以前の記事でSIP4Dはこれまで実績を挙げてきたことを紹介しました。

  • 2015年:常総市水害
  • 2016年:熊本地震
  • 2017年:九州北部豪雨

 

このように、地震だけでなく水害にも力を発揮してきました。そのたびに、関連省庁も増えていきました。

問題点は、まだまだこのSIP4Dの実力が未知数だということかもしれません。

例えば、SIP4Dを使えば道路関連データと避難所関連データを統合して1つの地図として表示。逆に、土砂災害情報などピンポイントで知りたい情報を表示するなどカスタマイズも自由自在にできてしまいます。

 

未知数の可能性を広げていくには?

しいて問題点を挙げるなら、この利便性にあると思うのですが・・・

ここからは、主観になります。

これまで、私が考えられるSIP4Dの利便性について資料を参考にしながら挙げてお伝えしてきました。逆に言えば、ここで書いた内容が今の私が考えられるSIP4Dの利便性をお伝えする限界ということになります。

ですが、SIP4Dの情報はほかにも有効な使い方が必ずあるはずです。それは、どんな専門職の人でも発想や視点をかえないとみつけることができないでしょう。

私が、心配している点は情報がシステム化されることでその便利すぎる情報を1つの視点でしか見なくなることです。

これまで、さまざまな災害関連の記事を紹介してきましたが間違いなくSIP4Dへの期待は群を抜いています。

ただ、それだけに運用者の実力が試されるシステムでもあると強く感じました。

jarmoluk / Pixabay

 

最後に

日本で起こる災害は地震だけでも本当にたくさんあります。そこに、ゲリラ豪雨などの水害も合わせれば危険度は計り知れません。

SIP4Dの運用がついに開始され「これからの災害救助は激変するのではないか」と本当に期待しています。ただ、その基本はやはり「連携」です。

SIP4Dが、もっと一般の私達にまで浸透していくようにまずは「こんなシステムがある!」と広めていくことが急務だと感じました。

なぜなら、注目度が上がれば国・企業だけでなく必要とされる個人との連携にも繋がると考えられるからです。(今後、システム運用の継続により実績が上がっていくと予想できるので、SIP4Dの存在は自然と周知徹底されていくでしょう)

 

◎SIP4Dの運用目的◎

SIP4Dの公式HPを確認すると、SIP4Dの運用目的には3点挙げられています。

  • 被災自治体における災害対応に関わる機関・組織を支援する情報プロダクツを提供すること。
  • 災害対応に関わる機関・組織が相互に情報を共有し合い、状況認識を統一できるようにすること。
  • 災害対応に携わる機関・組織の職員・構成員の情報集約の負担を可能な限り軽減すること。

とあります。

 

◎SIP4Dの利用ルール◎

同時に、SIP4Dをシステム連接して情報共有するためのルール(お願い)が示されています。

「情報を利用するだけでなく、共有可能な情報をできる限りSIP4Dへ提供するよう努めていただくことが望ましい。」

 

つまり、「連携」していくことがこのシステムのそもそもの根幹であり目的だということがみてとれます。

SIP4Dの災害情報に興味関心のある方は、こちらの「お問い合わせフォーム」が紹介されています。(「氏名」・「連絡先」・「所属」の入力が必須)

SIP4D

 

*このブログが、SIP4Dについてすこしでも世間に普及するお手伝いになれば幸いです。


参考

国土技術研究センター
http://www.jice.or.jp/knowledge/japan/commentary12

防災科研:SIP4D
https://www.sip4d.jp/

 

 

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