前回、「無水エタノールと精製水を調合することで消毒用エタノールができる」という報道がきっかけで、精製水が品切れになっている現状についてお伝えしました。
さて、そんなエタノールはアルコールの1種ですが、消毒用アルコールに使われるエタノールは、消防法で定められている「危険物に該当する第四種アルコール類」に分類されています。
今回は、そんな「消毒用アルコールの取扱いに関する注意点」についてご紹介します。
→無水エタノールについてはこちらの記事で紹介しています。
灯油や軽油よりも引火しやすい?
そもそも、灯油や軽油が火気厳禁なことは多くの人が知っていますよね?
今では電気ヒーターなどが普及したため、石油ストーブを使っているお家もほとんど見なくなりました。
とはいえ、実家はいまだに石油ストーブを使っているため灯油をストーブのタンクに補充しています。
→「年代によっては、ストーブに灯油を入れる?」といわれても、よくわからないかもしれませんね。
さて、そんな灯油や軽油は引火点40~45℃ですが、エタノールの引火点は13℃前後です。「引火点」というのは、火を近づけた場合に着火する最低の温度のことです。
ちなみに、アルコールは保管する量が80L以上になると火災予防条例の規制を受け、400L以上になれば消防法の規制により許可が必要となります。(詳しくは、後述します)
まずは、総務省消防庁の注意喚起について見ていきましょう!
総務省消防庁
総務省消防庁は、消毒用アルコールの安全な取扱い等についてより
消毒用アルコールから発生する可燃性蒸気は、空気より重く低所に滞留しやすいため、多量に取り扱う場合には換気が必要になるなど、火災予防に留意する必要があります。
消毒用アルコールの取扱いとは?
1 消毒用アルコールの使用に際して、火気の近くでは使用しないこと。
2 室内の消毒や消毒用アルコールの容器詰替え等に伴い、可燃性蒸気が滞留するおそれのある場合には、通風性の良い場所や換気が行われている場所等で行うこと。また、みだりに可燃性蒸気を発生させないため、密閉した室内で多量の消毒用アルコールの噴霧は避けること。
3 消毒用アルコールの容器を設置・保管する場所は、直射日光が当たる場所や高温となる場所を避けること。また、消毒用アルコールの容器を落下させたり、衝撃を与えたりする等しないこと。
4 消毒用アルコールを容器に詰め替える場合は、漏れ、あふれ又は飛散しないよう注意するとともに、詰め替えた容器に消毒用アルコールである旨や「火気厳禁」等の注意事項を記載すること。
このように、消毒用アルコールは危険物であることを知っておく必要があります。当然、無水エタノールと精製水を調合する場合は密閉空間ではなく、換気しながら行わなくてはいけません。
ちなみに、買いだめをしすぎて指定数量を超えてしまうと犯罪になります。それでは、あらためて指定数量についてみていきましょう。
「指定数量」ってなに?
消防法第9条の4「危険物についてその危険性を勘案して政令で定める数量」のことです。
ちなみに、第四類(引火性液体)にはアルコール類以外にも、例えば第一石油類(ガソリンなど)があり、非水溶性液体なら200L。水溶性液体なら400Lが「消防法危険物および指定数量」として定められています。
このように、第一類~第6類までそれぞれ指定数量が細かく定められています。
さて、先程お伝えしたようにアルコールは第4類に指定され400L以上を保管しようとすれば、消防法の規制により許可が必要になります。
ただし、場合によっては指定数量の5分の1の量(80L以上)で火災予防条例により罰則をこうむる場合があります。
当然ですが、指定数量未満であってもアルコールは「危険物」には変わりないため、火災予防条例第30条に「貯蔵や取扱いに関する基準」が下記のように設けられています。
第30条
(1) 危険物を貯蔵し、又は取り扱う場所においては、みだりに火気を使用しないこと。
(2) 危険物を貯蔵し、又は取り扱う場所においては、常に整理及び清掃を行うとともに、みだりに空箱その他の不必要な物件を置かないこと。
(3) 危険物を貯蔵し、又は取り扱う場合においては、当該危険物が漏れ、あふれ、又は流失、飛散しないように必要な措置を講ずること。
(4) 危険物を容器に収納して貯蔵し、又は取り扱うときは、その容器は、当該危険物の性質に適応し、かつ、破損、腐食、さけめ等がないものであること。
(5) 危険物を収納した容器を貯蔵し、又は取り扱う場合においては、みだりに転倒させ、落下させ、衝撃を加え、又は引きずる等粗暴な行為をしないこと。
(6) 危険物を収納した容器を貯蔵し、又は取り扱う場合においては、地震等により、容易に容器が転落し、若しくは転倒し、又は他の落下物により損傷を受けないよう必要な措置を講ずること。
上記は、消毒アルコールを含め危険物を取り扱う場合は、必ず遵守しなくてはいけません。つまり、こういった安全な取扱いをすることは大前提です。
さらに、火災予防条例の31条の2により「危険物の貯蔵及び取扱いの全てに共通する技術上の基準」も設けられています。
このように、買いだめは「必要な人に行き届かない!」というマナー的な部分もありますが、物によってはそもそも罰せられることになります。
それでは、どんな罰則があるのでしょうか?
消毒アルコールを買いだめしすぎると引っかかるかもしれない罰則とは?
火災予防条例(80L以上~400L未満)
30万円以下の罰金
(1) 第30条の規定に違反して指定数量の5分の1以上指定数量未満の危険物を貯蔵し、又は取り扱つた者
(2) 第31条の規定に違反した者
→第31条・33条・34条は、おもに貯蔵設備や取扱いに関する基準が定められています。第42条は避難施設についての基準が定められています。
このように、取扱いに関する知識もなくネットなどで消毒用アルコールを80L以上買いだめしてしまうと、罰金が科せられる可能性があります。
ただし、これは火災予防条例の場合です。それでは、消防法に抵触する400L以上所持してしまった場合はどうなるのでしょうか?
消防法による罰則
そもそも、消防法では危険物の取扱いには第10条でこのように規定されています。
第十条 指定数量以上の危険物は、貯蔵所(車両に固定されたタンクにおいて危険物を貯蔵し、又は取り扱う貯蔵所(以下「移動タンク貯蔵所」という。)を含む。以下同じ。)以外の場所でこれを貯蔵し、又は製造所、貯蔵所及び取扱所以外の場所でこれを取り扱つてはならない。ただし、所轄消防長又は消防署長の承認を受けて指定数量以上の危険物を、十日以内の期間、仮に貯蔵し、又は取り扱う場合は、この限りでない。
そして、消毒用アルコールの場合は400L以上が指定数量以上になります。もしも、第十条に違反すると1年以下の懲役または100万円以下の罰金。
さらに・・・
第三十九条の二 製造所、貯蔵所又は取扱所から危険物を漏出させ、流出させ、放出させ、又は飛散させて火災の危険を生じさせた者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。ただし、公共の危険が生じなかつたときは、これを罰しない。○2 前項の罪を犯し、よつて人を死傷させた者は、七年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。第三十九条の二の二 第五条の二第一項の規定による命令に違反した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。○2 前項の罪を犯した者に対しては、情状により懲役及び罰金を併科することができる。第三十九条の三 業務上必要な注意を怠り、製造所、貯蔵所又は取扱所から危険物を漏出させ、流出させ、放出させ、又は飛散させて火災の危険を生じさせた者は、二年以下の懲役若しくは禁錮又は二百万円以下の罰金に処する。ただし、公共の危険が生じなかつたときは、これを罰しない。○2 前項の罪を犯し、よつて人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は三百万円以下の罰金に処する。
つまり、危険物として取り扱わなければ罰せられることになり、当然取扱いが不十分なことで被害がでた場合は重い罪になります。
例えば、1本500MLの無水エタノーを購入した場合・・・
- 80L=160本(火災予防条例が適用)
- 400L=800本(消防法が適用)
こんな途方もない本数を、なんの知識もなく持っている人はいないと信じたいですが・・・
もしも、転売で他にも危険物と知らずに取り扱っていれば、指定数量を簡単に越えてしまうかもしれません。
また、オイルショックのときは「トイレットペーパーを押し入れいっぱいに買い込んだ」なんて話があるぐらいなので、ネットが普及した現在なら同じように消毒アルコールなどを買いだめしている人がいてもおかしくないかもしれませんね・・・
最後に
身近な物が、危険物として法律の対象になっています。
そもそも、生産を増やしているにも関わらず市中に出回らないと言うことは、やはり買いだめしている人がいることが考えられます。
そして、目的はどうあれ指定数量を超えて買いだめしたにも関わらず、「不十分な取扱い」や「許可を受けていない施設」で管理をすれば、それは犯罪です。
今回は、身近な物でも大量に持っているだけで犯罪になる可能性があることについてご紹介しました。
買いだめをする必要はそもそもありませんが、どうしても買わないと落ち着かない人がいることも事実です。ただ、極端な買いすぎは犯罪につながる場合があります。くれぐれもご注意下さい。
参考
東京消防庁:気をつけよう!身近な危険物
→https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/inf/h25/05/k_week/tu.html
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