皆さんは、「垂直感染」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
「垂直感染」は、一般的に「母子感染」と呼ばれます。母子感染と言えば、特に抗生物質に注意が必要と言われますよね・・・
例えば、「2歳までに抗生物質を与えると、7歳半の時点でぜん息の発生率が高くなる。」また、「ぜん息が発症する確率は、抗生物質の使用回数が多いほど高くなる」というイギリスの研究結果が示されています。
ですがいくら、「抗生物質を妊婦さんや授乳中のお母さんに使うのは危険!」とはいっても、垂直感染の危険性があるなら抗生物質を使う必要があるかもしれません。
今回は、そんな「垂直感染と薬剤」についてご紹介します。
「抗生物質の悪影響」についてはこちらの記事で紹介しています。
そもそも「垂直感染」ってなに?
感染経路
病原体が体の中に侵入する経路は、大きく分けて2種類あります。
◎垂直感染◎
一般的に、「母子感染」と呼ばれます。つまり、妊娠中や出産の際に病原体が赤ちゃんに感染することがあります。
例)風疹・トキソプラズマ・B型肝炎など。
- 胎内感染・・・赤ちゃんがお腹の中で感染。
- 産道感染・・・分娩が始まり産道を通る時に感染。
- 母乳感染・・・母乳を介して赤ちゃんに感染。
の3つがあります。
◎水平感染◎
「人」や「物」といった感染源から周囲に広がる。
- 接触感染
- 飛沫感染
- 空気感染
- 媒介物感染
に分類されます。
さて、このように感染経路については大きく分けてこの2種類があります。それでは、本題の垂直感染(母子感染)の危険性についてはどうやって調べることができるのでしょうか?
事前に知ることができる感染症!?
妊娠前から細菌やウイルスなどを持っている妊婦さん(キャリア)もいれば、妊娠中に感染する妊婦さんもいらっしゃいます。そのため、妊婦健診で感染症を調べることができます。
妊婦健診で調べる感染症
◎B型肝炎ウイルス◎
赤ちゃんに感染しても多くは無症状ですが、まれに乳児期に重い肝炎を起こすことがあります。
→将来、肝炎・肝硬変・肝ガンになることもあります。
◎C型肝炎ウイルス◎
赤ちゃんに感染しても多くは無症状です。
→将来、肝炎・肝硬変・肝ガンになることもあります。
◎ヒトT細胞白血病ウイルスー1型◎
赤ちゃんに感染しても多くは無症状です。
→一部の人がATL(白血病の一種、中高年以降)や、HAM(神経疾患)を発症します。
◎ヒト免疫不全ウイルス(HIV)◎
→赤ちゃんに感染して、進行するとエイズ(後天性免疫不全症候群)を発症します。
◎梅毒◎
赤ちゃんの神経や骨などに異常をきたす先天梅毒を起こすことがあります。
→抗生物質で治療。
◎風疹ウイルス◎
→お母さんが妊娠中に初めて感染した場合、赤ちゃんに胎内感染し「聴力障害・視力障害・先天性心疾患など」の症状(先天性風疹症候群)を起こすことがあります。
◎B群溶血性レンサ球菌(GBS)◎
→赤ちゃんに肺炎・髄膜炎・敗血症などの重症感染症を起こすことがあります。
◎性器クラミジア◎
赤ちゃんに結膜炎や肺炎を起こすことがあります。
→抗生物質の内服治療。
このように、妊婦健診により感染症の危険性について事前に知ることができます。そして、抗生物質による治療が必要な場合もあれば、ヒトT細胞白血病ウイルスのように有効な治療法が確立していない病気もあります。
そう考えると、「抗生物質による治療という選択肢がある!」ということは、本当に大事なことだといえます。
それでは最後に、妊婦さんと抗生物質についてご紹介します。
抗生物質=危険?
日本産婦人科医会のHPを参考にご紹介します。
そもそも、「妊娠中だから!」といっても多くの薬剤は心配ないことをご存じでしょうか?
→もし、継続して服用している薬があったとします。ですが、「妊娠が分かったから・・・」という理由で自己判断で服薬を中止してはさらに悪化するかもしれません。必ず、医師に相談する必要があります。
このことを大前提としてお伝えします。
妊娠時期によって、胎児の影響は大きく変わる!
◎妊娠4週未満◎
→まだ胎児の気管形成が開始されていない時期。
母体薬剤投与の影響を受けた受精卵は・・・
- そもそも着床しない。
- 流産。
- 完全に修復される。
*残留性のある薬剤の場合は要注意。
◎妊娠4週から7週まで◎
→胎児の体の原器が作られる気管形成期ですが、妊娠に気付かない場合も多い時期。
奇形を起こす可能性が高い「絶対過敏期」と呼ばれ、もっとも影響を受けやすい時期です。
◎妊娠8週~15週まで◎
→胎児の重要な気管の形成が終わった時期。
奇形を起こす危険性がなくなるわけではないですか゛、過敏期を過ぎた時期になります。
◎妊娠16週~分娩まで◎
→胎児に奇形を起こすことが、問題になることがない時期。
多くの薬剤は胎盤を通過して、胎児に移行することで・・・
- 胎児発育の抑制
- 胎児の機能的発育への影響
- 子宮内胎児死亡
- 分娩直後の新生児の適応障害や、胎盤からの薬剤が急になくなることで離脱障害が問題になる。
◎乳児期◎
→多くの薬剤が母乳中に移行していきます。
児には、消化管を通しての吸収に変わります。
このように、そもそも薬剤の危険性は時期によってまったく異なります。
それでは、薬剤は全て危険なのでしょうか?
薬剤との付き合い方
そもそも、「妊娠中や授乳中の薬の服用について医師の中ですら十分に知られていない!」ということが、現実的にあるようです。
実際、医師から「薬を出してもらえなかった」・「断乳を薦められる」など、不適切な対応が妊婦加算のニュースでも話題になりましたよね・・・
*妊婦加算:妊婦さんを診察した医師は、医療費を患者さんから加算分を請求する制度でした。2019年1月から凍結されています。(再開する方向で検討中)
つまり、「加算をとらないと妊婦さんをしっかり診れない・・・」ということが現実的に起こっているようです。
話しがそれてしまうので、妊婦加算の話しはこれくらいにして・・・
避けたい薬剤・慎重に使いたい薬剤
妊娠にあたって避けたい薬剤
- 抗菌薬・抗ウイルス剤・・・リバビリン、キニーネ
- 抗高脂血症薬・・・プラバスタチン、シンバスタチンなど
- 抗ガン剤
- 麻薬
- 睡眠薬・・・フルラゼパム、トリアゾラム
- 抗潰瘍薬・・・ミソプロストール
- 抗凝固薬・・・ワーファリン
- ホルモン剤・・・ダナゾール、女性ホルモン
- ワクチン類・・・風疹ワクチン、おたふくかぜワクチン、風疹ワクチンなど
- その他・・・エルゴメトリン、ビタミンAなど
慎重に使いたい薬剤
- 抗菌薬、抗ウイルス剤・・・アミノグリコシド系、テトラサイクリン系
- 降圧剤・・・βブロッカー、ACE阻害剤、アンギオテンシンⅡ受容体阻害剤など
- 抗けいれん剤・・・フェニトイン、フェノバルビタール、バルプロ酸など
- 抗うつ剤・・・イミプラミンなど
- 非ステロイド抗炎症薬・・・アセトアミノフェン以外の抗炎症薬
- 向精神薬・・・リチウム
- 利尿剤
このように、気をつけるべき薬剤があります。
つまり、例えば妊婦さんの妊娠周期や持病などを見ながら、医師は個別に使用する薬を決定しているのではないでしょうか・・・
ただ、必ずしもそうとは限らない状態があるようです。
こんな事例が!?
①授乳中のお母さんが受診した歯科医で、「抗生物質を処方するので授乳を止めて下さい。」と言われた・・・
→歯科治療でよく処方される、「ペニシリン系」や「セフェム系」の抗菌薬は赤ちゃんの治療でも必要に応じて使われる薬です。
ですが、そもそも母乳移行する薬剤の量はごく少量で、これらのグループの抗菌薬は授乳中に使用することは問題ないと考えられています。
②小児科へ受診した、明らかに本人も調子が悪そうな子連れの妊婦さんが「他院で妊婦に薬は出せないと言われた。」
→まともな病院なら、対応できなくても専門的な他院を紹介するはずですが、手間・時間がないなど、そもそも医師の都合で妊婦さんを診ない。
このように、医師のレベルには雲泥の差があることが見て取れます。
特に、小児科ではない医師が「子どもに出してはいけない薬」や「薦められない薬」を処方することがまだまだあるようです。
最後に
妊婦さんや授乳中のお母さんは、確かに薬は控えた方がいいにこしたことはないでしょう。
ただ、避けるべき薬は決まっており「薬は、なにがなんでもダメ!」ということではありません。
「医師の都合で診ない」というのも問題ですが、それ以上に「ダメな薬をなんの説明もなく処方する」・「間違った説明をする」医師は問題外ですよね・・・
病院選びは、やはり専門(子どものことなら「小児科」)を選ぶべきでしょう。病院選びは、くれぐれもご注意下さいね。
小児科選びについては、こちらの記事で紹介しています。
参考
AMR臨床リファレンスセンター
→http://amr.ncgm.go.jp/general/1-1-1.html
厚生労働省:すこやかな妊娠と出産のために
→https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken10/index.html
朝日新聞DIGITAL:「妊婦に薬NG」は本当? 妊婦加算凍結よりすべきこと
→https://www.asahi.com/articles/SDI201812176651.html
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
→https://www.ncchd.go.jp/kusuri/lactation/qa_junyu.html#q1
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