「薬剤耐性」というと、皆さんはどんなイメージがあるでしょうか?
- 薬が効かない?
- 自分には関係ない?
- 治せるんじゃないの?
- そもそも、「薬剤耐性」ってなに?
人によって、知識が違うためイメージも違いますよね。
今回は、「薬剤耐性の関連死が明確にした恐ろしい調査結果」についてご紹介します。
→薬剤耐性菌については、こちらの記事でも紹介しています。
そもそも「薬剤耐性」ってなに?
薬物耐性のことを英語で「AMR(Antimicrobial resistance)」と略されます。
例えば、細菌に使用する抗微生物薬を抗生物質(抗菌薬)として使用されていますね。
さて、この抗生物質が使用されると次のことが起こります。
→抗生物質の効く菌がいなくなる。
これで、全ての菌に効果があればいいのですが、あくまでも「抗生物質が効く菌」が対象です。
つまり、抗生物質が効かない菌(薬剤耐性をもった菌)が生き残ることになります。
薬剤耐性のなにが問題なの?
そもそも、薬剤耐性は抗生物質が効かないため体内で増殖。その後、人・動物・環境を通じて世間に広がっていきます。
そうならないために、抗生物質は本当に必要な時に限って使う「最後の砦」としての役割が重要です。ですが、現実は抗生物質が効かないウイルスにかかった人にまで投与されるなど、乱用が繰り返されてきました。
ちなみに、耐性菌は不適切な使用よりは少ないですが、正しく使っても発生はします。
そもそも、薬剤耐性は細菌だけでなくウイルス・寄生虫など幅広い範囲で見られます。つまり、「生物である以上、障壁を乗り越えようとする力は人間だけが持つ特徴ではない」と言うことです。
なにより、結果的に人間が作りだしてしまったものでもあります。
それでは、世界では薬剤耐性の被害はどうなっているのでしょうか?
米国と欧州の薬剤耐性による関連死は?
日本ではこれまで薬剤耐性による死亡者数は明らかにされていませんでした。
ですが、そもそも世界中ですでに猛威をふるっています。
- 米国:薬剤耐性に関連して年間3.5万人以上
- 欧州: 〃 年間3.3万人
このように推定されています。この数字は、感染者数ではなく、残念ながら死亡者数の推定です。つまり、感染者はもっと多いことになります。
さらに、世界全体でみても2050年には薬剤耐性に関連した死亡数が1,000万人に達する可能性が示唆されています。
さて、すでに世界がこういった状況にも関わらず、日本ではこれまで薬剤耐性による死亡者数が明らかになっていませんでした。
国際化が進むなかで、日本にだけなんの影響がないなんてことはありえませんよね。
それでは、本題の日本についてみていくことにします。
日本ではじめの調査
2つの菌血症
「国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター(厚生労働委託事業)」と「国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター」がおこなった研究成果より。
薬剤耐性菌のなかでも、頻度が高い・・・
- メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)
- フルオロキノロン耐性大腸菌(FQREC)
これら、2つについての日本国内での*菌血症による死亡数が検討されました。
*菌血症というのは、血液中に菌が入りこんだ状態のことをいいます。多くの感染症が菌血症の原因となり、菌血症を引き起こすと、より重症となり死亡率が高くなってしまいます。
→菌血症が、耐性菌による主な死亡原因として考えられています。
2つの菌血症の結果は?
・MRSA菌血症による死亡数
→2011年:5,924名→2017年4,224名と減少している。
・FQREC菌血症
→2011年:2,045名→2017年:3,915名と増加している。
→この結果は、大腸菌菌血症全体がそもそも増加していること。そして、大腸菌のフルオロキノロン耐性が増加したためと考察されています。
さて、2017年の結果から見ても分かるように、この2つの菌血症のみに絞った調査ですら、すでに日本国内で年間約8,000人が亡くなっていることが分かります。
最後に
薬物耐性菌は、これまで薬で治っていたはずの病気が治らなくなってしまうことを意味します。つまり、身近な病気がとてもおそろしい病気にかわります。
例えば、中耳炎が耐性菌により薬の効果がなく、治療が長引くケースがすでに増加しています。
薬が効かなければ、それはまったく新しい病気に感じてしまいます。ですが、より強固な盾を装備した細菌やウイルスだと考えれば分かりやすいかもしれません。
RPGが好きなら、装備の強化とレベル上げでステージをクリアしていきますよね。同じように、もとは同じでも薬に耐性を持つことで今度は、こちらが倒されてしまう。そんなことが、今起こっています。
ちなみに、多剤耐性菌と呼ばれる多くの抗菌薬が効かない細菌も存在しています。(薬で対処できない)
このように、細菌やウイルスなどもどんどんレベルアップしていきます。最後は、人間の免疫力が鍵になるため、日々の健康管理をしていくしかありません。
参考
AMR臨床リファレンスセンター
→http://amr.ncgm.go.jp/pdf/20191205_press.pdf
日本経済新聞:薬剤耐性菌で年8000人死亡 国内で初推計、影響深刻
→https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52980390V01C19A2000000/
厚生労働省:多剤耐性菌についての一般の方向けの情報
→https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/multidrug-resistant-bacteria_ippan.html
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