今年も、夏がやってきます。
例えば、コロナ対策で、夏だというのにマスクを付けることが「新しい生活様式」の1つになってしまいました。
ですが、夏に怖いのは冬場に本格化する感染症よりも熱中症かもしれません。コロナ対策と熱中症対策は、紙一重とも言えるでしょう。
それでは、熱中症対策のために「寝る前に水分を摂りましょう!」と言われますが、あなたはどう思いますか?
今回は、「寝る前の過剰な水分補給は命を縮める」というお話しを紹介します。
*性別も年齢も疾患もそれぞれ違います。「みんな同じ対策ではだめ!」そんなお話しです。
水は人体の多くを占めている
よく聞く話ですが、人間は約60~70%が水でできています。
赤ちゃんが最も多く約75%とされていますが、歳をとるにつれて水分がなくなっていき高齢になる頃には約50~55%になってしまいます。
サントリーのHPを確認すると、人体の水分量が年齢により変化する理由についてこんな説明があります。
- 成長するにしたがい、生きるための脂肪が体に付いてくる。
- 女性の水分量が低くなるのは、女性の方が脂肪が多くなるため。
- 老人の水分量が減少するのは、細胞内の水分の低下。
つまり、「成長するにしたがい脂肪が増えることで水分が減少してしまうが、その後は老化によりそもそも細胞内に水分を蓄える機能が衰えていく。」という流れのようです。
もちろん、個人差があるため全ての人に当てはまるわけではありません。
以上の理由から、「人にとって水分は大切なので、特に夏は脱水症状にならないように水分をしっかり摂りましょう!また、寝る前は約8時間も水分が摂取できないのでしっかり飲んでから寝ましょう」なんて、思っていませんか?
確かに、寝る前の水分補給は熱中症対策を考える上では大切な視点です。
ただ、コロナ対策でも同じことが言えますが、「熱中症対策だけ」のように1つのことだけにとらわれているとその対策により命を落とすかもしれません。
寝る前の水分補給はいけないこと?
勘違いしてはいけないことは、寝る前に水分を摂ることがいけないわけではありません。
問題は、「どれくらい飲めばいいのか?」そういった個人差を完全に無視して、過剰に飲んでしまう場合です。単純な話し、一般的に必要以上に水を飲めば尿の量は増えるため、トイレの回数も増えますよね。
→あなたも、私も水分をたくさん飲めばその分、尿量が増えます。ここに、争いの余地はないと思います。
泌尿器科を専門に診療している五本木クリニックではこのような指摘がなされています。
特に夏場の頻尿の多くの原因が多飲であることも泌尿器科医にとっては常識となっています。
ちなみに、この多飲の原因の一端を担っているのが毎年、社会問題としてマスコミが取り上げる「熱中症」であり、寝る前などの水分補給を大々的に促すことから「マスコミ頻尿」なんて、泌尿器科医は呼んでいるのだとか。
これは、コロナ対策でマスコミが消毒を連呼することで、日本中で消毒ブームが巻き起こっている現状と同じ現象だといえるでしょう。
さて、話しを戻しますが「尿量が増える」と言うことは、イメージとしては「体の毒素をどんどん体外にだすデトックス効果があるからいいじゃないか!」と、実戦している人からすれば納得できないかもしれません。
ですが、残念ながらそもそも過剰に水分をとることが原因で「頻尿」になる
ことが少なくありません。
それでは、なぜ過剰に水分を飲むとダメなのでしょうか?
水分の過剰摂取は思わぬ病気を誘発する!?
例えば、夏になると「水ばかり飲んでいると塩分が足りずに脱水状態が改善されない!」ということが、熱中症予防で何度も報道されますよね。
ただ、今回説明するのはこういったことではありません。
そもそも、尿を作り出しているのは「腎臓」ですよね。
基本的に、水分不足を解消するために失った分を補うことが水分補給の大前提ですが、それを無視して、水分を摂り過ぎると腎臓に負担をかけることになります。
腎臓は、体液の濃度や水分量の調節など24時間休みなく体内の水分管理に働いています。また、過剰な水分補給はむくみの原因にもなってしまいます。
そもそも、必要以上の水は、「尿」や「汗」として体外に排泄しないといけなくなるため、それだけ負荷がかかることになります。
それでは、具体的にどういった危険があるのか見ていきましょう。
夜間頻尿
「夜間脱水を防ごう!」と報道にあるように、あなたが寝る前に水をたくさん飲むようになったとします。
ところが、夜間に何度もトイレに起きてしまうようになりました。
先程も説明したように、不要な水分は排泄されてしまうため、これは自然の体の働きともいえるでしょう。
ただし、夜間頻尿の定義は「寝ている間に1回以上トイレに起きること」です。
つまり、寝る前に水分を多く飲んだことで、トイレのために起きるようになってしまったあなたは「夜間頻尿」ということになります。
それでは、夜間頻尿の何が問題だと思いますか?
夜間頻尿で致死率が上がる!?
夜間に何度も起きることで、睡眠不足になりますよね。そんな睡眠不足は、免疫学的・統計学的にみても死亡率が高くなります。
さらにいえば、夜間脱水を防ごうと対策する前からすでに夜間頻尿だった人が、就寝前にたくさん水を飲もうとするとさらに危険です。
そもそも、夜間頻尿の人は就寝中に尿量が増えている状態です。そんな人が、就寝前に水分をたくさん飲んだとします。
健康な人でも、夜間にトイレに目覚めることはあると思いますが、そんな時、あなたの膀胱はパンパンの状態ではないでしょうか?
つまり、トイレを我慢している状態であるため交感神経が極端に興奮している(交感神経の緊張は、血管を収縮させて血圧を上げる)状態です。
そんな状態でトイレで用を足せば、膀胱の緊張は一気に緩むため血管の緊張が緩み、特に立って用を足す男性の場合は重力により血流は足を中心に下半身に集中することになります。
その結果、上半身の血流が低下し脳貧血・脳梗塞・心筋梗塞のきっかけになってしまいます。これが、夜間にトイレで倒れる人が多い原因です。
夜間頻尿の原因は?
- 過活動膀胱
- 前立腺肥大症
- 塩分取りすぎ
- 心臓の病気
- 呼吸器の病気
など、様々な原因がある。
つまり、夜間頻尿は「何かしらの危険な病気のサイン!?」として捉えることもできます。
ただし、先程説明したように、実は「マスコミ報道をまともに受けた人によるただの水分の取りすぎだった」という現実があり、泌尿器科の間では、「マスコミ頻尿」として揶揄されているということです。
このように、夜間頻尿に陥るだけでもリスクが高いですが、特に高齢になると新たな病気を誘発してしまうため、避けたい所です。
それでは、水はどのように飲めばいいのでしょか?
水分補給の目安は、約1日1.2Lの誤解?
1日に約1.2Lの目安は、間違っていません。
ただ、最近では「2L飲んでる」とか「3L飲んでる」とか聞いたことがありませんか?
これまで説明したように、水分補給は排出された分を補っていくことが基本的な考え方です。
さて、普通に生活していれば、1日で体内から約2.5Lほどの水分が出ていくことになります。「なら、2~3L程の水分補給は妥当では?」と考えるかもしれません。
ですが、私達は水分補給を食事によりおこなっています。
- 1日3回の食事(食べ物全般に含まれる水分など)→約1000ml
- 食べ物が燃焼されるときに生成される「代謝水」→約300ml
つまり、1日3回食事をすることで、約1300mlの水分補給がすでにできているため、残り1200mlの水分補給が必要と言うことになります。
→当然、スポーツや仕事など汗をかけば排出された分を補う必要があります。
ここまで分かれば、水分補給に必要なのは「がぶ飲み」ではなく「こまめな水分摂取」が必要
なことが分かるのではないでしょうか?
大森医師会では、コップ1杯の水を1日に8回に分けて飲むことが紹介されています。
1日8杯の水分摂取
- 起床時
- 朝食時
- 10時頃
- 昼食時
- 15時頃
- 夕食・晩酌時・・・お酒を飲むときは水も一緒に。
- 入浴前後
- 就寝前・・・寝る1時間前に水分補給をし、寝る前にトイレをすます。
*1杯150ml程の目安。
最終的には、「自分がおいしく飲める量」それが今、自分が飲むべき適量となります。
ただ、このように書くと誤解が生じる可能性があるため最後に腎臓病について紹介します。
腎臓病と水分制限
体の水分管理のために働いている腎臓が、病気になってしまう場合があります。
ですが、腎臓の状態によって水分摂取の量が変わります。
- 尿を濃縮させて排泄する働きが低下した場合
→たくさんの老廃物を排泄するために、多くの尿が必要となるためたくさんの水分摂取が必要になる。
- 尿量が低下し摂った水分が排泄されずに体にたまってしまう場合
→水分制限が必要。
水分制限が必要な場合は、例えば肺に水がたまってしまう肺水腫や心臓病などを煩っている場合などもあります。
冒頭でもお伝えしたように、年齢も性別も疾患もそれぞれ違います。
そのため、かかりつけ医の診断があるならば、基本的にその指示を聞かなくてはいけません。あとは、医師との話し合いです。
最後に
今回は、「寝る前の水分補給の考え方」についてご紹介しました。
就寝前に、水分を摂取するようになってから夜間にトイレに目覚めるようになったのなら、それは水分の摂りすぎが原因だと考えられます。
また、そもそもすでに夜間頻尿が引き起こされているのなら受診した方がいいでしょう。
水分補給は、排出された分を補うことが基本です。
そして、「がぶ飲みではなく、こまめな水分補給」が基本です。あまり、マスコミ報道に振り回されないようにご注意下さい。
参考
大森病院腎センター:腎臓を保護しましょう~生活編
→https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/neph/patient/kidney_disease/kidney_care01.html
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