皆さんは、「薬物乱用」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか?
薬物案用といえば、ドラッグ(覚醒剤や大麻など)を想像する人が多いかもしれませんね。
ですが、今回取り上げるのは「市販薬」です。
今回は、「市販薬の乱用」についてご紹介します。
*平成30年に実施された「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患実態調査」より
そもそもどんな薬物がもっとも乱用されているの?
この調査は、1987年からほぼ隔年で実施されてきた調査です。
対象者は、2018年の9月~10月に全国の有床精神科医療施設で入院または外来で診療を受けたアルコール以外の精神作用物質使用による薬物関連精神障害者患者の全てです。
症例数は、2,609症例が分析対象となりました。
さて、市販薬の話しの前に2018年時点での薬物使用について最初にお伝えしておきます。
①生涯使用経験薬物
- 覚醒剤・・・1,725例(66.1%)
- 揮発性溶剤・・・928例(35.6%)
- 大麻・・・791例(30.3%)
- 睡眠薬・抗不安薬・・・777例(29.8%)
- 危険ドラッグ・・・386例(14.8%)
- 市販薬・・・303例(11.6%)
その他にも薬物は続きます。
このように、生涯において使用経験のある薬物は覚醒剤が圧倒的に多いことが分かります。
そして、市販薬による薬物乱用は全体の約1割であることが分かります。
それでは、初めて使用した薬物は何だったと思いますか?
②初めて使用した薬物
- 揮発性溶剤・・・805例(30.9%)
- 覚醒剤・・・787例(30.2%)
- 睡眠薬・抗不安薬・・・409例(15.7%)
- 大麻241例・・・(9.2%)
- 市販薬118例・・・(4.5%)
その他、危険ドラッグなどの薬物が続きます。
さて、薬物のとっかかりとして揮発性溶剤と覚醒剤にはほとんど差がなくなりました。
そして、市販薬がとっかかりになることは1割にも満たないことが分かります。
それでは、「主に使われていた薬物」は何だったと思いますか?
③主に使われていた薬物
- 覚醒剤・・・1462例(56%)
- 睡眠薬・抗不安薬・・・446例(17.1%)
- 揮発性溶剤・・・157例(6%)
- 市販薬・・・155例(5.9%)
その他、薬物が続きます。
覚醒剤が圧倒的に多く、市販薬はやはり1割もありません。
ですが、全体的に見ると4番目に多いことが分かります。
さて、①~③どの項目をみても覚醒剤の使用が多いことが分かります。
そして、全体的に見ると市販薬の使用率が高いことが見てとれます。
というのも、今回の調査による薬物カテゴリーは15分類(a~o)されているためです。
つまり、市販薬は「15分類の中で4番目に多く主に使用されている薬物」ということになります。
また、覚醒剤などは1度でも使用すれば「乱用」とみなされますが、「睡眠薬・抗不安薬」や「各種鎮痛薬」、「市販薬」については、治療薬として適切に用いられている場合は「乱用」には当たりません。
つまり、医学的・社会的に逸脱した「乱用水準以上」の使用のみを「薬物乱用」としています。
それでは、市販薬の乱用は増えているのでしょうか?
市販薬の乱用状況は?
「1年以内使用あり」症例の種たる薬物の集計は、このようになっています。
- 覚醒剤・・・452例(39.3%)
- 睡眠薬・抗不安薬343例(29.9%)
- 市販薬・・・105例(9.1%)
その他、薬物が続きます。
つまり、1年以内の使用薬物で比較すると「睡眠薬・不安薬」と「市販薬」の乱用が大幅に増えていることが分かります。
さらに、2016年の調査と比較すると・・・
- 「市販薬」の薬物乱用率:5.2%→5.9%
- 「市販薬」の生涯経験率:10.4%→11.6%
- 「市販薬」の1年以内使用率:8.2%→9.1%
このように、微増とはいえどの項目でも、市販薬の乱用は確実に増加していることが見てとれます。
それでは、市販薬はどうやって購入されているのでしょうか?
市販薬の入手先は?
市販薬の入手先経路は、このようになっています。
- 薬局(71.4%)
- 店舗(23.8%)
- ネット(9.5%)
全体をみると、ネットでの購入はまだまだ少ないことがわかります。
それどころか、「真面目に?」と言っていいのかわかりませんが、薬の専門家がいる薬局で多くの人が購入しています。
こういったことから、多くの人が覚醒剤のように知人・友人からではなく、しっかりとした販売場所(薬局や店舗)で入手してしていることが分かります。
単純に、なぜこの購入ルートで市販薬による薬物乱用がこれほどまでに多発することになるのでしょうか?
ちなみに、「睡眠薬・抗不安薬」の入手経路は・・・
- 医療機関(精神科)・・・79%
- 医療機関(身体科)・・・33.2%
こちらも、多くの場合が専門機関が入手先となっています。
*覚醒剤などは「密売人からの入手」がもっとも多い。
医薬品の分類
厚生労働省のHPを確認すると、一般用医薬品は第一類医薬品・第二類医薬品・第三類医薬品とリスクに応じて区分されています。
- 第一類医薬品:薬剤師の説明を聞けば買える。
- 第二類医薬品:説明は努力義務。
- 第三類医薬品:説明不要。
つまり、2類と3類はそのままレジに持っていけば購入できてしまいます。
せっかく分類しているのになんだかもったいないですね・・・
→市販薬については、こちらの記事で紹介しています。
市販薬乱用の問題点!?
一般用医薬品は、全てネットで購入できるようになっています。
ただし、第一類医薬品は店舗などと同じように薬剤師しか販売できません。
そして、他の医薬品の使用状況についても確認する必要があります。
このように、ネット販売の場合であっても規制はあります。
ただし、ルールを守らない違法なネット販売も散見しています。
つまり、今は多くの人が店舗や薬局など専門の場所で購入していますが実店舗での規制が強化されれば、ネットでこっそり買う人が増えていくことが予想できます。
そのため、購入先は現状維持で保ちながら、バランスを取る必要があるということになります。
例えばこんなやり方は?
- 薬局や店舗での市販薬の購入割引やポイント付与。
- ただし、市販薬を購入する際はスタンプカード(アプリなど)を提示しないと購入できない(購入・服薬状況を確認できるようにする。)
- アプリ内で服薬状況を登録するとポイントが増加。また、服薬が減少すればさらにポイントがもらえる。
ポイントが欲しいがために利用しようとする人もでてくるため、対象者に配られるパスワードを入力する必要があるなど、対策が必要。
*他にも、タバコを買うときにカードが必要なのと同じような仕組みにするなど。
何かしらの対策が必要になるでしょう。
それでは最後に、乱用されている市販薬について今回の調査結果からご紹介します。
乱用されていた市販薬
鎮咳・去痰薬
- ブロン錠・ブロン液
- トニン・新トニン・シントニン
- カイゲン
総合感冒薬
- パブロン・パブロンゴールド
- コンタック
- ルル
- プレコール
感冒薬
- PA・PL・パイロンPL
睡眠薬
- ウット
- ドリエル
- リスロン
鎮痛薬
- ナロン・ナロンエース
- イブ・イブクイック・イブプロフェン
- バファリン
- セデス
- ロキソニン
- ノーシン
- ケロリン
抗アレルギー薬
- レスタミン
眠気除去薬
- エスタロンモカ
その他
- ベンザ・ベンザブロック
このように、CMなどでもよく聞く市販薬が多いことが分かります。
これらは、乱用されやすい薬ということができます。
断っておきますが、薬が悪いのではなく使用者側の問題です。
ただ、繰り返しになりますが市販薬の入手のしやすさは改善する必要があるでしょう・・・
最後に
今回は、市販薬の乱用状況についてご紹介しました。
ちなみに、もっとも多く乱用されていたのはブロン錠でした。
ブロン錠には、ブロン液にはない中枢神経興奮薬と中枢神経抑制薬が含有されています。
これに、カフェインなどが加わり相互に薬理作用や依存性を強めていることが指摘されています。
また、睡眠薬のウットは現在の医療では使われなくなった成分が未だに使われていたりと、そもそも見直さなければならない市販薬もたくさんあります。
繰り返しになりますが、用法用量を守って正しくお使い下さい。
参考
精神保健研究所:平成30年 全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査
→https://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/report/index.html
厚生労働省
→https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000050568.pdf
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