「酸蝕症とエナメル質」 あなたの歯は、いつの間にか溶けているかも!?

 

皆さんは、歯を失う病気と言えば「虫歯」や「歯周病」を思い浮かべるのではないでしょうか?

ところが、「第3の歯の病気」が指摘されています。

今回は、「子どもにも起こる酸蝕症(さんしょくしょう)」についてご紹介します。

 

酸蝕症ってなに?

簡単に言ってしまえば、「歯が酸により溶けてしまう疾患」です。

これだけだと、とても恐ろしい奇病のように思うかもしれませんね。もう少し補足していきます・・・

『歯が「酸性の物」によって溶かされてしまう疾患』です。

まだよく分かりませんね・・・

そもそも、「酸性の物が私達の歯に触れているなんて信じられない!」と思う人もいるかもしれませんが、以外と多くの酸性の物に私達の歯は毎日さらされています。

 

酸蝕症を引き起こす「酸性の物」?

 

①嘔吐や逆流

私達は、食べた物を消化するために胃酸などで溶かしていきますよね。つまり、体の内部にはそもそも酸が存在しています。

  • 若年者・・・摂食障害による自己誘発性嘔吐(拒食症や過食症など)
  • 高齢者・・・逆流性食道炎

このように、嘔吐や逆流してきたことで歯が酸性にさらされます。

PH値については後述しますが、逆流や嘔吐による胃酸は強酸性(pH1.5前後)のため、歯に深刻なダメージを与えてしまいます。

 

②飲食物

さらに、普段私達が普段食べている多くの食べ物の中には、酸性の飲食物がたくさんあります。

 

つまり、酸蝕症は胃酸や酸性の食べ物など、歯が直接「酸」にさらされることで起こる病気です。

酸性の食べ物を紹介する前に、まずは歯を守っているはずのエナメル質について説明します。

mohamed_hassan / Pixabay

 

そもそも、エナメル質が歯を守っているんじゃないの?

昔、「コーラを飲むと歯が溶ける!」なんて都市伝説がありましたよね・・・

「抜けた歯をコーラに何日も付けていると歯がデコボコになったり、色がコーラ色になった!」なんて話しなんですが・・・

現実問題として、実践しようと思えばコーラを口に長期間含む必要があるため、「そもそもこんなことは起こらない!」という結論でした。

 

ちなみに、コカ・コーラのQ&Aにもこんな回答があります。

コカ・コーラに限らず一般的に清涼飲料には酸味料が含まれています。そして、歯や骨の成分であるカルシウムやマグネシウムは、酸に溶ける性質を持っています。よって、清涼飲料、果汁などの酸を含む液体に、抜けた歯や魚の骨を長い間つけておくと、含まれるカルシウムやマグネシウムが溶けます。しかし、飲みものですので人間の骨に直接ふれたり、歯に長い間くっついていることはありません。安心してお飲みください。

ということですが、ここで注目したいのは「歯や骨の成分であるカルシウムやマグネシウムは酸に溶ける性質をもっていますという部分です。

 

エナメル質の役割

歯の表面は、「エナメル質」と呼ばれる組織で覆われています。

このエナメル質は、厚さが1~3㎜程しかありませんが人の体ではもっとも硬い組織と言われています。

つまり、エナメル質があれば、簡単に歯がすり減ることはありません。

ところが、どんな物にも弱点は存在します。

そんなエナメル質の弱点はズバリ、です。

つまり、先程説明した酸蝕症の原因である「胃酸」「酸性の食べ物」に歯が触れることでエナメル質が柔らかくなり歯が傷付きやすくなります。

と言うことは、酸蝕症を防ぐためにはエナメル質の維持が重要になることが分かります。

それでは、エナメル質を維持(ケア)するにはどうすればいいのでしょうか?

 

エナメル質を維持するには?

唾液

そもそも、食後は口腔内が酸性状態になりエナメル質は溶かされやすい状態になります。

とはいえ、エナメル質はカルシウムやリン酸が多く含まれた唾液により元の状態に戻ることができます。この作用を、再石灰化といいます。

唾液の分泌を促進させるために・・・

  1. よく噛む
  2. ガム・飴などを食べる(ガムは、酸性食品を食べた直後は避ける・飴を舐め続けるのはNG!)
  3. こまめな水分摂取(唾液の成分は水分)

このように、唾液の分泌量を増やす必要があります。

 

歯磨きのタイミング

「食後30分以内は歯を磨いてはいけない!」なんて聞いたことがある人もいるのではないでしょうか?

ですが、日本歯科保存学会ではこのような見解が述べられています。

食後の歯磨きについては、歯のう蝕(ムシ歯)予防の見地から、これまで一般的に推奨されてきた通り、食後の早い時間内に行なうことをお薦めします。ただし、酸性の強い飲料などの飲食物を摂った場合には、歯の酸蝕(酸によって歯の表面が溶けること)に留意して歯みがきすることをお薦めします(なお、「酸性飲食物を摂取後30 分間は歯磨きを避けるべき」ということの確認はできていません)。

つまり、「酸性の食べ物を食べた後はそのことを留意して歯を磨くこと」とはありますが、「摂取後30分間は歯磨きを避ける」とはされていません。


そもそも、この話は欧米で『「酸性食品」の摂取後にブラッシングすると、歯がすり減ってしまう「酸蝕症」の危険性が高まる』とされた報告がもとになっているようです。

オチとしては、マスコミが「酸性食品」の部分を「食後」と誤訳?

したために「食後は、30分以内は磨いてはいけない」という報道がされているようです・・・

また、欧米でも酸性食品を食べた後のブラッシングの危険性に対する評価は分かれているようで、そもそも断定されていないようです。

歯磨きの基本は、虫歯予防のためにも「食後すぐ!」が原則です。

*ただし、エナメル質が減少しているかもしれない「酸蝕症と認められる方」「歯に酸性の状態が長時間、持続していると考えられる人」は対応には注意が必要です。

 

酸蝕症の影響は?

①黄ばむ

→エナメル質がすり減り、その下にある黄色味を帯びた象牙質が見えやすくなるため。

→象牙質は、エナメル質よりも弱い酸性で喪失を起こしてしまう。

  • エナメル質・・・pH5.5以下
  • 象牙質  ・・・pH6.0~6.2以下

 

②光沢を失う・変色する

→エナメル質がすり減るとこのように見える。

 

③半透明~透明になる

→エナメル質が摩耗することで起こる。

*エナメル質が薄くなると歯の先端が透けて見える。

 

④シミル

エナメル質がすり減り、象牙質が露出すると知覚過敏の症状を引き起こす。

 

⑤歯の先端が丸みを帯びる

→歯の先端は、もっとも酸蝕症が起こりやすい。

 

このように、エナメル質がなくなることで、酸蝕症は進行していきます。

歯の先端が丸みを帯びるようになる前に、特に酸性の強い飲食物が口の中に長時間入っている状態がないようにして下さい・・・

 

酸蝕症の症例

①ある小学生は、上を向いた状態で上の前歯に輪切りのレモンを乗せるという癖があった。

→レモンの酸により、輪切りのレモンを乗せていた前歯だけがボロボロになった。

 

②妊娠中につわりを経験した母親の歯が、出産後にボロボロになってしまった。

→つわりの際に、胃酸が口に留まってしまいほぼ全ての歯が影響を受けて溶かされた。

 

③最近の健康ブームで「酢」を日常的に飲んでいた。

→飲んだ後、そのまま放置したため歯が溶けてしまった。


このように、虫歯のように細菌が作った酸ではなく、歯が直接酸性の物に触れることで歯が溶けていきます。

酸性の飲食物を摂取した後は、うがいをするなど酸性度を緩和する必要があります。

それでは、酸性の飲食物とはどんな物があるのでしょうか?

 

酸性の飲食物は「pH」で確認!

化学の世界で、「pH(ピーエイチまたはペーハー)」は物質の酸性・アルカリ性の度合いを示す数値として利用されています。

  • 酸性   ・・・pH7より低い
  • アルカリ性・・・pH7より高く14未満

つまり、pHは低いほど酸性が強いことが分かります。(酸蝕症のリスクが高まる)


例)

蒸留水:pH7 < トマトジュース:pH4 < レモンジュース:pH2

となり、このなかではレモンジュースがもっともpHが低いため酸性が強いことになります。

それでは、具体的にpHの低い飲食物はどういった物があるのでしょうか?

 

pHの低い(酸性の強い)飲食物

  1. ダイエット系も含む炭酸飲料
  2. スポーツ飲料
  3. トニックウォーター
  4. ワイン
  5. ジュース
  6. ドレッシング
  7. レモン果汁
  8. ピクルス
  9. オレンジ
  10. トマト
  11. いちご
  12. サクランボ
  13. ビタミンCタブレット

など、他にも 様々な飲食物があります。


例えば・・・

  • 子ども:動画を見ながら、時間をかけて炭酸飲料を飲む。
  • 大人 :時間をかけて、ワインを楽しむ

なんて、もし時間をかけて飲食物を口にすることがある人は、それがpHの高い物だった場合、酸蝕症の危険性が高くなります。

失ったエナメル質を取り戻すことはできないため、くれぐれも酸性の強い飲食物のダラダラ食べにはご注意下さい!

 

最後に

歯の磨き方については、確かに賛否両論あります。

そして、様々な研究により常識はどんどん変わっていきます。

もし、今あなたの歯に異常がないなら、あなたは人知れず最新の歯のメンテナンスができているのかもしれません。

ですが、実際は多くの人が「歯周病」や「虫歯」・「口臭」など、口に何かしらのトラブルを抱えています。

今回紹介した酸蝕症は、「酸が直接歯に触れることで起こる病気」といえます。

特に、夏場はスポーツドリンクを飲む機会が増えますよね。

酸性の高いスポーツドリンクを飲んだ後は、「お茶を飲む」・「うがい」をするなど、その場でできる対策を必ずしていって下さい。

→酸蝕症が進んでいる場合は、食後すぐの歯磨きは注意が必要です。

*酸蝕症が不安な場合など、しばらく歯科受診をしていないなら、ますは歯科医へ受診することが対策の近道です。


参考

ヨミドクター:酸蝕歯…酸性食品 歯を溶かす
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20190729-OYTET50014/

とりい歯科医院
http://www.torii-shika.com/useful_sansyoku.html

かのう歯科:「時々、聞かれる歯科の疑問にお答えします。その1」
http://www.dentist-kanou.com/index.php

日本学校歯科医会
https://www.nichigakushi.or.jp/news/161110.html

シュミテクト
https://www.hagashimiru.jp/about-enamel-wear/acid-erosion/causes.html

 

 

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