皆さんは、「トキソプラズマ」という感染症をご存じでしょうか?
今回は、妊婦さんの身近に起こりうる垂直感染(母子感染)の危険性がある「トキソプラズマ」についてご紹介します。
垂直感染については、こちらの記事で紹介しています。
そもそも「トキソプラズマ」ってなに?
心霊現象などで昔流行った、体内から気体?のような物を口から出す「エクトプラズム」ではありません。
寄生虫の一種です。
◎大きさ◎
- 幅:3µm
- 長さ:5~7μm
- 半円~三日月型をしている
分かりやすくいえば、目に見えません・・・
感染の危険性は?
「空気感染」や「経皮感染」はしません。また、人から人への感染もしません。そして、一度感染すると終生免疫が継続します。
→「全人類の実に1/3以上(数十億人)が感染している。」と言われるほど、身近な感染症です。ただし、妊婦さんが感染すると垂直感染(母子感染)を引き起こす可能性がある、とても怖い感染症でもあります。
感染経路は?
- 感染中に存在する感染力のある虫卵(オーシスト)を取り込む
- 汚染食品(加熱不十分の肉や肉製品)
このように、感染経路は分かっていますが気付かないうちに体内に取り込んでいるかもしれません・・・
それでは、上記の1.2についてご紹介します。
何に気をつければいいの?
◎1.「環境中に存在する」感染力のある虫卵(オーシスト)を取り込む?◎
そもそも、寄生虫は変身することでヒトの体内に入ってきます。
- 休眠状態のサナギのようなシスト(「嚢子ーのうし」とも呼ばれる)形態。
- 卵のようなオーシスト(「接合子嚢ーせつごうしのう」とも呼ばれる)形態。
といった変身をします。
それでは本来、人間には存在しないトキソプラズマの媒介となる「宿主」は誰なのでしょうか?
→トキソプラズマの宿主は、ズバリ「猫」です。
それでは、「環境中に存在する」とはどういう意味なのでしょうか?
実は、猫が糞便中に排泄したオーシストが土を介して果物や野菜に付着することがあります。また、川などでオーシストを十分に浄化しきれていない飲料水も感染源となります。
つまり・・・
- 花壇などの土いじり
- 生野菜や果物
- 生水
など、猫の糞便が付着している可能性があるため、生水は飲まず、野菜や果物はキレイに洗う必要があります。
また、猫を自宅内で飼っている場合は特に注意が必要です。
自宅で猫を飼っている場合の注意点は?
完全屋内飼育でも、その猫は感染している可能性があります。
- 感染している猫科の動物が、排泄する糞便中のオーシストを摂取。(糞便にオーシストを排泄するのは猫科の動物のみ)
- 生肉・生骨・生の内臓や虫類(ハエ・ゴキブリなど)を食べてしまっている場合。
- 屋外へ出ている時がある。
このような場合は、「すでに感染している!」と考えて特に妊婦さんは気をつけないといけません。
*例えば、排泄箱は熱湯消毒したり毎日「空」にする。(オーシストが感染力をもつまでに、最低24時間かかるため)
→そもそも、できる限り妊婦さんは猫とは接触を避ける必要があります。
◎2.汚染食品?◎
そもそも、トキソプラズマは全ての哺乳類や鳥類への感染が可能なため生肉には注意が必要です。ひょっとしたら、普段から「生肉なんて食べない!」と考える人もいるかもしれません。
ですが、例えば・・・
- 生ハム
- レアステーキ
- ユッケ
といった物をこれまで食べたことはありませんか?
また、生肉を調理した「手」と「まな板の表面」などはすぐに洗う必要があります。
それでは、実際にどんな危険があるのでしょうか?
トキソプラズマのなにが怖いの?
そもそも、人間が後天的(産まれてから)トキソプラズマに感染すると・・・
→無症状のことが多いです!
ただし、後天的にトキソプラズマに感染した10~20%の人にはこんな症状が現れます。
- リンパ節炎が腫れる
- インフルエンザのような症状
- 筋肉痛が2・3日続く
- 肺炎
など、仮に症状が出たとしても、こういった様々な特徴的ではない症状が出てくるため、知らない間に感染して治っていきます。
ただし、妊婦中の初感染は危険度がまったく違います!
知っておくべき胎児への影響!
胎児への影響についてお伝えする前に、そもそも妊娠の6ヶ月以上前にすでにトキソプラズマ感染症にかかったことがある場合は、胎児には影響がないとされています。
これは、人の免疫機能が働くことで血中にまで虫体がでてこれず、胎児にまで影響を及ぼすことがないためです。
つまり、妊娠中に初めてトキソプラズマに感染した場合が危険だということです。この前提で、胎児への影響についてお伝えします。
*抗体があるかどうかは、抗体検査をすることで分かります。(飼い猫の検査も同様)
胎児への様々な症状
トキソプラズマは、胎盤を通過して胎児に垂直感染していきます。ちなみに、胎児への感染率は妊娠末期になるほど高くなります。
ただし、胎内感染による重症度は、妊娠初期ほど高いことが知られています。そして、胎児にはこのような影響が見られます。
◎4大徴候◎
- 水頭症
- 脈絡膜炎による視力障害
- 脳内石灰化
- 精神運動機能障害
◎他にもいろいろな症状が・・・◎
- リンパ節腫脹
- 肝機能障害
- 黄疸
- 貧血
- 血小板減少
といった症状もみられることがあります。
◎出生時に無症状だったとしても・・・◎
成人になるまでに、網脈絡膜炎や神経障害(てんかん様発作や痙攣など)等といった症状が現れることがあります。
そして、なにより胎内死亡・流産のリスクがあります。
それでは、感染を防ぐにはどうしたらいいのでしょうか?
トキソプラズマの感染予防とは?
トキソプラズマが死滅する条件
- 67℃以上で1~2分加熱。
- お肉は、-20℃で8時間以上冷凍。
冷凍庫内の温度は-20℃~-18℃ぐらいですので、温度設定を-20℃以下にして例えばお肉を冷凍保存すれば「トキソプラズマの滅菌」についてはできてしまいます。
また、しっかり熱を通すだけでも死滅させることができます。
*どちらにしても、特に食事前と調理後はよく手を洗う。
最後に
こんな事例がNHKで紹介されていました。
- 妊娠4ヶ月のときに、焼き肉店でユッケやレバ刺しを食べた2週間後、妊婦さん自身には「リンパ節の腫れ」と「風邪のような症状」がでたものの次第に治り気にとめることもなかったそうです。
- ところが、妊娠9ヶ月で胎児に「脳室が2倍以上に拡大する」という脳の異常が発見されました。
- 母親の血液を調べると、トキソプラズマ(寄生虫)が発見されました。
- 女の子を出産しましたが、女の子は水頭症で右手右足に軽い麻痺があります。
食べ物1つで、胎児への影響がでてしまう本当に怖い実例です。
トキソプラズマは、年間数百~千人の妊婦さんが初感染し、100人程度の赤ちゃんに感染しています。さらに、重症の赤ちゃんは約10人です。
「ナマモノ」には、本当にご注意下さい。
参考
朝日新聞DIJITAL:おなかの赤ちゃんへの感染防げ 新たな薬や検査が次々と
→https://www.asahi.com/articles/ASM5H5VT6M5HULBJ016.html
NIID:国立感染症研究所
→https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/sa/chlamydia-std/392-encyclopedia/3009-toxoplasma-intro.html
食品安全委員会
→http://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu03050660314
花王:猫と暮らすお役立ち情報
→https://www.kao.co.jp/nyantomo/cat/faq/category04/04/
NHK生活情報ブログ
→https://www.nhk.or.jp/seikatsu-blog/400/119912.html
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