うつぶせ寝対策
以前、うつぶせ寝は「SIDS(乳幼児突然死亡症候群)の発生を高める」ことを紹介しました。
SIDSとは、なんの予兆や既往歴がないにも関わらず、乳幼児が死に至る原因不明の病気です。
→窒息などの事故とは異なります。
厚生労働省が「11月はSIDSの強化月間」とさだめ、睡眠中の赤ちゃんが亡くならないように注意喚起をしています。
今回は、うつぶせ寝対策がどこまで進められているかについてご紹介します。
なぜ、11月がSIDSの強化月間になったの?
SIDSの特徴を見てみると・・・
①12月以降の冬期にSIDSが発症しやすい傾向にある。
②うつぶせ寝でねている時におきやすい。
という特徴があります。
つまり、冬にうつぶせ寝でねかせることは、SIDSの危険を倍増させると考えられているからです。
ガイドラインの改定
→米国小児科学会(AAP)が2016年に5年ぶりに、SIDSなどによる睡眠中の乳児死亡を予防するための安全な睡眠環境に関するガイドラインを改訂しました。
AAPのガイドラインより(ヨミドクターより引用)
自宅でも実践できる項目
1.必ず仰向けで寝かせる
2.固いマットレスなどの上に寝かせる
3.母乳育児が推奨される
4.少なくとも生後6カ月まで、できれば1歳を迎えるまでは親と同じ寝室に寝かせる。ただし、親と同じベッドを共有せず、ベビーベッドやバシネット(ゆりかご)などに寝かせる
5.乳児が眠る場所に柔らかい物や寝具は置かない
6.昼寝や夜の寝かしつけのときにはおしゃぶりを与える
7.ソファや椅子には決して寝かせてはならない
8.妊娠中、出産後は禁煙、乳児が受動喫煙になるような環境を避ける
9.乳児がアルコール、違法薬物にさらされないようにする
10.乳児を必要以上に暖かくしない(大人より一枚少ないのがちょうど良いとされる)、頭を覆わない
11.妊婦は出生前の定期健診をきちんと受診する
12.推奨されている全てのワクチンを接種する
13.エビデンスが不十分なため、乳児突然死の発生を避けると宣伝している市販品などを使用しない
14.乳児を毛布などで包み込むことは、推奨されない
以上が、私達親が子どもにできる対策として挙げられています。
そのため、ニュースでもみられるように特に冬期では注意喚起がなされるようになりました。
うつぶせ寝の実施状況
総務省行政評価局は、149の保育施設を抽出した事故防止の調査で約10%が対策を実施していなかったと発表しました。そして、厚生労働省と内閣府に関連施設の改善を2018年11月9日に勧告しました。
調査によると、1歳児の睡眠中に呼吸の状態や、窒息の恐れがあるうつぶせ寝、寝具の巻き付きがないかどうかを定期的に確認していなかったのは11%。0歳児では5%ということでした。
→9割の施設で対策をおこなっているという調査結果。
新聞記事では、このような調査報告がなされているのですが、要約されすぎていてわかりにくいので総務省行政評価局が公表した調査結果をもとにお伝えします。
調査概要
①「事故防止等ガイドライン」というものがあります。
②そのガイドラインに、保育施設等における睡眠中の安全対策として
→「乳児の窒息リスクの除去を、睡眠前及び睡眠中に行う」とされています。
③窒息リスクの除去方法として
「子どもの数、職員の数に合わせ、定期的に子どもの呼吸・体位、睡眠状態を点検すること等により、呼吸停止等の異常が発生した場合の早期発見、重大事故の予防のための工夫をする」と規定。
*そのため、呼吸器等点検をするための「点検表」が実施されることになりました。つまり、「点検表を使っていない施設が、今回調査した施設のうち約1割が使用していなかったため、徹底するように勧告を出した」という内容です。
実施していない1割程の施設側の意見としては・・・
呼吸等点検をするために「点検表」があるが・・・
■一人ひとり点検表を使って点検する意味・効果が乏しい。
■どのように点検表を使っていいかわからない。
■落ちついて点検をする時間がない(他にやることがある)
といった回答結果でした。
なぜ、この回答結果になったのか以下のH27年1月に実施された横浜市こども青少年局「認可保育所・家庭的保育事業・小規模保育事業新規事業者向け説明会 」の資料から紹介します。
気になる方は確認してみてください。
保育所や小規模保育事業所など規模により、チェックリストの実施基準は変わりますが、1日の記録は多岐にわたります。今回は、あくまで「うつぶせ寝」についての記事ですので、呼吸器等点検表のみに絞って紹介します。
呼吸器等点検表とは?
ブレスチェック表(SIDS突然死予防のためのチェック表)というものがあり、7時~18時までの5分刻みの空白になったスケジュール表が印刷されています。
*高齢者施設などに働いている方なら、排泄チェック表といえば想像しやすいと思います。
睡眠チェック表の使い方
・0歳児は5分ごと・1歳児は10分ごとにチェックを入れていきます。
●睡眠中の児童の姿勢・顔色・呼吸の状態をきめ細かく観察しチェックすることが目的。
①十分な観察ができる明るさの確保。
②顔面および唇の色の確認。
③鼻や口の空気の流れや音の確認。
④呼吸にともなう胸郭の動きの確認。
⑤体に触れて体温確認。
●乳児は仰向けに寝かせること。また窒息予防のため次に留意し、毎日チェック。
①シーツはしわがないか常に点検する。
②授乳後、ゲップを十分に出してから寝かす。
③睡眠時に着衣の襟や袖口で口を塞がないように留意する。
④顔のまわりやベッドの柵にタオルなどを置いたりかけたりしない。
⑤飲み込む危険のある遊具を手の届くところに置きっぱなしにしない。
とあります。
保育所で実現しようとするなら・・・
・子どもが横になった時点でチェックをする必要があるため、全員が寝る時間を作る必要がある。
→数人だけ寝かすなどの対応をすれば、睡眠チェック用の職員を当てる必要があるため。
・できる限り、見渡して確認できるようにスペースを限定して並べて寝かせる必要がある。
・そもそも睡眠を実施しない。
他にも、さまざまな工夫がなければ達成することは不可能でしょう。
ちなみに、2016年5月21日「すごーいですね!!視察団」で保育園・幼稚園スペシャルが放送されました。
番組のなかでも、日本の細かすぎる指導計画やお昼寝中の細かいチェックについて驚かれるシーンがあります。
→番組冒頭内では、「無駄な記録だ」と指摘されているシーンもあります。
チェック表の怖さ
高齢者施設で10年ほど働いていた経験からおそらく、記録のための援助になっている施設も数多くあるとおもいます。それだけ、大量の記録は職員を追い込んでいきます。
ただ、今回のSIDSのように社会問題化すると簡単にチェック表がどんどん増えていくので職員はただの記録作業員になっていきます。
本来は、子どもたちを見れる職員を育成することが基本なのですが・・・
なにはともあれ、9割の施設は要請に応えているということになります。
まとめ
チェック表は、確かに過去の記録を見るために有効です。また、「自分たちが正しい援助をした!」という証拠にもなります。ただ、あまりにも増やしすぎると職員は記録作業員になってしまい肝心の子どもたちを見ることができなくなります。
厚生労働省の指示によって保育所の運営方法も変わります。
職員が自信をもって働けて、子どもたちがのびのび遊べる保育園が増えたらいいですね。
参考
厚生労働省
→https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000181942_00001.html
日本経済新聞
→https://www.nikkei.com/article/DGXMZO37560800Z01C18A1CR0000/
ヨミドクター
→https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20161125-OYTET50019/
総務省:「重大事故の発生を防止するための対策の徹底・推進」
→http://www.soumu.go.jp/main_content/000583875.pdf
横浜市こども青少年局保育運営課
:認可保育所・家庭的保育事業・小規模保育事業新規事業者向け説明会~施設・事業を運営する際の留意事項について~
→http://www.city.yokohama.lg.jp/kodomo/shien-new/data/setumeikai/20150128bessatu1.pdf
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