前回、高速道路上での「落とし物」についてご紹介しました。
高速道路上会社によると、落とし物は平成29年度で約34.5万件(1日:約945件)もありました。この中でロードキルは4.7万件(1日:約128件)も処理されていました。
今回は、「ロードキルはなぜ起こるのか?」についてご紹介します。
→高速道路の落とし物についてはこちらの記事で紹介しています。
そもそも「ロードキル」ってなに?
ロードキルというのは、動物が車両にひかれる轢死(れきし)だけではありません。
そもそも、ロードキルというのは道路によって「動物の移動経路」・「生活圏の分断」が原因で・・・
- 轢死 →車両にひかれる。
- 衝突死 →車両にぶつかる。
- 溺死 →道路脇の側溝に落ちる。
- 乾固死(かんこし)→乾燥して死ぬ。
こういったことが原因で野生動物が犠牲になることを「ロードキル」と呼びます。
ロードキルはなぜ起きる?
山を切り開いて高速道路は作られていくため、道路を挟んで分断されることは言うまでもありません。動物からすれば、突然できた「ベルリンの壁」と言ってもいいかもしれません。
実際は、壁になっていませんが・・・
さて、本来なら「行動範囲を変えればいい!」と考えるかもしれませんが、そう単純な話しではないようです。
動物にとっての住み家とは?
そもそも、動物の生活はさまざまな条件が揃っている場所でなければなりません。
- 塒(ねぐら)
- 繁殖巣
- 餌場
- 水場
など、こういった生きていく上でなくてはならないものが、行動圏内に存在することで初めて生息することができます。
ですが、道路が建設されることで例えば餌場や水場が分断されてしまうことになります。
これは、「新しい場所をまた探せばいい!」という簡単な話ではありません。特に、行動範囲の広い大型・中型の哺乳類にとって、道路により分断された地域での絶滅の可能性が高くなるほど深刻なものとなります。
そして、その「新しい場所」として人家や耕作地等に現れることになるため、ロードキルだけでなくさまざまな問題が引き起こされています。
それでは、ロードキルについて見ていきましょう!
なぜ、ロードキルは毎日「100件以上」も繰り返されているの?
「動物は警戒心が強いから近付かない」と考えるかもしれません。
確かに、近づこうとしない動物もいますが、そもそも「道路を横断する」という危険性が理解できないため、道路建設前と同じように通行し、事故に遭っていることが考えられます。
それでは、どういった目的で道路を横断しているのでしょうか?
道路を横断する目的とは?
❶移動ルートは基本的に変えない!
そもそも、基本的に動物は道路が建設されても餌場や産卵場への移動ルートを変えずに移動しようとします。→「両生類」や「は虫類」は産卵時等の習性を変えない傾向が強い。
➋繁殖期や子別れ
繁殖期は、相手を求めるため通常より行動が活発になるため、行動圏も拡大します。
さらに、子別れの季節になると子は親の行動圏を出て遠方への移動を余儀なくされます。
→中型の哺乳類によく見られます。
❸種ごとの行動習性の違い
例えば、タヌキは驚くとうずくまって身を隠そうとする習性があります。
また、ネコの場合は「立ち止まる」か「いきなり突っ走るか」のどちらかの行動をとります。
つまり、緊急事態が起こったときの反応によって事故に遭う可能性がたかくなります。
→当然、車がきているのにうずくまっていては、ひかれてしまいます
❹法面利用のため
「法面(のりめん)」というのは、切土や盛土によって作られた人工的な斜面のことです。この法面に草地が成長すれば、ネズミ類やノウサギなどの動物にとって良好な生息域となります。
そうなれば、当然餌を求めてキツネ・タヌキ・イタチ・フクロウといった動物も、近づいてくることになります。
→その結果、道路内に進入し事故に遭いやすくなる。
❺道路上の死骸(餌)を求めて
動物からすれば、獲物が道路上で横たわっているため狩る必要もなく、あとは食べるだけの状態です。
ただ道路上であるため、二次被害が引き起こされています。
→トビ・カラス類・タヌキなどに多く見られる。
このように、道路が分断されても生きていかなくてはならないため、生きていく行動が「ロードキル」という結果を生み出しています。
それでは、これまでロードキル対策はなにもしてこなかったのでしょうか?
さまざまなロードキル対策!
柵で防ぐことを1番に考えるかもしれませんが、仮に柵の下にも隙間を作らないようにして連続した柵を設置したとします。
ですが、冒頭でお伝えしたように完全に分断してしまっては最悪、生息域の種が絶滅する危険性が高くなります。
つまり、道路への進入を完全になくすために「道路を柵などで囲んで終わり!」という対策は愚策でしかありません。
それでは、どういった対策がおこなわれているのでしょうか?
進入防止柵も使い方次第!
進入防止柵(フェンス)
特にロードキルの発生可能性が高い場所周辺に有効で、事故の危険が高い場所は進入できないようにする必要があります。
動物の進入を防ぐたには、最も効果が高い方法でもあります。
さらに、動物はフェンス沿いに歩く習性があるためフェンスを設置することで、道路が横断できる施設まで誘導することもできます。
→対象の動物に適したフェンスを設置しないと役に立たないため、生息している動物の調査が必要。
*飛び越え・乗り越え・隙間からの進入対策。
そして、進入防止策を活用することもできます。
《進入防止柵と併用》
❶ワンウェイゲート
主にシカの出口として、進入防止策として一定の間隔で設置されます。
ワンウェイゲートは、道路用地内に進入したシカなどの大型動物の出口として設置されています。扉の両側は、外側に向かってフォーク状になっているため、ゲートから敷地内には進入できません。
➋アウトジャンプ
主に、シカが対象です。道路用地内に進入したシカを、道路の外側へ脱出させるために設置されています。
フェンスの道路側の一部をあえて盛土にすることで、容易にジャンプして脱出できる構造となっています。言うなれば、扉以外の脱出方法といえます。
❸ディアガード
スノコのように隙間がある鉄の格子状になっている地面のことを言います。イメージとしては、側溝の蓋のようなものです。
地面に数㎝の隙間を空けた格子(グレーチング)を設置することで、人や車は容易に行き来できますが、シカやイノシシといったいわゆる偶蹄目(ぐうていもく)の通過を防ぐことができます。
《道路横断施設》
❶ボックスカルバート
道路が水路や小道、獣道と立体交差する場合に設置される道路横断施設です。人や車両を主な目的としたタイプと野生動物専用のタイプがあります。
トンネルをイメージすれば分かりやすいと思います。
→ただ、大きければいいわけではありません・・・
- 大型の哺乳類:内部空間の広い開放的な施設を利用する。
- 中型の哺乳類:内部空間が広い施設よりも、閉鎖的な施設を利用する傾向がある。
*大が小を兼ねるわけではありません。
➋パイプカルバード
中型~小型哺乳類が対象です。
本来は、流路(水の通り道)の確保や排水を目的として設置されていますが、野生動物の通り道にもなっています。
❸樹上性哺乳類の横断施設
野生動物の移動は、地面ばかりではありません。
樹上を移動するリスやモモンガといった哺乳類の場合は対応が異なります。
例えば、リスが横断するために施設内に「渡し棒」を設置したり、モモンガのように滑空する動物のために「横断用支柱」が設けられています。
他にも、橋梁・高架下やトンネル上部など、道路を安全に横断できる施設が確保されています。
ただし、ロードキルの対策がまだまだ不十分なことは、高速道路会社の落下物処理件数を見れば分かります。
ロードキルの処理件数
冒頭で、平成29年度のロードキルの処理件数は約4.7万件あったことをお伝えしました。
それでは、その内訳をもう少し細かく見ていきましょう。
《平成29年度の「ロードキルの処理件数」》
- 大型:シカ・クマ・イノシシ、その他大型動物
- 中型:タヌキ・キツネ・ネコ・イヌ
- 小型:鳥類、その他小型動物
*阪神高速は、300件ありましたが分類なし。
どの高速道路を見ても、大型動物のロードキルが少ないことが分かります。そして、東日本高速・西日本高速でロードキルが集中しており、中型・小型にそこまで大きな差はみられませんでした。
このように、ロードキル対策は実施されていますが、現状を考えるとまだまだ対策が不十分なことが分かります。
最後に
ロードキルは、いつ起こるか分かりません。
例えば、子どもを乗せているときに事故を起こせば、取り返しがつかないことになるかもしれません。そのため、動物注意の警戒標識がある場合は、特に注意しながら走行する必要があります。
また、せっかくの防止策もメンテナンスをしなければ意味をなさなくなるため、日々のメンテナンスや、動物の捕獲調査、ロードキルの速やかな処理などが実施されています。
そもそも、森を切り開いて道路を建設している以上、ロードキルが無くなることはないでしょう。あとは、運転手の心がけ次第といえるでしょう。
参考
国土技術政策総合研究所資料
→http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0721pdf/ks0721.pdf
動物の生息地の分断対策
→http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0721pdf/ks072104.pdf
落下物処理件数
→http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/ijikanri/pdf/h29rakkabutu_nexco.pdf
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