これまで、地震関連の記事を紹介してきました。
実は、「阪神・淡路大震災」当日では、わずか1時間以内で2,116人が窒息死で亡くなっています。
今回は、窒息の大きな原因となった「外傷性窒息」についてご紹介します。
そもそも窒息ってなに?
普通、窒息と言えば、例えば水に溺れるなどして口や鼻の気道が塞がれてしまういわゆる「気道閉塞性窒息」を思い浮かべると思います。
先日紹介したお餅による窒息も、この「気道閉塞性窒息」のことです。
→お餅が喉に詰まる気道閉塞性窒息についてはこちらの記事で紹介しています。
ですが、今回紹介している震災時に起こっている窒息は、気道閉塞性窒息とは原因が違います。
ここで知って欲しいのは、呼吸ができなくなるのは、「溺れるなど気道がふさがれる以外の理由でも、窒息になる可能性がある」という点です。
それでは、外傷性窒息とはなぜ引き起こされてしまうのでしょうか?
普段は、めったにない外傷性窒息とは?
例えば、通常の事故であっても外傷性窒息は非常に少ないことがいえます。
外傷患者を年間9,000名・救急搬送を年間2,000名受け入れる施設でさえ、外傷性窒息の重症患者は2~3年に1名程しかいません。
つまり、普段の生活では基本的に発生しないことを大前提としてご紹介していきます。
外傷性窒息とは?
外傷性窒息は、日本救急医学会医学用語解説集によるとこのように定義されています。
- 機械によって挟まれる。
- 階段で将棋倒しになる。
- 土砂に埋まる。
こういったことが原因で、胸部を強く圧迫されることで発症します。
これらの発生原因から、なぜ地震が発生すると外傷性窒息になりやすいのか分かったのではないでしょうか?
実は、私達人間は気道が塞がれる以外にも、肺や胸の動きを止められることでも呼吸ができなくなってしまいます。
《外傷性窒息のメカニズム》
私達が呼吸するためには、気道が確保されている必要があることは皆さんも実体験としていまさら言うまでもないでしょう。
ですが、そもそも呼吸するためには横隔膜や肺を動かす必要があります。つまり、胸や腹の上に重量物があることで、鼻や口の気道が問題なくても呼吸ができなくなります。
とはいえ、ある程度の重量がなければ外傷性窒息になることは基本的にないようです。
外傷性窒息の目安とは?
徳島大学医学部 法医学の専門:西村 明儒(あきよし)教授によると、自分の体重の2倍までの重さなら窒息はほとんど起きないそうです。
ですが、地震により柱・梁・家具といった体重の5倍以上の付加がかかれば、10分程度で窒息死にいたるようです。
→あくまでも海外の動物実験や過去の事故事例などからの推測。
ですが、実際に阪神・淡路大震災後、約1時間で全体の約1/3の方々が窒息により亡くなられています。こういったことから、危険性はいうまでもありません。
また、外傷性窒息自体には予防策や治療法がありません。
つまり、意識障害を引き起こしていれば気道確保が必要になりますし、心臓が止まっていれば心肺蘇生が必要になります。
→対処療法のみ。
しいていうなら、「危険な場所には近づかない」・地震のときに下敷きにならないように「家具を固定する」など、そもそも外傷性窒息にならないように気をつけるしかありません。
他にも、車で事故を起こした場合に例えば胸のあたりをハンドルと車体に挟まれることで外傷性窒息に陥ることもあります。
動物実験ではどうなったの?
先程、西村教授によると5倍以上の重量がかかれば10分程度で死にいたると紹介しましたが、その根拠となった推測の1つが動物実験だったことをお伝えしました。
この動物実験は、胸部圧迫の圧力(付加)とその時間による影響を評価するために実施されました。
《動物による負荷実験結果》
- 体重の2倍の付加では、全ての動物が60分以上生存していた。
- 体重の3倍の付加では、50~60分で全例が死亡。
- 体重の5倍の付加では、10分以内に全例が死亡。
さらに、健全な成人男性を被験者とした実験も実施されています。
《成人男性による負荷実験結果》
- 軽い負荷でも長時間持続されると呼吸不全にいたる。
- 胸腹部に体重と同じ負荷をかけても、1時間で呼吸不全にいたる。(呼吸筋の疲労により)
つまり、仮に胸腹部にある程度の負荷がかかったとしても、横隔膜を活発に動かすことで呼吸は維持できるが、疲労していくためいずれは呼吸不全に陥ることが分かりました。
当然ですが、高齢者や子どもなど体力がない人は、呼吸不全にいたるリスクはより高くなります。
さらに、交通事故など突発的な限定的な事故とは違い、震災時は家具や柱などに挟まれるといった外傷性窒息に陥ってしまわれる被災者が地震の規模により一度に数百人・数千人と発生してしまいます。
また、道路が瓦礫などでふさがれている、情報が錯綜しているなどすぐに救急隊がこれる状況でもないでしょう。
そのため、私達は日頃から防災をしていくしかありません。少なくとも、家具を倒れないにようにすることはできますよね。
2階建て・3階建てなら1階で寝ないようにすることはできるのではないでしょうか。
そしてなにより、「挟まれる」ことは命に関わることを覚えておいて下さいね。
最後に
今回は、もう一つの窒息「外傷性窒息」についてご紹介しました。
繰り返しになりますが、普段の生活ではめったに起こることはありません。それこそ、仕事で大きな機械を操作していたり、車で事故に遭う。また、アイドルのフェスに行ってドミノ倒しに巻き込まれるなど。
そう意味では、追っかけファンの方は気をつけなくてはいけないかもしれませんね・・・
もちろん、アイドルの追っかけに限らず、お正月の参拝や大きなイベントなど人がたくさん集まる場所は要注意です。
圧迫されていた「時間」と「強さ」が生死の分かれ目となります。地震のさいに、下敷きにならないように日頃から意識しながら生活してみてはいかがでしょうか。
参考
exciteニュース:地震発生1時間内で窒息死された遺体の大半の肌にある異変「外傷性窒息」とは何か【阪神・淡路大震災25年目の真実】
→https://www.excite.co.jp/news/article/BestTimes_11136/
外傷性窒息
→https://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/circle/17/B6022.pdf
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