「189」の通告義務! 通告後は、どうなるの?~虐待通報後の流れ~

 

前回、「189」の役割と課題についてご紹介しました。

全国共通ダイヤル「189」は、「虐待通報のためのダイヤル!」という風潮が強いように感じますが、そもそも「子ども達や保護者のSOSをいち早くキャッチするためのダイヤル」です。

つまり、保護者が「子どもにどうしても当たってしまう」など子育てで困った時など・子ども自身が「学校や親などのことでこんなことに困っている」という相談などを聞く役割もあります。

189の役割はかなり広範囲になっています。

とはいえ、番号も「いちはやく」ですので虐待通報が基本になっています。それでは、虐待通報後どうなるのでしょうか?

今回は、「仮に虐待通報を受けて関係機関から訪問があったとしても、拒否してはいけない理由」についてご紹介します。

 

児童虐待の通告は義務!

虐待といえば・・・

  • 身体的虐待
  • 心理的虐待
  • 性的虐待
  • ネグレクト

の4種類があります。それぞれの詳しい内容は後述します。

さて、そもそも児童虐待の通告は全ての国民に課せられた義務で、通告義務と言われます。

 

根拠となる法律

◎児童福祉法第25条(要保護児童発見者の通告義務)◎

要保護児童を発見した者は、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。

 

◎児童虐待の防止等に関する法律第6条(児童虐待に係る通告)◎

1 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。
2 前項の規定による通告は、児童福祉法第25条の規定による通告とみなして、同法の規定を適用する。
3 刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第1項の規定による通告をする義務の尊守を妨げるものと解釈してはならない。


ちなみに、児童虐待を発見しやすい立場にある人や団体(学校・児童福祉施設・病院など)には、より積極的な児童虐待の早期発見及び通告が義務づけられています。

 

◎早期発見の義務(児童虐待の防止等に関する法律:第5条)◎

1 学校、児童福祉施設、病院その他児童の福祉に業務上関係のある団体及び学校の教職員、児童福祉施設の職員、医師、保健師、弁護士その他児童の福祉に職務上関係のある者は、児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、児童虐待の早期発見に努めなければならない。
2 前項に規定する者は、児童虐待の予防その他の児童虐待の防止並びに児童虐待を受けた児童の保護及び自立の支援に関する国及び地方公共団体の施策に協力するように努めなければならない。
3 学校及び児童福祉施設は、児童及び保護者に対して、児童虐待の防止のための教育又は啓発に努めなければならない。

このように、法律において全ての国民に虐待の通告義務があり、関係者にはさらに通告することを念押ししています。

→ただし、「義務」とはありますが罰則はありません。

*前回の記事で、「189」の課題に接続率が低いことが大きな課題だと紹介したのは、ここまで法律で厳しく何重にも定めているにも関わらず、せっかく電話しても肝心の児童相談所へつながる接続率が全体の3割にも満たないためです。

「189」による「入電数と実際の接続数」についてはこちらの記事で紹介してます。

「189」はどこに繋がる? 接続率がまだまだ低い「全国共通ダイヤル」とは!?

それでは、どういった時に私達は「189」にダイヤルして児童相談所へ通報するのでしょうか?

 

そもそも虐待ってなに?

私達は、虐待を察知したら児童相談所へ「189」へダイヤルして通報しなくてはいけません。とはいっても、そもそも「虐待」についてどれくらいの人が理解しているのでしょうか?

 

身体的虐待

  • 殴る
  • 蹴る
  • 叩く
  • 投げ落とす
  • 激しく揺さぶる
  • 火傷を負わせる
  • 溺れさせる

など、子どもへ身体的なダメージを負わせる行為。

 

心理的虐待

  • 言葉による脅し
  • 無視
  • きょうだい間での差別的扱い
  • 子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(DVをこどもに見せる)

など、子どもへ心理的なダメージを負わせる行為。

 

性的虐待

  • 子どもへの性的行為
  • 性的行為を見せる
  • ポルノグラフィの被写体するなど

など子どもへ性的なことが原因でダメージを負わせる行為。

 

ネグレクト(放任)

  • 家に閉じ込める
  • 食事を与えない
  • ひどく不潔にする
  • 自動車の中に放置する
  • 重い病気になっても病院に連れて行かない

など子どもをほったらかしの状態にすることでダメージを負わせる行為。

このように、大きく分けて4種類の虐待に区分されています。ここまでは、多くの方がすでにご存じなのではないでしょうか?

それでは、平成31年3月19日に関係閣僚会議決定された、「児童虐待防止対策の抜本的強化」についてご存じでしょうか?

 

児童虐待防止はどう変わるの?

  • 体罰禁止について法定化

→体罰によらない子育てが進められるように、普及啓発活動をおこなう。

  • 民法にある懲戒権のあり方について、施工後2年を目処に必要な見直しを検討する。

→懲戒権

・第820条(監護及び教育の権利義務)
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

・第822条(懲戒)
親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。

つまり、懲戒権により例えば子どもをしつけるために、「時には手をだしてもいい」という根拠になります。

  • 子どもの保護及び支援に当たって、子どもの意見表明権を保障する仕組みについて、施工後2年を目処に必要な検討を進める。
  • 「189」の周知・啓発・通話料の無料化

他にも、児童福祉司を2,000人増やすなど児童相談所の体制も変わっていくことが示されています。


このように、児童虐待を取り巻く環境は2020年度予算に向けて、大きく変わろうとしています。

→個人的に心配していることは、多くの人がこれまで民法にある「懲戒権」により、子どもにしつけをしてきました。私も、そうやってしつられてきました。

もし、見直しによりこの懲戒権がなくなればこれまで誰もしたことがない子育てを強制的に行うことになります。

このように、虐待防止対策も少しずつ変化(強化)されています。それでは、私達はどんなタイミングで「189」へ連絡するのでしょうか?

 

「189」へ連絡する根拠とは?

厚生労働省のHPにはこのように書かれています。

「あなたの1本のお電話で救われる子どもがいます。児童虐待かもと思ったらすぐに電話ください。」です。つまり、通報者の判断次第ということになります。

例えば、子どもの前で暴力をともなった夫婦ゲンカを気付いた場合も「189」に連絡する必要があります。

もちろん、通報者に罰則はありませんし児童相談所からその後の報告なども一切ないので、通報者は電話して終わりです。

まさに、虐待防止のために「疑わしきは通報」というローラー作戦のようなやり方がとられています。

 

通告するときは、わかる範囲の情報を客観的に伝える

  • 場所(特定できなければ、わかる範囲で、○○マンションの○階当たりなど)
  • 子どもの年齢・性別
  • いつから、どんな状況か
  • 虐待をしていると思われる人(父親・母親・その他など)

できる限り、情報をお伝えする必要があります。

それでは、通報を受けた児童相談所はどんなことをするのでしょうか?

 

児童相談所の対応は?

基本的なルール

児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策(平成30年7月20日児童虐待防止対策に関する関係閣僚会議決定)より

 

①通告受理後、児童相談所は「原則48時間以内に児童相談所や関係機関が、直接子どもの様子を確認する」というルールがあります。

  • 子どもと面会できず、安全確認ができない場合は立ち入り検査を実施。(必要に応じて警察へ援助要請)

 

②児童相談所が転居している家族が転居した場合は、引き継ぎルールを見直し全国ルールとして徹底

  • 全ケースのリスクアセスメントシート等による緊急生の判断の結果(虐待に起因する外傷等がある事案等も含め)ケースに関する資料とともに、書類等で移管先へ伝える。
  • 緊急生が高い場合は原則、対面等で引き継ぐ。
  • 移管元児童相談所は引き継ぎが完了するまで、児童福祉司指導等の援助を解除しない。また、移管先児童相談所は援助が途切れないように、速やかに移管元が行っていた援助を継続。

このように、通報後は原則48時間以内に子どもの安否確認。そして、引っ越し先の児童相談所との連携が全国ルールとして定められることになりました。

 

虐待対応の流れ

①「189」による虐待通報

*児童相談所は「緊急受理会議」や「安全確認会議」など、所内協議を通じてリスクアセスメントを適時、的確におこなう。

 

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②「児童虐待通告・相談受付票」のチェック項目を参考に必要事項を聞き取る。

 

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③緊急受理会議

  • 緊急性の判断を行い、調査方針・調査対象機関等を決定。
  • 子どもの安全確認の具体的な方法を決定する。

 

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④安全確認の実施

  • 原則、虐待通告時から48時間以内の安全確認を行う。
  • 安全確認のタイミングを見定める(「即実施が必要」など)

 

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⑤通告後、48時間以内に安全確認ができなかった場合(児童が特定できないケースを除く)

《緊急安全確認会議》

  • 原則、「立入調査」をすることを決定する。(必要に応じて警察へ要請)
  • 「出頭要求」を実施する場合・・・数日の時間的猶予が認められる場合や、立入調査よりも出頭要求を行った方が有効であると考えられるケース。

*出頭要求により、安全確認ができなければただちに立入調査も検討する。

*「緊急性が低いと判断される場合」や「保護者と連絡が取れる場合」、「特別な事情がある場合」は、次回の安全確認会議まで調査継続することができる。

 

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⑥調査を継続しても、安全確認ができない場合

《安全確認会議》

「立入調査」・「出頭要求」・「次回の安全確認まで調査継続」が決定される。ただし、「調査継続とする場合も、1ヶ月以内には全ての調査を終わらせ、安全確認の方法を決めること」とされています。

  • 安全確認会議は、週1回以上開催する。
  • 安全確認会議には、所長及び児童福祉司担当課長代理が出席すること。

 

安全確認実施後の流れは?

1.「出頭要求」を実施しても安全確認が出来なかった場合は、数日以内に「立入検査」を実施。

 

2.「立入検査」を実施しても、子どもの安全確認が出来なかった場合、ただちに*「臨検捜索」が行われます。この時、警察への援助要請がおこなわれます。

*臨検→行政機関の司法警察員が法規の遵守状況や不審点の確認のために、現場まで出向いて立入検査すること。

→立入調査の実施と並行して裁判所への令状請求などの準備を進める。

 

3.児童相談所長は、「立入調査」を正当な理由なく拒否した場合には児童福祉法違反となるため刑事告発をおこなう。

 

4.「臨検捜索」を実施しても子どもの安全確認ができず居住の実態がなければCA情報(児童虐待における他県児童相談所との連携について)を全国の児童相談所へ提出。

 

5.行方不明届を警察へ提出するなど、居宅不明児童として対応。

このように、特定された「虐待されているかも?」と考えられる子どもがみつからなかった場合は、徹底的に捜索が行われます。

 

最後に

「189」で通報され、児童相談所などから職員がきたご家族は絶対に訪問拒否をしてはいけません。

児童相談所など関係機関による訪問→警察→刑事告発→行方不明届など、居宅不明児童として捜索

といったように、最悪の形で母子分離がおこなわれることもありえます。(そもそも拒否は、法律違反!)

児童相談所の権限は、どんどん強くなっていますが「親権」を越えようとしている(すでに越えている?)のかもしれませんね・・・

「189」は、子どもが泣いただけでも通報されてしまうこともあります。そのため、「専門機関と結びつくきっかけができた!」と考えて接した方がいいでしょう。

また、「本当に虐待を受けている子ども達のために、協力する」という姿勢で対応した方がいいでしょう。


突然、児童相談所職員がきて「虐待の可能性が・・・」なんて来られると親としてはかなりショックを受けると思います。

私も2人のこどもがいるため、子どもが泣くと「通報されたらどうしよう」とどこかで考えてしまいます。誰も「虐待しよう!」と思って子育てをしているわけではないので・・・

また、夫婦ゲンカをみせるだけでも虐待となる可能性があるため十分にご注意下さい。ただ、ここまでくると虐待を受けたことがない子どもは存在しないと思いますが・・・

そもそも、児童相談所に報告する前に地域には「民生委員(児童委員)」さんがいらっしゃいます。そうでなくとも、市役所で対応できることもあるでしょう。

ですが、現状を例えるなら、マンションの苦情を「管理会社」をすっ飛ばして、いきなり警察に訴えて警察に訪問してもらっているような状態です。

これではすぐに、児童相談所がパンクしてしまうのも無理がありません。子ども家庭支援センターなど、児童相談所だけに頼らない(一極集中しない)政策が急務になっているのではないでしょうか?


参考

厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/dv/index.html

通告義務
https://www.city.hachioji.tokyo.jp/kurashi/kosodate/005/so004/p001858_d/fil/tuukokugimu.pdf

安全確認行動指針(H30/9/14)
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/09/14/documents/08_03.pdf

 

 

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