仕事中に怪我・・・ 上司からの「病院行かないで!」は労災隠し!

 

皆さんは、「労働災害」についてどれくらいご存じでしょうか?

本来、労働者は法律でしっかりと守れています。ところが、自分たちは守られていることを知らない労働者が多いのではないでしょうか?

今回は、労働者の権利の1つ「労災認定と労災隠し」についてご紹介します。

 

そもそも「労働災害」ってなに?

労働災害は、一般的に「労災」と呼ばれますが「仕事中の怪我や病気・死亡してしまった場合」のことをいいます。

ただし、この「仕事中」の範囲は広く、業務中だけでなく通勤途中や会社の廊下で怪我をした場合ですら労災と認められる場合があります。

ただ、労働災害として認められるためには「労災認定」を受ける必要があります。

 

労災認定を受けるには?

そもそも、「怪我や病気などが仕事に関係ある」と労災認定を認めるのは、労働基準監督者の調査結果によります。

当然その調査は、引き起こされた労働災害が業務上発生した事柄なのかどうかを確認するために実施されることになります。

調査内容は主に、以下の2つが挙げられています。

  • 業務遂行性:怪我や病気をしたときに仕事をしていたか?
  • 業務起因性:怪我や病気などが業務に起因しているかどうか?

労災保険情報センターが、労災の事例を挙げているのでその一部を紹介します。

 

労災認定事例は様々!

①同じ出来事でも、状況が変われば労災認定が認められない!?

  • 女子従業員が、駅で自社のパンフレットを配布中に突然、何者かに腰を蹴られて負傷。

→普通は「業務上に発生した災害」になりますが、もしも個人的な怨恨(えんこん)であったり、被害者が加害者を挑発した結果発生していた場合は、「業務上」と認められない可能性が高い。

 

②よく起こりそうな労災事例

  • 配送センターで、大型冷蔵庫を積み込む際、二人で積み込もうとしたときに相手が手を滑られ、自分1人で冷蔵庫を支える形になり腰を痛めた。

→突然の出来事で、急激な強い力が腰にかかったことで発生したため業務上の災害として認められる可能性が高い。

 

③労働災害にならない事例

  • 採用内定者を対象に入者前研修を実施中、1人が社内の階段で転倒し怪我をした。

→研修への参加経過や条件にもよりますが、一般的には労働者性や業務遂行性がなく、業務上の災害とは認められない。

*ちなみに、休憩時間中のキャッチボールなどは私的行為になるため会社施設内の関与がなければ業務上の災害とはなりません。

 

④その他

  • 仕事中に、トイレに行きたくなりその途中で階段につまずいて転倒した。
  • 屋外での作業中に、炎天下のため水を買いにコンビニに行く途中で転倒して怪我をした。
  • 社員食堂へ行こうとした従業員が、階段から足を滑らせ骨折した。

こういったことも、労働災害として認められる可能性が高いです。このように、労働災害と認められる場合はたくさんあります。

ただし、労働災害が認められてしまうと企業としては不利益をこうむることになります。

弁護士法人咲くやこの花法律事務所では、企業への不利益として大きく分けて以下の7つにまとめられています。

 

労災認定された会社はどうなるの?

  1. 従業員から損害賠償請求を受ける可能性がある
  2. 労災にあった従業員の解雇が制限される
  3. 労災保険料が上がるケースがある
  4. 行政の入札で指名停止処分を受けることがある
  5. 業種によっては行政処分を受けることがある
  6. 刑事罰を受けることがある
  7. 報道などにより社会からの批判を受けることがある

とあります。

 

個人(従業員)に対する保障→1・2

例えば、会社に落ち度があれば慰謝料を請求される可能性がありますし、労災で仕事を休んだ場合は労災からの給付は6割どまりのため、会社は残りの4割を請求されれば支払わなければなりません。

ちなみに・・・

  • 後遺症が重度であるほど
  • 従業員が高収入であるほど
  • 年齢が若いほど

将来その人が稼いでいたであろうお金が大きく減少することは、誰の目に見ても明らかですよね。

そのため、「逸失利益(いっしつりえき)」として、後遺症により将来の収入の減収を賠償することになるかもしれません。

*会社としては、労災認定が認められたとしても自分たちに落ち度がないことを証明すれば、賠償責任もなくなる。

また、労働基準法第19条で労災にあった従業員の解雇についてこのように定められています。

使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。

つまり、従業員が治療のために休む期間が長くなっても、基本的には解雇できないことになります。(会社は、従業員が治療で休んでいる期間給与の4割を負担する。残りの6割は労災から支給される)

ただし、これらはあくまでも個人に対する保障の話しです。

*「3.労使保険料が上がる」については、20人未満の事業場はそもそも関係ない(「メリット制」が適用されない)など、事業所によって異なります。(メリット制とは、労災保険料を増減させる制度のこと)

→労災保険料に「メリット制」が適用されている企業の場合、無事故の優良企業は最大40%割引を受けられるが、事故を起こせば最大40%の割り増し分の労災保険料を支払うことになる。

 

企業にとっての一番の痛手は?

個人への保障以上に、特に会社にとって大きな損失となるのが4~7ではないでしょうか。

例えば、公共事業など国や自治体からの入札がありますよね。ところが、重大な労災事故を起こせば、そもそも指名が停止される可能性があります。

また・・・

もしも、死亡事故なら会社や事業主、工場長、現場責任者などに刑事罰が科せられ、多くの場合は罰金で前科が付くことになります。

もしも、国や都道府県の許可を受けて行なうような建設などの許認可業種なら、指示処分などの行政処分を受ける可能性があります。

当然、死亡事故や爆発などの重大事故が発生すれば社会からの非難は免れず、会社の存続にも関わってきます。

→当然、調査つまり「監査」が入る可能性があるため、他にも問題が指摘される可能性まであります。


となれば、会社としては「そもそもそんな労働災害はなかったことにしたい!」と思いますよね。また、労働基準監督署に基本的に本人が報告しなければバレることもありません。

これで、「労災隠し」のできあがりです。

→本人が病院に受診し「仕事で怪我をした」というと、医師から労働基準監督署に連絡が入り労災隠しが発覚することもあるようですが・・・

特に、工場勤務などでは切り傷などの怪我は日常茶飯時になりますが、正確に報告している現場はどれだけあるでしょうか?

このように、転倒による怪我ですら労働災害となる可能性があります。それでは、最後に厚生労働省が注意喚起している「労災隠し」についてご紹介します。

 

労働隠しとは?

労働者が労働災害により負傷した場合などには、休業補償給付などの労災保険給付の請求を労働基準監督署長あて行ってください。なお、休業4日未満の労働災害については、労災保険によってではなく、使用者が労働者に対し、休業補償を行わなければならないことになっています。

つまり、労働災害に健康保険は使えません!

知っていましたか?

もしも、業務上の怪我にも関わらず健康保険で治療した場合、一時的に治療費の全額を自己負担することになります。(仕事上の怪我で、健康保険証を提示してはいけません!

なぜなら、健康保険はそもそも「労働災害とは関係のない傷病に対して支給されるもの」だからです。そのために、労働保険制度があり以下の3つの給付が厚生労働省のHPで紹介されています。

  1. 療養(補償)給付・・・業務災害の場合は「療養補償給付」、通勤災害の場合は「療養給付」。
    →「休業(補償)給付」ほかも同様。
  2. 休業(補償)給付・・・休業4日目から、1日につき給付基礎日額(※2)の80%相当額(うち20%は特別支給金)が支給される。
  3. その他の保健給付・・・障害(補償)給付、遺族(補償)給付、傷病(補償)年金、介護(補償)給付、葬祭料などの保険給付がある。

つまり、仕事中の怪我に対して「病院に行くな!」「健康保険で治療して」なんて、上司などが言ってくればその時点で「労災隠し」となり違法行為となります。

安全衛生法120条第5号:「労働者死傷病報告」をしなかったり虚偽の報告をしたりした場合には、50万円以下の罰金。

 

最後に

治療も必要ない怪我で、わざわざ「労働基準監督署に報告しよう!」なんて考える人は少ないでしょう。

私自身、これまで業務上の怪我は数えきれません。

ですが、労災だとは考えたこともありませんでした。これは、労働者の権利に対する知識が乏しかったことと、他の人達が自分たちで治療していたためです。

会社の空気がありますよね・・・

そもそも、怪我をした原因が自分にあるのならなおさらです。例えば、介護現場で10年働いていましたが、実は腰痛になった場合も労災が認められることもあります。

ですが、実際は腰痛が起こればみんなコルセットを巻いたり・整体に通ったりして、ごまかしごまかし働いていました。

令和になりましたが、そろそろ自己申告制をなくしていかないと、これからも同じことが繰り返されていくでしょう。

あなたの会社で「労災隠し」はありませんか?


参考

弁護士相談広場
https://www.bengohiroba.jp/labor-problems/article19312.html

マイベストプロ:労災認定されることで会社の保険負担があがる?
https://mbp-japan.com/osaka/draftsr/column/2732288/

 

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