精神疾患は労働災害として認められにくい!? 令和元年の現状とは?

 

前回、「労働災害(労災)」についてご紹介しました。

労働災害とは、仕事中の怪我や病気・死亡といったいたことが発生した場合のことをいいます。

実は、この労働災害の認定には精神疾患も含まれています。

今回は、「ハードルが高い精神疾患の労災認定」についてご紹介します。

 

「労働災害」については、こちらの記事で紹介しています。

仕事中に怪我・・・ 上司からの「病院行かないで!」は労災隠し!

 

そもそも「精神障害による労災請求」は増加している!

厚生労働省が令和2年6月に発表した『令和元年度「過労死等の労災補償状況」を公表します』によると、このような結果になっています。

 

精神障害に関する事案の労災補償状況

  • 平成27年

→請求件数:1515件(請求の内、決定された件数:1306件)
→支給件数472件
→支給件数472件÷決定件数1306件=支給率36.1%

 

  • 平成28年

→請求件数:1586件(請求の内、決定された件数:1355件)
→支給件数498件
→支給件数498件÷決定件数1335件=支給率36.8%

 

  • 平成29年

→請求件数:1732件(請求の内、決定された件数:1545件)
→支給件数506件
→支給件数506件÷決定件数1732件=支給率32.8%

 

  • 平成30年

→請求件数:1820件(請求の内、決定された件数:1461件)
→支給件数465件
→支給件数465件÷決定件数1461件=支給率31.8%

 

  • 令和元年

→請求件数:2060件(請求の内、決定された件数:1586件)
→支給件数509件
→支給件数509件÷決定件数2060件=支給率32.1%

 

精神障害に対する労災申請は増加の一途をたどっている!

精神障害に関する労災申請は、平成27年~令和元年の5年間の請求件数を見てみると、毎年100件前後増加していることが分かります。

さらに、平成30年と令和元年を比較すると240件も増加しており、過去5年間と比較しても2倍以上も一気に増加しています。

このように、請求件数は毎年増加しているにも関わらず、精神障害に対する支給件数は500件前後となっています。つまり、支給率をみると毎年約3割しかありません。

それでは、なぜ支給率がここまで低いのでしょうか?

 

精神障害に関する労災申請の支給率が低いのはなぜ?

厚生労働省:精神障害の労災認定より、精神障害の労災認定には、以下の3つがあります。

  1. 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
  2. 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。
  3. 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと。

ちなみに、「心理的負荷」の強度については、主観的な受け止め方ではなく同種の労働者が一般的にどう受け止めるかという観点から評価されることになります。

 

1.認定基準の対象となる精神障害とは?

国際疾病分類第10回修正版(ICD-10)が使用されています。

  1. 症状性を含む器質性精神障害
  2. 精神作用物質使用による精神および行動の障害
  3. 統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害
  4. 気分〔感情〕障害
  5. 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害
  6. 生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群
  7. 成人のパーソナリティおよび行動の障害
  8. 精神遅滞(知的障害)
  9. 心理的発達の障害
  10. 小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害、特定不能の精神障害

この、10項目のどれかに当てはまる必要があります。

例えば、認知症・アルコール・薬物による障害は認定基準の対象から除外されますが、うつ病は認定基準の対象になります。

 

2.「業務による強い心理的負荷」ってなに?

「特別な出来事」「特別な出来事がなかった」場合で分けられています。

心理的な負荷の強度は、「強」「中」「弱」で評価されます。

 

~特別な出来事とは?~

  • 生死にかかわる、極度の苦痛を伴う、又は永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気やケガをした(業務上の傷病により6か月を超えて療養中に症状が急変し極度の苦痛を伴った場合を含む)
  • 業務に関連し、他人を死亡させ、又は生死にかかわる重大なケガを負わせた(故意によるものを除く)
  • 強姦や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクシュアルハラスメントを受けた
  • その他、上記に準ずる程度の心理的負荷が極度と認められるもの

つまり、業務上で発生した生死に関わるようなことや、業務中に卑劣な犯罪にあった場合などが示されています。

さらに、長時間労働も精神障害の原因になるため長時間労働も程度によって「特別な出来事」に当てはめられています。

  • 発病直前の1か月におおむね160時間を超えるような、又はこれに満たない期間にこれと同程度の(例えば3週間におおむね120時間以上の)時間外労働を行った(休憩時間は少ないが手待時間が多い場合等、労働密度が特に低い場合を除く)

 

~特別な出来事がない場合~

普通は、「特別な出来事」のような突然、死ぬかもしれないような経験なんて基本的にないですよね。

また、例えば上司などに襲われるなんてこともないでしょう・・・

一般的には、日々の積み重ね(労働時間や人間関係など)により、少しずつ精神を磨り減らしていくことが多いのではないでしょうか?

さて、特別な出来事がない場合は「強」「中」「下」がこのように決められることになります。

  1. 「具体的出来事」への当てはめ
  2. 出来事ごとの心理的負荷の総合評価
  3. 出来事が複数ある場合の全体評価

具体的には、このようなことが評価されていくことになります。

(総合評価における共通事項)
1 出来事後の状況の評価に共通の視点
出来事後の状況として、表に示す「心理的負荷の総合評価の視点」のほか、以下に該当する状況のうち、著しいものは総合評価を強める要素として考慮する。

①仕事の裁量性の欠如(他律性、強制性の存在)。具体的には、仕事が孤独で単調となった、自分で仕事の順番・やり方を決めることができなくなった自分の技能や知識を仕事で使うことが要求されなくなった等。
職場環境の悪化。具体的には、騒音、照明、温度(暑熱・寒冷)、湿度(多湿)、換気、臭気の悪化等。
③職場の支援・協力等(問題への対処等を含む)の欠如。具体的には、仕事のやり方の見直し改善、応援体制の確立、責任の分散等、支援・協力がなされていない等。
④上記以外の状況であって、出来事に伴って発生したと認められるもの(他の出来事と評価できるものを除く。)

このように、職場の「騒音や照明といった物理的な環境」だけでなく、「自分が孤立してしまったこと」や、そもそも「仕事における自分の存在価値の喪失」などが影響して、精神障害が引き起こされていることを証明する必要があります。

「3.業務以外の心理的負荷や個体側要因」については、例えば離婚や死別など業務とは関係ない出来事で精神障害を発症した場合ですので、労災認定されないことは理解できるのではないでしょうか。

さて、なぜ精神障害の労災認定が低いか理解できたでしょうか?

 

精神障害による労災認定はハードルが高い!

労働問題に関する相談サイト労働問題弁護士ナビを確認すると、その難しさが指摘されています。

 

精神障害になった原因は?

そもそも、精神障害の原因は1つではありません。つまり、そもそも「仕事が原因だ!」と証明する必要があります。

他にも、退職勧奨(会社が退職してもらいたい従業員に対して自主退職を促す行為)により、精神障害が発症したとしても、労働災害として認められる可能性は低いです。

*退職勧奨が、「脅迫まがい」や「過剰に実施」されるといったことがなければ、あくまでも業務の一環。

→正常な業務の一環として実施されていれば、例えば退職勧奨された従業員が精神障害が引き起こしたとしても労働認定の可能性は低い。

このように、そもそも職場が原因で精神障害になったとしても、必ずしも労働災害に当てはまるわけではありません。

 

「傷病手当金」の方がハードルが低い

業務上の仕事が原因で「うつ病」になったとするならば、労働災害補償になります。

ただ、そのためにはこれまで説明してきたように精神障害による災害認定を受ける必要がありますが、基本的には業務と疾病との因果関係がはっきりした客観的証拠がないと難しいでしょう。

そもそも、証拠がない人が、さらに精神疾患を患っていて、さらに孤立している状態なら、普通に考えれば証明は不可能に近いのではないでしょうか。

 

~客観的な証拠例~

  • タイムカード、勤怠表、PCのログイン・ログオフ履歴など労働時間に関する記録
  • パワハラ・セクハラ発言の録音など具体的出来事を証明する客観的記録
  • 上司・同僚による供述書 など

こういったものが、証拠として挙げられています。

ですが、そもそも「業務上の理由」としなければ、健康保険に基づく補償制度を受けることができます。

 

業務上の理由ではない補償?

そもそも、仕事による怪我や病気、死亡といった場合は全て「労働災害」になるため、仮に昼休憩に職場の食堂に行く途中で転倒し怪我をしたとしても「労働災害」となります。

さらに言えば、労働災害で病院にいった場合、健康保険証を提示して健康保険を使ってはいけません。

仕事による怪我や病気などは労働保険が使われることになる。

ところが、精神障害は目に見えないため「いつ・どこで」発症したか一目では分かりません。そこで、労働保険ではなく、健康保険に基づく(仕事とは関係ないことにして)傷病手当金の支給を請求することができます。

 

傷病手当金

健康保険の傷病手当金は、業務外の傷病により就労困難な場合に支給される保証金です。給与の2/3程度を最長で1年6ヶ月間受給することができます。

労災補償の場合は、公的機関により「業務災害」と認定される必要がありますが、傷病手当金はこういった必要がありません。

発症当初は健康保険の傷病手当金の支給を受けつつ労災申請。その後、労働災害と認定された場合に労災補償に切り替え、傷病手当金を返金することも可能。

このように、精神障害を労働災害として認められるには、「ハードルが高い」といえるのではないでしょうか?

そもそも、傷病手当金の方が受け取りやすいのなら、こちらを選択してしまうのではないでしょうか?

 

最後に

私も、働いているときに「うつにより休んでいる従業員さんがいる」と、同僚から言われたことがありました。結局、一度も会うことなく辞められたようでした。

かといって、もしもハードルがあまりに低いと悪用する従業員さんがでてくる可能性もありますよね。

精神疾患は、目に見える傷とは違い、目に見えませんが働くことが難しくなります。

ですが、そもそも精神疾患を患っている人が複雑な手続きができるとは到底考えにくいです。そもそも、労働基準監督署に相談し認められれば、自分が働いていた会社に調査が入ることになります。

普通に、大事ですよね・・・

こういったこともハードルが高くなっている理由だと考えられますが、請求件数は年々増加しています。

ただ、そもそも「労働災害を認める努力」ではなく、「労働災害を引き起こしにくい職場」にする方が重要だと言えるでしょう。

あなたの会社で、長期間休んでいる従業員さんはいらっしゃいませんか?

そして、あなたは大丈夫ですか?

もしもの時は、弁護士への相談が必要になるかもしれません。

 

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