前回の記事で、窒息は気道を塞がれる以外にも「胸部を圧迫されることでも引き起こされる」ことを紹介しました。
こういった窒息を「外傷性窒息」と呼びますが、大変な危険な状態であることは言うまでもありません。そして、胸部に限ったことではないですが、圧迫から逃れられたとしても「それで助かった!」とは限りません。
今回は、「救助されてから発生する挫滅症候群(クラッシュシンドローム)」についてご紹介します。
→「外傷性窒息」については、こちらの記事で紹介しています。
助かったのに助かってない!?
普段の生活で、「体の一部がなにかに挟まれる」なんて経験をしたことがある人は、ほとんどいないのではないでしょうか?
私の場合は、以前車のタイヤ交換を家族に手伝ってもらいながら、ノーマルタイヤからスタッドレスタイヤに交換していたことがありました。
ですが、タイヤ交換中にギャッチが外れてしまい、「右腕が挟まれる」という事故が発生。
幸い、家族に助けてもらい10分ほどで右腕を抜き出すことができ、骨折もなくことなきをえました。自分の実体験では、体の一部を挟まれた体験はこの一度きりです。
つまり、普段から危険な仕事でもしていない限り、一般的には何かしらの事故や地震など、突発的なことがなければ基本的に起こることはありません。
それでは、クラッシュシンドロームはなぜ引き起こされるのでしょうか?
*「圧挫症候群」と呼ばれることもある。
そもそも「クラッシュシンドローム」ってなに?
阪神淡路大震災で、370名以上の報告がなされたことがきっかけで、知れ渡るようになりました。他にも、車中泊などにより、同じ姿勢でいることで引き起こされる「エコノミークラス症候群」が問題になっていますよね。
さて、クラッシュシンドロームは長時間重量物に挟まれていたあとに救助された傷病者が、数時間後に腎不全や急性循環障害(ショック)が引き起こされ、死んでしまう病態のことです。
つまり、戦争や地震、事故など特殊な状況で発生する場合がほとんどです。
- 地震災害:3~20%
- 高層の建物では生存救助者の40%
このように、震災時は高確率で発生してしまうことが報告されています。
それでは、なぜクラッシュシンドロームが起こるのでしょうか?
→エコノミークラス症候群については、こちらの記事で紹介していています。
危険な血液循環
そもそも、クラッシュシンドロームの「クラッシュ=押しつぶす」という意味になります。そのため、筋肉を押しつぶすことで筋肉組織が潰される挫滅障害を想像してしまうかもしれません。
確かに、圧迫され続けることで横紋筋融解(おうもんきんゆうかい:筋肉の細胞は、細胞膜が破壊され内容物が流出する状態)が引き起こされます。
ですが、大きな原因は血液循環にあります。
《流出していく内容物》
- クレアチキンナーゼ
- ミオクロビン
- カリウム
など、こういった物質が筋細胞の外へ流れ出します。ですが、圧迫されているため当然流れていくことはないため、そのまま滞留することになります。
何が危険なの?
重量物が取り除かれることで、停滞していた物質は血流に乗って、一気に全身をめぐるようになります。もちろん、血液循環がなければその部分は壊死してしまうため、血液循環はなくてはならないものです。
ただ、圧迫により細胞膜から流出して滞留していた内容物も、一緒に血液にのって全身をめぐってしまうことが問題となります。
内容物が循環することで引き起こされる影響
~カリウムの場合~
その内容物の中には、先程紹介したように、例えば「カリウム」が含まれています。血液中のカリウム濃度が高くなると、高カリウム血症が進行してしまい、致死的な不整脈を引き起こしやすくなり心停止に至ることがあります。
~ミオグロビンの場合~
血液中に流出したミオグロビンが尿細管を塞いでしまい、急性腎不全をきたす原因となります。
急性腎不全を発症することで、高カリウム血症が助長されることもあります。つまり、悪い意味での相互作用が引き起こされる場合もあります。
このように、圧迫により組織が障害され、血流の再開により血液中の水分が血管の外へと急速に漏れ出してしまい、血圧低下によるショックが引き起こされることがあります。
つまり、「助かったはずが助かっていない!?」そんな状態に追い込まれる、とても怖い病態が「クラッシュシンドローム」です。
それでは、どういった症状が見られるのでしょうか?
どんな特徴があるの?
- ボリュームのある筋肉の圧迫障害→上肢よりは、下肢に発生しやすい。
- 通常4~6時間という長時間の圧迫→1時間以内の発症例もある。
- 圧迫局所での循環障害。
例外はあるものの、どの部位がどのくらいの時間圧迫されているかによってクラッシュシンドロームの危険性は変わってきます。
また、このような症状が見られます。
体に起こる変化とは?
クラッシュシンドロームを発症した場合、さまざまな症状が見られます。
❶ショック・血圧低下
→血管内皮が障害されることで、血管外へと水分が漏れ出します。そのため、循環する血漿(けっしょう:液中の液体成分)量が低下します。
*意識や血圧などのバイタルサインが正常なこともあるため、注意が必要です。
➋損傷した手足(四肢)の著しい腫脹。
❸圧迫された手足(四肢)の運動・感覚神経障害
→両足に麻痺が起こっている場合は、脊髄損傷との鑑別が必要になります。
❹褐色尿(ポートワイン尿)
→圧迫され障害された筋細胞から漏れ出したミオクロビンが尿中に排出され、尿の色が褐色や黒色になります。
このように、長期間挟まれたあとに救助された時に、こういった症状があれば要注意です。病院などでは、クラッシュシンドロームの危険があるため、しばらく様子をみてもらえるかもしれません。
ただ、私の場合は、念のため受診しましたが、私のような事故にあい、受診せずに放置することがあるかもしれません。
挟まれた時間が1時間以内であったとしても引き起こされることもあるため、圧迫から解放された時点ですぐに受診して下さいね。
クラッシュシンドロームのリスクを抑える方法はあるの?
1.可能なら、例えば瓦礫に挟まれているうちから応急処置を始める。
→救出・圧迫解除後、すぐに心停止など危険な状態にいたる場合もあるため。
2.飲める範囲で1L以上の大量の水を飲ませる。
→臓器に悪影響を及ぼす「カリウム」や「ミオグロビン」の血中濃度を下げる。
3.挫滅部位より、心臓側へ止血帯法をおこなう。(駆血処置:くけつしょち)
→有害物質の心臓・腎臓到達を防げる反面、後遺症や切断の可能性があるため究極の選択になる。
4.血液透析可能な災害拠点病院か透析医へ一刻も早く搬送する。
*ちなみに、クラッシュ症候群を起こしている場合、心肺蘇生やAEDにより除細動をおこなっても根本的な処置にはなりません。
なぜなら、心不全や腎不全を引き起こす原因物質を人工透析により取り除かない限り、生命の危険が残ったままになるためです。
最後に
クラッシュ症候群は、救助前の処置と救助後の処置をいかに速やかに実践できるかが鍵になります。
ただ、先程紹介した止血帯法は、日本版救急蘇生ガイドラインの2005年版改定以降、止血目的での止血帯法そのものを教えなくなったようです。
というのも、止血帯を緊縛する行為は「筋肉損傷・細胞の壊死」、「神経麻痺や損傷・知覚異常」などこういったリスクがあるためです。
そのため、止血のための止血帯法は究極の選択となります。
あってはいけませんが、南海トラフ大地震など日本は地震大国であるためいつ起こるか分かりません。いざという時のために、自分を家族を守るために必要な知識としてもっておいて損はないでしょう。
せっかく助かったのに、助からなかったでは泣くになけません。そして、救助後はすぐに病院へ。
参考
Medical NOte:挫滅症候群
→https://medicalnote.jp/diseases/%E6%8C%AB%E6%BB%85%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4
日本内科学会:災害時の圧挫症候群と環境性体温異常
→https://www.naika.or.jp/saigai/kumamoto/atsuza/
市民防災ラボ
→http://bosailabo.jp/point/emergency/rescue/bls_p04.htm
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