国立感染症研究所が、「新型コロナウイルスの分離に成功した」とのことで発表がありました。
ちなみに、すでに中国やオーストラリアでの研究チームは分離に成功しています。
今回は、そんな「ウイルス分離と変異」についてご紹介します。
そもそも「ウイルス分離」ってなに?
ウイルス分離というのは、分離したいウイルスを分離材料(尿・髄液・咽頭・結膜ぬぐい液・水疱・糞便など)から特定のウイルスを捕まえて、それだけを増殖させていくことです。
ただ、ウイルスは生きた細胞中のみでしか増殖することができないため、ウイルスを媒介するための細胞が必要になります。
しかも、ウイルスにはさまざまな種類がありますが、それぞれのウイルスにはそれぞれが好む決まった細胞の中でしか増えることができません。
→一つの検体から、複数のウイルスを想定し分離するためには、それに見合うだけの種類の培養細胞を準備し、それぞれに検体を摂取しなくてはいけない。
例えば、2019年4月30日に「変異が入ることなく季節性インフルエンザウイルスを効率よく分離培養ができる培養細胞株の成功し、細胞培養ワクチンへの応用」が発表されました。
インフルエンザウイルスの分離には、「MDCK細胞」が用いられていますが、この細胞を使って季節性インフルエンザウイルスを分離培養すると、変異がはいりその性状が変化してしまいました。
つまり、調べたい季節性インフルエンザウイルスではなく、別のインフルエンザウイルスになってしまうということです。
そして、「hck細胞」と呼ばれる細胞で分離培養することで、季節性インフルエンザウイルスを分析し、「ウイルスの性状変化にも高い精度で対応することができるようになった!」という発表でした。
つまり、新型コロナウイルスについていえば、変異が入ることなく新型コロナウイルスを効率よく分離培養できる「培養細胞株の開発に成功した」ということになります。
*最初に発表された新型コロナウイルス遺伝子配列99.9%の相同性。
ウイルス分離に成功したらワクチンはすぐに開発されるの?
国立感染症研究所は、新型コロナウイルス対策に役立てるため、ウイルスと細胞は国内外に広く配布する予定のようです。
ただ、他国ではすでに分離が成功していますが、まだ「ワクチンの開発成功」なんてニュースはありませんよね。そのため、分離ができたからといって、すぐにワクチンができるものではないと考えられます。
また、先程から「変異が生じて・・・」とお伝えしていますが、ウイルスもどんどん進化していきます。変異の身近なウイルスといえば、「インフルエンザ」がその代表といえます。
インフルエンザと変異
インフルエンザに一度感染すると、感染したインフルエンザウイルスに対する免疫を獲得することで、抵抗力を付けることができます。(予防接種もこの仕組みを利用)
ところが、毎年インフルエンザ流行していますよね。これは、インフルエンザウイルスが毎年のように少しずつ抗原性が変化(変異)していくため、せっかく獲得した抗体では防ぐことができないためです。
他にも、変異しやすいウイルスに「HIV」があります。
HIVと変異
例えば、エイズ(HIV)にワクチンがあることをご存じでしょうか?
そもそも、ワクチンというのは自分自身が持っている免疫力を強化して感染を防止。または、感染しても症状を和らげる効果があります。
これは、毎年あるインフルエンザの予防接種をしている人なら、体験として誰もがご存じだと思います。
さて、エイズは進化がとても早いウイルスなんですが、人に感染して複製を重ねるごとに遺伝子の配列が変化していきます。特に、免疫の要である抗体が反応する表面抗原(目印)の構造を変えてしまいます。
つまり、あるエイズ分離株を基にワクチン開発に成功したとしても他の分離株には効果がありません。
さらに、エイズウイルスは変化しやすく強毒化するおそれもあるため、「風疹」のように弱毒性ワクチン(生ワクチン:弱らせた生きたウイルス)を使うこともできません。
→新型コロナウイルスの研究は進んでいくと思いますが、このようにウイルスの性質によっては「インフルエンザウイルス」や「エイズウイルス」のように、一つのワクチン開発に成功したとしても、変異しやすいウイルスであれば、ワクチン開発が困難なものになる可能性があります。
最後に
新型コロナウイルスの致死率は、世界保健機関の発表によると3%とされています。
ただ、無症状の感染者からも感染することが指摘されはじめていることから、感染力はまだまだ未知数です。さらに、変異により致死率が上がってしまったら・・・
こういったことが、心配されています。
そもそも変異が起こるのか?
すでに起こっているのか?
はっきりしたことはまだ分かりませんが、厚生労働省が発表している各国の感染者数はこのようになっています。
《厚生労働省発表 1月31 12:00時点の国外の発生状況》
- 中国:感染者9,692名、死亡者212名
- タイ:感染者14名、死亡者0名
- 韓国:感染者7名、死亡者0名
- 台湾:感染者9名、死亡者0名
- 米国:感染者6名、死亡者0名
- ベトナム:感染者5名、死亡者0名
- シンガポール:感染者13名、死亡者0名
- フランス:感染者6名、死亡者0名
- オーストラリア:感染者9名、死亡者0名
- マレーシア:感染者8名、死亡者0名
- ネパール:感染者1名、死亡者0名
- カナダ:感染者3名、死亡者0名
- カンボジア:感染者1名、死亡者0名
- スリランカ:感染者1名、死亡者0名
- ドイツ:感染者4名、死亡者0名
- アラブ首長国連邦:感染者4名、死亡者0名
- フィンランド:感染者1名、死亡者0名
- イタリア:感染者2名、死亡者0名
- インド:感染者1名、死亡者0名
- フィリピン:感染者1名、死亡者0名
世界中に拡大していることが見てとれますが、相変わらず中国だけが感染者・死者数ともに、異常な数字になっています。
他国を比較すると、タイやシンガポールで感染者が10人を越えましたが、やはり死亡者が0人です。さらに、人口2位(約13億人)のインドでも、とうとう感染者が1名でています。
もしも、インドで中国のように感染が拡大したらと考えると、怖いですが今はそのようなことはないようです。
各国の感染者数が大幅に増えれば「変異」の可能性が高くなりますが、厚生労働症の発表では2月1日時点ではそういったことは発表されていません。
今後は、新型コロナウイルスが変異するかどうかが大きな鍵になりそうです。
参考
NIID 国立感染症研究所
→https://www.niid.go.jp/niid/ja/basic-science/virology/9369-2020-virology-s1.html
厚生労働省:中華人民共和国湖北省武漢市における新型コロナウイルス関連肺炎について(令和2年1月31日版)
→https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09267.html
ウイルス・菌対策研究所
→https://virus-eisai.com/virus/influenza/mutation.html
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構
→https://www.amed.go.jp/news/release_20190430-01.html
ウイルスセンターホームページ
→https://nsmc.hosp.go.jp/Subject/26/microplate.html
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