新型コロナウイルスの緊急事態宣言が解除され、とりあえず一段落した雰囲気を感じるようになってきました。
ただ、今度は農作物への影響が懸念されています。
今回は、「農林水産省が実施している発生予察事業」についてご紹介します。
「発生予察事業」ってなに?
農林水産省より
発生予察については、広域に発生し、急激にまん延して農作物に重大な被害を与える病害虫について、その発生動向等を調査し、防除を要する病害虫や防除対策に関する情報を農業者等に提供することにより、病害虫の防除を効果的かつ効率的に行い、その被害を防止して農業生産の安定と助長を図ることを目的と しており、その実現を図るための事業として実施しています。
つまり、農作物を守るために大量発生している病気や害虫の被害状況などを農業者等に知らせることで、病害虫(農作物に害を与える昆虫等の総称)に対する防除が実施されています。
ですが、これは消費者としては人ごとではありません。
農作物に被害があれば、当然収穫量が減ってしまうため値段に反映されることになります。新型コロナウイルスで家計にも大打撃を受けている状態で、物価が上がってしまってはさらに生活が苦しくなります。
→国と都道府県が協力して、病害虫の「防除」と「蔓延」を防止するために実施されています。
そもそも、病害虫は県境を越えて被害は拡大していくため都道府県の協力は必要不可欠です。それでは、都道府県の協力のもと具体的にどういった調査が実施されるのでしょうか?
どんな調査をするの?
- 発生状況
- 気象
- 農作物の生育状況
などの調査が実施されています。
病害虫の発生量等調査により現在・過去とデータが蓄積されていく
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調査データの解析
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解析に基づく予測
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予察情報の提供
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予察情報に基づく防疫の実施
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病害虫による被害の軽減
農業者等への情報
- 今後、発生が多くなると予測される病害虫
- 病害虫を効率的に防除できる時期
発生予察の効果等
- 病害虫の発生動向を捉えた効率的な防除
- 農薬の過剰散布を避け、費用・労力を低減
- 過去の病害虫に関するデータは、①病害虫の生態解明の研究に寄与 ②現在の防除対策の策定に寄与
→つまり、毎年生産者にとって有益な情報が集約されていくことになります。
ワンポイントアドバイス! ~「病害虫防除所」が要!~
これまで紹介してきた発生予防事業に必要なデータは、各県に設置されている「病害虫防除所」が県内各地に設置した、「予察灯(光で害虫を集め、害虫の発生量を調べる機会)」や「ほ場(ほじょう:果樹園・農場など場所を限定されない農作物を育てる場所)」等を調査し収集していきます。
このように、病害虫防除所は県内の病害虫発生を監視する「要」
となっています。
ただ、防除所職員数は漸減(ぜんげん:だんだんと減っている)ため、各職員が行う業務の重要性は、ますます増加していることが現状です。
それでは、消費者にとっても見逃せない「発生予察情報」には、どういった種類があるのでしょうか?
発生予察情報の種類
種類 | 発表の頻度 | 病害虫の発生予測及び防除情報を定期的に発表 |
予報 | 概ね1回発表 | 重要な病害虫が大発生することが予測され、かつ、早急に防除措置を講じる必要が認められる場合に発表 |
警報 | 都道府県の判断により適宜発表 | 重要な病害虫が大発生することが予測され、かつ、早急に防除措置を講じる必要が認められる場合に発表 |
注意報 | 〃 | 警報を発表するほどではないが、重要な病害虫が多発することが予測され、かつ、早目に防除措置を講じる必要が認められる場合に発表 |
特殊報 | 〃 | 新たな病害虫を発見した場合及び重要な病害虫の発生消長に特異な現象が認められた場合であって、従来と異なる防除対策が必要となるなど、生産現場への影響が懸念される場合に発表 |
その他 | 〃 | 月報、技術情報など、上記に含まれない情報を発表 |
つまり、概ね毎月1回は病害虫に関する情報(予報)が発表されており、必要に応じて「警報」「注意報」「特殊法」「その他」が発表されることになっています。
さて、ここからが本題となるのですが実はすでに「注意報」が発表されています。
どんな注意報が発表されているの?
例えば、兵庫県では病害虫防除所の調査によると、加西市と朝来市に設置したフェロモントラップでの有殺数が多く、越冬世代による果樹園への被害が懸念されています。
そこで、「病害虫発生予察注意報 第1号」が2020年5月28日に発表されています。
果樹類に被害を与えるカメムシが大量発生!
カメムシは、特に梨・桃・柿・柑橘の果樹類が被害があります。
さて、そんなカメムシに対する注意報が兵庫県下全域に普段よりも多く発生したため病害虫発生予察注意報が発表されました。
そもそも、5月下旬~7月下旬にかけて発生するのですが今年は例年以上に多かったようです。それでは、どれだけ多かったのでしょうか?
加西市のフェロモントラップ
フェロモントラップというのは、「性誘因フェロモン」や「集合フェロモン」を使用し、これらに誘引された虫をトラップによって捕獲します。
今年(2020年4月~5月の4半旬)で、すでに大量発生しています。
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加西市のフェロモントラップによる誘殺数
→チャバネアオカメムシ:1,024頭(過去5年分の平均値:193.4頭)⇨約5.3倍
→ツヤアオカメムシ :99頭 (過去5年分の平均値:4.9頭)⇨約20倍
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加西市の予察灯による有殺数
→チャバネアオカメムシ:9頭(過去5年分の平均値:6.8頭)⇨同等からやや多い程度
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朝来市のフェロモントラップの有殺数
→チャバネアオカメムシ:168頭(過去3年分の平均値:50頭)⇨約3倍
→朝来市の予察灯による有殺は見られていない。
実は、兵庫県では去年の2019年も大発生がみられ5月下旬から増加していました。このことから今年(2020年)も有殺数が増加していくことが予想されています。
*すでに、加西市の梨園では幼果(ようか)の被害が発生している。
今後の被害に注意必要!
今年は、「暖冬だったため成虫の越冬量が多かった」と考えられています。そのため、越冬世代の園地への飛来が長期化する恐れが懸念されています。
なぜなら、そもそも気温の上昇に伴ってカメムシの活動が盛んになるため果樹園への飛来量が多くなるためです。
なにより、まさにむこう1ヶ月の近畿地方の天気予報では平均気温が平年より高くなることがすでに予報されています。
このように、今年は虫の越冬量が多いこと。そして、少なくとも近畿地方では平年よりも気温が上がることが予想されているため、果樹園への被害が拡大することが予想されています。
ですが、前もってこういった予測ができるのは「発生予察」を全国で実施できているためです。当然、すでに予想できている被害であるため「防除対策」も示されています。
防除対策
果樹園への飛来量や飛来時期は、周辺環境の影響を大きく受けることになります。とはいえ、対策が必要になります。
- 見回りの実施
- 発生や被害を確認したら薬剤による防除
- 早めに有機栽培の桃などに袋かけ作業を実施。
などなど、様々な対策が示されています。
このように、早い段階で「急激にまん延して農作物に重大な被害を与える病害虫」の対策や準備などができるため、「発生予察」は必要不可欠な事業だといえるでしょう。
最後に
怖い病気は、新型コロナウイルスのように人体に影響を与える感染症だけではありません。
農作物に影響を与える病害虫も同じように危険です。
特に、日本では自然災害も多くこれからは台風の季節になっていきます。地震の危険性についても、いつ発生するか分かりません。
少なくとも、報道では「新型コロナウイルス(特に感染者数)だけに注目する」というような、状態が続いていました。
それは、現時点(2020年6月7日)でも、「東京都の感染者数が増えている!」と、連日報道されていることからも分かります。
今後、どのような対策を実施するにしても新型コロナウイルスだけに注目するようなことをしてしまうと、想定外の出来事で失敗することになりかねません。
もしも、第二波がきたとしても新型コロナウイルスの情報以外についても知らないと、「思わぬ困ったこと」に陥るかもしれません。
新型コロナウイルスに限らず、1つの問題だけに集中しないようにして下さいね。
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