少し前に、「老後は2000万円が必要!」なんてマスコミで報道され、その言葉だけが一人歩きして大騒ぎになりましたよね・・・
この話は、令和元年6月3日付けの「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書 高齢社会における資産形成・管理」 がもとになっています。
結論から言えば、いつものマスコミの「飛ばし記事」だといえるでしょう。
とはいえ、まだまだ信じてしまっている人もいるのではないでしょうか?
最近では、そんな不安な老後資金を確保するために、自宅を担保にして生活資金を借り入れする「リバースモーゲージ」と呼ばれる仕組みが脚光を浴びています。
それでは、そもそもあの2000万円問題はなにが根拠だったのでしょうか?
今回は、「いまだに問題に挙げられるあの報告書にはなにが書かれているの?」について紹介します。
リバースモーゲージについては、次回ご紹介します。
貴重な現状分析が書かれている報告書
この報告書は、金融庁が出した51ページから構成されている「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書 高齢社会における資産形成・管理」から、マスコミが「2000万円問題!」として取り上げました。
それでは、そもそもなぜこの報告書が出されたのでしょうか?
そもそも報告書の目的はなんだったの?
金融サービス提供者や高齢化に対応する企業、行政機関等の幅広い主体が、今回の一連の作業を出発点として国民に本報告書の問題意識を訴え続け、国民間での議論を喚起することにより、中長期的に本テーマにかかる国民の認識がさらに深まっていくことを期待する。
つまり、そもそも現状を国民間で議論ができるように、その元となる報告書(データ)を金融庁が示してくれたものでした。
この根底にあるのは、「人生100年時代」と呼ばれるように、これまで通りの経済社会システムでは難しいため、人生100年時代に備えた資産形成や管理に取り組んでいくことが必要になること。
そして、このことは個人だけでなく金融サービス提供者にも人生100年時代にそった金融商品・金融サービスを提供することが必要なことまで指摘されています。
つまり、そもそも「老後に2000万円が足りないことを国民に議論して欲しい!」なんてことは、どこにも書かれていません。
むしろ、老後の生活を社会全体で考えていくための基礎となるデータが詰まった大切な報告書でした。
それでは、中身について少し見ていきましょう。
報告書の中身を見ていくと・・・
高齢社会を取り巻く環境変化として、現状整理が行われています。
- 人口動態等
- 収入・支出の状況
- 金融資産の保有状況
- 金融環境に対する意識
この中で、例えば健康寿命について9~12年は制限が加わる形で生活を送る可能性があること。
そして、単身世帯の増加や認知症の人の増加など、今後の問題点がグラフを示しながら説明されています。
それでは、なぜ「老後2000万円が足りない!」なんてセンセーショナルな報道になり、報道されてから約1年が経ちましたが、いまだにマスコミで社会問題として取り沙汰されているのでしょうか?
2000万円問題の根拠は?
報告書を読んでいくと、すぐにその理由が分かりました。
「2.収入・支出の状況」の報告で示されている、高齢夫婦の無職世帯の事例で示されているモデルケースを見ると分かります。
高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円となっている。
と示されています。
この5万円は、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)』の平均の収入と支出の差額で、総務省の統計データに基づくものとなっています。
それでは、このモデルに出てくる高齢無職世帯の純貯蓄額はいくらになっていると思いますか?
A.2,484万円
この前提の上で、この報告書ではこのように実収入と実支出が示されています。
- 実収入:209,198円
- 実支出:263,718円
つまり、この5万円の出所は、263,178円(実支出)ー209,198円(実収入)=53,980円
→「毎月、53,980円を貯蓄から充てないと足りない!」というモデルケースから示された数値でした。
*収入と支出の内訳は、報告所のグラフで示されています。
要するに、2,000万円の貯蓄があっても毎月約5万円の支出がでれば、100歳まであと40年生きるとすれば、40年✕12ヶ月✕5万円=2,400万円になるため、それでも400万円が足りないことになります。
つまり、マスコミ的には「老後資金は少なくとも2,000万円は必要!」と結論付けた方がよりセンセショーナルになることになります。
ただ、このデータは報告書の10ページ目にあるモデルケースから導き出された数値でしかありません。
そもそも、これらの情報はあくまでも「現状の情報整理」としてまとめられている部分であり、大事なのはその後に報告されている「今後どうしていく必要があるのか?」
についてです。
さらに言うなら、そもそも・・・
- 2000万円の貯蓄がない人
- 1ヶ月の支出はそれぞれ違う
- 最後は生活保護が利用できる
など、状況はそれぞれ違いますよね。
例えば、そもそも貯蓄が2000万円もないのに、毎月5万円も赤字が出るような支出をする人ばかりではないでしょう。
また、「人生100年時代」とはいえ、そこまで生きられる人がどれくらいいるでしょうか?
結論から言えば、「老後に必要なお金は誰にも分からない」
ということです。
このことは、報告書でもこのように記載されています。
夫 65 歳以上、妻 60 歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ 20~30 年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で 1,300 万円~2,000 万円になる。この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。
にもかかわらず、40年間毎月約5万円の赤字が出る前提で、「老後資金は2,000万円必要!」と報道されてもあまり意味がありません・・・
例えば、本当に貯蓄も収入もなく、60歳~100歳までの40年間で1ヶ月20万円必要とするなら「9,600万円が必要!」と言うことができしまいます。
この場合、「老後資金1億円問題!」とした方がよりセンセーショナルかもしれませんが、金額が大きすぎてピントこないですね・・・
仮に毎月、10万円の支出だったとしても半分の4,800万円が必要になります。
ただ、この場合なら現実的には生活保護を利用することになるでしょう。このように、支出額はそれぞれで変わるため、そもそも2000万円という数字には根拠も意味もありません。
とはいえ、とりあえず金融庁が発表した資料から報道はしているため、確かに「嘘はついていない?」ということもできるのかもしれませんが・・・
それでは、私達はどういった準備ができるのでしょうか?
今後の展望は?
この報告書の中で、退職金給付額の減少(ピーク時と比較すると3~4割程)や税・保険料が年々増加しているなど、不安材料が目立つ結果になっています。
そのため、これまでのような銀行に預けておくだけの投資では生き抜くことが難しくなりました。
そこで、この報告書では資産の寿命を延ばすことが示されています。
資産の寿命を延ばす?
資産形成の考え方として、以下の3つのステージが示されています。
- 現役期・・・長期・積立・分散投資など、少額からでも資産形成の行動を起こす時期。
- リタイヤ前後期・・・金融資産の目減りの抑制・資産の取り崩しに向けて行動する時期。収支の改善も行う。
- 高齢期・・・資産の計画的な取り崩しと、判断能力の低下や認知症に備える(老人ホームや成年後見制度の利用など)
そして、資産の寿命を延ばすためには、個人だけでは難しいため金融サービス側もそれぞれのステージに対応していく必要があることが示されています。
必要になることは?
1.資産形成・資産承継制度の充実
「つみたてNISA」や「iDeCo」の利用など現役期から、資産形成に取り組むことが必要なことが示されています。
2.金融リテラシーの向上
個人それぞれが、ライフステージ毎にさまざまな機会を捉えていけるように浸透させていくことが示されています。
例えば、退職金や年金は老後の柱となる資産からも、企業側が早い段階で退職金の額を労働者に通知する必要があることがこれに当たります。
また、確定拠出型の企業年金(DC)に取り組んでいる企業も、そうでない企業も従業員の金融リテラシーを高める必要があります。
3.アドバイザーの充実
多様な金融商品・サービスを誰もが選べるようにアドバイザーが必要になることが示されています。
特に、今後は米国のような証券会社などの金融サービス提供者から独立して、顧客に総合的にアドバイスをような者
を日本でも増やしていくことが求められていくでしょう。
*金融機関においても、単一の業態に留まらない顧客のニーズに応じた総合的なアドバイスを行うことが重要なことも指摘されている。
4.高齢顧客保護の在り方
例えば、75歳頃から認知症の発症率が上昇していくことが知られていますが、75歳以前から認知能力に問題がある人もいれば、80歳を越えても元気な人もいます。
そのため、リスクが高い複雑な商品よりも、リスクが低い簡素な商品の説明は軽減するなど、その人のニーズに合わせながら、業務運営の徹底が求められています。
また、本人が望めば認知・判断能力の低下・喪失後も、資産運用の継続も求められることになります。
このように、この報告書は現状の課題や今後の課題について詳しく書かれているため、全ての人が一読しておく必要があるでしょう。
最後に
この報告書が、「老後資金2000万円問題」だけの報告署として、多くの人達に誤って理解されたことが残念でなりません。
この報告書には、現状と課題と今後の展望が書かれています。
ただ、現状では顧客にそったアドバイスや金融商品の販売がどれだけ行われているのか疑問が残ります。
例えば、以前「かんぽ生命が不必要な保険を認知症の高齢者に売付けていた犯罪行為が発覚した事件」がありましたよね。
個人に寄り添った金融商品の選択は、金融機関にとって利益度外視となる可能性が高いため、本当の意味で個人にあった現実的なアドバイスや金融商品を販売する仕事は、現実的にはまだ少ないサービスなのかもしれません。
ひょっとすれば、AIがこういった仕事を担っていくのかもしれませんね。
このように、この報告書ではこれから作り出していかなくてはいけないことも示されているため、決して「老後に2000万円がいる!」なんてことを伝えたい報告書ではないことを理解する必要があります。
まずは、ご一読下さい。
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