大阪府知事が2020年8月4日に「ポビドンヨードを使ったうがい薬を使うことで人に移すことを防ぐ。つまり、感染拡大を防止するそれに寄与するんじゃないか?」ということで、府民に呼びかけていました。
今回は、その根拠となった「大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センターの報告」と「そもそもポビドンヨードってなに?」についてご紹介します。
はびきの医療センターの報告とは?
2020年8月4日に発表された「ホテル宿泊療養におけるポビドンヨード含嗽の重症化抑制にかかる観察研究について 」の報告がきっかけでした。
この観察研究では、以下の3つが挙げられています。
- 新型コロナウイルスは口腔内で増殖、唾液中にウイルス量が多い特性がある。
- コロナ患者の唾液中ウイルス消失低減で、肺炎など重症化抑制可能と想定
- ポビドンヨードは広範囲なウイルスに対し、殺ウイルス効果を有する
さて、結論として「ポビドンヨードは、新型コロナウイルスに効果があるだろう」と結論付けられていますが、それではそもそもどういった観察研究がなされたのでしょうか?
→この研究はあくまでも、「唾液中のウイルスを減少させることで、肺炎予防を促せるかどうかを調べるための研究です」
観察研究の内容は?
そもそも、この観察研究は大阪府の宿泊療養施設の療養患者(41名)が対象で、「大阪府」と「市」が研究に協力していました。
方法は?
- 1日4回(起床時・昼食時・夕食前・就寝前)にポビドンヨードによる「うがい」を実施。
- 入所中、毎日唾液検査を採取しPCR検査を実施
それでは、どんな結果になったのでしょうか?
結果は?
図1で、4日間継続された結果が、グラフ化されています。(4日✕4回=16回のうがいをした結果)
図1
図1の含嗽群(がんそうぐん)を見ると確かに、4日目でウイルスの陽性率が激減していることが分かります。
そして、ポビドンヨード含嗽によるウイルス陽性頻度の比較もグラク化されていました。
図2
図2を見ても、ポビドンヨード含嗽をした方が、陰性率が79%もあることから効果の高さが示されています。
そして、以下に該当する人はポビドンヨードうがい薬によるうがいが当面、8月20日までを強化期間として取り組むことが示されました。
① 発熱など風邪に似た症状のある方及びその同居家族
② 接待を伴う飲食店の従業員の方
③ 医療従事者や介護従事者の方
つまり、大阪府民の多くが対象になっていることが分かります。
ちなみに、会見では「うがいはそもそも励行している。また、普通に売られているうがい薬ですから・・・」ということで、特にポビドンヨードの危険性(副作用)については、用法用量を守る以外、具体的な副作用などは考えていないようでした・・・
*「含嗽(がんそう)」というのは、喉の粘膜や口腔内を清潔に保つ・感染予防・治療のために、水や薬液を口に含み、呼気によって攪拌(かくはん)すること。
つまり、「うがい」をすることです。
それでは、ここからは「ポビドンヨード」についてご紹介します。
「ポビドンヨード」ってなに?
ポビドンヨードというのは、ヨウ素系消毒剤の一つです。
- ポビドン:ポリビニルピロリドン(PVP)という成分で、粘度を調整するために配合されている。(歯磨き剤にも含まれる成分)
- ヨード:ヨウ素のことで、ポビドンとヨードの複合体なので「ポビドンヨード」と呼ばれています。そんなポビヨンヨードといえば、「イソジン」が有名ですよね。
さて、このポビドンヨード含嗽剤の効能・効果は、第五版消毒剤マニュアル ─消毒剤の特徴・使用法・使用上の留意点─でこのように紹介されています。
咽頭炎、扁桃炎、口内炎、抜歯創を含む口腔創傷の感染予防、口腔内の消毒
つまり、口腔内の感染予防と消毒ができます。
使用方法
【用法・用量】
用時 15~30 倍(2~4mL を約 60mL の水)に希釈し、1 日数回含嗽する。
とあります。
これは、商品ラベルにも書いてありますし、多くの人が使い慣れていると思います。それでは、例えばイソジン液の「禁忌(してはいけないこと)」についてご存じでしょうか?
残念ながら、薬である以上、副作用があり全ての人が安全に使えるわけではありません。
イソジン液の禁忌?
例えば、シオノギ製薬のイソジン10%の商品ではこのような注意書きがあります。
- ヨウ素に対して過敏症の既往歴がある。
- 甲状腺機能に異常がある。
- 重症の熱傷患者。
- 妊婦・産婦・授乳婦への投与。
ちなみに、0.1%というかなり低い確率ですが、ショック、アナフィラキシー(呼吸困難・不快感・浮腫・潮紅・蕁麻疹等)が現われることもあります。
つまり、薬品である以上、約2週間の励行をするなら、注意事項については確認しておく必要があります。
ところで、習慣的なイソジン含嗽が「ウォルフーチャイコフ効果」を起こしてしまう危険性があることをご存じでしょうか?
ウォルフーチャイコフ効果
そもそも、「ヨウ素」と聞いてどれだけ知識があるでしょうか?
「とりあえず、過剰摂取はよくないのでは?」と誰もが思いますよね。そう。よくないんです。
とはいえ、うがい薬は希釈して使用することは多くの人が経験済ですので、まさかそのまま使用する人はいないでしょう。
ですが、うがい薬を希釈して使用したとしても、ヨウ素は少しずつ体内に吸収されることになります。
ここで問題になってくるのが「ウォルフーチャイコフ効果」です。
なにが問題なの?
そもそも、過剰にヨウ素を摂取すると甲状腺ホルモン合成が抑制されて、甲状腺機能低下
が引き起こされる恐れがあります。
これを、「ウォルフーチャイコフ効果」と呼びます。
そして、「過剰なヨードの摂取」というのは、1日5~10mg以上のことを指します。
ウォルフーチャイコフ効果を起こしやすい人は?
- 橋本病
- バセドウ病
- 出産後甲状腺機能異常
- 亜急性甲状腺炎
- 気管支喘息
- リファピシン・リチウム・サルファ剤服用者
- 一部の健常人
と言うことで、ヨウ素の過剰摂取で誰がウォルフーチャイコフ効果を引き起こしても、おかしくないことが分かります。
→一般的には、多くの人は一過性ですみますが、上記で挙げた人は甲状腺機能低下症を引き起こす可能性があります。(そもそも、1日に摂取すべきヨウ素は、約0.15mg)
それでは、そもそもイソジンでうがいをしただけで過剰摂取になる
のでしょうか?
薬液うがいでヨウ素を過剰摂取?
これまで、あなたが1日何回イソジンでうがいをしてきたのか私は知りません。
ただ、健常人18人に1日3回、15秒のイソジン咳嗽を行ってもらい、尿中のヨードを測定した報告があります。
答え.1日4mgのヨウ素が吸収されていた。
つまり、1回のうがいで1mg以上のヨウ素を吸収していたことになります。
大阪府のように、これを4回となると、5mg以上になるため、真面目に実行した人がいれば、過剰なヨウ素摂取が2週間継続されることになります。
当然、極端な回数を実行する人もいるでしょうし、妊婦さんや子どもが真面目に実施した場合、その危険性はさらに上がります。
ヨードの過剰摂取で健康被害を引き起こすことは、常識の範囲だと思うのですが、その量については「うがい薬程度なら大丈夫だろう・・・」と考えていませんか?
希釈方法やうがいの回数で摂取量は変わるため、注意する必要があります。
ポビドンヨードのデメリット
そもそもの話しになりますが、ポビドンヨードは、ウイルスに対する殺菌効果よりも細菌に対する効果の方が強く、残念ながら口腔内の正常細菌叢(そう)を破壊します。
さらに、希釈が不十分だと粘膜障害も引き起こします。
つまり、そもそも、新型コロナウイルのように、ウイルス対策としてはそもそも勧められていません。
- 正常細菌叢の破壊
- 咽頭粘膜の組織障害
→ちなみに、上気道感染発症を水道水と比較した場合、水道水に負けています。
ところで、今回の調査結果の根拠になっているPCR検査について、あなたは誤解されていませんか?
PCR検査の誤解?
今回の大阪の結果報告は、PCR検査結果が根拠になっています。
一般社団法人免疫学会では、PCR検査の問題点についても指摘しています。
そもそも、検査ですので「感度」が重要になります。
感度というのは、例えば100人の感染者がいた場合、100人全てを把握できれば感度は100%となります。
ここまではいいですよね?
そしてもう一つ、「感染している!」と言えるということは、逆に言えば「感染していない!」とも言える必要があります。
これを、「特異度」といいます。
つまり、新型コロナウイルスに感染していない100名に対して、「感染していない!」といえれば特異度は100%となります。
つまり、PCR検査が感度100%・特異度100%なら、感染者を確実に見つけ出せる検査ということになります。
それでは、PCR検査はどれほど正確なのでしょうか?
PCR検査は正確?
そもそも、PCR検査は「検査対象となるそのウイルスに特徴とされるRNA遺伝子配列」と呼ばれるものを増幅させて、診断します。
要するに、検体に含まれるウイルスの量が「目的のRNAの配列を増幅」させるために、必要な量以上が無ければ、感染していても陰性となります。
つまり、PCR検査は「体内でウイルスが増えることで、初めて検出可能になる検査」だと言うことです。
そのため、「検体採取のタイミング」や「検体の採取場所」によっても、検査結果が大きく変わります。
採取タイミングでウイルス量が変わる!
鼻腔の場合(陽性割合)
- 発症日:94.39%
- 発症10日後:67.15%
- 発症31日後:2.38%
咽頭の場合(陽性割合)
- 発症日:88%
- 発症10日後:47.11%
- 発症31日後:1.05%
→ちなみに、唾液検体の方が咽頭検体よりも5倍ほどRNAコピー数量が多いという報告があります。
このように、どちらで検体を採取したとしても、発症してから時間経過とともに検出限界値を下回っていくことが分かっています。
そして、どんなに感度が高くても、感染から8日目(症状発現の3日目)の80%が最も高い感度になります。
逆に言えば、採取タイミングや採取場所によっては、陰性(偽陰性)と診断される可能性が高くなります。
*そもそも、うがい薬で口腔内を消毒している訳ですから、新型コロナウイルスが陰性になるのは当たり前です。
→むしろ、それでも陽性になれば「ヨウ素では殺菌できないウイルス」ということになってしまいます・・・
最後に
大阪府知事が発表した観察報告は、被験者(感染者)が41名と少ない人数しかいませんでした。
とはいえ、新型コロナウイルスもイソジンで消毒できたことは間違いないのでしょう。
つまり、「イソジンでうがいをすることで、肺炎を予防できるかもしれない」という根拠にはなりえます。
ただ、この視点にあるのは「新型コロナウイルスが重症化したときに引き起こされる肺炎予防」についてです。
そのため、「ヨウ素による副作用」
という視点は、欠けているように思います。
「身近な医薬品だから大丈夫!」ではありません。身近な医薬品を頻回に使うことを励行するなら、危険性についても詳しく発表しないとかなり危険です。
使い慣れている人も注意が必要ですが、あまり使っていない人の場合は、特に想定外の使い方をするかもしれません。
だからこそ、使いすぎたときの危険性についても、伝えないといけないのではないでしょうか?
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