早生まれで誤診されるかも? 衝動性・不注意=発達障害?

 

前回、「早生まれの子ども達」についてご紹介しました。

特に、同じ6歳でも4月1日と4月2日では学年が変わってしまうため、早生まれとなる4月1日生まれの子ども達は1歳年上のお兄さん・お姉さんと同学年になってしまいます。

ですが、アメリカの研究報告で早生まれの8月生まれと、遅生まれの9月生まれを比較すると8月生まれのこどもは、ADHDと誤診された子どもが34%も高くなっていました。

*アメリカでは、9月が入学になるため8月が早生まれになる。

今回は、「ADHDはこんな病気!誰のための診断?」についてご紹介します。

 

早生まれについては、こちらの記事で紹介しています。

どうして?誕生日は「4月1日」と「4月2日」で学年が違う! 

 

そもそも「ADHD」って病気?

ADHDは、脳の病気で発達障害(脳の発達に生まれつき障害があることの総称)です。そして、「生まれたときからみられる場合」もあれば、「出生直後に発症する場合」もあります。

さて、そんなADHDは「Attention-Deficit Hyperactivity Disorder」の略です。

日本語では、「注意欠陥・多動症」「注意欠如・多動性障害」「注意欠陥・多動性障害」などの呼ばれ方をします。

ちなみに、過去には「ADD(注意欠陥障害)」と呼ばれていましたが、ADHDの子どもには多動性も見られることが多かったことから現在の「ADHD」という病名に変更された経緯があります。

それでは、実際にどういった症状があるのでしょうか?

 

ADHDの症状とは?

ADHDの3つの病型

  1. 不注意型
  2. 多動・衝動型
  3. 混合型

また、ADHDは「大人と子どもでは症状が違う」ことが知られています。


というのも、一般的には・・・

  • 子ども:多動性が目立つ
  • 大人:多動性が表面的には目立たなくなるが、相対的に不注意が目立つ

という特徴があります。

しかも、「不注意が優性なタイプ」「多動・衝動性が優性なタイプ」どちらにしても悪循環が成立してしまいます。

 

ADHDの悪循環とは?

不注意優性タイプ

  1. 失敗体験を積み重ねる:遅刻・忘れ物・整理整頓困難・不注意ミスなど。
  2. 失敗を咎められる、叱られる:「甘えがある」「やる気が感じられない」「能力が低い」
  3. ネガティブな感情:自信喪失・自己不全感(上手くいっていない感じ)・トラウマ(心的外傷)
  4. 病的な症状:不安、パニック・うつ状態・学校や職場に適応できない。

1→4の流れで悪循環におちいり、最悪、4の精神疾患を引き起こす可能性が高くなります。

 

多動・衝動優性タイプ

  1. 周囲とのトラブルが多発:感情が爆発しやすい・後先を考えない言動。
  2. 周りから避けられる・嫌われる:「わがまま」「自分勝手」「親のしつけが悪い」
  3. ネガティブな感情:疎外感・他者に対する怒り・自分の問題への直面化の拒否(開き直り)
  4. ネガティブな思い込み:「どうせ自分は、嫌われ者」「どうせ周りは、分かってくれない」
  5. 問題行動:大人への反抗、非行、反社会的行動・インターネットやゲーム、アルコールなどへの依存

このように、1→5の悪循環におちいり、最悪、5の問題行動を引き起こす可能性が高くなります。

つまり、どちらのタイプが優勢だったとしても、悪循環がつきまとうことになります。それでは、そもそも「子ども」と「大人」で不注意や多動・衝動性の違いはあるのでしょうか?

 

「子ども」と「大人」の不注意と多動性・衝動性の比較

長崎大学教授:今村 明氏によると、大人と子どものADHDの症状(「不注意」と「多動性・衝動性」)比較がなされています。

子ども 大人
不注意
  • テストなどでうっかりミスが多い。
  • 授業中、気が散りやすくボーッとしている。落書きや居眠り。
  • 宿題を先延ばしにする。夏休みの宿題など、計画的にできず、最終日近くになって取りかかる。宿題が間に合わない。
  • 片付けが苦手。学校でも机の中がぐちゃぐちゃ。
  • 落とし物・無くし物・忘れ物が多い(教科書・鉛筆など)
  • 遅刻が多い。親や先生から言われたことをすぐに忘れる。
  • 仕事(以下、家事や用事を含む)や日常生活で不注意ミスが多い。
  • 仕事上で、注意の持続が困難。「上の空」と周囲から注意される。会議中寝てしまう。
  • 仕事の優先順位を考え、計画を立てるのが苦手。仕事を先延ばしにしたり、ため込んだりする。
  • 整理整頓が苦手。机に物を積み上げる。
  • 落とし物・無くし物・忘れ物が多い(書類・財布・鍵など)
  • スケジュール管理ができない。約束を忘れる。遅刻が多い。
多動性・衝動性
  • 授業中落ち着かない。席を立つ。座っていてももじもじして落ち着かない。
  • ひどく走り回ったりよじ登ったりと動きが多い。じっとしていない。
  • 遊びの時、騒ぎすぎる。しゃべりすぎる。「静かにして」と言われる。
  • 列に並んだり、ゲームなどの順番を待ったりするのが苦手。
  • 他事の勉強や遊びの邪魔をする。突発的な動きや発言が多い。
  • いつも落ち着かない感じを与える。
  • 体を動かしていることが多い(顔や体を触ったり、貧乏ゆすりをしたり)
  • 静かにすることが苦手。おしゃべりとか声がでかいと言われる。
  • 順番待ちや交通渋滞、その他の待つことが苦手。
  • 熟慮せずに発言するまたは行動する。おせっかいや余計な一言が多い。

 

比較すると分かるように、大人になると走り回るようなことはなくなりますが、それでも相手に「落ち着かない印象」を与えたり、「うるさいイメージ」を与えたりと、社会生活の中で悪い意味で行動が目立ってしまいます。

さらに、さまざまな傾向が見られます。

 

どんな傾向が見られるの?

❶感情が爆発しやすい

《子どもの場合》

  • 学校のでいじめの加害者・被害者のどちらにもなりえる。
  • 先生との関係が上手くいかない。
  • 不登校

 

《大人の場合》

  • 職場や家庭内で暴言・暴力が目立つ
  • ネット上で不適切な書き込みをする
  • クレーマーになる
  • 学校で親として、教師と対立する

 

➋過集中・のめり込み・依存傾向

《子どもの場合》

  • インターネットやゲームなど

 

《大人の場合》

  • インターネットやゲーム
  • アルコール
  • 薬物
  • ギャンブル(日本ではパチンコが多い)
  • 買い物依存

など。こういった問題が起こる場合があります。

つまり、社会生活に影響が出てしまう病気でもあります。それでは、治療法はないのでしょうか?

 

ADHDの治療はできるの?

そもそも、ADHDには神経伝達物質(脳内で神経信号を伝達する物質)の異常が関与している可能性が高いことが分かっています。

とはいえ、具体的な原因として判明しているものは残念ながらなにもありません。

ただ、危険因子はある程度分かってきています。

 

ADHDの危険因子とは?

  • 遺伝的要因
  • 低出生体重(1,500mg未満)
  • 頭部のケガ
  • 脳の感染症
  • 鉄欠乏症
  • 閉塞性睡眠時無呼吸症候群
  • 鉛中毒
  • 出生前のアルコール・タバコ・コカインにさらされる。

こういった物が、危険因子として知られています。

ちなみに、ADHDは生まれつきのものであるため、「食べ物」や「環境的要因」が原因で発生することはないことが明らかになっています。

そして、ADHDの治療には「薬物療法」と「行動療法」が用いられていくことになります。

 

薬物療法と行動療法?

《薬物療法》

ADHDは、脳内の神経伝達物質の働きがうまく言っていないことが考えられているため、日本の治療薬としては・・・

  • 「ドーパミン」という神経伝達物質の伝達を助ける→メチルフェニデート徐放剤
  • 「ノルアドレナリン」という神経伝達物質の伝達を助ける→アトモキセチン

副作用などを考慮しながら、使い分けていく必要があります。

 

《行動療法》

子どもの場合、親の対応が変わることで子どもの行動も変化することが知られています。

例えば、本人のよい行動の芽生えに注目する、「ペアレント・トレーニング」という方法があります。

子どもは動画が好きですよね。「ドラえもん」「トーマス」「アンパンマン」など年代や性別によっても好みは変わります。

 

~子どもにどんな声かけをしますか?~

さて、そんな子ども達がしばらくテレビを見た後に簡単な家のお手伝いをしたとします。

親としては、「夕飯の準備がすでにできていたので、もっと早くテレビを中断してお手伝いをやって欲しかった!」とします。この場合、あなたはどちらの声かけを子どもにしますか?

  1. 手伝ってくれてありがとう(肯定的な注目)
  2. なぜもっと早く手伝わないの!(否定的な注目)

さて、2.を選んだ場合「好ましい行動」が強化されることはなく、好ましくない行動(テレビを見続けて手伝わない)が続くことになります。

つまり、子どものよい点に注目していくことで問題行動を減らしていくことを目標とするプログラム。それが、「ペアレント・トレーニング」です。

これが本当の、「褒めて育てる」という方法です。

 

《その他》

さらに、環境を整備していく必要もあります。

そもそも、授業に集中できないのは病気が原因です。そのため、不当に叱ったり傷つけるようなことがあっては取り返しがつかなくなる可能性があります。

  • 席を一番前にすることで、先生が上手く注意できるようにする。
  • 忘れ物が多いのなら親がチェック表を一緒に作ってサポートする。

こういった周囲の協力も必要になります。

*ADHDの治療は、環境調整・支援・精神療法を行い、その後薬物療法を行うことが推奨されています。(本人・家族に十分に説明して、初回から薬物療法が実施される場合もある)

このように、ADHDの治療は簡単ではなく、粘り強く周囲の協力をへながらやっていく必要があります。

 

最後に

ADHDは、子どもの場合20人に1人程度と言われています。

男女比は、男性の方が何倍も多いと言われていましたが、報告される男女比は徐々に同程度に近づいています。

なにより、ADHDは普段は不注意が目立ちますが「大事な時にものすごい集中力を発揮する」ことがあります。さらに、多動性は「高い活動性、積極性」。衝動性は、「優れた決断力・発想力」としてして認められることもあります。

ただし、あくまでもADHDの診断は学校や職場、社会などで本人が困ったときに診断される病気です。つまり、本人が困っていないのなら診断されることはない病気でもあります。

冒頭で紹介した記事の中で、「早生まれの子ども達のADHDの誤診が相次いでいる可能性が高い」ことを紹介しましたが、果たして困っているのは誰なのでしょうか?

そして、子どもにとってADHDの症状は「普通の行動」だとも言えます。そもそも、子どもの中で1年も年が違えば、行動に違いがあることは当たり前のことでしょう。

病気の診断も大切ですが、それ以上に子どもの居場所づくりを進めていく方が先だといえるでしょう。


参考

公益社団法人 日本精神神経学会
https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=39

MSDマニュアル:注意欠如・多動症(ADHD)
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0

 

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