前回、固定電話恐怖症についてご紹介しました。
固定電話恐怖症というのは、職場などにかかってくる固定電話にたいして、恐怖心が強くなりすぎる恐怖症性障害の一つです。
ただ、「固定電話恐怖所」の原因は別の所にあるかもしれません。
今回は、「聞こえているのに理解できない聴覚情報処理障害(APD)」についてご紹介します。
聴覚情報処理障害ってなに?
《聴覚情報処理障害》
- Auditory・・・聴覚
- Processing・・・処理
- Disorder・・・障害
頭文字をとってAPDと呼ばれます。
「末梢聴力には明白な難聴を呈さないが、中枢性聴覚情報処理の困難さによって難聴に似た症状を呈する状態」のことです。
かなり難しい言い回しになりましたが、つまり耳鼻科に行って聴力検査を受けても「異常なし」と診断されるということです。
さらに、「中枢性聴覚情報処理の困難さ(障害)」というのはひとつではありません。
中枢神経の障害?
《頭部外傷や脳梗塞などの場合》
聴覚に関係した脳だけが限定的に障害を受けることは少ないため、ほとんどはその他の原因が考えられています。
ただ、片方の聴覚に脳の一部だけが障害を受けるとAPDの症状が見られることがあります。
《中耳炎》
幼児期に中耳炎に長期間かかったことで、治療後も聞きにくさが残ることがあります。
《睡眠障害》
睡眠不足になることで、日中の思考力が働きにくくなってしまうために集中力が落ちてしまいます。
→この場合は、睡眠障害の治療が必要。
とはいえ、最も多いのは発達障害の傾向があることです。
「発達障害の傾向」ってどういうこと?
例えば、自閉スペクトグラム症や注意欠陥多動症など発達障害傾向がある場合は、聞き取りにくさを示す場合があります。
とはいえ、「発達障害」と診断される人はごく一部です。
つまり、発達障害の診断には該当しないものの「注意する力」や「覚える力」が人よりも弱い場合、APD症状が見られることになります。
とはいえ、実はまだまだ分かっていないことが多く、そもそも原因なども断定することが難しい状態です。ですが、APDで悩まされている人は少なくない人数が確実にいます。
それでは、具体的にどういった症状があるのでしょうか?
APDがあたえる影響!
そもそも、耳鼻咽頭科に受診しても異常がないわけですから、「聞こえるのに言葉が分からない!」といわれても先生達も困ってしまいますよね。
つまり、障害や病気と認められることは少ないため、ひどい場合は、精神科を紹介される事例まであるようです。
メジャーな病気ではないため、耳鼻咽頭科ですらあまり知られていないことが一つ目の問題点として挙げられます。
それでは、どういった症状があるのでしょうか?
どうやって、自分の聞こえ方がおかしいと気付けるの?
APDの二つ目の問題点はここにあります。
仕事や学業など、日常生活に支障をしたしてきます。特に、仕事の場合は自分で環境をコントロールすることが難しいため、働き出してから初めて気付く人もいます。
例えば、職場の上司の指示を何度も聞き間違えるなんてことが引き起こされます。
もしも、その職場が救急士という特殊な仕事ならどうでしょうか?
実際の事例として、憧れの救急士の仕事に就けたが、走る救急車の車内はさまざまな音が鳴り響いている状態です。ところが、APDのために先輩隊員の口頭による指示がどんどんくることになります。
ですが、聞き取ることができません。
このように、社会に出て初めて「自分の聞こえ方がおかしい?」と気付いて耳鼻科に受診しても「異常なし!」と言われて終了するかもしれません。
さらに、3つめの問題があります。
精神的に追い込まれる
3つ目の問題点として、上司や同僚の指示が分からないわけですから、必然的にミスが増えることになります。
もちろん、電話なども話している内容がわからないため、前回紹介した固定電話恐怖が引き起こされる可能性も高くなります。
そうなれば、職場での居場所が奪われかねません。まさに八方塞がりに追い込まれてしまいます。
APDの大きな特徴は・・・
- 音としては聞こえているのに、言葉として聞き取れない
- 聴力検査をしても異常は見られない
ことです。
つまり、「誰にも理解されない個人の問題」になりやすいということです。
APDの症状とは?
ここまでAPDの「原因の一部」や「問題点」についてご紹介してきました。
ただし、問題点といってもその人個人の責任ではなく、どちらかというとお互いに「障害」と知らないがために引き起こされるさまざま悪影響のことです。
さて、下記のような症状があればAPDの可能性があります。
《APDの特徴》
- 聞き返しや聞き誤りが多い
- 口頭での説明等を忘れる・覚えられない
- 早口・小さな言葉・特定の特徴のある人の言葉の聞き取りが難しい
- 雑音などのある環境での聞き取りが難しい
こういった特徴が見られます。
《簡易診断》
簡易ではありますが、このようなチェックリストがあります。(チェックリストの一部を紹介)
- 「え?」または「なに?」という言葉を1日に少なくとも5回あるいはそれ以上言う
- しばしば言われたことを間違って理解している
- 音の識別に関して困難を感じたことがある
- 背景の音がするとすぐに気が散る
- 聴覚チャンネルを通しての学習がうまくいかない
患者さんが実際に悩んでいることは?
年間200人ほどのAPDの患者さん診察されてきた「ミルディス小児耳鼻科 平野浩二院長」によると、このような事例が挙げられています。
- 横や後ろから話しかけられると聞こえない
- 飲み会などうるさい場所では話しが分からなくなる
- 電話やテレビ会議で相手がなにを言っているか分からない
- 話している人の口元をみないと理解できない
- 「ちゃんと聞いているのか」と注意される
- 画面に字幕がないと意味が理解できない
- 仕事でお客さんの注文が聞き取れない
こういった悩みが多いようです。
最後に
APDは、障害ですので基本的に治療できるものではありません。原因が睡眠障害などならそういった原因が解決されれば治療できるとは思いますが・・・
例えば、認知症の症状の原因が水頭症なら、「過剰に溜まった髄液量を減らす」などの方法で治療をおこなうことで、認知症状を改善することができます。
このように、原因によってはAPDの症状を改善できる場合もあるかもしれません。
とはいえ、そうでなければやはり対策が必要になります。
①相手の口元が見える位置で会話をする
②大きな声で話してもらう
③要件をメモでもらう
④代わりに電話をとってもらう
⑤聞き返したことを何度も答えてくれる
つまり、どうしても相手の協力が必要になります。そう考えると、先程紹介した救命士のように1分1秒を争うような仕事は物理的に難しくなるかもしれません。
参考
ミルディス小児科耳鼻科:聴覚情報処理障害で悩んでいる人は多い
→https://mildix.jp/
LEDEX:聴覚情報処理障害(APD)が生じるメカニズム
→https://www.ledex.co.jp/mailmag/20180406
音声言語医学:聴覚情報処理障害 (APD) について
→https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjlp1960/49/1/49_1_1/_article/-char/ja/
東洋経済:聞こえる言葉が理解できない人が直面する危険 APD・聴覚情報処理障害を知っていますか
→https://toyokeizai.net/articles/-/302189
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