前回、「そもそもがんってなに?」ついてがん検診を取り上げながらご紹介しました。
さて、そんながんに対する技術は日々進歩しています。
先日、ニュースなどで「1滴の血液で13種類のがんが99%の精度で検出できるよう技術が開発された!」なんて報道がありましたよね。
今回は、「どんな技術が開発されたのか?」について紹介します。
→がんの基礎知識についてはこちらの記事で紹介しています。
そもそも「いつから」研究されているの?
この研究は、「独立行政法人国立がん研究センター(略称:国がん)」が「独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」の支援で、がん分野での早期診断・治療と先制医療の実用化を目指して、次世代診断システムの開発プロジェクトが採択されたことが始まりです。
→「国がん」が「NEDO」の支援を受けて2014年度~2018年度までの5年間にわたって、「乳がんや大腸がんといった13種類のがんを1回の採血で発見できる次世代診断システムの開発」が始められました。
つまり、2014年から始まった新しいプロジェクトで、もともと2018年度までの期限付きだったことが分かります。
なぜ新しい診断システムが必要だったの?
前回の記事でも紹介しましたが、がん治療は早期発見の場合、約9割が治療できる時代になりました。このことから、がんを克服するためには「がんの早期発見」が必須となることが分かります。
さらに、これまで「大腸がん」や「乳がん」といった具合に、「がん」は種類別で治療が行なわれてきました。
ですが、2000年代にはいってからは、がんの原因となっている分子(タンパク質)や、その基となる遺伝子の解明が進んだことから、突然変異などのがんの特徴に応じて1人1人に適した治療=「個別化治療」
ができるようになりました。
つまり、現在のがん治療は「早期発見」と「個別化治療」が主流となっています。
とはいえ、さまざまな問題があります。
腫瘍マーカー
がん治療について調べると「腫瘍マーカー」という言葉をよく耳にします。
身体のどこかに腫瘍ができると、血液中や排泄物中にタンパク質や酵素ホルモンなどの特別な物質が増加します。
これが腫瘍マーカーです。つまり、「腫瘍の目印」となります。
→「このがんの場合は、この値が高くなる!」と基準が決められていて、その数値が目印=腫瘍マーカーとなります。
「腫瘍マーカー検査」をすることで、腫瘍の発生やその種類、進行度などを判断する手がかりとなります。
~課題~
腫瘍マーカー検査も血液検査を行ないますが、「腫瘍マーカーの数値が高い!」と分かっても、腫瘍が確実に存在しているわけではなく、良性か悪性かの判断もできません。
さらに言えば、「全ての臓器にできる!」と言われるがんが、実際にどの臓器にできているかも判断することはできません・・・
つまり、腫瘍マーカーはあくまでも補助的な役割でしかありません。
*前立腺がんや卵巣がんといった、一部の腫瘍マーカーは「早期がん」でも数値が上昇します。ただし、多くの場合は、「進行がん」にならないと数値が上昇しません。
→こういったことから、これまで簡単に早期発見につながる技術がありませんでした。(そもそも健診を受けても技術が未確立で早期がんがあったとしても見逃してしまうことが多い)
なぜ、こんなに騒がれているの?
そもそも、何を目的に開発されたの?
これまでお伝えしたように、「がん大国」と呼ばれる日本において、がんを早期発見するための技術はまだまだ未発達な状態です。
今回騒がれている技術は、国がんと国立長寿医療研究センターが蓄積している臨床情報と血液サンプルを利用して、マイクロRNAを大規模に解析することで・・・
- 病気が意識できない早期のがん
- 認知症の患者を発見できるマイクロRNA
- 個別症例の違いを予測するマイクロRNA
これらを明らかにすることで、「13種類のがん」と「認知症」にそれぞれ特徴的なマイクロRNAを組み合わせることで、2018年度末までに医療の現場で使用できる次世代診断システムを技術開発することが目的として始まったプロジェクトです。
つまり、がんだけでなく認知症分野での早期診断・治療や先制医療の実現が目標となっていました。
→この技術は、「新しい診断システム」であって、最新の治療技術(特効薬など)ではありません。もちろん、早期発見・治療ができれば治療もやりやすくなるため、そういう意味では新しい治療技術といえるかもしれませんが。
さて、これで目的を説明できていればいいのですが「結局、マイクロRNAってなに?」って思いましたよね。
マイクロRNAってなに?
~「マイクロRNA」ってこんなもの!~
そもそも、「がん」は細胞分裂したときに作られる異常な細胞です。
さて、そんな体作りの設計図となる遺伝子=DNAの配列情報は、RNAにコピーされタンパク質に変換されます。
つまり、マイクロRNAがあるおかげで私達は、遺伝子情報の「読み出し」と「実行」を正確にコントロールできています。
→がんは、マイクロRNAの異常が頻繁に起きている病気。
そして、マイクロRNAはがん等の疾患に伴って、患者の血液中でその種類や量が変動することが明らかになっています。
さらに言えば、こうした血液中のマイクロRNA量は抗がん剤の感受性や変化や転移、がんの消失等の病態変化に相関するため、全く新しい診断マーカーとして期待されています。
~マイクロRNAの可能性~
そもそも、がん組織で異常を示すマイクロRNAの中に、「がん細胞の増殖を強く抑制するものがある」ということがすでに発見されています。
そして、RNAでがん細胞を死滅させることができることも分かっています。
- がんの早期発見
- がん治療
こういった、がん治療への期待が集まっています。
*マイクロRNAは、血液だけなく唾液や尿などの体液にも含まれています。将来的には採血すらいらなくなるかもしれませんね。
さて、それではどんな技術なのでしょうか?
がんの常識が変わる!?
これまでお伝えしてきたように、がんの早期発見はまだまだ難しい段階にあります。
今回の技術が実用化されれば、さまざまなメリットがあります。
- たった1滴の血液で検査できる。(そもそも採血が必要なくなるかも)
- ステージ(進行度)に関わらず、95%以上の感度で検出できる。
- ステージゼロと呼ばれる粘膜内にとどまり内視鏡で切除できる「がん」も見逃さない。
- 13種類のがんを同時に発見できる。
これらは、新たにがんと診断された3,000人の血液でも精度が確かめられました。
そして、研究に参加した企業が検査キットの製造販売承認が19年内に厚生労働省に申請する(2019年6月の記事)とあり、すでに申請されているかも・・・
今のところ、血液1滴から13種類のがんが検出されています。
- 胃がん
- 食道がん
- 肺がん
- 肝臓がん
- 胆道がん
- 膵臓がん
- 大腸がん
- 卵巣がん
- 前立腺がん
- 膀胱がん
- 乳がん
- 肉腫→筋肉・神経・骨などの結合組織に発生する悪性腫瘍。
- 神経膠腫(しんけいこうしゅ:グリオーマ)→悪性の脳腫瘍の一つ。
実用化されれば、これまで大変だった検査が簡略化され、さらに精度が格段に上がることになります。
最後に
日本でがんは、生涯2人に1人が発症する病気です。
人間ドックなどで利用できるようになったとしても、まだまだ一般人が受けることは難しいでしょう。
ただ、保険適用され誰もが診断できるキットなどが普及すれば、がん検診を受ける人ももっと多くなるかもしれません。
そもそも、平成14年に制定された健康増進法に基づいて、市町村ではがん検診を実施しています。(がん検診の費用の多くが公費で負担されているため、一部負担でがん検診を受けることができる。)
さらに、市町村によっては「がん検診無料クーポン券」を配布している自治体もあります。
すでに、がん検診を受診できる体制はある程度整えられているため、あとは誰もが精度の高い検査を簡単に受けることができるようになれば、がん検診はもっと身近になるでしょう。
参考
国立がん研究センター:13種類のがんを1回の採血で発見できる次世代診断システム開発が始動
→https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2014/0613/index.html
→https://www.ncc.go.jp/jp/information/event/50th_event/science_cafe/panel_10.pdf
NEDO:乳がんや大腸がんを1回の採血で発見
→https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100275.html
腫瘍マーカーについて
→http://www.shinwakai-min.com/kyoto2hp/kanja/kenshin/pdf/tumor_marker.pdf
国立がん研究センター がん情報サービス
→https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/genomic_medicine/gentest02.html
→https://ganjoho.jp/public/cancer/glioma/index.html
a global initiatuve:肉腫とは?
→http://sarcomahelp.org/translate/ja-sarcoma.html
知っておきたいがん検診
→https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/contact/map/
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