これまで、貧血についてお伝えしていますが今回で3回目となりました。
貧血というと、「女性がなりやすい?」と考える人が多いかもしれません。
ですが、特に今回紹介する貧血は男性も陥りやすい貧血です。
それでは、「スポーツ貧血」についてご紹介します。
貧血の定義
貧血は、「単位容積の血液中に含まれているヘモグロビン(Hb量)が減少している状態」と定義づけられています。
世界保健機関(WHO)基準
- 成人男子 :13g/dl未満
- 成人女子・小児 :12g/dl未満
- 高齢者・妊婦・幼児 :11g/dl未満
理由はどうあれ、この基準に適応する場合に「貧血」とされます。
それでは、スポーツ貧血について見ていきましょう。
スポーツ貧血ってなに?
その名の通り、スポーツをすることで引き起こされる貧血のことです。
つまり、「男女を問わず貧血になりやすい!」という特徴があります。
それでは、なぜスポーツをすると貧血になりやすいのでしょうか?
①筋肉量が多くなる
筋肉は多くの酸素を消費します。
- へモグロビン→酸素を運ぶタンパク質。
- ミオグロビン→必要になる時まで、筋肉細胞に存在する酸素分子を貯蔵するタンパク質。
「ヘモグロビン」と「ミオグロビン」は、どちらも主成分は鉄です。
つまり、一般人に比べて筋肉量が多いスポーツ選手は、必然的にたくさんの鉄が必要となるため鉄不足になり、貧血になりやすいという特徴があります。
→「貧血と鉄の関係」については、こちらの記事で紹介しています。
②発汗
スポーツをするということは、散歩のような運動とはちがい、激しい運動になりますよね。
さて、エクリン腺と呼ばれる汗腺(かんせん)から出てくる汗には、鉄やナトリウムなどさまざまなミネラルが含まれています。
本来なら、エクリン腺には排出されたミネラルを再吸収する機構があるため、できる限り体外に出さないように調整することができます。
ところが、急激に激しい運動をすることで汗の再吸収機構が追いつかなくなるため、鉄をはじめミネラルが体外へと失われていくことになります。
③赤血球破壊
「破壊」というと、物騒に聞こえるかもしれませんが、結論からいえば自分で壊しています・・・
例えば、踏み込みなどが強い剣道やバスケット・マラソンなどは足に衝撃が加わります。
つまり、運動による衝撃で赤血球が壊れてしまうことがあります。
ちなみに、このような競技を行ったあと「赤い尿」が出ることまであります。
*運動を伴った赤色尿の場合は、通常は問題ないとされています。
④消化出血
特に、耐久性を要求される長距離走やマラソンといった運動をしている間、体内では筋肉や皮膚への血流は増加しますが、消化管への血流が減少します。
血流が減少すると、細胞が壊死していくことは皆さんご存じですよね?
実は、耐久性を要求されるスポーツを実施すると、消化管の上皮細胞は「酸素」や「代謝基質」を受け取ることができず、壊死や粘膜の出血を引き起こします。
- 「フルマラソンの試合後の便約1g中に、ヘモグロビンが約4mgも含まれていた!」なんてことも・・・
→1回の排便量が200gとした場合、フルマラソンを走ったときヘモグロビンが0.8gも失われることになります。
*体重40kgの女性の場合は、体内のヘモグロビンは約350~400gになるため長距離を繰り返すアスリートは貧血になりやすいという特徴がある。
このように、スポーツ貧血は激しい運動をすることで起きる貧血です。
また、踵(かかと)を打ち付ける衝撃で赤血球が壊され、ヘモグロビンが血球外に溶出する「溶血(赤血球が破壊される現象のこと)」により貧血を起こします。
軍隊で長時間歩く兵隊がよく起こしていたことから、昔は「行軍貧血」ともよばれていました。
足裏に強い衝撃が加わるスポーツは、特に注意が必要です。
どういった人が陥りやすいの?
女性に多い
神奈川県体育協会のスポーツ医学委員会
毎年、国体代表選手約1,000名の血液検査を行ったところ・・・
- 女子選手の約1/3が基準値以下。
- 極端な事例では、血液濃度が半分しかない。
- 練習熱心な選手。
- 体操など、競技のために体重を落としている女子に多い。
問題点は?
無理な減量をしてしまうと・・・
- スポーツ無月経
- 骨が脆く疲労骨折を起こしやすくなる。
など。
実際、「マラソン選手が疲労骨折をした状態で、這ってゴールした」というレースもありました。
また、無理な減量により引退を余儀なくされた女子マラソン選手もいらっしゃいます。
普段の食事と定期的な貧血チェックを欠かさないようにスポーツは行わないと、取り返しの付かないことになりかねません。
事例
①15歳男子バスケットボール選手
- 夏に、体育館で1日3時間の練習を週4日間続けた。
- 1ヶ月後の練習中に、横にならなければならないほどの全身倦怠感が出現。
当初は、「サボりだ!」とみなされていたが症状が継続するため肝炎の疑いで血液検査を実施。
鉄欠乏性貧血と診断。
約1ヶ月の運動休止と鉄剤投与で倦怠感は消失。
同様の症状は夏に出現するため、夏には鉄サプリメントを使用するようになった。
②17歳女子陸上長距離選手
- 1日約20kmのランニングを約1年半継続していたが、記録が伸び悩む。
- 生理が止まり、練習時の集中力も低下。
病院で血液検査を実施。
- ヘモグロビン値:9.5g/dl
- 血清鉄 :40g/dl
- 総鉄結合能 :40g/dl
先程の女性のヘモグロビン量は12g/dl未満からみてもかなり少ないことが分かるように、極度の鉄欠乏性貧血になっていました。
→鉄欠乏性貧血については、こちらの記事で紹介しています。
最後に
症状としては・・・
- 疲れやすい
- 食欲不振
- 全身倦怠感
- 頭痛
- 動悸
- 息切れ
- 眼瞼結膜蒼白(アッカンベーの状態で瞼の裏が白い)
- 爪の変形
- ボーッとする(集中力の低下)
こういった症状が現れます。
そして、記録の低下や伸び悩みにつながります。
また、先程の事例で紹介したように「サボリ」と捉えられてしまうこともあります。
夏場の場合は、特に熱中症の危険性などもあるため、異常を感じたら受診することをオススメします。
参考
今日の臨床サポート
→https://clinicalsup.jp/contentlist/1092.html
岡田外科医院
→https://www.okada-pain.jp/service/sport/
学校保健
→https://www.gakkohoken.jp/special/archives/214
ZAMST
→https://www.zamst.jp/tetsujin/icing/heat-exhaustion-and-anemia/
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