●この記事では、「フェースシールド」と「パーテーション」の効果についてお伝えしています。
前回、理化学研究所がスーパーコンピューター「富岳(ふがく)」を利用して飛沫拡散の様々なシミュレーション報告についてご紹介しました。
ところで、皆さんはテレビなどでもおなじみになったアクリル板などのパーテーションの効果について、疑問に感じたことはありませんか?
身近なところで言えば、飲食店など様々なお店で実際に使われていますよね。
他にも、フェイスガードなども使われていますよね?
今回は、そんな「コロナ対策に効果があるのか富岳のシミュレーション報告」についてお伝えします。
→富岳による飛沫感染シュミレーションについては、こちらの記事でも紹介しています。
「フェイスシールド」と「パーテーション」
フェイスシールド
以前、フェイスシールドについてご紹介しましたが、そもそもフェイスシールドは、「医療現場などで感染者と直接接触するリスクの高い場所で、医療用マスクや防護服、手袋などと併用して使われる物」です。
つまり、普段使いするようなものではありません。
さらに言えば、大阪府医師会 学校医部会では、このような見解が示されています。(2020年6月9日)
フェイスシールドは、相手の方からの咳、くしゃみの飛沫が本人の目に入るのを防ぐために使用する
とあります。
つまり、例えばマスクの場合なら「装着者の飛沫が外部に拡散させることを予防する効果」を期待して装着しますが、フェイスシールドの場合は、「相手からの飛沫から防ぐため」に使用されます。
これが、フェイスシールドの使い方の大前提であることを最初にお伝えしておきます。
→「フェイスシールド」については、こちらの記事でも紹介しています。
それでは、「富岳」のシミュレーションにより、フェイスシールドにはどのような効果があったのでしょうか?
フェイスシールドの効果
例えば、歌唱時のシミュレーションでは以下のような結果になっています。
→一般の人で、フェイスシールドを装着した状態で歌うことはそうそうないとは思いますが、あくまでもシミュレーションの話しですのでご了承下さい。
このシミュレーションでは、他者への「飛沫」や「エアロゾル(微粒子:5ミクロン以下の小さな飛沫)」による感染低減効果がシミュレートされました。
その結果、フェイスシールドでも大きな飛沫の飛散予防効果はある程度期待できることが分かりました。
ただし、エアロゾルのような微粒子になってしまうと、フェイスシールドではマスクよりも多くのエアロゾルが漏れ出してしまうことも分かりました。
ちなみに、マスクの場合も大きな飛沫に対する効果は高く、マスクを装着していないときと比較すると上気道に入る飛沫数を3分の1にすることができていました。
ただ、20ミクロン以下の小さな飛沫に対しては限定的なため、マスクをしていないときと同程度の飛沫が気管奥まで達してしまうことが報告されています。
つまり、マスクやフェイスシールドをしていたしても、屋内の換気対策や高濃度のエアロゾルの拡散など、エアロゾルに対する対策が重要になることが分かりました。
少なくとも、このシミュレーションにより、あらためてエアロゾル対策が感染対策に重要であることが明らかになっています。
そして、マスクやフェイスシールドを装着してもイメージしていたよりも、実際には飛沫などを防げていないことが分かっていただけるのではないでしょうか。
そもそも、フェイスシールドは前面以外は保護されていないためエアロゾルがフェイスシールドの隙間から侵入するであろうことは想像がつくと思います。
また、マスクをしていても一般のマスクではエアロゾルは基本的に防げませんし、そもそも目などから侵入されます。
「あくまでも、マスクやフェイスシールドは大きな飛沫を防ぐためのもの」と考えれば、正しい認識と言えるでしょう。
それでは、パーテーションにはどういった効果があるのでしょうか?
パーテーションには効果があるの?
シミュレーションには、2つずつの向かいあった机にそれぞれ1人ずつ座った4人一組のオフィスが想定。
ただし、向かい合って座りますが、1.9m離れています。
それでは、アクリル板などのパーテーションの高さはどれくらいの高さにすればいいのでしょうか?
パーテーションの高さは?
個人差はありますが、身長が約170㎝の人がイスに座ったと仮定してシミュレーションが行われました。(机の高さは0.75m)
その結果、机を挟んだ床面に設置したパーテーションの高さによって大きな違いが生まれました。
- 1.2m(パーテーションは、机から0.45mでている):不十分
- 1.4m(パーテーションは机から0.65mでている):効果あり
- 1.6m(パーテーションは机から0.85mでている):1.4mとほぼ同じ効果。
つまり、パーテーションは低すぎても意味がありませんが、一定以上の高さがあればそれ以上高くしても効果が変わらないことも分かりました。
さて、それではパーテーションを設置すること自体に、デメリットがないのでしょうか?
そもそも空調設備は、それぞれ換気性能が違いますよね。ですが、実はこの換気性能は一定ではありません。
もちろん、「点検」や「整備」などを怠れば換気性能は落ちることになりますが、原因はそれだけではありません。
パーテーション設置と空気の淀み
実は、空調設備の実際の換気量(実換気量)は、空気の流れに淀みがあるとそれだけ空気の入れ換えに時間がかかってしまいます。
とはいえ、確かにパーテーションを設置した方が若干、実換気量が悪くなるというシミュレージョン結果が出ていましたが、全体で見れば換気量はパーテーションの有無ではほとんど影響しないことが分かりました。
ただし、屋内の空気が全体的に汚れた状態で換気が開始された場合は、状況が一変しました。
シミュレーションの結果、屋内では局所的に換気の悪い場所ができてしまい、特にパーテーションをいれたときの「換気の悪い場所の差」が大きくなる結果になりました。
→換気の状況によっては、パーテーションを設置することで換気ムラが生まれてしまいエアロゾル感染のリスクが高まることが分かった。
このように、シミュレーションを行うことで飛沫の流れや換気の風の流れが分かり、新型コロナウイルスだけでなく、様々な感染症対策の一躍を担っていくことが期待されています。
最後に
感染症対策は、イメージした視覚的に分かりやすい対策をすることで安心してしまいます。
ですが、実際はイメージではなくエアロゾルのように目に見えない感染源への感染対策が重要になります。
そして、富岳を使ったシミュレーションは、私達の目では確認できない感染対策を視覚化してくれます。つまり、私達は目に見えない感染対策についても視覚的にイメージできるようになりました。
決して、マスクやフェイスシールド、パーテーションが無駄な対策ではなく、少なくとも私達の目にも見える大きな飛沫に対しては効果が高いことが分かっています。
あともう一歩、よりリアルな感染症対策ができるようになればいいですね。
参考
理化学研究所 計算科学研究センター
→https://kinkishiga.com/kosodatetyuuihou/byoukikanren/face-shield.html
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