前回、「日本で豚熱が2018年9月に26年振りに発生した」ことについてご紹介しました。
豚熱は、人間には無害ですが豚にとっては死の病といえる病気です。
さて、この豚熱により日本はワクチン対応をしていますが、2018年に岐阜県で豚熱が発生したため、「清浄国ステータス」が一時保留中でした。(日本は、2015年に豚熱の清浄国ステータスを獲得していた)
そしてついに、2020年9月3日、清浄国の認定を国際機関から取り消されてしまいました。
今回は、「清浄国が取り消された!?」についてご紹介します。
→「豚熱」については、こちらの記事で紹介しています。
そもそも「清浄国」ってなに?
農林水産省より
そもそも、「清浄国」というのはOIEが行う特定疾病のステータスの公式認定のことです。
ここでいう特定疾病というのは・・・
- 口蹄疫
- BSE
- 牛肺液
- アフリカ場疫
- 豚熱(CSF)
- 小反芻獣疫
これらの病気について、各国またはその一部地域状況を評価しています。
つまり、「豚熱はこれらの疾病の1つ」ということで、そもそも豚熱だけを警戒していればいいというわけではありません。
ワンポイントアドバイス! ~OIEは世界で唯一の獣医関係の国際機関~
OIEは、国際獣疫事務局(Office International des Epizooties)のことです。
1924年にパリで設立されて以来、約100年の歴史があり、日本は1930年に加入しています。2020年8月4日時点で、外務省によれば加盟国は182ヶ国・地域です。
主な役割
- 世界の動物(家畜・魚・ミツバチ等)の伝染病の情報収集と伝達
- 国際貿易規則の作成
- 病気の診断法およびワクチンの国際基準の作成
- 国際貿易計画の作成
- 研究計画の推進
- 国際貿易の推進
など、多岐にわたります。
さて、ここで問題になるのは、清浄国が取り消されたことによる日本の今後についてです。
そもそも、OIEは「動物衛生に関する国際基準を定める機関」として認められ、WHO(世界貿易機関)の動物衛生の技術的問題に関する諮問機関に指定されています。
つまり、もしも家畜・家禽・魚等の疾病で国際紛争が生じた場合、技術的問題はOIEの国際規則と診断法の基準に基づいて処理することになっています。
それでは、清浄国に復帰することはもうできないのでしょうか?
清浄国に復帰するには?
そもそも、条件を満たせば清浄国に復帰することはできますが、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。
農林水産省によると
・ワクチン接種を行わない場合、最終発生から3か月経過していること
・緊急ワクチン接種を行った場合、最終発生から3か月が経過し、かつ全てのワクチン接種豚がと殺されていること
・上記以外の場合、家畜豚において、12か月間豚コレラの発生や感染の証拠がなく、12か月間ワクチン接種を行っていないこと
つまり、ワクチン摂取がなくならない限り、清浄国への復帰はまだ当面難しいことになります。
日本の場合は、ワクチン接種が実施されているため「最終発生から3ヶ月が経過し、なおかつ全てのワクチン接種豚がと殺されるまで」は、清浄国の復帰が難しいことが考えられます。
ただ、日本の場合は野生のイノシシが豚熱を媒介していることが分かってきています。
とはいえ、そもそも野生イノシシが豚熱に感染していても適切に防疫ができていれば、清浄国認定にはなんの影響もないことが、農林水産省では示されています。
・国際獣疫事務局(OIE)の条件では、飼養豚が野生イノシシと適切に分離され、飼養豚への感染防止策がとられている場合は、野生イノシシで豚コレラが確認されていても、OIEによる清浄国認定に影響はない。
・同様に、野生イノシシにワクチンを接種しても、飼養豚が野生イノシシと適切に分離されていれば、清浄性復帰に影響することはない。
それでは、そもそもワクチンを摂取すれば問題は解決するのでしょうか?
ワクチン接種のデメリット?
当然、「防疫の徹底」や「ワクチンを接種した豚のと殺」をする必要があるため、畜産業にとってはこれだけで大きな痛手になります。
ただ、人間と同じようにそもそも「ワクチンを接種した!」と言っても、全ての豚が十分な抗体を得るとは限りません。
そのため、ワクチン摂取には「野外ウイルスの侵入を許す」・「侵入時の感染豚の発見を困難にする」といったデメリットがあります。
「豚熱に関する特定家畜伝染病防疫指針」については、こちらで紹介されています。120ページにわたり、「発生予防対策」や「蔓延予防対策」、豚熱の診断マニュアルなどが示されています。
それでは、具体的にワクチン接種によりどういった影響があるのでしょうか?
緊急ワクチン摂取(地域限定)
① 野外感染豚とワクチン接種豚との区別ができないことから、接種豚のトレーサビリティや移動制限等が必要になる
② 非清浄国となれば、他の非清浄国からの豚肉輸入解禁の圧力が強まる可能性がある
③ 消費者がワクチン接種豚の購入を控えることなど風評被害が生ずる可能性があり消費への影響が懸念される
④ 農家の飼養衛生管理水準を向上しようとする意欲がそがれ、アフリカ豚コレラ等の農場への侵入リスクが高まる可能性がある
予防的ワクチン接種(全国)
① 野外感染豚とワクチン接種豚との区別ができず、防疫に支障を来す(予防的接種は「特定家畜伝染病防疫指針」で認められていない)
② 非清浄国となれば、他の非清浄国からの豚肉輸入解禁の圧力が強まる可能性がある
③ 農家の飼養衛生管理水準を向上しようとする意欲がそがれ、アフリカ豚コレラ等の農場への侵入リスクが高まる可能性がある
④ 長期間のワクチン接種になれば莫大な費用がかかる
そもそも、「豚熱」と「口蹄疫」については、アジアでは日本が唯一の清浄国でした。
時事通信によれば、日本産豚肉の輸出は近年、年間約2000トンで推移しているようです。(国内産豚は、ほぼ国内で流通している)
さて、そんな日本の豚肉はこれまでブランド肉としても輸出されてきました。
ところが、日本の豚が豚熱により非清浄国になったことで輸出が制限され、そもそも出荷実績のない欧米などへの輸出はほぼ不可能になりました。
このように、非清浄国になったことで「国内での衛生管理の徹底」や「ワクチン摂取による費用」や、苦労して育てた「豚のと殺」など、経済的にも精神的にも大きな影響がすでに出ています。
そして、海外への豚肉輸入が難しくなり、今後の国際的なブランド化にもブレーキがかかってしまった状態にあります。
ただ、今は「豚熱」以上に危険視されているのが、「アフリカ豚熱(アフリカ豚コレラ)」です。
アフリカ豚熱とは?
有効なワクチンや治療法はなく、家畜保健衛生所への速やかな届出と、と殺が義務づけられています。また、人には感染しませんが、感染した豚・いのししやその肉を介して感染していきます。
さらに、感染してしまうとほぼ100%死亡
します。
2007年以降、世界で感染が進み2018年には中国にまで拡大し、日本の目前までやってきています。
→豚熱とは、全く違う感染症。
最後に
農林水産省は、空港や海港等での輸入検疫を強化しています。
例えば、ウイルスが付きやすい肉やハム・ソーセージなど、加工品が国内に持ち込まれないように監視しています。
また、そもそも豚熱などの病気がある国からの、生肉や加工品は輸入禁止になっています。
ところが、手荷物などに紛れさせて持ち込む人達がいます。
そのため、違反を繰り返すと家畜伝染病予防法違反で警察に告発することを旅行者に伝え、2019年9月の時点で、すでに4人が逮捕されています。
ちなみに、この検疫強化の一番の目的は「アフリカ豚熱」に対する対策です。
海外からの病気は、放っておけば簡単に拡がります。そして、それは人には直接害がないとしても家畜などには大損害を与え、最終的に人間にも大きな被害をもたらします。
さて、今回は豚熱から国際的なルールについて見ていきました。
新型コロナウイルスがおさまり、海外旅行が当たり前の社会になったとき、旅行先のお土産を持って帰るときは違反のないようにご注意下さい。
そして、日本が清浄国に戻るまでにはまだまだ時間がかかることになるでしょう。
参考
日本豚病研究会:口蹄疫清浄化に関する国際規則とOIEの役割
→https://tonbyo.com/proceedings/449.html
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