前回は、プロパンガスの安全性についてご紹介しました。
さて、都市ガスしか使ったことがない人にとって、プロパンガスを使う機会は今後もないかもしれません。
ただ、私のように引っ越した地域によっては、プロパンガスしか使えないかもしれません。
ちなみに、必ずしもプロパンガス=田舎ではありません。
実は、都心にあるオシャレなマンションやアパートですらプロパンガスの場合があります。
とはいえ、「プロパンガス」は「都市ガス」と違い、プロパンガス会社が勝手に料金設定をしていいことになっているため、入居者としてはできれば避けたいところですが・・・
さらに言えば、新築アパートなどの給湯設備やガス配管設置、ガスコンロ・エアコンといった設備の導入に300万円~500万円程かかるマンションオーナーの負担を、なんとプロパンガス会社が無償貸与として無償で設置することができるため、オーナーがプロパンガスを選ぶ場合が少なからずあります。
ただ、この無償貸与分は入居者がガス代に上乗せして、払わされることになります。
入居者泣かせである一方、ガス会社とマンションオーナーにとっては、とてもおいしいプロパンガスは、賃貸物件に引っ越す人にとって人ごとではないため、この点はよく覚えておく必要があります。
→2017年に「液化石油ガス法施行規則および運用・解釈通達」の一部が改正により、プロパンガス会社と家主との契約内容を入居者に開示が義務付けられている。
と言うことで、「プロパンガスは都市ガスよりも高くなる」という話しではなく・・・
今回はそんな、「いつ誰が使用することになってもおかしくない、プロパンガスの事故状況」についてご紹介します。
→前回紹介した「プロパンガスの安全性」については、こちらの記事で紹介しています。
そもそもプロパンガスによる事故は多いの?
前回の記事で、2018年度のプロパンガスによる事故件数は206件発生(死者:1人/負傷者:46人)していたことをお伝えしました。
平均すると、1.7日に1回はどこかでプロパンガスによる事故が起こっていることになります。(1週間で約4回)
とはいえ、実はプロパンガスによる事故は1979年と比較すると、大幅に減少しています。
1979年は事故が多発・・・
1979年に引き起こされた、一般消費者等に係るLPガス事故は793件発生し、その死傷者は888人にも上りました。
2018年と比較すると、件数だけ見ても約4倍の差がありますが、死傷者の数を見ると約19倍もあります。
ただ、1979年以降は徐々に減少し1997年には68件(死傷者数70人)となりました。
→1998年~2005年までは、それぞれ年間75~120件の発生状況だった。
ここで注目したいのは、2006年以降は事故件数が増加し139件~206件で推移しているという点もありますが、それ以上におかしなことに気付かないでしょうか?
確かに、2018年は206件もプロパンガスによる事故は発生していますが、死傷者は47人です。
ところが、最も少なかった1997年は68件しか事故が発生していないにも関わらず、死傷者は70人と事故件数を越えてしまっています。
このことからも、現在のプロパンガスは安全に使用できるもの
であることが分かります。
少なくとも、一般人が命に関わる事故に巻き込まれる可能性はほとんどないことになります。それでは、2018年に発生した206件の事故にはどういった原因があったのでしょうか?
2018年に起こったプロパンガスによる事故とは?
経済産業が発表した2018 年のLPガス事故発生状況より
事故の分類
そもそも、経済産業省ではプロパンガスによる事故が発生した場合、事故被害の大きさに応じて下記のように分類しています。
(1)A級事故
LPガス事故のうち、次のいずれかに該当するものをいう。
1. 死者5名以上のもの 2. 死者及び重傷者が合計して10名以上のものであって、1.以外のもの。 3. 死者及び負傷者(軽傷者を含む。)が合計して30名以上のものであって、1.及び2.以外のもの。 4. 爆発・火災等により大規模な建物又は構造物の破壊、倒壊、滅失等甚大な物的被害(直接に生ずる物的被害の総額が概ね5億円以上)が生じたもの。 5. 大規模な火災又はガスの大量噴出・漏えいが進行中であって、大きな災害に発展するおそれがあるもの。 6. その発生形態、影響程度、被害の態様(第三者が多数含まれている場合、テロによるもの等)等について、テレビ、新聞等の取扱い等により著しく社会的影響・関心が大きい(※1)と認められるもの。
(※1:NHK全国放送/民間全国放送/全国紙等で10社以上の報道がなされている場合を目安とする。)(2)B級事故
A級事故以外であって、LPガス事故のうち、次のいずれかに該当するものをいう。
1. 死者1名以上4名以下のもの。 2. 重傷者2名以上9名以下のものであって、1.以外のもの。 3. 負傷者6名以上29名以下のものであって、1.及び2.以外のもの。 4. 爆発・火災等により大規模な建物又は構造物の損傷等の多大な物的被害(直接に生ずる物的被害の総額が概ね1億円以上5億円未満)が生じたもの。 5. その発生形態、影響の程度、被害の態様(第三者が多数含まれている場合等)について、テレビ、新聞等の取扱い等により社会的影響・関心が大きい(※2)と認められるもの。
(※2:NHK全国放送/民間全国放送/全国紙等で3社以上の報道がなされている場合を目安とする。)(3)C級事故
A級事故及びB級事故以外のLPガス事故であって、次の「C1級事故」又は「C2級事故」のいずれかに該当するものをいう。
なお、「充てん容器又は残ガス容器の喪失・盗難」は、C2級事故として取り扱う。
【C1級事故】 ①負傷者1名以上5名以下かつ重傷者1名以下のもの。
②爆発・火災等により建物又は構造物の損傷等の物的被害が生じたもの。【C2級事故】 ①C1級事故以外のLPガス事故
つまり、A級・B級・C級のうちどの事故が多いかで、大まかな被害状況を知ることができます。
2018年の事故区分
- B級事故:2件
- C級事故:204件
それでは、もう少し詳しく見ていきましょう。
B級事故の2件は何があったの?
千葉県内の一般住宅の浴室において、住民1名が一酸化炭素中毒で死亡する事故が発生。長期間不使用であった開放式ガス湯沸器を再使用した際に、一酸化炭素が発生し、浴室内に流入したことが中毒に至った原因と推定される。
→一酸化炭素中毒により、亡くなられています。
*「B級事故:1.死者1名以上4名以下のもの」に当てはまる。
栃木県内の飲食店(LPガスの需要家)において、爆発・火災事故が発生し、従業員2名及び一般客3名の計5名が負傷(重傷2名、軽傷3名)。現在、LPガス漏えいに起因する事故か否かを含め、原因、事故発生箇所等について調査中。
→こちらはまだ調査中ですが、飲食店での爆発事故です。幸い死者は出ませんでしたが、5名が負傷する事故になっています。
*「B級事故:重傷者2名以上9名以下のものであって、1.以外のもの」に当てはまる。
それでは、どういった事故が多かったのでしょうか?
一番多い事故は?
プロパンガスによる事故件数のうち、142件は「漏えいに関する事故」で全体の68.9%
もありました。
例えば・・・
- 「漏えい火災:・漏えい爆発」:57件→全体の27%
- 「CO中毒・酸欠」 :7件(CO中毒事故:6件/酸欠事故:1件)→全体の約3.4%
つまり、「漏えいに関する事故」について、特に気をつける必要があるのですが、2018年の事故発生状況をみると一般消費者だけが原因とは限りません。
誰が、事故のきっかけになった?
- 一般消費者等に起因:64件
- 一般消費者等及びLPガス販売事業者等(保安機関の他、LPガス配送事業者を含む)の双方に起因:2件
- LPガス販売事業者等に起因:28件
- その他の事業者(「設備工事業者」・「充塡事業者」・「他工事業者」・「器具メーカー」)に起因:54件
- 雪害等自然災害:34件
- *その他:11件
- 不明(調査中・原因が特定できていないなど):13件
*「その他」は、「一般消費者等と他の事業者に起因するもの、販売事業者等と他の事業者に起因するもの、当該事故に係るLPガスの消費者ではない者(隣人、建物所有者、隣接施設の従業員、団地管理者等)に起因するもの、他工事業者と地盤の変動によるもの等。」
さて、一般消費者だけが原因の事故は、きっかけとしては確かに一番多いですが、事故全体の約30%しかありません。
例えば、「LPガス販売事業者等に起因」の28件を確認すると以下のようになっています。
- 供給設備の腐食等劣化 :15 件
- 設備工事や修理工事時の工事ミス・作業ミス:7件
- 容器交換時の接続ミス等 :3件
つまり、設備の劣化だけでなく「事業者のミス」による事故も発生しています。
さらに、自然災害による事故も発生してしまいます。
それでは、「あなたがプロパンガスを使っていなければ安全なのか?」といえば、そういうわけにもいかないようです。
2018年に発生したプロパンガスによる事故は、どこで一番起こっていたかご存じでしょうか?
「場所別」の事故発生状況は?
「場所別」では住宅が最も多い!
❶住宅:136件
- 一般住宅:86件
- 共同住宅:48件
- 寮・寄宿舎等(住宅部分):2件
→全体の約66%
➋業務用施設等:70件
- 飲食店:23件
- 学校:8件
- 旅館:1件
- その他(寮・寄宿舎等(居住部分以外)、病院、工場、事務所、倉庫、飲食店以外の店舗、福祉施設、公共施設、車両、充填所など):38件
→全体の約34%
つまり、プロパンガスによる事故は、住宅以外では飲食店で多く発生している
ことが分かります。
このことは、2018年に発生した場所別死傷者数を確認すると顕著に表れています。確かに、事故件数は住宅が圧倒的に多いですが、死傷者数でみると状況が変わってきます。
2018年の場所別死傷者数では状況が逆転する!?
住宅:9人
- 一般住宅:7人(死者:1人)
- 共同住宅:2人
- 寮・寄宿舎等:0人
→総死傷者数の約19%
業務用施設等:38人
- 飲食店:22人
- 学校:6人
- 旅館:0人
- その他:10人
→総死傷者数の約81%
*住宅での事故は多いですが、必ずしも死傷者がでるわけではありません。(2018年の死傷者は47人)
つまり、事故の発生場所としては確かに住宅での事故が多いですが、死傷者数を見ると業務用施設等の方が4倍以上も多い傾向が見られます。
このように、仮にあなたが都市ガスを使っていたとしても、一歩外に出ればプロパンガスを使っている場所は、意外にたくさんあります。
そのため、プロパンガスによる事故と無関係の人はいないことを理解しておく必要があるでしょう。
最後に
前回の記事で、プロパンガスは「液化石油ガス法」により、基本的に「災害防止」や「適正な取引き」がなされていることを紹介しました。
ただ、これはあくまでも「基本的」にです。
実は、2018年にも法令違反を伴う事故が 10 件発生しています。
-容器交換時等供給設備点検又は定期消費設備調査が適切に実施されていなかったもの
-緊急時連絡に対して、対応者不在により対応が遅れたもの
-容器交換時やメーター設置時の施工が不完全であったもの
-給湯器設置施工後の漏えい検査が適切に実施されていなかったもの
-未使用ガス栓の設置が適切な方法により実施されていなかったもの
-末端ガス栓と燃焼器の間の管が使用条件に適合していなかったもの
-バルク貯槽への充てん作業が適切に実施されていなかったもの
いまだに、こういった法令違反が行われているため、信用できる(技術力のある)事業者を選択する必要があることは、いうまでもありません。
私は何度か引っ越していますが、プロパンガスを使うのは今回が初めてです。
はじめは、「都市ガス用のコンロは使えない!」とのことで、プロパンガス用のコンロを購入するところからでした。
*私の場合は、そこまでガス代が上がったとは思いませんが他の場所は分かりません。
これまで、私にとってもプロパンガスは人ごとでしかありませんでしたが、実は全ての人にとって無関係ではありません。
あなたが外食をするときや、いつもの帰り道など、どこかでプロパンガスは使われています。
もちろん安全性は向上しており、基本的には命に関わるような出来事に遭遇することもないでしょう。
ただ、あなたが引っ越したオシャレなマンションではプロパンガスが使われていて、毎月のガス料金に驚くことになるかもしれません。
そして、2018年に発生した法令違反を伴う事故の 40%は、LPガス販売事業者等が原因者に含まれる事故でした。
くれぐれも、ガス回りは信頼できる事業者に依頼するようにして下さいね。そして、賃貸契約をするときは、契約内容をしっかり確認しないと後悔することになるかもしれません。
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