発信者情報開示請求に新しく加わるかもしれない? ~総務省の対策とは~

 

多くの人が利用しているSNSでは、日々様座な情報発信が行なわれています。

ただ、その中には看過できない誹謗中傷も数多くあります。そして、そんなSNSを使ったいじめやそれを苦にした自殺も後を絶ちません。

「指殺人」と呼ばれることまであります。

今回は、「総務省が検討しているSNSの情報開示」についてご紹介します。

 

そもそも、リツイートでも逮捕される!

例えば、Twitterには他人のツイートを一言一句変更せずに、自分の名前で書き込む「リツイート」という機能がありますよね。

簡単に他人に情報を拡散できるため、便利な機能です。

ですが、例えばTwitterの児童ポルノ画像を転載(リツイート)で3人が摘発された事件がありました。このように、リツイートしただけで刑事事件になった事例です。

さらに、2016年に発生した熊本地震の際に、Twitterで「動物園からライオンが逃げた!」と投稿して大騒ぎを起こした会社員が偽計業務妨害罪で逮捕された事件は、記憶に新しいのではないでしょうか。

さて、このようにこれまでもSNSにより逮捕された事例はありますが、今もSNS上の誹謗中傷は後を絶ちません。

そのため、総務省ではこのような対策が進められています。

 

「電話番号」が発信者情報開示請求の対象になる?

そもそも、「開示請求」というのはプロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)に定められています。

特定電気通信というのは、インターネット上のウェブサイトで行なう、誰もが閲覧可能な情報発信のことを言います。

ただし、実際に情報開示を請求できる場合は、以下の要件に合った場合に限ります。

第四条
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

つまり、発信者がインターネット上で違法な書き込みにより相手を「名誉毀損」や「誹謗中傷」などを行なえば、被害者に対して民法上、不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになります。

さらに、発信内容によっては「名誉毀損罪」や「業務妨害罪」等の刑事上の犯罪も成立します。つまり、SNS上の誹謗中傷などの違法行為は、「目の前の相手に危害を加えることと同じ」です。

勘違いしてはいけないことは、匿名で情報発信しているつもりでも発信者は特定できる点です。

そして、例えば損害賠償のために発信者情報開示請求が認められれば、以下のような発信者情報が開示されることになります。

 

発信者情報

総務省例では、発信者情報として以下の情報が定められています。

  1. 氏名
  2. 住所
  3. メールアドレス
  4. 発信者のIPアドレス/IPアドレスと組み合わされたポート番号
  5. 携帯端末のインターネット接続サービス利用者識別番号
  6. SIMカード識別番号
  7. 発信時間(タイムスタンプ)

そして、リツイートした場合はその情報の発信者は「あなた」となるため、発信情報によっては罪に問われることになります。

さて、このようにSNSの発信内容によっては罪に問われることがありますし、そもそも匿名ではありません。

総務省令によれば、上記の7項目が情報請求が認められれば、相手の個人情報を確認することができます。

ここからが本題ですが、総務省がこの発信者情報に新しく加えようとしているのが「電話番号」です。

 

なぜ、これまで電話番号は認められてこなかったの?

2020年6月4日『「電話番号」を発信者情報開示請求の対象に追加することについての検討』において、このように示されています。

・「本省令の制定時に、開示の対象となる発信者情報は被害者の被害回復に必要な最小限度の情報とするべきとの観点から、一般的に、開示関係役務提供者において発信者の電話番号を把握している場合には、その氏名及び住所等も把握していると考えられるため、開示の対象としないこととした。」
(逐条解説102頁注9)
・「電話番号やファックス番号を保有している特定電気通信役務提供者は、通常は氏名及び住所を保有しているものと想定される。法的な権利回復のためには、請求の相手方となるべき者を特定することが必要であるが、相手方を特定し、法的な権利回復措置を可能とするためには、氏名及び住所を開示させれば足り、あえて電話番号やファックス番号まで開示させる必要性は低いと考えられる。」
(平成14年 総務省令制定時のパブコメに対する総務省の考え方より抜粋)。

この二つが、これまで相手の電話番号が情報請求に含まれていなかった理由として挙げられています。

ですが、最近ではこういった事情が大きく変わってきました。

 

①二段階認証の普及

  • 不正ログインを防止するために、登録者の連絡先を本人確認を利用することが一般化してきているため、サービス提供をしているコンテンツプロバイダが連絡先をすでに保有しているケースが増加している。
  • 権利侵害を受けた場合は、このコンテンツプロバイダから発信者の電話番号の開示を受けることができれば、発信者の氏名や住所などが取得できるようになる。

→電話番号を情報開示に加えることは、「発信者を特定するために合理的に有用と認められる情報」という考えのもと検討されています。

 

②IPアドレスだけでは発信者を辿れなくなってきた

1つのドメイン名に複数のIPアドレスを割り当てることで、複数のサーバーを自動的に変更させる負荷分散手法が使われていたり、そもそも投稿時のIPアドレスやタイムスタンプの情報を保有してない場合まであります。

→IPアドレスを起点として通信経路を辿って発信者を特定していくことが困難な事例が増加している。

*①②どちらにしても、主要なコンテンツブロバイダはユーザー登録時などで本人確認のために電話番号を保有しているケースが多い。

→つまり、電話番号が情報開示に加わることで・・・

『コンテンツプロバイダから「電話番号」を取得した場合、取得した「電話番号」をもとに電話会社に対する弁護士会照会(弁護士法第23条の2)により契約者情報として発信者の氏名及び住所を取得すること』が想定されています。

*発信者の特定を、これまで以上にスムーズに行なうことができるようになる。

 

最後に

個人情報の保護は、「権利」です。

ただ、犯罪を犯したり疑われれば人権に制約を受け、刑務所に入れば囚人番号で呼ばれることになります。

というのも、もしも犯罪者にまで人権を一般人と同じように認めてしまえば、そもそも逮捕なんてできませんし、その他の人達の人権を守ることができなくなります。

さて、SNSの誹謗中傷は犯罪行為です。

そもそも、誹謗中傷をした相手の人権を侵害しているにも関わらず、「自分の権利だけは守って欲しい」というのはあまりに身勝手といわれても仕方がないでしょう。

当然、必要性が認められなければそもそも情報請求が認められないため、「認められた!」と言うことは、それだけ「悪質な可能性が高い」といえるでしょう。

気軽にできてしまうからこそ、過激になり炎上騒ぎは何度も引き起こされています。

ツイートだけでなく、ワンタッチでできるリツイートも犯罪に問われる可能性があります。気軽に扱えるSNSへの取締は、これからもどんどん厳しくなっていくことが予想されます。

「知らなかった」では済まされないため、法律の成立や改正には注意深く見ていった方がいいでしょう。


参考

ベリーベスト法律事務所:発信者情報開示請求とは
https://www.vbest.jp/personal/eraserequest/disclosure_request/

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です