前回、「天然記念物」について奈良の鹿についても少し紹介しました。
実は、この奈良の鹿も新型コロナウイルスの影響を間接的に受けてしまっているようです。
今回は、『「人間に振り回される奈良の鹿」と「デマ?」』についてご紹介します。
おかしなニュース報道が拡散・・・
ことの発端は、2020年9月24日に産経新聞の記事「 新型コロナ禍でやせ細るシカも せんべい依存で健康的な生活に戻れず」でした。
- 新型コロナは奈良公園周辺に生息する「奈良のシカ」にも影響を与えている
- 観光客が減り、一部のシカは「鹿せんべい」依存によって激やせ状態に
- 一方、主食の草を探し回り、野生に近い健康的な生活を取り戻すシカもいる
こういった内容になっています。
そして、ガリガリになった鹿の写真が掲載されています。
さて、記事内では北海道大の立沢史郎助教(保全生態学)が、「観光客が減り一部の鹿が「鹿せんべい」依存によって激やせ状態になっていると推測されている」
このように、記事内で説明されている部分があります。
これは、「調査の結果こういった可能性が推測される」と指摘しているだけです。
ところが、記事の主題は「新型コロナ禍でやせ細るシカも せんべい依存で健康的な生活に戻れず」となぜか断定されています。
また、NHKでは2020年7月10日に「奈良公園のシカが野生化?コロナで観光客が減って…」という報道もされていました。
こういった情報が誤解を生み、「デマの元」になりかねません。
それでは、『実際に奈良の鹿を保護している「奈良の鹿愛護会」では、痩せた鹿についてどのように考えられているのか?』気になりませんか。
と、その前に「そもそも鹿に関係するトラブルがこれまでなかったのか?」について確認していきましょう。
そもそも奈良の鹿は野生動物!
奈良市観光協会の公式ホームページでも説明されていますが、そもそも奈良の鹿は野生動物です。
鹿は神の使いとして古くから手厚く保護されてきており、天然記念物としても登録されています。
つまり、「奈良のシカ」は保護の対象ですが誰の物でもありません。
例えば、2015年の日本経済新聞の記事で「せんべいをやろうとしたらかまれた。奈良の鹿は狂犬病の注射を打っているのか」
このようなことを、中国人観光客に「奈良公園のシカ相談室」の室長がまくし立てられた内容が紹介されていました。
→中国では、シカに噛まれて狂犬病で亡くなる方が毎年多数発生しているが、そもそも日本ではそんな事例は一度もない。
さて、それでは、この記事にあるように奈良のシカに噛まれるなどして、なにか問題が起こった時は誰が責任をとると思いますか?
A.けがをされた方に対し「補償をする者はいない」
これが答えとして記事の中で紹介されていました。まあ、建前ですが・・・
そもそも、奈良のシカと周辺住民との問題は以前からありました。
昭和58年の奈良地裁
「鹿の所有者は誰か――神鹿による被害第一次訴訟(昭和58.3.25奈良地判)」がありました。
この裁判は、奈良の鹿愛護会(被告)に対して、鹿によって耕作物に被害を受けた奈良公園周辺の農民12名(原告)が、訴えた裁判です。
その理由は、2010年まで怪我をした観光客やシカの食害があった農家への対応を、「奈良のシカ愛護会」がになってきたためです。
ただ、裁判での被告の主張にもありますが、「奈良の鹿愛護会」には・・・
- 所有権も管理権もない
- 愛護会の業務は、鹿の保育業務。
- 管理者は奈良市猟友会。
- 保育行為は占有管理とは関係なく、親好文化伝承と野生動物を含む自然保護という国民的責務による慈善行為。
こういった事情がありました。
ですが、判決では「慰謝料部分の請求以外をほぼ全面的に認容。220万円と、その遅延賠償金の支払命令。」となりました。
報われないですね・・・
奈良の鹿は、1957年(昭和32年)に天然記念物として指定されています。
本来なら、「奈良県」や「国」が保護をすると思うかもしれませんが、こういった善意の形で個人個人が守ってきた歴史があります。
その後、2010年にようやく奈良県により苦情や相談窓口として「奈良公園のシカ相談室」が発足されましたが、現在は民間団体に所属しています。
- 奈良公園のシカ相談室:人への相談
- 奈良の鹿愛護会:鹿への対応
このように、今では分業して奈良のシカの保護活動がおこなわれています。
つまり、奈良公園のシカの状態を一番よく知っているのは、この「奈良公園のシカ相談室」と「奈良の鹿愛護会」の職員さん達ということになります。
それでは、痩せた鹿についてどのように考えているのでしょうか?
そもそも「鹿煎餅」はおやつ!
そもそも、鹿の主食は奈良公園に自生している「ノシバ」です。
他にも、「ササ」や「生葉」、「枯葉」、「どんぐりなどの種子類」などを食べています。
ちなみに、キノコ類なども食べているようです。
さて、それでは記事のように「鹿煎餅が食べれなくてガリガリ!」なんてことは本当にあるのでしょうか?
そもそも鹿煎餅は、主にイネ科の米ヌカで作られています。
また、鹿にとって害になる「砂糖」や「香辛料」などは使われていません。(特別な物は含まれていない)
確かに、鹿煎餅が好きな鹿はいるでしょう。私も、何度か鹿煎餅をあげたことがありその勢いは知っています。
ですが、命をかけてまで鹿煎餅にこだわるより、そもそも主食が目の前にたくさんあるわけですから「この見出しはおかしい?」と感じる人もいるのではないでしょうか?
読売新聞オンラインでは、こんな切実な状態が紹介されています。
報道は全て否定されている!
そもそも、奈良の鹿愛護会は「鹿は飢えていない」・「依存症にもなっていない」と否定しています。
Twitterでも、「ガリガリに痩せた奈良の鹿」について現地で確認した人達から疑問の声が上がっています。
それでは、痩せている鹿がいるとすれば原因はなにかと言えば、「人間」です。
例えば、パンくずなどを与える人がいますが、人間の食べ物を勝手に与えると添加物や香辛料などにより鹿はお腹を壊してしまいます。
また、もしもビニール袋を舐めておいしければそのまま食べてしまいます。
ですが鹿は、牛のように反芻をしますがゴミが邪魔をしてそれもできなくなります。
実際、ゴミをエサと間違い食べ続けて胃が圧迫されて栄養失調で死亡する鹿が問題になっています。
考えて見て下さい、「鹿煎餅が好きすぎて主食すら食べなくなった?」というのは可能性として考えることは大切なことだと思います。
ですが、見出しのように断定することはかなり無理があります。
もしも、本当にそんな鹿がいたとしても、「食べない原因が鹿煎餅が好きすぎるから!」と証明することはほぼ不可能でしょう。
つまり、最初からおかしな見出しになっています。
ですが、この記事を信じてエサを与える人達は一人や二人ではないでしょう・・・
最後に
今回は、少し考えれば分かりそうな誤解を招く情報についてご紹介しました。
さて、「奈良の鹿」にとって危険な存在は、「知識なく行動する人達」です。
残念ながら情報を鵜呑みにしてしまう可能性が高いため、知らず知らずに鹿の命を奪っていることになります。
それでは、そんな人達が「鹿煎餅が食ベられなくて餓死寸前!」なんて記事を見れば「かわいそう」だと思ってエサを与えに行く人がでてくるでしょう。
ただ、他の物も与えてしまうかも知れません。
実際、9月のシルバーウィークでは多くの観光客が詰めかけました。
そんな最中、口から泡を吹いて倒れている鹿が目撃され、2020年9月23日にはこのことが記事にまでなっています。
鹿のガリガリ写真がアップされたのは2020年9月24ですので、これからマナー違反者が増加するかもしれません。
ただ、今回の記事で「勝手にエサを与える危険性」を知識として持ってもらえたのであれば幸いです。
少なくとも、あなたは自分で調べることができる人なのですから生かすことができるでしょう。
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