新型コロナウイルスルの拡大により、政府は北海道に対して「国民生活安定緊急措置法」により2020年3月3日にマスクを生産・販売するメーカーに売り渡しを指示する方針を打ち出しました。
聞き慣れない法律ですが、こんなことができるのならもっと早くして欲しかったと思った人も多いのではないでしょうか?
とはいえ、この法律はその名の通り「緊急措置」です。
今回は、「結局、この法律はなにができるの?」についてご紹介します。
「国民生活安定緊急措置法」ってなに?
この法律は、1973年(昭和48)にできた法律です。さらにいえば、2020年3月になるまで改正は1度も行われていません。
第一条 この法律は、物価の高騰その他の我が国経済の異常な事態に対処するため、国民生活との関連性が高い物資及び国民経済上重要な物資の価格及び需給の調整等に関する緊急措置を定め、もつて国民生活の安定と国民経済の円滑な運営を確保することを目的とする。(この法律の運用方針)第二条 政府は、この法律に規定する措置を講ずるに当たつては、国民の日常生活に不可欠な物資を優先的に確保するとともに、その価格の安定を図るよう努めなければならない。2 政府は、国民生活との関連性が高い物資及び国民経済上重要な物資の生産、輸入、流通又は在庫の状況に関し、国民生活を安定させるため、必要な情報を国民に提供するよう努めなければならない。(標準価格の決定等)
つまり、政府主導の緊急措置として日常生活必需品を指定することで、指定した物資を確保し情報提供も行うことができるようになります。
→戦時中や震災時のような、配給制にすることもできる。
さて、法律ができた年代をみると知っている方も多いと思いますが、約50年前に発生したオイルショックによる混乱により制定された法律です。
当時は、1973年10月6日に第四次中東戦争が勃発。これにより便乗値上げも重なり石油価格が暴騰しました。これにより、石油とは直接関係ないトイレットペーパーや洗剤まで買い占めが行われました。
ということで、オイルショックの時代に実施された「国民生活安定緊急措置法」についてご紹介します。
1973年に施行され初めて実施された「国民生活安定緊急措置法」の中身とは?
標準価格制度
この法律ができたことで、国民生活に欠かすことのできない物資が異常に高騰したり、高騰の恐れがあるときに法律により価格を定めることができるようになりました。
→こうして決められた価格を「標準価格」と呼ぶ。
- 灯油ー18ℓ(380円)
- LPガスー10kg(1,300円)
- ちり紙ー白ちり紙800枚(一組:235円)
- トイレットペーパー55~65m(種類により220円~240円)
例えば、当時このような標準価格が設定されていました。
もしも、標準価格に従わない小売店は「立入り調査」や「店名の公表」などが実施。さらに、標準価格を指定された物資を売るすべての店は、標準価格と販売価格を対比させて消費者の見やすいように表示しなければいけませんでした。
*「標準価格で売らないといけない!」というわけではなく、標準価格以下で売っても問題ない。(そもそも標準価格以下で売られる方が望ましいというのが、「標準価格」と「販売価格」の関係)
当時は、「国民生活安定緊急措置法」だけでなく1973年4月1日に「生活関連物資等の買い占め及び売り惜しみに対する緊急措置に関する法律(買い占め防止法)」も定められました。
この法律は、生活必需品の買い占めや売り惜しみで多量に抱え込んでいる人達に対して、そういった行為を一切禁止するための法律です。
当時は、大豆、ちり紙など27品目が対象になっていました。
それぞれの法律の概要
国民生活安定緊急措置法
物価の高騰時に、生活関連物資等の価格及び需給の調整に関し、制令で指定した物資について以下の措置を規定されています。
- 生産を促進すべき食料等の物資の指定
- 標準価格等の設定
- 生産・輸入・売渡等に関する指示
- 割り当て・配給等
《罰則》
❶第34条:1年以下の懲役または20万円以下の罰金
・指定された物資を販売する物(主務省令で定める要件に該当する者は除く)は、帳簿を備え指定物資に係る経理に関して主務省令で定める事項を記載、保存しなくてはいけません。
→記載をしない・虚偽の記載をした・眺望を保存しなかった場合。
・指定物資を販売する者に対して、その業務もしくは経理の状況に関し報告、またはその職員にこれらの者の営業所・事務所その他の事業場に立ち入り、帳簿・書類その他の物件を検査させ、もしくは関係者に質問させることができる。
→報告をしない・虚偽の報告・検査を拒み、妨げ、忌避した者・答弁をしない、虚偽の答弁をした場合。
➋第35条:20万円以下の罰金
物資の生産を行う事業者は生産計画の作成・設備投資計画などを届出をしなかった者。
❸第36条:法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前二条(34条・35条)の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して、各本条の罰金刑を科する。
❹第37条:五年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金
第二十六条第一項(政令で、当該生活関連物資等の割当て・配給・当該生活関連物資等の使用・譲渡・譲受の制限・禁止に関し必要な事項を定める)の規定に基づく政令には、その政令やこれに基づく命令の規定・これらに基づく処分に違反した者。
または、これを併科する旨の規定・法人の代表者・法人・人の代理人、使用人その他の従業者がその法人または人の業務に関して当該違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する旨の規定を設けることができる。
つまり、指定された物資を適切に扱うために生産者や販売者に対して罰則が設けられています。
生活関連物資等の買占め及び売り惜しみに対する緊急措置に関する法律
こちらの「買占め等防止法」は、2014年に更新されています。
生活関連物資等の買占めまたは売惜しみに関して、政令で指定した物資について以下の措置が規定されています。
- 特定の生活関連物資等を指定
- 買占めまたは売惜しみの事実が認められる場合には、当該物資の売渡しの指示及び売渡し命令
《罰則》
❶第9条:3年以下の懲役または100万円以下の罰金。
第4条 1項
特定物資の生産・輸入・販売の事業を行う者が買占め、売惜しみにより当該特定物資を多量に保有していると認めるときは、その者に対し、売渡しをすべき期限及び数量並びに売渡先(内閣総理大臣及び主務大臣が当該特定物資の買受けにつきその同意を得た者に限る。)を定めて、当該特定物資の売渡しをすべきことを指示することができます。
→→この指示に従わない場合は、上記の罰則が係ることになります。
➋第10条:1年以下の懲役または20万円以下の罰金
特定物資の生産、輸入若しくは販売の事業を行なう者に対し、その業務に関し報告をさせ、又はその職員に、これらの者の事務所・工場・事業場・店舗若しくは倉庫に立ち入り、特定物資に関し、帳簿・書類その他の物件を検査させ、もしくは関係者に質問させることができます。
→報告をしない・虚偽の報告・検査を拒み、妨げ、忌避する・質問に対して答弁をしない・虚偽の答弁をした者には上記の罰則が係ることになります。
❸第11条:行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。
最後に
どちらの法律も、まずは確保する物資の指定を行うことから始まります。当然、指定の必要がなくなれば解除されます。
そして、2つの法律を組み合わせることで生産者・販売者・消費者のバランスを強制的に図ることが目的です。(需要と供給のバランスを保つ)
とりあえず、この法律で指定された物資は、基本的に国の管理下に置くことができるようになるようです。ただ、時代が違うため限定的な効力しか発揮できないかもしれません。
さて、約50年前に引き起こされた過去の混乱が、令和にはいり情報化社会がどんどん進んでいる現代でも引き起こされています。
人間の本質は変わらないのでしょう・・・
さらに、国民生活緊急措置法は約50年前の法律です。
当時は、そもそも今のように誰もが簡単に転売することはできませんでしたよね・・・
いまでは、不特定多数の人が不特定多数の人に対して、アカウントさえ取得できれば顔を合せることなく、いつでも・どこでも・いくらでも売買することができてしまいます。
仮に、アカウントが停止されたとしても新しいアカウントを作ることで、何度でも繰り返すことができてしまいますよね。
はたして、どこまで買占めをおさえることができるのでしょうか?
現行の法律を運用しながら、必要な改正を急ぐ必要があります。幽霊よりも、新型コロナウイルスよりも怖いのは、やはり「パニックに陥った人」ではないでしょうか。
参考
農林水産省:価格・流通の安定に関する法律の概要
→https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/4-4.html
みんなの県政:1974/3 富山
→https://www.pref.toyama.jp/1021/kensei/kouhou/naruhodo/document/archive_1974.html
コメントを残す