「健康を損ねない食品=虫が混入していない」ではない! 

 

皆さんは、「食品に異物混入」と聞くとどういったイメージがあるでしょうか?

当然、あまりいい気分はしないですよね。ただ、残念ながら日常的に発生しています。

今回は、「食品異物(特に「虫」)を100%回避することは不可能」についてご紹介します。

 

そもそも「食品異物」ってなに?

多くの人にとって、食品異物と言えば、「プラスチックなどの破片」や「虫」や「髪の毛」などを思い浮かべるのではないでしょうか?

確かに、「異物」というのは「生産・貯蔵・流通の過程での不都合な環境、取扱い方、製造方法などに伴って食品に侵入、迷入、または発生した固形物」を一般に指すため、上記のような目に見える異物もあります。

ですが、食品衛生上は食品汚染を示す形跡として・・・

  • 動物の尿
  • かじり跡
  • 足跡

など、こういった「痕跡」についても、異物として取り扱われます。法律的には、このようになっています。

 

法律による規制

第六条 次に掲げる食品又は添加物は、これを販売し(不特定又は多数の者に授与する販売以外の場合を含む。以下同じ。)、又は販売の用に供するために、採取し、製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない。
一 腐敗し、若しくは変敗したもの又は未熟であるもの。ただし、一般に人の健康を損なうおそれがなく飲食に適すると認められているものは、この限りでない。
二 有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いがあるもの。ただし、人の健康を損なうおそれがない場合として厚生労働大臣が定める場合においては、この限りでない。
三 病原微生物により汚染され、又はその疑いがあり、人の健康を損なうおそれがあるもの。
四 不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの。

つまり、食品衛生法では「腐敗」や「有毒な物質」が含まれていても、健康を損なう恐れがなければ販売しても問題ありません。

 

第三条 製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第三項第二号若しくは第三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。

つまり、消費者等から「製造物が原因で体や生命、財産を損ねた!」という訴えの因果関係が証明された場合は、損害を賠償する責任が発生しています。

PL法は、あくまでも「製造または加工された動産」のため、未加工の農林畜水産物は該当しない。

このように、法的には「異物混入の全てが悪!」ではなく、「異物混入により、なにかしらの損害が発生したときに責任が生じる」という考え方です。

それでは、なぜ2020年4月から始まった改正健康増進法のように「対策しなければ屋内での喫煙は禁止!」のように、「異物混入は全面禁止!」とならないのでしょうか?

 

異物混入の現実!

第 180 号 令和元年6月 1 日 食品衛生責任者・お知らせ版によると、2017年に保健所などに寄せられた食品に関する苦情は、東京都全体だけで5,164件もありました。

もちろん、全ての人が苦情を入れるわけではないため、実際はもっと多くの異物混入があったことが分かります。

とはいえ、過去10年間でみると2008年をピークに苦情数は減少しています。それでは、気になる食品苦情の内訳をみていきましょう。

 

食品苦情の内訳

  1. 有症・・・1,380件(26.6%)
  2. 異物混入・・・918件(17.7%)

→「有症」とは、食中毒症状のことで、因果関係が証明されれば先程紹介したように法的に罰せられることになります。

それでは、本題の「異物混入」にはどういった物が多かったのでしょうか?

 

異物混入の内訳

  • 虫(ゴキブリやハエなど)・・・266件(29%)
  • 動物性異物(髪の毛など)・・・127件(13.8%)
  • 鉱物性異物(金属片など)・・・117件(12.7%)

さて、この年の東京都で集計された食品苦情の異物混入の内訳では、「虫が圧倒的に多い!」という結論になります。それでは、食品苦情の全体でみるとどうでしょうか?

そもそも、東京都全体で寄せられた食品苦情は5,164件もありました。そのうち、「虫が入っていた!」という苦情は266件。

つまり、食品苦情のなかで虫が混入していたのは、全体の約5%ということになります。この数字が少ないか多いかの判断は、人によって違うとは思います。

ただ、ほとんどの人はそもそも異物混入のなかでも「特に虫の混入は1匹でも、そのかけらでも許せない!」と考える人が多いのではないでしょうか?

かくいう私も、虫が食品に混入していれば食欲が失せるため避けたい所です。ただ、この5%の数値は実はとてもすごいことだったりします。

まずは、どんな虫による異物混入事例があるのか見ていきましょう。

 

食品に虫が混入していた事例!

日本では、異物の混入が見つかるとメディアで大々的に報道されることになります。

最近では、それだけでなくSNSにより誰もが情報を発信するため、あっという間に情報が拡散してしまいます。

つまり、法的な「健康を損なう恐れ」とは関係なく、異物混入があればその企業が不特定多数からの集団リンチにあうことになります。

 

実際にあった事例

①「即席焼きそばへのゴキブリ混入」(2014年2月に発生)

ツイッターでその写真が投稿されたことで、食品会社が保健所に連絡。その後、ニュースサイトにも掲載され最終的に全24商品の製造・販売中止と自主回収がなされました。

 

②ツナ缶詰にゴキブリ混入(2016年10月)

ニュース報道により発覚。

  • この事案の場合は、会社が事実を隠していた(分かっていたのに公表しなかった)こと。
  • 同社は、「同様の申し出がないため自主回収をしない」とHPで掲載したこと。
  • こういった対応にネット上で炎上
  • その後、別の異物混入が発覚しさらに炎上

このように、確かに会社の対応の失敗は見られますが、基本的に消費者に異物混入(特にゴキブリ)は認められることはありません。

それでは、こういった異物混入はなぜ起きるのでしょうか?

 

異物混入の原因は?

  1. 海外の製造工場の立地環境に起因する場合が多い。
  2. 作業者の過失ではないことが大半。
  3. 偶発的な飛来侵入によるものと推察されるケースが多い。

つまり、製造工場内部で虫が繁殖していることはまずなく、むしろ清潔な製造工場であっても、周辺が森林や河川、海岸など昆虫がそもそも豊富にいる自然環境である場合に異物混入が生じることになります。

さらに言えば、そもそも欧米諸国や東南アジアよりも、日本の方が適度に温暖で高温多湿なため、様々な昆虫の繁殖に適しています。

それでは、日本よりも虫が繁殖しにくい「訴訟大国」とも言われるアメリカでは、異物混入(特に「虫」対策)はどのように対処されているのでしょうか?

 

FDAが定める「食品欠陥レベルハンドブック」

FDAとは、アメリカ食品医薬局の略称で食品等を取り締まるアメリカ合衆国の政府機関です。そのFDAが食品異物混入基準として細かく定められているのが「食品欠陥レベルハンドブック」です。

おそらく、日本人がみたら卒倒しそうな基準になっています。それでは、その一部を紹介します。

 

食品欠陥レベルハンドブックに示されている異物混入基準例

  • アプリコット、缶詰・・・カウントで平均2%以上が昆虫によって損傷または感染している
  • カレー粉・・・25g当たり、平均100以上の昆虫の破片
  • マカロニと精製面・・・6つ以上のサブサンプルで225g当たり平均225以上の昆虫の破片

他にも、事細かに基準がたくさん書かれていますが、正直気持ち悪くなってきたので、ここまでにしておきます。詳しく知りたい方は、上記の「ハンドブック」のリンクから確認してみて下さい。

→2005年に最後の修正がされている。

そして、この基準の根拠としてFDAはこのように述べています。

FDAがこれらの行動レベルを設定したのは、無害で自然に発生する不可避の欠陥がまったくない生製品を栽培、収穫、または処理することが経済的に非現実的であるためです。

つまり、「食品においても、自然に発生する異物(虫など)を100%処理することは経済的に不可能」だと結論づけています。

そもそも、日本では種類にもよりますが、虫が1匹でも混入していれば企業にとって致命傷になりかねませんが、アメリカの基準では全体の⚪%という考え方です・・・

このことから言えることは、アメリカが不可能だとした基準を、日本は軽々と超えてしまっている姿が見えてくるのではないでしょうか?

5%の食品昆虫異物を達成することが、どれだけ難しいか分かっていただけたのではないでしょうか?

 

最後に

食品衛生で1番に考える事は、「虫が混入していること」ではなく、「健康を損ねない食品であること」です。

この点は、日本もアメリカも同じです。

ただ、少なくとも日本人の多くは虫が混入していれば、その虫の種類にもよりますがその時点で捨ててしまいますよね・・・

実際、感染症を媒介する昆虫もいるため、もちろん注意は必要です。


今回の記事でお伝えしたかったことは・・・

①異物混入は100%防ぐことはできないこと。

→これは、どんなに消毒などの対策をしても、食中毒(有症)が毎年発生してしまうことからも分かるのではないでしょうか?

②日本の虫による、異物混入削減の達成率がいかに高いのか。

今回の記事で注目したのは、この2点です。海外の基準に合せることが、必ずしもいいとは限りません。

最近は、国際基準がもてはやされる傾向にありますが、まずは日本の基準と比較してから考える必要があるのではないでしょうか?


参考

フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP) 第3回 食の安全・信頼に関する新たな知見の蓄積勉強会 資料
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/fcp/torikumi_jirei/attach/pdf/torikumi_jirei-1.pdf

MHCL:食品異物とは
https://www.mhcl.jp/workslabo/ibutsu/ibutsu_01

 

 

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