乳幼児の「イオン飲料」といえば、どんなイメージがありますか?
テレビなんかでも、経口補水液(OS1)やスポーツドリンクなどが紹介され、「水分補給の代表格」としてCMでも子どもが起用されるなど、老若男女問わず体にいい飲料というイメージが先行してしまっているのではないでしょうか?
確かに、乳幼児にとっても水分補給にはうってつけですが、飲用の仕方を間違えると取り返しが付かなることが報告されています。
今回は、「乳幼児の健康被害とイオン飲料」についてご紹介します。
水分補給には最適!
イオン飲料やスポーツ飲料などは、電解質を含む飲料のことです。簡単に言えば、浸透圧が調整されているため、素早く体内で吸収できると言われています。
ただし、糖分を多く含んでいます。
例えば、ベビー用のイオン飲料も販売されており、私も時々購入しますがベビー用であっても薄く調整されているとはいえ、糖分が含まれています。
→経口補水液は「水分が吸収されやすい」。イオン飲料は「糖分が追加されており飲みやすい」といった違いがあります。
ちなみに乳幼児の場合、イオン飲料は1日200ml程度を上限にすることが母子栄養協会では指摘されています。
それでは、イオン飲料水の多飲により、乳幼児にどんな健康被害が引き起こされているのでしょうか?
ビタミンB1は含まれていない!
あまり知られていないようですが、イオン飲料にはビタミンB1が含まれていません。
ビタミンB1というのは、「糖質からのエネルギー産生と皮膚や粘膜の健康維持を助ける働き」をしています。また、糖質を栄養源として使っている脳神経系の正常な働きにも関係しています。
ビタミンB1が欠乏すると・・・
脚気(かっけ)
全身の倦怠感や食欲不振、歩きにくくなったり、足のむくみやしびれの症状といった神経障害が現れます。江戸~昭和初期まで多くの死者を出したとても怖い病気です。
→「インスタント食品中心の食生活をしている現代人に、再び脚気予備軍が増えている」言われており、昔の病気ではありません。
ウェルニッケ脳症
一般的には、慢性的なアルコール中毒や妊娠中のつわりが挙げられます。
例えば、アルコール中毒の場合はそもそも食事をとらずにアルコールばかりを摂取しがちになります。そのためビタミンB1どころか栄養失調や栄養機能の低下・肝機能障害も同時に発生します。
肝機能が低下すると体内での貯蓄量も低下し、より糖質やビタミンB1欠乏が引き起こされます。
ウェルニッケ脳症の症状としては、見当識障害(自分がどこにいるのか分からなくなる、相手が誰か分からなくなるなど)や周囲への無関心。他にも、眼球運動障害などがあります。
→重症化すれば、昏睡から死にいたる場合もあります。
このように、ビタミンB1欠乏は命に関わる場合があります。
それでは、なぜそもそもイオン飲料を多飲することで、ビタミンB1欠乏が引き起こされるのでしょうか?
ビタミンB1と糖分
先程、「イオン飲料にはビタミンB1は含まれていない」とお伝えしましたが、糖質は入っています。
それでは、糖質を分解するためになにが必要か知っていますか?
答え.ビタミンB1
つまり、イオン飲料を飲めば飲むほど、ビタミンB1は欠乏していくことになります。
ただ、大人ならビタミンB1が多く含まれている豚肉やレバー、豆類など食事により自然に摂取することができます。
ところが、乳幼児がイオン飲料を飲む場合は、ミルクや離乳食を食べないときが多いのではないでしょうか?
イオン飲料は甘いため、私の子ども達もそうでしたが、イオン飲料は飲んでくれることが多いです。
ですが、さすがにイオン飲料だけでは栄養が摂れないため、多くの親御さんは、なんとかミルクや離乳食を食べさせようと悪戦苦闘するため、結果的にビタミンB1欠乏に通常なら乳幼児はなりにくいと考えられます。
イオン飲料の多飲とは?
愛知医科大学 小児科の報告によるとこんな事例があります。
《生後8ヶ月の男児が下痢になり、その頃から体重増加が不良になった事例》
受診時、医師からイオン飲料水による水分補給を勧められ、試した結果、乳幼児はイオン飲料水を好むようになりました。ただ、その後は大量に飲むようになってしまい、離乳食が進まなくなってしまいました。
- 次第に、イオン飲料水の摂取量が増え1日2~3Lという量にまで達していた。
- 体重は、7kg台でずっと増加していなかった。
- 生後11ヶ月となり、発熱のため近くの病院を受診。
その結果、低Na血症を指摘され8日間入院。退院した日から、「両眼球が内方へ変異する」というウェルニッケ脳症の症状が現れ、嘔吐も出現し再入院。
→「中等度の知的障害」と「左片麻痺」が、後遺症として残ってしまいました。
極端な事例と思われるかもしれませんが、実はその後の調査報告によるとイオン飲料水の多飲によるビタミンB1欠乏症の症例は33例見つかっています。
そして、報告はこのようにまとめられています。
報告まとめ
- 症例は乳幼児に限られ、発症前には健康だった可能性が高い。
- 家庭環境の問題が高率。
- 1日1L以上のイオン飲料を数ヶ月以上摂取していた。
- 感染症罹患が多飲のきっかけとして最多。
- 症状や検査所見は非特異的で、早期診断の困難さがみられた。
極端な事例!?
乳幼児のイオン飲料は、例えば1本500mlで売られています。ですが、1日200ml以内が目安となれば、その半分以下が適量となります。
また、1日2L~3Lということは、4本~6本を飲んでいたことになります。乳幼児がはたしてこれだけの量を飲めるのか信じがたいですが、イオン飲料しか摂取していないのなら確かにありえる話しです。
実際、調査報告でも通常に摂取していたのは8%(2例)だけで、ほとんどの事例で離乳食はほとんど摂取できていなかったようです。
当たり前のことですが、医師からイオン飲料を勧められたからといって、それだけを飲ませればいいわけではありません。
そもそも、長期間飲み続けた結果引き起こされた病気であり、数回多飲しただけで引き起こされるわけでもありません。
極端な事例と言えるかもしれませんが、逆に言えば、「極端に反応してしまう親がいる」ということなのかもしれません。
あくまでも、風邪のときや汗をかいたときの水分補給として、短期間の使用に留めて下さいね。
そして、普段の水分補給は「白湯」や「麦茶」などを摂取するようにしてあげて下さいね。
最後に
大人は体ができあがっていますが、子ども特に乳幼児は未発達なため影響が出やすくなってしまいます。
100%健康にいい食べ物はありませんし、どれだけ食べてもいい食べものもありません。
そもそも、ほとんどイオン飲料しか口にしない期間が2日・3日それ以上も続くようなら、普通は再度医療機関に受診させるはずなんですが・・・
1度目の医師の指示でイオン飲料が勧められたことが影響していると考えられる事例でもあり、医師は1日の摂取量を提示する必要があったのでしょう。
ただ、乳幼児に数ヶ月も大量に飲ませ続けるのは、やはり異常だと言えます。(500ml~1L程度でもビタミンB1欠乏症になっているため、少なくとも1日で1本以上飲むのは止めた方がいいでしょう)
今回の病気は、家庭環境の問題が浮き彫りとなった病気ともいえます。
「イオン飲料は悪!」という極端なことが言いたいのではなく、極端な飲用にならないように医師に確認しながら子どもの様子をみてあげて下さいね。
参考
母子栄養協会
→https://boshieiyou.org/isotonic_drink
イオン飲料水の多飲によるビタミンB1欠乏症
→http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/shokuiku_12-3.pdf
Medical Note:ウェルニッケ脳症
→https://medicalnote.jp/diseases/%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%B1%E8%84%B3%E7%97%87
タケダ健康サイト:脚気(かっけ)
→https://takeda-kenko.jp/navi/navi.php?key=kakke
グリコ:ビタミンB1
→https://www.glico.co.jp/navi/dic/dic_19.html
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