熱中症の種類と危険性 ~炎天下のスポーツは「命がけ」!?~

 

皆さんは、「熱中症」というとどんなイメージがありますか?

脱水症状?けいれん?失神?

実は、どれも同じ熱中症による症状です。ただし、どれも熱中症が起こる原因は違います。

今回は、「特に子どもに危険な熱中症」についてご紹介します。(今回はおもに、熱中症の原因と種類・危険性についてご紹介しています。)

 

熱中症対応策については、こちらの記事で紹介しています。

熱中症は思わぬタイミングで発生!? ~現場で解決できる救命タイミングはごくわずか~

 

「日常生活や運動時」で気をつけないといけない気温(温度)については、こちらの記事で紹介しています。

「高温注意情報」と「暑さ指数(WBGT)」~命に関わる35℃以上の意味とは?~

 

熱中症ってなに?

例えば、「認知症」という病名はありません。これは、特有の症状を示す状態を総称する言葉です。ちなみに、認知症を引き起こす病気は・・・

  • アルツハイマー型認知症
  • 脳血管性認知症
  • レビー小体型認知症
  • 前頭側頭型認知症(ピック病)

が代表的なものです。もちろん、他にも認知症状がでる病気はたくさんあります。


熱中症も同じです。

そもそも、「熱中症」とは暑い環境で生じる健康被害の総称です。つまり、「熱中症」という病名はありません。

それでは、私達の体温調整はどのようにバランスがとられているのでしょうか?

 

「産熱」と「放熱」

普段、私達の身体は「産熱」と「放熱」のバランスがとれている状態です。

 

産熱

そもそも、私達は生きるために「代謝」が必要ですよね。

「代謝」というのは、生物が食べ物などを取り込み、脂肪や糖などを燃焼してエネルギーを生み出す作用のことです。

ちなみに、なにもしていなくても「心臓を動かして・脳を働かして・バランスを保つために筋肉が調整されて・・・」といった具合に、なにもしていなくても消費されていく代謝を「基礎代謝」といいます。

このように、そもそもなにもしていなくても、「内臓を動かしたり・体温を維持したり」と、生きているだけで私達は熱を発生(産熱)させています。

ですが当然、熱を身体にため続けることはできません。そのため、身体にたまった熱は放熱する必要があります。

 

放熱

体内で作られた熱(産熱)を外に逃がす(放熱)ことで体温調節をしています。

 

◎放熱量が変化◎

  • 暑い日→放熱が小さい
  • 快適な日→放熱が適度
  • 寒い日→放熱が大きい

このように、その時の状態で放熱量を変化させることで体温調節をしています。さらに、放熱の仕方には3種類あります。

 

◎放熱の仕方◎

  • 熱伝導・・・空気の温度が関係する。
  • 気化・・・空気の湿度が関係する。
  • 放射(輻射:ふくしゃ)・・・周囲の固体(壁や天井、家具など)の温度が関係する。

熱は、高温物体から低温物体へと移動していきます。


つまり・・・

  • 冬場なら人の方が体温が高いため、周りの温度の低いものに熱を奪われていきます。
  • 夏場は周りの方が熱いため(コンクリートなど屋外で接しているものなどから)、人体に周りの熱が集まります。

このように、産熱と放射のバランスがとれているため、私達は生命活動を維持することができます。それでは、熱中症とはどういった症状なのでしょうか?

 

体温バランス

冒頭でお伝えしたように・・・

いつも、私達の身体では熱が作られています。(産熱)

⇊ ⇊

身体の熱を外に出して逃がす。(放熱)

⇊ ⇊

こうして私達の体温は、36~37℃に保たれています。

ところが、運動や仕事など身体を活発に動かすと、筋肉でたくさんの熱が作られ、体温が上がります。(活発に動かなくても、「暑いところ」・「日差し」・「照り返し」でも体温が上がる。

→普通なら、体温が上がっても身体の表面に流れる血液の量が増えることで、体内の熱を身体の外に逃がしやすくなります。

ですが、バランスが崩れることでさまざまな病気(熱中症状)を引き起こします。

 

熱中症状を引き起こす病気とは!?

熱中症の4つの分類

 

1.熱失神

体温が上がっても、普通なら身体表面に流れる血液の量が増えることで、体内の熱を身体の外に逃がしやすくなるのですが・・・

血液が身体全体に行き渡り、一時的に血液が足りなくなり血圧が下がることがあります。つまり、脳に十分な血液が送られず、酸欠状態になる場合があります。

つまり、「突然パタン!」と倒れることがよく起こります。具体的には・・・

  • めまい
  • 立ちくらみ
  • 意識を失う

といった症状が現れます。つまり、熱により失神していまいます。

 

2.熱疲労

著しく体温が上昇すれば、私達は汗をかくことで体内の熱を外に逃がしますよね。

ところが、汗をかいて体内の水分を失っているにも関わらず、十分な水分が摂れないと脱水状態を引き起こします。

脱水状態が続くと・・・

  • 全身倦怠感
  • 悪心(吐き気)
  • 嘔吐
  • 頭痛

といった症状が見られます。このように、脱水により体内に熱がこもり現れる症状を「熱疲労」といいます。

 

3.熱痙攣(ねつけいれん)

私達は、体温が上昇すれば運動の有無に関わらず、寝ている時でさえ汗をかきますよね。汗をかくことで、汗が蒸発するときに身体の表面の熱を奪い、身体を冷やしてくれています。

→夏に道路へ打ち水をすると、涼しく感じることと同じ理屈です。


さて、この汗の中には電解質(イオン)が含まれていて汗をかくと水分だけでなく、電解質も失われていきます。

 

◎電解質の働き◎

  • ナトリウムイオン(NA⁺)・・・身体の水分量・浸透圧の調節・神経の伝達・筋肉の収縮など。
  • カリウムイオン(k⁺)・・・神経の伝達・筋肉の収縮・心臓の収縮など。
  • マグネシウムイオン(MG²⁺)・・・筋肉の収縮・骨や歯をつくる・酵素の活性化など。
  • カルシウムイオン(Ca²⁺)・・・神経の伝達・筋肉の収縮・骨や歯をつくる・血液を固めるなど。
  • クロールイオン(Cl⁻)・・・身体の水分量・浸透圧の調節・胃酸の分泌など。

電解質には、このような働きがあります。


電解質とはその名の通り、「水に溶けると電気を通す物質」のことです。また、電解質は少なすぎても多すぎても細胞や臓器の機能が低下し、命に関わることがあります。

さて、汗でもっとも失いやすい電解質は、血液中に最も多いナトリウムつまり塩分です。そのため、汗をかいた時に水だけを飲んで塩分を補充しないと、身体の中の塩分が不足していきます。

ナトリウムイオン(塩分)の役割の1つは、筋肉の収縮を調節することです。つまり、「手足がつる」など筋肉の痙攣を引き起こすことがあります。

→これが、「熱痙攣」です。

「水分補給だけではなく、塩分補給も必要だ!」と言われる理由もうなづけますね・・・

 

4.熱射病

体温が上がりすぎて、体温を調節する働きが追いつかなくなると脳にまで影響がおよび「倒れる・意識障害」といった状態に陥ります。

症状が進行し、40℃以上の高熱が見られ発汗も止まり、体温調整が失われた状態です。これは熱中症の中でも、身体にとって非常に危険な状態です。

ただ、1~4の熱中症の区分では見分けが難しいため、最近ではⅠ~Ⅲ度分類が適用されることが多くなってきたためこちらもご紹介しておきます。

 

Ⅰ~Ⅲ度分類

新分類 症状 対処 従来の分類
Ⅰ度
  • めまい
  • 大量の発汗
  • 筋肉の硬直(こむら返り)

(意識障害を認めない)

通常は現場で対応

  • 冷所での安静
  • 体表冷却
  • 経口的水分にNaの補給
  • 熱失神
  • 熱痙攣
Ⅱ度
  • 頭痛
  • 嘔吐
  • 倦怠感
  • 虚脱感
  • 集中力や判断力の低下
医療機関での診療が必要

  • 体温管理
  • 安静
  • 十分な水分とNaの補給

(経口摂取が困難な時は点滴)

  • 熱疲労
Ⅲ度

(重症)

下記のいずれかを含む

  1. 中枢神経症状
  2. 肝・腎機能障害
  3. 血液凝固異常
入院加療が必要

(場合により集中治療)

  • 熱射病

*個人(現場)で対応できるのはⅠ度(「熱失神」と「熱痙攣」)までです。それ以上の症状があれば、速やかに受診。(場合によっては救急車を呼ぶ必要があります)

 

熱中症の本当の怖さ!

例えば、昔(昭和)は炎天下の中、野球は「水分補給なしでぶっ通しで生徒達に練習させる!」ということが当たり前でした。

先程、熱中症を4つの分類で説明しましたが・・・

❶炎天下で活動するため、体温が上がり身体の血液量が増加。一時的に血圧が下がり、酸欠状態になります。→熱失神

➋激しい運動をすれば汗として身体から水分が出て行きますが、水分を補給しないため脱水状態になります。→熱疲労

❸「水分補給なし!」とはいえ、グラウンドに設置されているトイレで水を飲む学生がやはりいたと思います。ですが、塩分補給はできていないため身体が痙攣をお越してしまうかもしれません。→熱痙攣

❹体温バランスが崩壊し、意識障害を引き起こし脳に影響が発生する。→熱射病


つまり、熱中症の仕組みを正しく理解していないと、複合的に熱中症状に襲われることになります。もちろん、炎天下にぶっ通しでスポーツをしても全ての人が熱射病になることはありません。

ただ、たまたま命に関わらなかっただけで、確実に熱中症状を引き起こします。

 

熱を取り込んでしまう!

先程、人間の体温は36℃~37℃ぐらいで保たれていると紹介しました。(私の場合は体温が35℃台ですが・・・)

熱は、低い温度に移動していきます。つまり、意識を失い炎天下で倒れてしまえば、四方八方から自分の体温より高い温度の物からどんどん熱を吸収していきます。

つまり、熱中症で倒れれば自分ではどうにもできないため、放置されれば命に関わります。そもそも、倒れた原因が「一時的な酸欠状態で発生した熱失神」「体温がすでに40℃以上になっている熱射病」かで、身体の状態はまったく違います。

そうでなくとも、その日の気温が体温越えをしている場合、外にいるだけで私達の身体は、どんどん熱を吸収するため熱中症状がどんどん悪化していきます。

 

◎ワンポイントアドバイス!◎

→「熱中症=身体を冷やす!」と考えて間違った対処をすると、症状が悪化することもあります。

  • 頭部(おでこや頭)を冷やすと、体温が下がったと脳が勘違いしてしまうため身体は体温をあげようとしてしまいます。
  • 首・脇の下・足の付け根など、太い血管(関節部分)を冷やします。

 

「子ども」と「大人」の大きな違い!

さらにいえば、子どもと大人では身体のつくりが違います。

暑いときの体内の熱の逃がし方は2つあります。

 

①水分補給をして発汗

汗腺の数は約300~400万個で、数自体は大人と子どもで変わりません。つまり、子どもでも汗腺の数が同じということは、面積が小さいため汗腺が密集しているということです。

問題は、子どもの汗腺は未熟なため実際に有効に働いている数が少ないことです。

例えば、小さな子どもは頭に汗をよくかきますよね。これは、頭の汗腺がうまく機能しているためです。ですが、体幹などほかの部位の汗腺は未熟になっています。


つまり、大人のように発汗によりバランスよく身体を冷やすことができないということです。

発汗による体温調節機能が完成するのは18歳頃子どもの屋外での運動や安全域活動=気温32℃程度

さらにいえば、「汗をかくことで、汗を蒸発させ熱を逃がすために必要な水分補給」が、大人のように有効ではありません・・・

*湿度が高いと、汗が蒸発しないため大人でも発汗機能が働かなくなるため注意が必要です。

 

2.皮膚血管の拡張

皮膚の血管が拡張することで、熱を逃がします。

この機能は、小学生で大人と同程度になります。


つまり、暑い日に中学生になるまでに激しい運動をすれば、水分補給の有無に関係なく簡単に熱中症を引き起こします。

また、高校野球を始め18歳頃までに暑い日に激しい運動をしたとします。もし、対策として水分補給しかしていなければ、「汗をバランスよく、かくことができない子ども」は、大人よりも早い段階で熱中症におちいります。

 

最後に

子どもの熱中症対策を考えるとき、大人と同じ対策では意味がありません。

そもそも、真夏の炎天下に子ども達にスポーツをさせることは、「命がけだ・・・」ということを大人は認識しないといけないでしょう。

もちろん、「炎天下にスポーツをしてはいけない!」というつもりはありません。ただ、「熱中症になることが前提の対策」ではなく、「熱中症を防ぐための対策」をする必要があるでしょう。

そして、それができずに当たり前のように毎年、熱中症で病院へ運ばれるようなことがあるなら、その試合は始めからしてはいけないでしょう・・・


参考

大塚製薬
https://www.otsuka.co.jp/health-and-illness/heat-disorders/mechanism/

サーマエンジニアリング株式会社:人体の放熱のしくみ
http://www.therma.co.jp/hounetsu.html

総合南東北福祉センター 川俣
http://www.kaigo-kawamata.com/news-20150724.html

東洋経済:「体温超え」が18歳未満の子に超危険なワケ
https://toyokeizai.net/articles/-/230534?page=2

 

 

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