夏になると、必ず患者さんが発生する熱中症。当たり前のように思っていますが、さまざまな対策ができるようになりました。
ですが、まだまだ「昔からの常識?」がまかり通っているのかもしれません。さすがに、昔の野球部のような「意味もなく水を飲ませない練習」はもうないと思いますが・・・
→仮に、子ども達の練習方法に「水を飲ませない」というものがあるのなら、当然「死なせない・入院させない」対策が必要なことはいうまでもありません。
さて、前回「熱中症の危険」についてご紹介しました。
今回は、そんな「熱中症のさまざまな段階的な対策」についてご紹介します。
⇒熱中症の危険性についてはこちらの記事で紹介しています。
熱中症を引き起こす条件
◎環境◎
- 気温が高い
- 湿度が高い
- 風が弱い
- 日差しが強い
- 締め切った屋内
- エアコンがない
- 急に暑くなった日
- 熱波の襲来
◎からだ◎
- 高齢者・乳幼児・肥満
- からだに障害のある人
- 持病(糖尿病・心臓病・精神疾患など)
- 低栄養状態
- 脱水状態(下痢・インフルエンザなど)
- 体調不良(二日酔い・寝不足など)
◎行動◎
- 激しい運動
- 慣れない運動
- 長時間の屋外作業
- 水分補給がしにくい
以上が、熱中症を引き起こす可能性が高くなる条件です。それでは、脱水症状はどのように進行していくのでしょうか?
脱水症状の段階的な症状!
脱水が進むと尿量が少なく、尿色が濃くなります。
◎水分減少率(体重に占める割合)◎
- 2%:喉の渇き
- 3%:食欲不振・強い乾き・ぼんやりする
- 4%:皮膚の紅潮・疲労困ぱい・イライラする・体温上昇・尿量の減少と濃縮
- 5%:頭痛・熱にうだる感じ
- 8~10% :身体動揺・けいれん
- 20%以上:無尿・死亡
このように、脱水症状の状態は体重減少率を目安にしています。それでは、熱中症対策はどのようなものがあるのでしょうか?
熱中症対策ってなにをするの?
そもそもの話しですが「熱中症」を疑われた場合、放置すれば死に直結する緊急事態になることを認識する必要があります。
重症の場合は、「救急車を呼ぶ・現場ですぐに身体を冷やす」必要があります。
現場での応急措置
①涼しい環境への避難
- 風通しのよい日陰や、できればクーラーが効いている屋内などに避難させる。
→熱は、低い物体に移っていきます。つまり、炎天下の中、倒れたまま屋外に放置されれば体温がどんどん上昇していきます。
②脱衣と冷却
- 上着を脱がせる・ベルトやネクタイ、下着を緩める。→身体の風通しをよくする。
- 皮膚に濡らしたタオルなどで冷やす。(うちわや扇風機も効果的)→服の上から少しずつ冷やした水をかける方法もあります。
- 冷やした水のペットボトルや氷枕で「前頸部(首の付け根)の両脇・腋窩部(脇の下)・鼠径部(大腿の付け根の前面・股関節部)」にしっかり当てます。
*いかに早く体温を下げるかが救命の鍵になります。
③水分・塩分の補給
《意識がある場合》
- 冷たい水を飲んでもらう。
- 発汗が大量にある場合は、経口補水液やスポーツドリンクが最適。(食塩水:水1Lに1~2gの食塩も有効)
《反応がおかしい場合》
- 水分が気道に流れ込む危険があり、口から水を飲んでもらうことは禁物です。
→「吐き気を訴える」・「吐く」という症状があれば、すでに胃腸の動きが鈍っている証拠です。
すぐに、病院での点滴が必要です。
④医療機関へ運ぶ
- 自力で水分摂取ができなければ、緊急で医療機関へ搬送することが最優先になります。
*熱中症の中でも、現場で対応できる目安は、本人が水分をしっかり飲めるかどうかです。そして、そんな状態でなければ救急車を待っている間、水をぶっかけてでも体温を下げなくてはいけません。
熱中症による事故例
事例1)高等学校3年:男子
試験休みの剣道部活動時、朝10時半~夕方18時頃まで練習していた。その後、稽古や大会について顧問教師から話しがあった後、19時から練習を再開。
突然、具合が悪そうになり道場の隅にうずくまった。横になって休むように指示し、練習終了後、様子をみたところ、意識等に異常が見られ車で搬送。
事例2)高校専門学校2年:男子
野球部の夏合宿中、最高気温35℃の晴天の中で練習を終えたあと6km離れた宿舎まで上級生とジョギングしながら向かった。
→歩いたり、水分補給をして宿舎に到着。
*水シャワーを浴びるころから、本生徒の会話の様子に異常が見られ、部屋へ運んだ。その後、呼吸が苦しそうになったため気道確保したが、しばらく反応がなく呼吸も激しくなったため救急搬送した。
事例3)高等学校2年:男子
夏期休業中、ラグビー部の県外合同練習に参加。他校チームと25分ハーフの試合後、日陰で20分程休憩・ミーティング・更衣・給水などをした。
次の試合まで、2時間以上あったため30分のランニング練習に入った。60mグループ走の途中、指導教師が本生徒の顔色が悪いことに気付き、中止を指示し日陰に横にさせた。吐き気が続くため救急搬送。
事例4)高等学校1年:男子
バレーボール部活動中、途中、体調が悪くなったので見学し、部活動終了後、友人と一緒に下校していた。自転車を押しながらふらふらしつつも、上り坂をあがったあと後ずさりしながら後ろに倒れた。
友人が渡したジュースを1本飲んだ後、意識がなくなり、けいれんを起こしたので、救急搬送。
事例5)中学校2年:男子
柔道部活動時、他校武道場で合同練習をおこなっていた。準備運動・寝技・投げ込み後、乱取りの練習を始めた。
生徒が疲れた様子だったため、教師が休憩するよう指示をした。しかし、意識朦朧・右手の硬直がみられ救急搬送。
事例6)小学校6年:男子
5・6年生合同の遠足中、班別でオリエンテーリングをしていた。出発後約60分、2km程の所で本児の足がもつれてきたため、木陰で休ませ、お茶を飲ませるなどした。
顔色不良・口からよだれのようなものを垂らし始めたので救急搬送。
事例から分かることは?
1~6の事例から・・・
- 35℃以上の炎天下では、原則運動中止。
- 炎天下のランニングは注意が必要。
- 屋内でも熱中症になる。
- 運動後に、急変することがある。
- 休み明けなど、身体が慣れていない状態で運動をすると熱中症になりやすい。
- スポーツに限らず、歩いただけでも熱中症になる。
- 休憩・水分補給をしていても熱中症になる。
- 短時間、運動の運動でも熱中症は起こる。
など、熱中症は「思いもよらないタイミング・短時間・日常」で発生します。上記の詳しい理由は、こちらの記事で紹介しています。
最後に
熱中症の対応は、いかに素早く救助ができるかです。ですが、湿度や温度により「いつ・どのタイミング」で発生するか分かりません。
特に、18歳ぐらいになるまでは発汗機能が不完全のため、大人のように体温調節をバランスよく行うことができません。
もし、歩いているだけで大人に熱中症状(脱水・けいれんなど)が出ていれば、子ども達はあなたよりも熱中症が進行していると考えた方がいいでしょう。
「湿度が高い日」や「35度以上の猛暑日」・「炎天下で運動」など熱中症になるきっかけは至る所にあります。
学校管理下で発生した、スポーツ別の熱中症による死亡事故数についてご存じでしょうか?
→昭和50年~平成29年(平成29年は速報値)
- 野球 ・・・37件
- ラグビー・・・17件
- 柔道 ・・・16件
- サッカー・・・14件
- 剣道 ・・・11件
他にも死亡例のあるスポーツがいくつもありますが、野球での死亡例が圧倒的に多くなっています。
そして、炎天下で様子がおかしい(ボーッとしている・けいれん・汗をかいていないなど)なら、救助が必要なサインです。
子育てをしていると、夏場に子どもと出かけることもありますよね。できる限り、炎天下を避け・休憩しながら出かけて下さいね。
もちろん、子どもだけでなくあなたもご注意下さい。
参考
平成30年10月30日(火)平成30年度第1回 熱中症関係省庁連絡会議幹事会 資料3
→http://www.wbgt.env.go.jp/pdf/ic_rma/3003/mat3.pdf
環境省:夏季のイベントにおける熱中症対策ガイドライン 2019
→http://www.wbgt.env.go.jp/pdf/gline/heatillness_guideline_full.pdf
大塚製薬:もしも身体の水分がなくなったら
→https://www.otsuka.co.jp/nutraceutical/about/rehydration/water/dehydration-signs/
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