「子連れ出勤」 企業主導型保育所の約1割は開業すらできていない!?

 

夫婦共働きが当たり前となりましたが、保育園にはいれない現状はまだまだ続いています。今の現状は、子育て世代にとって人ごとではありません。

私自身も小さい子ども(0歳と2歳)の2人がいます。

それでは、「自分が働く会社に子どもを預けることができたら・・・」なんて考えたことはありませんか?

実際、そういった取組みをおこなっている企業もあります。

それでは、どうしてなかなか進まないのでしょう。

今回は、「企業主導型保育事業制度」についてご紹介します。

 

そもそも幼児無償化で安心じゃないの?

2019年10月1日から、3歳~5歳までの「幼稚園」「保育園」「認定こども園」などの利用料が無償化される予定です。

→全面的に実施されましたが、例えば認可外保育所は月:3.7万円まで保障されるなど、完全に無償化になったわけではない。(そもそも、教材費といった初期費用の支払いは必要)

国が定める基準を満たした施設だけですので、それ以外の施設はこれまで通り認可保育園などは利用料が必要になります。

さて、保育所を開設し運営していくには予算が必要ですよね。

以前からの保育園もそうですが、国からの助成金がなければ園の存続が難しくなります。実際、今回の保育無償化で認可外保育園や幼稚園の数は助成金の打ち切りによりかなり減ることになりそうです。

それにより、保育園や幼稚園に入れなくなるだけでなく行き場を失う子ども達が増加することが懸念されています。

 

閉園した認可外幼稚園

実際、2019年に40年以上の歴史がある認可外幼稚園の「ALC貝塚学院」が幼児教育無償化のあおりで無償化対象外のため閉園になってしまいました。(登園には300人の児童が登園していました)

無償化の対象外になることは分かっていたため、児童が集まらなくなったようです。

「無償化の対象外」つまり認可外の場合、当然国からの助成金は受けられないため歴史があって規模が大きくても経営破綻する前例を作ってしまいました。(まだ始まってもいないのに・・・)

このように、幼稚園も例外ではありません。

突然閉園されてしまえば親も子どももたまったものではありません。

ただし、閉園の問題は企業主導型保育所も例外ではありません。

EME / Pixabay

 

企業主導型保育事業ってそもそもなに?

この事業は、内閣府が開始した企業向けの助成制度で、平成28年から始まった新しい制度です。確かに、従業員が自社で子どもを預けることができれば、全ての問題が解決できそうですが、そう単純な話しではないようです。

まずは、この事業の概要から見ていきましょう。

 

どうやったら企業は助成を受けることができるの?

  • 一般事業主(子ども・子育て拠出金を負担している事業者)が対象。
  • 保育事業者が設置した認可外保育施設を一般事業主が活用する。
  • 既存の(すでにある)事業所内保育施設の空き定員を設置者以外の一般事業主が活用する場合。

*「子ども・子育て拠出金」は「旧:児童手当拠出金」のことで、従業員の厚生年金保険料を納めるときに一緒に徴収される税金です。つまり、基本的には支払っているはずのものです。

ということで、基本的にはどの企業でも実施はできそうです。

それでは、どういった子ども達が利用できるのでしょうか?

 

対象者

  • 従業員枠・・・当然、従業員の子ども達が(従業員枠)として利用できます。この「従業員」には、非正規雇用の労働者ももちろん含まれています。
  • 地域枠・・・設定は任意にはなりますが、保育認定を受けた者の子どもなどが総定員の50%以内で受け入れることができます。

つまり、従業員枠で子どもが集まらなくても、地域枠で集めることもできます。

それでは、子ども達の命を守る職員配置はどうなっているのでしょうか?

 

職員配置

職員数→小規模保育事業や事業所内保育事業(小規模型)と同じ配置となっています。

  • 0歳児・・・  「1:3」
  • 1.2歳児・・・ 「1:6」
  • 3歳児・・・  「1:20」
  • 4・5歳児・・・ 「1:30」

+1名→最低2名配置。

職員の資格は、職員の半数以上は保育士資格が持っていることが条件になります。

→その他の従事者も子育て支援研修や市町村・公募団体がおこなう研修を受講する必要があります。

 

設置基準

設置基準は、認可の事業所内保育事業と同様の基準と同じになります。

つまり・・・

❶乳児室・ほふく室・保育室

*ほふく→腹ばいになって進むこと。

  • 乳児室・・・ほふくをしない子どもが過ごす部屋。
  • ほふく室・・・ほふく・立ち歩きを始めた子どもが過ごす部屋。

乳児または1歳児が使用する「乳児室」または「ほふく室」と2歳以上が使用する「保育室」で構成されていることが大前提です。

もちろん、子ども1人当たりに必要な面積も決められています。(子ども20名で基準が変わります。)

 

➋屋外遊技場

→「同一敷地内の設置が望ましい」とされていますが、公園・広場・寺社境内といった代替庭園も認められています。

 

❸医務室

→定員が20名以上は必須となります。

 

❹調理室

定員が20名以上だと独立した調理室が必要になります。

→ただし、定員19名以下の場合は調理設備(電子レンジ・冷蔵庫など加熱・保存等ができる設備)が必要となります。

 

❺便所(便器)

  • 幼児20名につき1つ以上。
  • 手洗い設備。
  • 保育室・調理室から区画されている。

→男子用便器はカウントされないため、幼児用便器(補助便座は付加)を設置しなくてはいけません。

このように、助成金がでるとはいえ企業内で保育所を開設すためには多額の初期費用と人員・スペースの確保が必要になるため、誰でもというわけにはいかないでしょう。

他にも、保険(損害賠償責任保険や傷害保険)・安全対策など様々な条件をクリアしなくてはいけません。

Free-Photos / Pixabay

 

定員割れが多発!?

企業主導型保育所が開設できれば、企業としては人材確保ができることはいうまでもありません。出産退職も減少するでしょう。

ただし、無事開設できたとしても維持していかなくてはいけません。

実際、「2016~2017年度の国の助成金が決まった企業主導型保育所のうち、約1割に当たる252施設が保育事業を取りやめた」と2019年4月の時点で内閣府の調査結果を発表しています。

しかも、児童を受け入れる前に取りやめた施設は214施設もありそもそも取りやめたほとんどの施設は開設すらできずに終わっています。

→内閣府は、必要に応じて助成金の返還を呼びかけ中・・・

これでは、「助成金の着服」といわれても仕方がないと思いますが・・・

 

取りやめの理由

  • 申請者の都合→110施設
  • 年度内の整備が間に合わなかった→43施設
  • 児童数を確保できなかった→34施設

事業を譲渡した施設が44施設・保育士不足などで事業を休止したことがある施設は12施設もありました。

ちなみに、残念ながら助成金の虚偽申請などで事業取り消しを受けた保育所は2施設ありました。

このように、助成金が欲しいだけの企業。児童の確保・保育士の確保など見通しが不十分な状態で進めた結果1割が脱落したことが分かります。

geralt / Pixabay

 

最後に

企業主導型保育所は、待機児童の救世主として期待されている反面、小さい子ども達の命を守るためにもどうしても基準が厳しく設けられています。

そのため、どの企業でも設置できるというものではありません。また、設置できたとしても継続して続けられるかどうかは、他の保育所や幼稚園などと同じように、児童や保育士の確保がどこまできるかといった不確定要素に大きく左右されます。

少なくとも、企業主導型保育所が増えれば子どもを保育園や幼稚園に送り届ける必要もなく、子どもと一緒に出社(子連れ出勤)することができます。

これだけでも、親としては本当に大きなメリットになります。休憩時間に、子どもの様子を見に行くこともできるかもしれません。

また、自社になくても地域枠で近くの企業の保育所が利用できる可能性もあります。

*毎日新聞の記事によると、「体調の悪い乳幼児のための病児保育室や一時預かり室を整備した11施設が、実際には病児保育などを実施していなかった」として会計検査院の調査で判明し、2020年10月22日に内閣府に改善を求めている。

→新しく保育所や幼稚園を作ることは住民などの反対などもあり難しくなっています。可能性を1つでも増やしていくために、整備しながら今後も進めていければいいですが、まだまだ不透明な状況が続いています。


参考

よどきかく
http://yodokikaku.sakura.ne.jp/?p=26029

厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_01659.html

内閣府
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/ryouritsu/pdf/jisshi_gaiyou.pdf

日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44260550W9A420C1EA4000/

 

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