起訴は検察官の権限・・・? 実は市民にもあった!?

 

この記事では、「逮捕と起訴」についてお伝えしています。

 

コロナ禍においても、さまざまな事件が発生していますよね。

それこそ、コロナを悪用して「コロナをばらまく!(俺コロナ!)」と言って逮捕された人達は、これまでに1人や2人ではありません。

なにより、「戦後類を見ない状況に陥っている今だからこそ」と言うべきかもしれませんが、私達はコロナ以前よりもいつ犯罪に巻き込まれてもおかしくない状況に陥っているのかもしれません。

ところで、もしも逮捕されるようなことがあったとしても、検察が起訴せずに不起訴となれば無罪放免となりますが、必ずしも検察だけが起訴の有無を決めるとは限りません。

今回は、「検察が起訴しなくても市民感覚で起訴できる強制起訴」についてお伝えします。

 

そもそも「起訴」ってなに?

例えば、「コロナをばらまく!」と言って市役所や飲食店などにAさんが騒いだとします。

実際に、2020年4月6日に松江市役所で「コロナをばらまきにきた!」などと言って、市役所の業務を妨害したとして66歳の女性が現行犯逮捕されています。

さて、警察に逮捕されると基本的に「犯罪の証拠隠滅防止」・「被疑者の逃亡防止」のために、被疑者の身体を強制的に拘束して留置施設に連れて行き留め置かれ、取り調べを受けることになります。

とはいえ、警察ができることは事件についての捜査を行い、被疑者の身柄や証拠などを検察へ送るまでが仕事です。

つまり、警察には起訴する権限がありません。

そのため、警察は起訴する権限がある検察へ、自分たちが調べた証拠や被疑者などを「送検」する必要があります。(警察が検察に送るため「送検」と呼ばれる)

そして検察により、「警察の集めた証拠の検討」「送検された被疑者への取り調べ」などが、行なわれることになります。

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ちなみに、必ずしも被疑者の身柄が拘束されるわけではありません。そもそも、身柄を拘束する主な目的は、「犯罪の証拠隠滅防止」・「被疑者の逃亡防止」のためです。

つまり、重大事件でもなければ、これらに当てはまらないなら書類のみが検察へ送検されるため、こういった書類のみの送検の場合は、「書類送検」なんて報道されたりします。

ということで、逮捕されると基本的に「送検」されることになります。

勘違いしてはいけないことは、「送検」は警察が検察へ被疑者や証拠などを送る手続きのことで、「送検=犯人確定」ではありません。

*あくまでも、送検は『これから検察が「起訴」または「不起訴」を決める準備にとりかかるよ!』という手続き上の意味合いでしかありません。


ニュース報道で、「書類送検されました!」なんて大々的に報道されることがありますが、犯人が確定した分けではなく、「これから検察が調べますよ!」ということでしかありません。

ちなみに、「書類送検」は報道で使われる用語であって、刑事訴訟法第246条では、警察官から検察官への事件記録などの書類の送付は、「送致」と明記されています。

→もしも、「送検」「送致」と聞いて、「やっぱり犯人だったんだ・・・」なんて周囲に話すと、かなり恥ずかしいことになります。

当然ですが、「送検」や「送致」されてから初めて起訴や不起訴が決まります。

 

起訴と不起訴

さて、「起訴」と一言でいっても「通常の起訴」・「在宅起訴」・「略式起訴」があります。

 

通常の起訴

逮捕・拘留されて刑事施設に身柄ある状態で起訴されるのが最も一般的なため「通常の起訴」となります。

ちなみに、起訴後に保釈を請求して認められれば、裁判の間は拘束されることなく生活することができます。

 

在宅起訴

一方で、そもそも被疑者が勾留されていない状態で起訴されることを「在宅起訴」と呼びます。

つまり、書類だけが検察に送られた書類送検された場合です。

 

略式起訴

例えば、スピード違反といった比較的な軽微な罪でかつ被疑者が事実を争っていない場合、公開の法廷での通常の裁判ではなく、書類審査による簡易な手続により、被疑者を罰金刑に処することを求める裁判が提起されます。

これを、「略式起訴」と言います。

ただし、起訴されても刑事裁判で有罪が確定するまでは「罪を犯していない人」として扱わければならないという「無罪の推定」という原則があります。

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当然、有罪判決が確定するまでは前科がつくこともありません

つまり、そもそも裁判で有罪が確定するまでは、逮捕や送検といった報道があっても、安易に犯人扱いすることは名誉毀損などで逆に訴えられる可能性があります。

実際、不起訴となれば起訴されないため、裁判が行なわれずそのまま無罪放免となります。

少なくとも、現行犯逮捕でもない限り起訴が確定もしていなのに犯人扱いすることは、時期尚早だといえるでしょう。

→起訴されると、「被疑者(犯罪を行った疑いがあるとして捜査され取調べを受けているが起訴はされていない者)」から、「被告人(犯罪を行った疑いがあるとして起訴されている者)」となるため、意味合いが全く異なる。

さて、このように起訴・不起訴を決定することは基本的に検察官の仕事になります。

ただ、実は検察官以外が起訴することができる場合があります。

 

検察官でもないのに起訴?

さて、これまで説明してきたように、検察官が犯罪の疑いのある人を裁判所に訴えることを「起訴」と言います。

ですが、証拠不十分などで必ずしも起訴されるわけではないですよね。

ところが、この不起訴になった場合でも実は「検察審査会」が2度にわたって議決した場合は、強制的に裁判にかけることができます。

 

裁判所:強制起訴より

検察審査会が行った起訴相当の議決に対し,検察官が改めて不起訴処分をした場合又は法定の期間内に処分を行わなかった場合,検察審査会は再度審査を行う

それでは、この「検察審査会」とはなんなのでしょうか?

 

市民が事件を審査する!?

そもそも、この検察審査会は1948年7月12日に公布・施行された検察審査会法により創設されました。

つまり、70年以上も前から運用されている司法への国民参加制度です。

この検察審査会制度が2009年に強化され、裁判員制度とともに2009年5月に導入された制度が「強制起訴」です。

それでは、強制起訴はどういった制度なのでしょうか?

 

強制起訴は、誰がどうやって審査するの?

強制起訴は、被害者らの申し立てを受け、くじで選ばれた市民11人が事件を審査、8人以上の多数決で「起訴相当」と議決すると検察が再捜査されることになります。

ですが、それでも検察が判断を覆さなかった場合、検察審査会が再び8人以上の多数決で「起訴すべき」と議決すれば、裁判所が指定した検察官役の弁護士が起訴し公判を担当することになります。

つまり、被害者の申立てを市民が審査し、2度「起訴すべき!」と判断された場合、強制的に起訴され裁判が行なわれる制度のことです。

そのため、「強制起訴」と呼ばれます。

ArtsyBeeKids / Pixabay

 

どんな判例があるの?

例えば、2011年3月11日に発生した東日本大震災による「東京電力福島第一原子力発電所」の事故が引き起こされました。

この事故から、すでに10年の月日が経過しようとしています。

さて、東京地裁ではこの事故をめぐって旧経営陣の3人に無罪判決を言渡しました。

ですが、事故の刑事責任をめぐり2012年に福島の住民達は「事故は予測できた」と告訴・告発しました。

ただ、それでも検察は全員を再度不起訴処分としました。

そこで、市民でが審議する検察審査会が2度「起訴すべき」と議決したことから、強制起訴となり2017年公判が始まることとなりました。

→2019年9月19日、結局、無罪判決が言渡されている。

 

他にも、裁判所のHPによれば・・・

これまでに全国の検察審査会が審査した事件数は17万人(被疑者数による延べ人数)に上っています。

そしてそれは、交通事故や窃盗など身近で起こる事件だけではありませんでした。

  • 水俣病事件
  • 日航ジャンボジェット機墜落事件
  • 薬害エイズ事件
  • 明石花火大会事件

など、社会の注目を集めた事件も含まれています。

また、福島第一原子力発電所の事故については、強制起訴しても無罪判決が言渡されましたが、懲役10年といった重い刑に処せられた事例もあるようです。

 

最後に

「被疑者」と「被告人」は全く違います。

そして、司法への国民参加制度は裁判員制度だけではありません。

また、強制起訴が行なわれたからといっても結局、無罪になるかもしれません。

そもそも、検察が不起訴とした事件は立証の難しいことが多いため、無罪判決が相次いでいる現状もあるようです。

残念ながら、万能な制度はありません。

ただ、報道を勘違いしないように正確に情報を受け取れるように最低限の知識は身につけておかないと、思わぬところで足下をすくわれることになるかもしれません。


参考

アディーレ法律事務所
https://www.adire-bengo.jp/basics/keisatsu.html

刑事事件弁護士ナビ
https://keiji-pro.com/columns/161/

姫路法律事務所
https://himeji-alg.com/keiji/kiso/#i-10

朝日小学生新聞
https://www.asagaku.com/shougaku/kotoba/16606.html

 

 

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