保険者努力支援制度はエビデンスの1つ! ~点数制度が独自制度を破壊するかも~

 

これまで、全世帯型社会保障制度についてご紹介してきました。

全世帯社会保障制度というのは、「年金」「労働」「医療」「予防・介護」の4分野について、今後の改革方針についてまとめられています。

その中で、「保険者努力支援制度の強化」なるものが「予防・介護分野」で示されていました。

今回は、「非常に細かい保険者努力支援制度」についてご紹介します。

 

「保険者努力支援制度」ってそもそもなに?

保険者努力支援制度は、2015年度の国民健康保険法等の改正により、医療費適正化に向けた取組等に対する支援をおこなうために市町村国保に創設されました。

→糖尿病重症化予防など、取組みの状況に応じて交付金が交付されます。

数値化できるため、「エビデンス(根拠)」の1つとして全世帯型社会保障制度でも利用されていきます。

現状では、交付は「市町村分」・「都道府県分」に分かれていて、それぞれ医療費適正化に向けた取組等を評価する指標を設定し、達成状況に応じて交付金が交付される仕組みになっています。

 

市町村分<500億円程度>

市町村分にはさらに、「保険者共通の指標①~⑥」と「国保固有の指標①~⑥」に分かれています。

そして、大学入試のようにそれぞれの指標に配点があります。

 

《保険者共通の指標》

指標①

  1. 特定健康受診率→50点
  2. 特定保険指導実施率→50点
  3. メタボリックシンドローム該当者及び予備軍の減少率→50点

 

指標②

  1. ガン検診受診率→30点
  2. 歯科検診→25点

 

指標③

  1. 重症化予防の取組→100点

 

指標④

  1. 個人へのインセンティブ提供→70点
  2. 個人への分かりやすい情報提供→25点

 

指標⑤

  1. 重複・多剤投与者に対する取組→35点

 

指標⑥

  1. 後発医薬品の促進の取組→35点
  2. 後発医薬品の使用割合→40点

 

《国保固有の指標》

指標①:収納率向上→100点

指標②:データヘルス計画の取組→40点

指標③:医療費通知の取組→25点

指標④:地域包括ケアの推進→25点

指標⑤:第三者求償の取組→40点

指標⑥

  1. 適正かつ健全な事業運営の実施状況→50点
  2. 体制構築加点→60点

さて、上記指標の配点は2018年度です。(「市区町村の指標」+「国保保有の指標」=850点満点でした。)

指標の配点を細かく紹介したのは、これらの指標の配点を変更(加点・減点・新設・廃止)することで、国の政策に沿った取組を、「市町村や都道府県が実施させることができる」ことを説明するためです。

例えば、2019年度では全体の合計が850点満点→920点満点へ。

そして、2020年度は920点満点→995点満点と大幅な点数の変更が見られています。大幅な加点の理由としては、2020年度で言えば、「予防・健康作り」について配点割合を高めているためです。

何が言いたいかといえば、配点が高い指標を重点的に実施することで当然、配点が上がります。そして、配点が上がれば「交付金がたくさんもらえる」ということになります。

つまり、点数制を導入することで政府の政策に沿って市町村や都道府県をコントロールできることになります。

しかも、エビデンス(根拠)として全国の結果がそれぞれの指標に基づいた配点が公表されてしまうため、市町村・都道府県にとっては、「独自の取組ばかりにこだわる」というわけにもいかなくなります。

 

都道府県分(500億円程度)

指標①:主な市町村指標の都道府県単位評価

(ⅰ)特定検診受診率・特定保健指導受診率→20点

(ⅱ)糖尿病等の重症化予防の取組→10点

(ⅲ)個人インセンティブの提供→10点

(ⅳ)後発医薬品の使用割合→20点

(ⅴ)保険料収納率→20点

体制構築加点→20点

合計.100点満点

 

指標②:医療費適正化のアウトカム評価

(ⅰ)年齢調整後1人当たり医旅費→50点

(ⅱ)重症化予防のマクロ的評価→-

合計.50点満点

 

指標③:都道府県の取組状況に関する評価

(ⅰ)医療費適正化等の主体的な取組状況

  • 重症化予防の取組等→20点
  • 市町村への指導・助言等→10点
  • 保険者協議会への積極的関与→-
  • 都道府県によるKDBを活用した医療費分析→-

 

(ⅱ)決算補填等目的の法定外一般会計等の繰入の解消等→30点

 

(ⅲ)医療費提供体制の適正化の推進→(30点)

合計.60点満点


さて、上記区分は市町村区分と同じ2018年度の指標の配点です。

配点が、(-)になっているのは、2019年度から評価(配点)されることになった項目です。

つまり、2019年度の合計点数は指標③の場合:60点満点→105点満点へ。そして、2020年度は105点満点→120点満点と上昇しています。

このように、そもそも分母が年度によって変わってしまうため、毎年の平均的な評価がどのようになされているのかは不明ですが、その年度によって「項目の変更」「配点の変更」などが行われるため、かなり分かりにくいという印象です。

 

問題点は?

これまで、すでに市町村独自の政策を実施している所はたくさんありました。

ただ、すでに実施していて効果が上がっているにも関わらず、評価対象にならず交付金が受け取れないのであれば、不公平な制度といえるでしょう。

例えば、「埼玉県コバトン健康マイレージ」という歩いたりすることでポイントが付く制度を、県独自で実施しています。

→溜めたポイントは商品が当たる抽選権として利用でき、保険者努力支援制度により30点が付きます。

ところが、埼玉県の志木市ではモデル事業として「コバトンマイレージ」が始まるよりも前に、同じような事業を実施していたため、0点の状態です。


つまり、これまで独自にやっていた事業が評価されず、加点されないことでせっかくの事業を潰す行為になりかねません。

極端な話し、ほとんどなにも政策をしてこなかった市町村が配点の高い政策に取り組めば、多額の交付金を受け取れることになります。

しかも、エビデンスとして高配点に成功すればどこの市町村よりも「頑張っている!」という評価にもなり全国に公開されます。(「日本で最も住みやすい市町村!」なんて世界で紹介されるかも・・・)

ただ、そもそも市町村によって問題点は違います。それを一律に同じ指標に当てはめるのは、強引なように思います。

しかも、その指標は毎年変わっていきます・・・

予算は決まっているため、パイの取り合いになることは目に見えていますよね。

 

最後に

保険者努力支援制度は、名前から「努力義務」のようなイメージがあるかもしれませんが、実際は強制力があります。単純に、財政が潤沢にある市町村ばかりなら、そもそも国の政策に振り回されることはないでしょう。

ですが、現実は交付金を少しでも多くもらわなければ、やっていけない自治体の方が多いのではないでしょうか。

もし、潤沢に資金があるのなら市町村ごとにベーシックインカムを導入すれば簡単に人を集めることができるでしょう。

実際は、そんなことにはなりませんが・・・

結局は、「要領のいい自治体」が得をするのかもしれませんね。


最近、「歩くことで健康マイルがたまる!」なんて制度が広がっていますが、この保険者努力支援制度で点数を稼いで交付金を受け取ることができるためです。

本当に国民の健康を考えての制度なら、全国一律にはならないでしょう。一体誰のための制度なんでしょうか・・・

さて、「保険者努力支援制度」は本来、政策が不十分な都道府県や市町村に対して課すべき制度ではないでしょうか?

もし、頑張っている自治体にも当てはめようとするなら、志木市のように漏れがないように個別に評価していくしかありません。

あなたは、点数制度についてどう思いますか?


参考

社会保障関連
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/committee/20191009/shiryou1_1.pdf

埼玉県
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0704/kenkochoju/kobaton-mileage.html

 

 

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