●この記事では、「119番と救命曲線」について説明しています。
前回、厚生労働省が啓発している「上手な医療のかかり方」について紹介しました。
その中で、最後に医師の労働環境から上手な医療のかかり方が必要な理由を紹介しました。
ただ、他にも問題があります。
それが、119番の件数です。
今回は、上手な医療なかかり方が推奨されている理由の1つ「119番の現状」について紹介しています。
→「上手な医療のかかり方」については、こちらの記事で紹介しています。
そもそも、119番はどれくらいの人が利用しているの?
長い人生の中で、誰しもいつかは緊急事態に陥ることになりますよね。
そんな時、強い味方になるのが24時間365日出動してくれる緊急連絡先が119番通報です。
それでは、そもそもどれくらいの件数があるのでしょうか?
総務省が2019年12月26日に発表している「令和元年版 救急・救助の現況」では、このような結果になっています。
救急業務の現状は?
2018年の救急出動件数は、消防防災ヘリコプターも含めれば660万8,341件で、596万2,613人となっていました。
さて、救急自動車に限ると660万5,213件で、搬送人員は596万295人となりました。
救急自動車の出動件数がどれだけ増加したかは、1998年~2018年までの出動件数と搬送人員を見れば分かります。
- 1998年→出動件数:3,701,315件 / 搬送人員:3,545,975人
- 2003年→出動件数:4,830,813件 / 搬送人員:4,575,325人
- 2008年→出動件数:5,097,094件 / 搬送人員:4,678,636人
- 2013年→出動件数:5,915,683件 / 搬送人員:5,346,087人
- 2018年→出動件数:6,605,213件 / 搬送人員:5,960,295人
つまり、2018年までの10年間で比較すれば出動件数は約1.8倍 / 搬送人員は約1.7倍増加していることが分かります。
ちなみに、2018年の現場到着時間(覚知~現場に到着するまで)は全国平均:8.7分でしたが、病院収容所要時間(覚知~病院に収容されるまで)の全国平均は39.5分となっています。
→救急車が現場に到着してから病院へ着くまでに、平均すると20分以上の時間がかかっている。
それでは、どういった状況で救急車が呼ばれているのでしょうか?
救急搬送の内訳は?
2018年の救急出動の件数は、以下のようになっています。
- 急病 :429万4,924件(65.0%)
- 一般負傷:99万7,804件(15.1%)
- 転院搬送:54万2,026件(8.2%)
- 交通事故:45万9,977件(7.0%)
さて、「転院搬送」はいったん医療機関に収容された患者を当該医療機関で、急な症状の悪化や専門的な処置が必要など、緊急に他の医療機関へ搬送する場合に救急車が出動するものです。
今回はあくまでも、「病院へ搬送するための救急出動」について紹介しているため、転院搬送については含めずに考えると、「急病」・「一般負傷」・「交通事故」の順番で救急出動がおこなわれていることになります。
ただ、全体の約8%は病院からの救急搬送(転院搬送)があることも覚えておいた方がいいでしょう。
そして、交通事故は転院搬送よりも少なく、多くの場合は急病で救急車が使われていることが分かります。
*「急病」・「一般負傷」は増加し、「交通事故」は減少している。
- 急病:55.7%→65.0%(1998年→2018年)
- 一般負傷:12.2%→15.1%( 〃 )
- 交通事故:16.9%→7.0% ( 〃 )
つまり、1998年では救急出動の原因は交通事故が2番目に多かったですが10年後(2008年)には逆転しており、その後も減り続けています。
そして、搬送人員の年代構成を見ると高齢者が35.1→59.4%(1998年→2018年)と大幅に増加しています。
このように、救急搬送件数・急搬送人員は10年で約2倍にまで増加し、その多くが急病が原因です。そして、その理由が分かるように、高齢者の救急搬送が約6割になっています。
つまり、救急搬送の増加は「高齢者の急病」が大きな一因になっていることが分かります。
2018年の急搬送人員は、成人未満(新生児・乳幼児・少年):8.2% ・ 成人(32.5%)となっているため、高齢者の救急搬送が以下に多いか分かるのではないでしょうか?
それでは、「上手な医療のかかり方と119番」には、どういった関係があるのでしょうか?
119番が過去最高記録!?
東京消防庁を例に挙げていきます。
東京消防庁では、2019年中の救急出動件数が2年連続で80万件を越えています。
つまり、1日に東京消防庁の管轄だけで1日2,200件(約38秒に1回)のペースで、救急車が出動している現状があります。
→対応可能な最も近い救急車が出動することになる。
半分は入院が必要ない!
さて、そんな救急要請ですが実は50%以上が入院を必要としない軽症の救急搬送(54.2%)でした。
つまり、実際に入院が必要な救急搬送をされたのは、40万件(1日:1000件)程度だったことになります。
さて、問題は本当に必要な人への救急車の到着時間が、どんどん遅くなっていってしまうことです。
東京消防庁の発表では、2019年度の出動から到着までかかった平均時間は6分35秒でした。
ところで皆さんは、「救命曲線」をご存じでしょうか?
救命曲線とは?
救命曲線とは、心肺停止から救命措置が開始されるまでの時間経過と救命できる確率を示した線です。
- 心肺停止後:約3分で50%死亡
- 呼吸停止後:約10分で50%死亡
- 多量出血後:約30分で50%死亡
ちなみに、心配停止後:5分経過で約100%死亡することになります。
つまり、東京消防庁の6分35秒という平均到着時間は、通報があった際にすでに搬送者が心配停止していて、さらに救急車がくるまでに救命措置もなにもしなければ、ほぼ100%助からないことになります。
そのため、上手な医療のかかり方が必要になります。
なにより、医師は60時間以上の労働割合が最も多い職業でもあります。
つまり、上手な医療のかかり方を実践することは、救急搬送を減らし助けられる人を増やし、それにより医師の負担も減らせる取組みでもあります。
それでは最後に東京消防庁が発表している救急車が呼ばれた実例をいくつか紹介します。
救急車が呼ばれた理由とは?
- 紙で指先を切った
- ヘルパーが来なかったので救急車を呼んだ
- 蚊に刺されて痒い
- 海水浴に行き、足がヒリヒリする
- 病院でもらった薬がなくなった
- 病院で長く待つのが面倒なので、救急車を呼んだ
多くの人にとっては、「ありえない・・・」と思える理由なのではないでしょうか?
ちなみに、法的責任が問われる可能性もあるため、タクシー代わりに使うなど誤った使い方はしてはいけません。
最後に
「上手な医療のかかり方」は、知識がないとできません。
そのために厚生労働省が啓発活動を実施しています。
119番は、最後の手段です。もちろん、緊急事態は迷わずに救急車を呼び必要に応じてくるまでに救命措置をおこなう必要があります。
ただ、「119番?」と思うときは・・・
- 時間外の急病:「#7119」
- 時間外の子どもの症状「#8000」
に連絡すれば医師・看護師・相談員が対応してくれます。
ちなみに、119番の誤った使い方をした場合の法的責任は、以下のようなものがあります。
❶消防法第44条第20号
正当な理由がなく消防署又は第二十四条(第三十六条第八項において準用する場合を含む。)の規定による市町村長の指定した場所に火災発生の虚偽の通報又は第二条第九項の傷病者に係る虚偽の通報をした者
→30万円以下の罰金または拘留
➋軽犯罪法違反(軽犯罪法第1条第16号)
虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者
→「拘留」又は「科料」が科される。
❸偽計業務妨害罪(刑法第233条)
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
このように、身勝手は119番通報は犯罪です。そして、上手な医療のかかり方が、普及していけば幸いです。
参考
横浜市:転院搬送について
→https://www.city.yokohama.lg.jp/business/bunyabetsu/shobo-kyukyu/tenin/20130325205348.html
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