最近、「超過死亡」という言葉が話題になっています。
「超過死亡」という言葉は、WHOが提唱した「インフルエンザ流行による死亡数を推計するための指標」です。
今回は、この「超過死亡と新型コロナウイルス」についてご紹介します。
「超過死亡」ってそもそもなに?
超過死亡は、「前年までの傾向の死亡者よりも、今の死亡者が多いのかどうか?」を調べるための指標です。
つまり、死因に関係なく「これまでの死者数」と「今の死者数」に変化がないかを調べるわけです。
人が死ぬ理由は、大きく分けて5つあります。
- 病気
- 事故
- 自殺
- 殺人
- 自然死(老衰など)
どんな人でも平等に、いずれなにかの原因で亡くなることになります。
例えば、厚生労働省が発表している2019年の「人口動態統計の年間推計」を確認すると、137万6,000人の方が何かしらの理由で亡くなられています。
→2018年は136万2,470人が亡くなられている。
つまり、そもそも日本ではこれまで毎年130万人以上の方が亡くなられていることがわかります。これが、「前年までの死亡者の傾向」ということになります。
さらに細かく、前年までの同じ月と比較して死亡者数が多いか少ないかを確認していくことになります。
それではなぜ、この数値が必要になるのでしょうか?
「超過死亡」を調べれば、感染症の流行を探る指標になる!?
そもそも、この指標は「インフルエンザや肺炎を死因とする死亡数・医療費といった統計指標だけでは実際の社会へのインパクト(影響)を表わすには欠点があった」ことから提唱されるようになりました。
例えば、今回で言えば「新型コロナウイルスの影響を知ろう!」とすれば様々な方向から見る必要があります。
- 患者数
- 重症度
- 毎日の生活への支援
- 個人的・社会的経済的損失
- 医療費
- 精神的な影響
など、病気の影響だけでなく、個人の生活の影響の変化なども含めて、全てを包括的に検討しながら求めていく必要があります。
このことは、多くの人が今回のコロナ騒動で身をもって感じているのではないでしょうか?
ところが、実際は正確な数値を出すことが難しい現実があります。
正確な数値(指標)が出せない「そもそも」の理由
- 医療機関を受診しなかった患者を含めた総患者数を把握することは不可能
- 「重症度」は、病原体・環境・患者側など複数の要因で決定されるため、死亡数は罹患者数と単純には比例しない
- 健康への影響や医療費の場合、軽快した場合と死亡した場合ではそもそも大きく異なる
例えば、「PCR検査を増やせばいい」と言われます。ただ、報道でもあるように5回も6回も検査してやっと「陽性」がでる検査(偽陰性が多い)である以上、信頼度はそれほど高くありません。
つまり、そもそも総患者数を確実に検査するための方法が存在しないことがいえます。
さらに、診察だけで終わる人もいれば、重症化すれば治療も専門的なものになっていくため、集中治療室や人工呼吸器を使用しないといけなくなります。
このように、「生活習慣」や「遺伝・年齢などの個人差」と「検査などの技術的な問題」といった様々な理由があるため、そもそも細かい正確な数値を出すことは不可能です。
さて、「超過死亡」という数値は「インフルエンザの社会的なインパクトを計るための単一の最適な指標」とするために、さまざまな問題を是正するために提唱されました。
それは、例えば以下のような問題があったからです。
例えば、原因死を「インフルエンザ」にした場合、インフルエンザから二次性の細菌性肺炎を即発して死亡した事例は、原因死に含まれなくなります。
逆に、原因死を「肺炎」とすれば、インフルエンザに関係なく全く別の病原体での肺炎死亡も「肺炎」となります。
つまり、「正確な指標」は存在しませんでした。
このように、1つの病気(木)のみを見るではなく、全体(森)をみていく指標が「超過死亡」です。
「超過死亡」の使い方とは?
それでは、「非流行時の場合に考えられる死亡数(悪性腫瘍や心疾患など)」をベースラインにして、「感染症(新型コロナウイルス)が流行時の実際の死者数」を比較することでなにが分かるのでしょうか?
そもそも、「超過死亡が存在している」と言うことは、何らかの感染症の流行がなければ死亡者の増加が説明できないという考え方です。
つまり、インフルエンザで言えば流行したことによって、インフルエンザ・肺炎死亡がどの程度増加したかを示す推定値として利用することができます。
この推定値は、直接および間接的にインフルエンザの流行によって生じた死亡であり、さらに言えば、仮にインフルエンザワクチンの有効率が100%ならワクチン接種によって回避できたであろう死亡数を意味しています。
少し分かりにくくなりましたが、先程紹介したように、人は生き続けることはできないため、何かしらの原因でいつかは亡くなることになります。
→新型コロナウイルスがなければ、事故や他の病気などで亡くなっていたことになる。
つまり、超過死亡の原因が新型コロナウイルスであるなら、「その他の死因が減少し、肺炎などの新型コロナウイルスが関係している死因が増えた」ことになります
もっと言えば、例年よりも「病死」が増えることになります。
このように、超過死亡を知ることで例年よりも死者が増加しているかどうかの単純な指標だけでなく、「全体的にどういった死因で亡くなった人が今年は増えたのか?」についても知ることもできます。
最後に
「超過死亡」は、あくまでも「例年よりどの程度死者数が増加したか?」を示す推定値です。つまり、導き出すためには正確な数値が必要になります。
それでは、正確な数値とはなんでしょう?
少なくとも、全体の死者数は正確な数値でしょう。ただ、「死因」となると難しいかもしれません。
例えば、糖尿病患者の場合、死因となるのは1位:がん 2位:感染症 3位:血管疾患となっています。また、糖尿病でなくとも、心疾患を患っている患者さんもいます。
このような基礎疾患がある状態で、新型コロナウイルスに感染して亡くなった場合、おそらく死因は新型コロナウイルスになります。
だからこそ、基礎疾患がある人は特に注意が必要なことが、毎日のように報道が流れています。
そもそも、死や死因をどう判定するのか一致した国際基準がありません。
つまり、各国の数値と日本の数値を単純に比較しようにも、その数値の根拠となる前提条件が違うため、難しいことは覚えておくといいかもしれません。
そして、残念ながら「超過死亡」だけでは、その原因が「新型コロナウイルスだった!」という証明にはならないでしょう。
この指標で確実に分かるのは、あくまでも例年と比較して死者がどれだけ増えたかどうかですので、その他の指標と組み合わせていく必要があります。
参考
くにちかクリニック:糖尿病患者の死因
→https://kunichika-naika.com/subject/dm-cod
NEWS JAPAN:【解説】 各国の感染・死者数、比較が難しいのはなぜ? 新型ウイルス
→https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-52394515
国立感染症研究所:インフルエンザ・肺炎死亡における超過死亡について
→https://www.niid.go.jp/niid/ja/index/2069-surveillance/others/2650-00abst.html
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