皆さんは、赤ちゃんを母乳で育てましたか?それとも粉ミルクを使いましたか?
このように聞くと、完全母乳を勧める人もいるでしょう。
ただ、子どもがしっかり成長できれば特にこだわる必要はないと個人的には考えています。
かくいう私の子ども達(2歳と4歳)は、母乳と粉ミルクを組み合わせたいわゆる「混合育児」で育ちました。悩みとしては、2歳の娘がいまだに夜だけは乳離れができないことでしょうか・・・
それでは、「母乳バンク」という言葉をご存じでしょうか?
今回は、「なぜ母乳バンクが必要なのか?」についてご紹介します。
母乳にこだわる必要はあるの?
そもそも、「母乳」と「粉ミルク」の違いについてご存じでしょうか?
「母乳」も「粉ミルク」も、赤ちゃんが成長するために必要な乳糖・脂質・オリゴ糖・タンパク質などの栄養が含まれているため、そもそも栄養面を考えればそこまでこだわる必要はありません。
ただし、母乳は成分が変化していきます。
母乳のメリットは?
母乳の最大のメリットは、免疫物質が含まれている点です。特に、産後すぐから5日目ぐらいまでの初乳は免疫物質が多く含まれています。
そして、「6ヶ月間母乳を与えた場合、3歳頃まで感染症のリスクを下げるといわれる報告」まであります。
ちなみに、母乳は「赤ちゃんの完全食品」として知られており、「生後6ヶ月間は母乳以外なにも必要ない」といわれています。
→ただし、これは「母乳が問題なく出ている」こと。そして、「必要なときに赤ちゃんに与えることができる」という大前提があることを忘れてはいけません。
ちなみに、母親にとっても母乳育児にはたくさんの利点が知られています。
- 骨粗鬆症の減少
- 乳がん・子宮頸がん卵巣癌の罹患率の減少
- 関節リウマチ・糖尿病の減少
- 産後肥満の抑制
など、様々な効果があるようです。
また、先程お伝えしたように母乳は成分が変化します。
例えば、初乳には免疫力を強くするタンパク質が多く含まれています。
ですが、約2週目以降の母乳(成乳)には、カロリーや脂肪分が多く含まれています。
このように、赤ちゃんの成長に合せて最適な成分に変化していきます。
まさしく母乳は、人間の赤ちゃんのためにあります。というわけで、その有効性から時代によって完全母乳が推進されたりします。
それでは、母乳バンクは完全母乳を推進するためにあるのでしょうか?
「母乳バンク」の目的ってなに?
そもそも、「ほとんどのお母さんは母乳だけで赤ちゃんを育てられる」と言われています。これは、自然界で考えて見ても、母親は子に母乳を与えることで子どもを大きくしていますよね。
人間も動物である以上、自然の摂理には逆らえません。
とはいえ、何らかの原因で「母乳が出ない」・「母乳がでてもあげられない」そんな場合があります。
自然界なら赤ちゃんの命に関わる危機的状況ですが、私達人間の場合は必ずしもそうではないですよね?
こういった場合、一般的には「粉ミルク」を選択すると思いますが、場合によっては母乳を選択する必要があります。
そこで・・・
生まれてきた赤ちゃんには最善の栄養を与えられるようにしたい
そのために、「母乳がたくさん出るお母さんから母乳を提供してもらい、必要な赤ちゃんに提供する施設」。
それが、母乳バンクです。
ちなみに、母乳バンクは世界中で増え続けていて、世界で最初の母乳バンクは1909年のウィーンで始まりました。
つまり、海外ではすでに100年以上の歴史がある国もあります。
→赤ちゃんの健全な成長は、世界共通の問題であり・願いでもあることが分かるのではないでしょうか。
それでは、日本の新生児医療について見ていきましょう。
日本の新生児医療は世界トップレベル!
妊娠・出産が命がけであることは、今も昔も変わりません。
さて、一般的に赤ちゃんは40週前後で生まれてきます。
ところが、その半分ほどの「超早産」と言われる妊娠22週目で出産する場合もあります。
ちなみに、新生児医療の現場で救命するかどうかの基準に人工中絶が認められる線引きとして、「生育限界」があります。
この線引きが、なぜか新生児医療においても、救命の有無の線引きになっています。
ただし、この生育限界の線引きは、医療の発展とともに変更されてきました。
- 1953年:妊娠28週
- 1976年:妊娠24週
- 1990年:妊娠22週
とはいえ、現実問題として妊娠22週で生まれた赤ちゃんの中には、「重い呼吸器障害」や「脳性麻痺」といった障害が現われる場合もあります。
そして、母乳についても困ったことが起こる場合があります。
母乳バンクの必要性はここにある!?
時代劇や昔話の中で、お母さんが近所にお乳をもらいに行く、いわゆる「もらい乳」のシーンを見たことがありませんか?
ただ、昔の話しではなく1980年代までは、まだ普通におこなわれていました。
というより、以前は母乳に恵まれた女性が母乳提供と育児を請け負うことは当たり前で、立派な職業でした。
「もらい乳」については、こんな話しもあります。
産休明けで母乳のよく出る看護師さんが、夜勤中にお乳が張ってくると新生児室にやってきて、よく泣く子や飲みが足りない子に、母乳を与えるようなこともありました。翌朝、そのことを母親に話すと、感謝されても非難されることはありません、そんな時代でした。
今では、考えられませんよね・・・
ただ、1980年代後半以降、「もらい乳」には感染症の危険性があることが分かってきました。
母乳と感染症
母乳から、感染することが証明されている感染症があります。
- HIV(ヒト免疫不全ウイルス)
- HTLV1(成人T細胞白血病ウイルス)
- CMV(サイトメガロウイルス)
また、B型肝炎などのように、血液を介して感染する可能性がある病気は、母乳はあげられますが注意が必要な疾患もあります。
このように、お母さんが母乳から感染する感染症にかかっていれば、母乳をあげることができなくなります。
ですが、例えば体重が1,000gにも満たない未熟な赤ちゃんは、腸の一部が壊死してしまう「壊死性腸炎」という病気で亡くなることがあります。
ですが、そんな壊死性腸炎も、粉ミルクで育てるよりも母乳が育てた方がかかりにくいことが分かってきています。
また、新生児医療では早産のために「母乳が出ないお母さん」や、「体調が悪くなってしまったお母さん」もいます。
このように、母乳をあげたくてもあげられないお母さん達がいます。こういったお母さん達のために、安全に母乳を提供してくれるのが「母乳バンク」です。
*ちなみに、新生児集中治療室(NICU)では、現在も「もらい乳」がおこなわれているそうです。
母乳バンクの安全性
①ドナーになる女性は、登録時に診療録の確認ならびに検診を受けます。血液検査によって、母乳や血液からうつるウイルスや病原体(HIV1、HTLV-1、B型肝炎、C型肝炎、梅毒)をもっていないことが確認されています。
②母乳を提供していただくとき、その時点での健康状態(ご家族を含めて)を確認しています。
③提供された母乳は殺菌処理の前に細菌検査を行い、母乳に病原菌が含まれていないことを確認します。そして、62.5℃、30分の低温殺菌処理を行います。その後、あらためて細菌検査にて細菌が全く検出されないことを確認します。
つまり、登録時に感染症の有無の確認があり、さらに母乳提供時には家族も含めて健康状態が確認されています。
そして、提供後も細菌検査後に低温殺菌処理がおこなわれるという徹底ぶりです。
このように、安全に母乳を提供する役割が母乳バンクにあります。
最後に
日本母乳バンク協会は、2013年10月に昭和大学小児科研究室内に設立された「母乳バンク」がその前身としてありました。
つまり、日本において母乳バンクは、始まってまだ10年も経っていません。
さらに、日本では「もらい乳」が受け入れられにくい社会になってしまったため、徹底管理された公の母乳バンクとして、今後はさらに必要な存在になっていくことが期待されています。
さて、そんな母乳バンクへのドナー登録・検診をおこなっている施設は、「北海道・神奈川・東京・奈良県」にあります。
→ドナー登録の検診には、日本母乳バンク協会の紹介が必要になるため、施設に直接連絡してはいけません。
また、一時的に母乳が提供できない場合もあります。
① 急性感染症に罹患しているとき、乳腺炎など、乳頭や乳房感染があるとき
② 家族に風疹(三日ばしか)や水痘(みずぼうそう)にかかった人がいた場合、感染性が消失したあと4週間経過するまで
③ 乳房や胸部の単純ヘルペスや帯状疱疹があった場合、すべてかさぶたになってから1週間経過するまで
④ アルコール摂取後12時間経過するまで
⑤ 本人または家族が天然痘ワクチンを接種された場合、21日間経過するまで
⑥ 認可された場所で清潔な針とシリンジでタトゥー(刺青)をいれてから8日が経過するまで
⑦ 流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、麻疹(はしか)、風疹(三日ばしか)のワクチン接種後2か月を経過するまで
⑧ 水痘(みずぼうそう)、ロタ、ポリオ、腸チフスなどの生ワクチン接種後3か月を経過するまで
このように、当てはまる場合は一時的に母乳の提供ができなくなります。
繰り返しになりますが、完全母乳にこだわる必要はないでしょう。
ただ、いざという時には「母乳バンク」があることを知っておいて損はないのではないでしょうか。
参考
妊娠・授乳と薬
→http://boku-clinic.com/pdf/d3.pdf
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