以前の記事で、「イギリス人男性が耳かき(綿棒)が原因で意識不明になった出来事」についてご紹介しました。
この原因として、他の病気で弱っている時に免疫が低下し「悪性外耳道炎」が発症したことが原因だと考えられています。
今回は、かなり危険なこの「悪性外耳道炎」についてご紹介します。
→綿棒の危険性についてはこちらの記事で紹介しています。
イギリス人男性:耳かきが原因で、意識不明で救急搬送?
綿棒で耳かきをしたイギリス人男性が、綿体(綿棒の先の「綿」)が耳の奥ではずれてしまいその後、なんと5年間も放置した結果、綿体が原因で細菌が増殖。
「脳にまで感染し、耳の近くにたまっていた膿を手術で取り除くと、コットンの塊が出てきた。男性は、2ヶ月間抗生物質を服用した・・・」という内容です。
これは、耳かきがきっかけで命を落としそうになった事例ですが、それでは「悪性外耳道炎」とはどういった病気なのでしょうか?
「悪性外耳道炎」ってなに?
そもそも、悪性外耳道炎は外耳道に緑膿菌などが感染することで炎症が生じる病気です。(「頭蓋底骨髄炎」・「壊死性外耳道炎」とも呼ばれる)
真菌やMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などが、原因となることもあります。いずれも、炎症の程度は非常に重度で強い痛みを伴います。
*「悪性」とはありますが、感染症のためもちろん癌ではありません。
特徴
- 炎症が外耳道周辺の組織にまで広がり、側頭骨の骨髄炎を生じる。
- しばしば骨破壊を伴う。
- 進行すると、頭蓋骨の底部である頭蓋底にも炎症が波及することがある。
→頭蓋底の部位には、脳神経が通っているため神経が障害を受けることでさまざまな神経症状が現れる。
危険な病気
難治性(治療が難しく)、抗生剤が進歩した現代でも死に至ることのある重篤な感染症の1つです。
- 女性よりも男性に多く発症。
- 患者さんの約80%は、糖尿病に罹患しているとされている。
- 「HIV感染者」「免疫抑制剤使用者」にも発症することがある。
→免疫力の低下が発症に関与していると考えられている。
症状が進行していく病気・・・
悪性外耳道炎は、外耳の感染症が外耳道・中耳・内耳を含む頭蓋骨(側頭骨)まで広がったものです。
そして、非常に重度な外耳道の炎症が生じ、徐々に周りの組織や骨に炎症が広がり、骨や神経を破壊しながら進行していきます。
初発症状
- 強い耳の痛み
- 耳だれ
- 外耳道の腫れ
- 発熱
などが起こります。
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中耳や内耳にまで炎症が及ぶと・・・
- 難聴
- 耳鳴り
- めまい
などの症状が生じます。
*外耳道の感染部位に肉芽ができることもあり、この場合は耳閉感を伴うことが多い。
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顎関節周辺にまで炎症が広がる
- 顎関節部に腫れや痛みが生じる。
- 口が開きにくくなる。
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側頭骨、頭蓋底にまで炎症が及ぶ
- 顔面神経や舌咽神経、迷走神経などのさまざまな脳神経が障害される。
- これにより、顔面神経麻痺などの神経症状が現れる。
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頭蓋内にまで炎症が及ぶ
- 髄膜炎
- 脳膿瘍(のうのうよう)
- これにより、意識障害や痙攣などが引き起こされることもあります。
このように、症状は脳にまで達し最後は命を落とします。
*この病気になると、まず放置することはできないでしょう。なぜなら・・・
- 強い痛み(夜間にひどくなることが多い)
- 耳から悪臭のある分泌物
- 外耳道に、膿や分泌物のかすがある
- 聴力の低下
- ひどい場合(頭蓋骨の底部沿いにまで感染)、顔面や頭部の神経が麻痺する
このように、自分だけではなく周りにも気付かれる症状が出てきます。そもそも、痛みで放置することはできないと思いますが・・・
治療はどうやっておこなわれるの?
入院治療が原則で、原因となる菌に適した抗生剤が投与されます。糖尿病など免疫力を低下させる原因がある場合にはその管理が厳重に行われます。
ちなみに、「外耳道が大きな肉芽が形成」・「外耳道の皮膚や粘膜が壊死している」といった場合は、それらを取り除く手術が行われることもあります。
予後が悪く、また死亡率が高い病気です。脳神経麻痺を合併する場合はさらに予後が不良となるため、早期の治療開始が必要となります。
*「手術により、病原菌を他部位にまで広めてしまう」という意見もあり手術は慎重に判断されます。
「なにに」気をつければいいの?
悪性外耳道炎は、まれな疾患ですがいったんかかると治りにくく、進行していくタイプの外耳道炎です。
一般的には、「高齢で糖尿病がある人」や「免疫力の低下した人」に発症するといわれています。ですが、最近では「耳かきの習慣がある人」にも見られています。
イギリスの事例のように、耳の奥に綿体を長年放置して発症したというケースまであります。
*ちなみに、外耳道炎や湿疹は耳を触ることで起こる病気です。つまり、触らなければ治る病気です。
→耳漏に、がんこな耳痛を伴うと要注意です!
最後に
耳の病気は、間違った耳かきが原因で発生することが当たり前のようにあります。
- そもそも「耳垢」は、耳の中を異物から守ったり、殺菌作用がある。
- 耳垢は、自然に排出される。
- 耳かきは、外側のみ実施する。(綿棒なら約1㎝までしかいれない)
- 金属などの固い耳かきは使わない。
- 「寝転がったり、無理な姿勢でやらない」・「子どもに邪魔されない」など安全な環境を確保する。
耳かきは、月に1~2回で十分なはずです。もし、「耳垢が溜まりやすい!」とか「痒くて我慢できない!」など、耳に異常があればそもそも耳鼻科へ受診しなくてはいけません。
間違っても、奥まで耳掃除を意味もなくやらないで下さいね!耳垢がどんどん押し込まれて耳の異常に繋がります。
→耳の病気については、こちらの記事で紹介しています。
参考
Medical Note:悪性外耳道炎
→https://medicalnote.jp/diseases/%E6%82%AA%E6%80%A7%E5%A4%96%E8%80%B3%E9%81%93%E7%82%8E
ヨミドクター:悪性外耳道炎
→https://yomidr.yomiuri.co.jp/iryo-taizen/archive-taizen/OYTED4/
MSDマニュアル 家庭版:悪性外耳道炎
→https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0
QLife:外耳道炎
→https://www.qlife.jp/dictionary/item/i_110212000/
徳島県医師会
→https://www.tokushima.med.or.jp/kenmin/doctorcolumn/hc/792-170
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