日本で「ナゾの種が送りつけられてきた!」と問題になっています。確かに、身に覚えのない種が自宅に送られてきたら恐いですよね。
ただでさえ、コロナ禍で再び外出自粛が叫ばれている現状では、なおさら不安に煽られてしまう人もいるのではないでしょうか?
ただ、このナゾの種は処分を間違えると環境破壊に繋がるため注意が必要です。
今回は、「植物と防疫」についてご紹介します。
そもそも「植物検疫制度」があるはずなのに・・・
ナゾの種について調べて行くと、「amazonから個人情報が漏れている」とか、「中国が送りつけている」ことが指摘されています。
実際、amazonから「リング」や「おもちゃ」などさまざまなカテゴリーで、このナゾの種は送りつけられてくるため、そういった可能性は否定できないでしょう。
また、例えば、マレーシアから送られていた場合でもシールの下を見ると元は「中国だった」ということもあり、中国が送りつけていると推察する理由も納得することができます。
ただ、どれも確たる証拠としてはよく分かっていません。
そもそも、アメリカなど世界中でこういった被害はすでに引き起こされており、「日本でもついに報告されるようなった」ということが実状です。
分からないことはどうしようもありませんが、日本にはそもそも「植物防疫所」があるはずなんですが・・・
「植物防疫所」ってなに?
今回のナゾの種により、植物防疫所の存在が広く知られるようになりました。これは、いいことだと言えるでしょう。
植物防疫所では・・・
植物防疫所では、植物の病害虫が海外から日本へ侵入することを防ぐために「輸入検査」、同様の目的で輸出相手国から要求される植物検疫条件に対応する「輸出検査」を行っています。
植物を海外から持ち込む場合、または持ち出す場合には植物検疫を受ける必要があります。
これは、旅行者などだけでなく郵便物も含まれます。
貨物、手荷物や郵便などで植物を海外から日本へ持ち込む場合、病害虫が植物に付着して日本に侵入することを防ぐために、量や用途を問わずすべての植物について、輸出国政府機関が発行する検査証明書(Phytosanitary Certificate)を添付して、輸入検査を受ける必要があります。
つまり、基本的に海外から日本に入ってくる植物は、検査されその証明がなされていることが大前提です。
ところが、農林水産省がナゾの種についての注意喚起でこのようなことを指摘しています。
農林水産省の注意喚起
最近、注文をしていないのに海外から種子が郵便などで送られてくる事例があるようです。
植物防疫法の規定により、植物防疫官による検査を受けなければ、種子などの植物は輸入ができません。輸入時の検査に合格した場合は、外装に合格のスタンプ(植物検査合格証印)が押されます。
もし、輸入検査を受けていない(外装に合格のスタンプのない)植物が届いたら、そのままの状態で、最寄りの植物防疫所にご相談ください。
つまり、植物検査合格証印がない海外の植物が日本で流通していることを示唆しています。
本来であれば、植物防疫において「輸入禁止品」と「輸入検査品」に分けられます。
輸入禁止品と輸入検査品
輸入禁止品
そもそもの話しになりますが、もしも侵入した場合、農作物などの被害が予想され、かつ輸入時には適格な検査が困難な病害虫が発生している国や地域があります。
つまり、そういった病害虫が付着する可能性がある植物はそもそも輸入が禁止されています。
ですが、それだけでなく、以下のものはそもそも全ての国・地域からの輸入が禁止されています。
- 土
- 土付きの植物
- 植物を害する検疫妨害中
- イネワラおよびイネモミ(朝鮮半島・中国除く)
*野菜や果物等の中には、生産国や輸出国や地域によって輸入が禁止されている場合がある。
輸入検査品
輸入禁止品でなくても、輸入検査が必要な植物は生産国・輸出国や地域と植物の種類毎に輸入規制が決まっているため一概には言えませんが、例えば以下の植物が挙げられます。
- 苗木・球根・種子
- 切り花
- 野菜・果実
- 穀類・豆類
- 木材
- 更新料原料・漢方薬原料
など。
試しに「アサガオ」を検索
今回は、種子ですので「輸入検査品」に該当しています。
さて、「アサガオの種のようなものが送られてきた」という情報もあるため、実際に輸入条件に関するデータベースで検索してみました。
- 州を選択:アジア
- 国または地域を選択:中国
- 植物名を入力:アサガオ
- 部位を指定:種子
で検索してみると、面白いことが分かりました。
検査すると、「チョウセンアサガオ」など17種類が候補にあがりましたが、どれも「通常の検査で持ち込みできるもの」でした。
つまり、栽培地検査・検疫措置・隔離栽培などの検査証明書の添付が必要がない物ばかりです。
さて、ここで気になるのは「通常の検査」ですよね。
検査の流れ
- 検査不要品→通関
- 輸入検査品
輸入植物の検査が実施されることになります。
→検疫病害虫が発見されなければ「合格」となり、合格証明書が発給され無事、通関できる。
→検疫病害虫が発見されれば「不合格」となり「輸入禁止品」として破棄されるか、消毒措置が可能なら消毒実施後、合格証明書が発給され無事、通関できる。
つまり、今回の「種」の場合なら、輸入検査品に当たりますが基本的に検疫病害虫が発見されなければ、輸入禁止品でもない限り、そのまま通関できることになります。
ところが、「合格証明書が発給されていない」と言うことは、植物検査合格証印が押されていない。つまり、そもそも「検査を通関していない種」になります。
→検査証明書を添付せずに輸入した場合や輸入時の検査を受けなかった場合は、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられる場合があります。
最後に
今回の「ナゾの種」の話は、誰がなんの目的で行っているのかよく分かっていません。
ただ、そもそも通関していない(検査されていない)種は、「密輸」ということになるでしょう。
しかも、品目が「リング」や「おもちゃ」など別の品目で申請していることから、日本の植物防疫制度についても知っている確信犯だと言えるでしょう。
さて、植物防疫所ではこんなQ&Aが掲載されています。
郵便物の外装に「植物検査合格証印」がなく、未検査と思われる植物を受け取った場合、受取人は何をすればよいのですか?
なるべく外装等配達されていた状態を保って、最寄りの植物防疫所に届け出てください。なお、検査は配達を担当した「郵便局」(配達局)に、植物検査を受けていない旨を通知して、検査が受けられる郵便局(国際郵便交換局)に差戻すように依頼する方法があります。
配達局に差戻しができない場合(郵便物の包装を壊してしまった場合等)や、近くに植物防疫所がないとき等は、植物防疫所に郵送等で届け出ることもできますが、この場合、検査に合格した植物の返送は依頼者の着払い扱いとなります。
また、このナゾの種を植えてはいけないことは、農林水産省でも注意喚起されています。
そして、一つ言えることは、「大量の種を通関を通さずにばらまく方法がある」
ということです。
やり方がかなり悪質ですが、犯人にとってはたしてリスクを取るほどの価値がどれだけあるのでしょうか?
今回は、ナゾの種について「防疫」の観点から見ていきました。発芽する可能性があるため、くれぐれも適当に捨てたりしないで下さいね。
例えば、外来種により生態系が崩れる可能性もあります。
善意から「種」を送っていると考えられない?
仮に、「誰かがコロナ禍で疲弊している人達のために花の種を送った」と仮定します。つまり、善意で送り続けているとします。
- 個人の住所、それも海外の住所をどうやって特定したの?
- なぜ「通関」させていないの?
- なぜ犯罪行為を続けるの?
- 環境破壊に繋がる可能性があるのになぜ続けるの?
といった疑問が残ります。
結果、不特定多数の人に勝手に種を送りつける行為は、多くの人にとって迷惑行為でしかなく、国が対処しなくてはいけない段階に入っています。
ここには、送り主からの「悪意」しか感じられません。だからこそ、この種を送りつける行為は、善意ではなく悪意だと考えられます。
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