●この記事では、富岳で分かった飛沫シミュレーションについてお伝えしています。
スーパーコンピューター「富岳(ふがく)」と聞いて、聞き覚えがある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
「富岳」と言えば、理化学研究所と富士通が開発したスーパーコンピューターのことです。
スーパーコンピューター富岳は、2020年11月17日に公表された計算速度を競う世界ランキングで、首位を維持したことから世界中で有名となりました。
さて、なぜ今回この富岳の名前をだしかといえば、実は富岳を使った科学的な「新型コロナウイルス飛沫感染の予測とその対策」が報告されているためです。
今回は、「富岳が明らかにした科学的な飛沫シミュレーション」についてご紹介します。
理化学研究所が屋内環境の飛沫の動きを発表!
新型コロナウイルにかぎったことではないですが、そもそも感染症の原因といえば「せき」・「くしゃみ」・「声を出す」など、こういったことで発生する飛沫が原因の1つになることはすでに多くの方がご存じですよね。
さらにいえば、飛沫のうち非常に小さい「エアロゾル(空気中に漂う微量な粒子)」の飛散も感染が広がる可能性が示されています。
つまり、飛沫やエアロゾルの「飛散経路」が分かれば、それを避けることで感染リスクの軽減につながることになります。
ただ、「飛散経路」と簡単に言っても、空気の流れ・湿度・温度など、ちょっとした環境の変化で簡単に変わってしまうことはイメージできますよね。
そのため、「飛沫やエアロゾルの動きを推定しよう!」とした場合、あまりにも膨大な計算が必要になります。
そこで、この膨大な計算に利用されたのが世界一の計算速度を誇る「富岳」でした。
その結果、富岳によりこれまでの計算機では困難だった、高精度で大規模な飛散シミュレーションが実施されました。
→このシミュレーションには、「富岳」への実装を進めている、「CUBE」と呼ばれる超大規模熱流体解析ソフトが使われた。
それでは、どんなことが分かったのでしょうか?
様々な屋内環境で飛沫飛散のシミュレーションが実施
「屋内環境」と一言でいっても、様々な場面がありますよね。
それでは、一例としてカラオケボックのシミュレーション結果を例に確認してみましょう。
カラオケボックス内での飛散経路とは?
カラオケボックスですので、当然歌うことが前提になりますよね。
そもそもカラオケボックスでは、換気は下~上に進んでいきますが、エアコンを作動させることで換気量を倍程度にすることができます。
それでは、そんなカラオケボックスで歌唱するとどういった変化が起こるのでしょうか?
マスクもせずに歌った場合
大きな飛沫は、歌唱者の前方や机の上等に落下しました。ここまでは、多くの人にとって予想通りではないでしょうか?
そもそも、大きな飛沫は目にも見えますよね・・・
それでは、空気中に漂う微量な粒子であるエアロゾルはどのように動いたと思いますか?
A.座る場所によっても拡散の程度に差はあるが、歌い始めてから30秒程度で休息に屋内に拡散。
これは、立って歌った場合も同様の結果となりました。
それでは、どのような対策をとれば飛沫の拡散を防ぐ結果が得られたのでしょうか?
飛沫拡散を防ぐには?
- 排気口の下で歌う
- マウスガート・マスクを装着
こういった対策をすることで、ある程度のエアロゾルに対しても効果的にカラオケボックスの排気口から屋外へ排出されていることが分かりました。
ちなみに、排気口から顔の近くまで簡易なパーテーションを吊すことで、さらに効果的なエアロゾルの拡散対策ができることが分かりました。
とはいえ、「そこまでして歌いたい?」という疑問は残りますが、肝心なことはこういった様々な過程のシミュレーションができるようになったという点でしょう。
~カラオケボックスまとめ~
そもそも、カラオケボックスは一般的なオフィス以上の外部換気がなされています。さらにいえば、屋内のエアコンを作動させることでより効率的に換気することができます。
ただし、カラオケボックは屋内が狭いため、どうしてもマスクなどもせずに歌ってしまうと、エアロゾルが30秒程度で部屋全体に広がってしまいます。
そのため、マスク等を装着して歌う必要があるようです。
工夫としては、排気口の下で歌うことやパーテーションを利用することが挙げられています。
今回は、報告されていたカラオケボックスについて紹介しましたが、他にも「タクシー」・「通勤列車」といった屋内でのシミュレーションが紹介されています。
ちなみに、野外活動の飛沫の動きに付いても報告されていました。
野外活動のシュミレーション?
そもそも、屋内であれば突発的な動きが屋外よりは少ないため、シミュレーションはやりやすいですよね。
それでは、「野外活動のシミュレーション」とはどういうことなのでしょうか?
なにより、屋外の感染リスクは本当に屋内よりも少ないのでしょうか?
どんな想定でシュミレーションされたの?
- 屋外でテーブルを囲んで飲食している場面(大声で話している)
- 「無風状態」・「0.5~0.0m/s程度の微風」
それでは、どういった結果になったのでしょうか?
30秒間会話をしたときに到達する飛沫量で感染リスクの評価結果!
そもそも、風が吹くことが必ずしも飛沫の到達を減少することにならないことが分かりました。
というのも、もしも風下にいれば微風条件ではより感染リスクが高まることが分かったためです。
そして、無風状態と比較すれば風が吹いた時の方が飛沫は拡散してしまうことも分かりました。
こういった結果から、屋外であっても相手との距離を保つことは重要でマスクなしの場合でも、1m~1.7m離れれば到達する飛沫量は半分になる結果となりました。
そして、マスクを装着することで0.5m/sの微風状態であっても1mの距離でも到達する飛沫はほぼゼロにできていました。
ちなみに、マウスガードの場合は1.7mの距離で飛沫量はほぼゼロになったため、やはりマスクの方がマウスガートよりも飛沫予防効果が高い結果となりました。
このように、様々なシミュレーション結果が報告されました。
マスクは万能ではない!
勘違いしてはいけないことは、「マスクは万能」ということではありません。
あくまでも、マスクには飛沫を抑制する効果が確かにあるという点であり、「マスクをすれば感染しない」ということにはなりません。
そもそも、マスクをしていても目から細菌やウイルスは侵入しますし、マスクの隙間から飛沫が飛ぶこともありえます。
そのため、マスクの「正しい知識」と「使い方」が重要になることは言うまでもありません。
→「マスクの役割」については、こちらの記事で紹介しています。
最後に
「屋内環境」と一言でいっても、窓の開閉や空調の状況などで環境は大きく変わってしまいます。
ですが、シミュレーションができるようになったことで効率的にすることができるようになり、パーテーションの配置なども有効に実施することができます。
なにより、こういったシミュレーションを動画にもすることができるため、今後はさらに効果的な感染対策につなげられていくことが期待されています。
パーテーションの効果についてもシミュレーション結果が出ているため、次回ご紹介します。
参考
理化学研究所 計算科学研究センター:室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策(課題代表者;理化学研究所/神戸大学 坪倉 誠)
→https://www.r-ccs.riken.jp/jp/fugaku/corona/projects/tsubokura.html
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